*A部門入選作発表*


当季雑詠=全79投句(入選55句)

【特選】

一席
●月光を拒んでゐたる獣道=ラスカル


◎修、玻、ぶ △葱、五、雪、紅、裕、ぼ、清=16点
(修:本当は王道かも? 玻:サブタレニアンふたりぼっち に光は要らない。ぶ:こんなに迫ってくる俳句を書いた人は誰だろう?月光を拒むほどの命の営みとは・・・奥へ引きずられる 葱:「拒んでゐたる」が俳句的。五:獣道は闇を欲するのか?動物的で惹かれる句だ。雪:神秘性と不気味な気配を感じます。紅:鬱蒼とした獣道が見えてきます。裕:秋になっても鬱蒼としている感じです ぼ:光を拒む闇、人の心にも、また。清:獣は月明かりを拒む。闇の中を疾走する獣の群が浮かぶ。)


二席
●天と地をつなぐあたりの赤とんぼ=ぶせふ


◎メ、喋 ○ス、ぼ △砂、裕、十、雪=14点
(ぼ:生命体あっての宇宙ですよねえ。裕:秋になったとつくづく感じる瞬間のようです 十:高原(高台)から見る秋の眺望だろうか。 )


三席
●丸薬の転がつてゆく無月かな=紅椿


◎五 ○ス、喋 △水、香、淳、茶、ぼ、十=13点
(五:丸薬というと満月を想像する。しかし、この場合には、何か持病をお持ちなのかと思ってしまう。その丸薬が転がってしまった。折しも、今日は無月ということか?こういう負の連鎖もあっていいと思う。水:無気力な感じがします。無月のせいですね。香:暗闇に転がっていく丸薬、その先はどこへ行くんだろう?怖さがにじみます。茶:月のない暗さ、もどかしさを「丸薬の転がり」で表す。また薬の手放せない病気を抱えているだろうことに、哀切を感じました。ぼ:軽やかに人生の哀感を詠み上げている手練れの句。十:寂寥感にあふれる句。 )


三席
●歯型残るトンボ鉛筆いわし雲=雪絵


◎裕 ○砂、秀 △葱、ま、風、白、十、紅¬=13点
(裕:なぜかわからないけど鉛筆を噛んでいた、という感じが出ています 秀:トンボ鉛筆がいいですね。葱:鉛筆を使うことも少なくなりました。ま:とても懐かしくあのころの自分を思い出します。風:昭和ノスタルジックに頼り過ぎかとも思いますが中七「トンボ鉛筆」の具体性での選。白:鉛筆銜え、教室の窓から空を見ている。十:そんな癖が誰にでもありました。紅:鉛筆をかじる癖の人、昔いました。懐かしい! )


【入選】

●小鳥来る郵便箱が鳴るやうに=葱男
◎清、紅○砂、玻 △修、ぶ=12点
(清:小鳥がやって来る楽しさと恋人からの便りがポストに入る待ち遠しさが共鳴している秀句だ。紅:楽しいお句ですね。中七、下五がユニークです。玻:青いエアメール小鳥来るやうに届くもの。修:ときめくこころ ぶ:うまい句だなぁと思う。たしかに小鳥の到来は季節の便り。そこに音を持ってきたのが憎い)

●やましさは懐に白曼珠沙華=葱男
◎香、茶 ○五、雪 △玻=11点
(香:面白いですね。やましいい心があれば、この白さは拝めないだろうということ?じゃなく、白花も、心に濁りを隠してるってことか。茶:彼岸花の呼称を持つ曼珠沙華には暗い隠微なイメージも。そんな深紅の曼珠沙華にとっては「白」が逆に「やましさ」となるのだろう。「常識は非常識!」そんな叫びが聞こえてきました。五:やましさと白曼珠沙華の対比がいい。雪:曼珠沙華にはやはり負のイメージがあります。ましてや白となるとなおさら。懐にどんなことが隠されているのでしょうか。玻:白いことを知る人間だけの罪悪感が赤く咲く。)

●理屈つぽい男に喰はす唐辛子=清一
◎白 ○水、ま、裕 △雪、ぼ=11点
(白:辛味は邪気を払うとか 水:たくさん食べさせちゃいましょう。ま:痛快です。でもほんとうに食べさせたのでしょうか。裕:とんでもなく辛い唐辛子を食わせたい奴の感じが出ています 雪:思わずくすっと!男性?女性?どちらの句でしょうね。ぼ:ははは、いとおかし。やはり女の方が一枚上手か。)

●手を打てば音ひとつして秋の空=ぶせふ
◎淳、十 ○五 △玻、葱=10点
(十:「音」によって秋の空気の静謐さを表現。〈古池や蛙飛び込む水の音〉と同じ手法。五:悲しい孤独だ!音感のある句で余韻がある。玻:人の心に響き渡るのは澄みきった透明感のある音だけ。葱:気持いいー!のひとこと。)

●フクシマに無人の村や曼珠沙華=ぼくる
○修、子、ラ、紅 △水、裕=10点
(修:「曼珠沙華もうわたくしもいなくなり」の句とセットで鑑賞したい。片仮名のフクシマは重い ラ:復興を祈る気持ちが、切々と伝わってきます。紅: 曼珠沙華が見事であればあるほど、悲しくなります。水:しみじみと怖い風景です。裕:彼岸花の赤が余計淋しく感じます)

●鬼やんま男の子の瞳してをりぬ=玻璃
○葱、ラ △砂、久、風、白、や=9点
(葱:「鬼やんま」が元気でヤンチャな男の子をよく浮かび上がらせて、気持の良い句になりました。風牙さんご指摘の「をりぬ」については週刊俳句に大野秋田さんが分かりやすく解説しています。 「また存続の意味で「ありぬ」「をりぬ」「ゐぬ」という終わり方をする俳句をしばしば見るがこれも「あった」「いた」を文語風にしたものであり、古典にこんないい方はない。「ありぬ」は「ありぬべし」(「ぬ」は強意・確述)からの類推で生じたのであろう。 」詳しくは 下記のページ 詳しくはを参照にしてください。)
ラ:そう言われてみると、確かに男の子の瞳ですね。久:やっぱり男の子かな。そんな子が思い出されたんですね。風:動作の存続を表す補助動詞としての「をり」と完了の助動詞「ぬ」の結合という有り得ない文語表現には目を瞑りまして、鬼やんまに少年性を見る感覚は好きです。白:しっかりと前方を見つめて。や: 天下征して悪童ここに在り)

●靴音の乾いてゆけり月天心=玻璃
○メ、清 △葱、ス、風、十、や=9点
(清:月が天心にある頃夜道を歩くと、何か靴音が月に吸い込まれそうで乾いた音がする。ドラマのワンシーンのようだ。葱:コツコツと乾いた靴音があてどなく夜空に吸い込まれて行きます。風:雰囲気は伝わるのですが中七の「乾いてゆけり」を読み取れず△選。十:清澄な夜の研ぎ澄まされた聴覚。や: 光と音の静かな交響)

●曼珠沙華もうわたくしもいなくなり=ぶせふ
◎子 ○葱 △修、五、喋、秀=9点
(葱:不思議な句、幽体離脱か!修:61のつづき?無常ということば 五:しんみりとする句だ。曼珠沙華の赤が沁みる。秀:曼珠沙華って、どこか、不思議な花ですね。)

●秋夕焼主なき家の画鋲痕=十志夫
◎久、秀 △淳、ぶ=8点
(久:痕跡は昔を思い出させてくれますね。柱の傷も。書いているうちに涙。秀:上中はよくあるフレーズ。画鋲の痕にスポットをあてられたことで、俄然よくなったのでは?ぶ:秋の夕焼けは一層物悲しい。そこに空家、しかも画鋲の後の残るのを見つける。夕照が切ない)

●ゆふぐれの風をたどれば烏瓜=十志夫
○修、メ △五、ラ、ま、資=8点
(修:歌っているようで、ゆふぐれーもやさしい語感 五:烏瓜にたどり着くにはこうするのだ。ラ:ムードが先行しているような気もしますが、好きな句です。ま:美しく優しい景ですね。中七の表現が素敵です。)

●宵闇や路上ライブのサキソフォン=雪絵
◎資 ○ま、や △修=8点
(資:秋の深まりの中でさびしげなサキソフォンの音色が効果的 ま:サキソフォンには宵闇がぴったりです。音が聴こえてきます。や:無性に高揚する魂 修:宵闇にぴったりの音)

●嬉嬉として木登りの猫天高し=清一
○裕、資 △砂、子、淳=7点
(裕:どや顔の猫の顔が浮かびます 資:猫も秋を満喫している様が面白い)

●敬老の日歳とったもんだと母が言ふ=メゴチ
◎ス ○白、久=7点
(白:ちょっとやるせない。久:「歳はとられん」とよく母が言ってました。)

●廃材の三角四角小鳥来る=ラスカル
◎雪 ○風 △ま、清=7点
(雪:廃材を使って何か工作をしているところでしょうか。中七が効いてます。風:「廃材」と「小鳥来る」の微妙なズレを中七が上手く繋いで響きあっている気がします。但し好みの問題ですが、さんかく/しかく の四三調の中七が気になり○選。四角三角なら◎だったかもしれません。ま:何も言っていないのに、季語と三角四角が合っていて、明るいお句になっています。清:色々な形の廃材それが小鳥が来ることに依ってまた再生利用されそうな気がする。)

●水底の隈なく見えてけふの月=秀子
○ぼ、資 △メ、香、ス=7点
(ぼ:いいねえ、完璧! 敢えて言えば一角崩れが欲しいところか。香:月の明るさが、「隈なく」で良く表現されています。)

●虫時雨月下独酌夢茫々=やんま
◎砂、ぼ △十=7点
(ぼ:好みです。上五の和、中七の漢、下五の和漢、構成お見事。十:漢字ばかりだが、ブツ切れ感はなく、しっかり文脈がつながっている。)

●新さんま地蔵通りの定食屋=資料官
○子、や △喋、ラ=6点
(や:大根おろしに醤油たつぷり ラ:「秋刀魚」をひらがなにしたのは、漢字が続いてしまうからでしょう。工夫が伺えます。)

●まづ猫を抱かせろと言ふ月の客=ラスカル
◎ま ○清 △葱=6点
(ま:なんども声に出しているうちに、低い声が聞こえてくるような臨場感に溢れていて魅かれました。ほんとうに猫好きな方ですね。清:猫を見たい一心で来た月夜の客人、それは月からやって来た特別な客人だったのだろう。葱:月を愛で、猫撫ぜながらの一杯は美味そう!)

●さやけしやピントのずれる男いて=裕
◎水 △葱、ぶ=5点
(水:イラッとします。「さやけし」からするとそんな男を可愛いと思っているとか?葱:ピントのずれた男を「爽やか」だとするところに好感を持ちました。ぶ:自分のことを言われたかと取らざるを得なかったw季語が浮かび上がる)

●縄文に勾玉工場雁渡る=水音
◎や △葱、秀=5点
(や:時間空間いかに測るや 葱:縄文時代にも工場があったのだと想像すると面白い。秀:延々と続く人の営み。まして勾玉!)

●殴るだけ殴る少年秋薊=風牙
◎葱 △玻、久=5点
(葱:少年時代の辛さ、切なさ、やるせなさが上手く出ている。玻:そう言いながら自分の影を殴る僕が見える 。原田真二 シャドーボクサーを思う。久:とても痛い痛い)

●黎明を洗ひつづける虫の脚=葱男
○茶、紅 △水=5点
(茶:「黎明を洗ふ虫」とはいったい?作者自身のことなのか。その得体の知れなさに秋の不思議を感じました。紅:何の虫でしょうか?着眼点がいいですね。水:ユニークな視点ですね。)

●虫の音の飛び出す絵本膝の子へ=まさこ
○雪、喋=4点
(雪:視覚と聴覚を楽しめる絵本なんですね!色んな虫の音が聞けたのでしょうか。)

●赤とんぼ石の地蔵に縋りけり=やんま
○淳 △資=3点

●秋草のそよぐ姿や母の墓=資料官
○淳 △喋=3点

●秋と言ふ亡びの前の傘寿です=砂太
○秀 △久=3点
(秀:「秋と言ふ亡び」はあまりにも当たり前、けど、「卒寿です」と久:80歳を元気に乗り越えられるように今をしっかり生きますよ。口語で俗なことを持ってこられたのが、魅力。)

●紫陽花のそのまま枯れて父遠し=砂太
○白 △秀=3点
(白: 中七が佳いですね。秀:立ったまま、ドライフラワーになってますよね。)

●コスモスとともに歩みし鉄路かな=五六二三斎
○久 △葱=3点
(久:コスモスが何故か似合いますね。葱:情景が眼前に浮かび、映画のワンシーンを彷彿させます。)

●鈴虫や一汁一菜の余生=ぼくる
○香 △ス=3点
(香:ストイックな余生?そうはいかないでしょう。)

●二の腕をつまむ娘や鰯雲=裕
△茶、メ、葱=3点
(茶:鰯雲との取り合わせがちょっとイメージしきれませんでしたが、何となく鰯雲の白さ、厚みとお年頃の娘さんの二の腕が重なりました。葱:ほのぼの、ほっこりしますね。)

●読み聞かす「クマのプーさん」小鳥来る=ぼくる
◎ラ=3点
(ラ:可愛い〜♪  「クマのプーさん」と「小鳥来る」の取り合わせが絶妙です!)

●ロックミュージック大音量や運動会=修一
◎風=3点
(風:現代性及び切れ字「や」の働きが見事だと思います。今、此処を描写しながら「や」の詠嘆が現代の運動会と作者の時代の運動会とを切る「切れ字」として働き見事に時間の流れ、時代の変化を描き出しています。)

05●秋雨の濡らす月光荘の窓=秀子
○水=2点
(秀:バックパッカーの聖地「月光荘」。 水:月光荘すごいですね。見てみたいです。那覇の中心部にあんなレトロなところがあるなんて。)

●カルメンは踊り子草の絮飛んで=秀子
○香=2点
(香:軽やかさが、可愛いです。)

24●帰燕時の風見一コマ巻き戻す=久郎兎
○茶=2点
(茶:「帰燕時の風見」。日頃から天候を肌で感じ取られているからこそのフレーズだと思います。今年は、いや今年もか。昨今の読めない気象には、何コマも巻き戻さねばならないかもしれませんね。)

●コスモスやホームはみ出す3号車=紅椿
△資、や=2点
(資:3号車より三輌目が好きだけど,降りられない車両からのコスモスの眺めがすばらしいのだろう や:多分無人駅、傷心の旅路)

●錆鮎の拾はれもせぬ硬貨かな=茶輪子
○十=2点
(十:「の」でつないで「錆鮎」と「硬貨」の同一の境涯性を表現。独特の作り方。)

●新涼やレトルトというおもてなし=裕
△葱、十=2点
(葱:男の侘び住いではこんなこともあるでしょう。十:俳諧味。確かに今のレトルト食品の高い品質は下手な手料理より数段勝っている。)

●鈴付けし黒猫よぎる女郎花=まさこ
○玻=2点
(玻:二度目のベルは終わりの予告編。)

●鈴虫の鳴く駅前の投句箱=資料官
△香、清=2点
(香:俳句を詠むからこそ気付くんですね。清:あたかも投句箱が鈴虫の音色出して投句を欲しがって入るようだ。)

●台風をあやしつけたる日本海=五六二三斎
○十=2点
(十:大景を詠んでいて、かつリアル。)

●墓の字の「行雲流水」昼の虫=まさこ
△風、紅=2点
(風:雰囲気は大好きなのですが上五の散文的な説明と歌として「」とか余計なものが嫌いなので△選です。紅:品の良いお墓が見えてきます。)

●白桃の熟るるを囓る快楽かな=清一
○ぶ=2点
(ぶ:耽美な句だと思う。白桃のみずみずしさと香りが飛び散るようだ。「かいらく」を「けらく」と読ませるのも面白い)

●ワキ謡ふ声に名月シテを舞ふ=五六二三斎
○ぶ=2点
(ぶ:名月をうまく擬人化できて能舞台に立ち会っているような臨場感がある)

●青い目の人笑い合う酔芙蓉=香久夜
△子=1点

●秋の蝶あてどもなくてただ黄色=玻璃
△葱=1点
(葱:季節を越して心もとない黄蝶の風情が切ない。)

●稲刈りの轟音に虫散り散りぬ=久郎兎
△茶=1点
(茶:耕運機を「轟音」と表したところに、機械文明への批判を何となく感じ取り、いただきました。)

●土建屋の慰安旅行のもってのほか=風牙
△葱=1点
(葱:「もってのほか」に尽きます。)

●初孫や産声高く秋の夜=メゴチ
△子=1点

●忘れしか忘れられしか帰り花=修一
△メ=1点

●笑はずに交はす?好そぞろ寒=十志夫
△ラ=1点
(ラ:よく分かります。「そぞろ寒」は、ちょっと即き過ぎかも。)


A部門入選作〈back number〉

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