*A部門入選作発表*


当季雑詠=全85投句(入選57句)

【特選】

一席
●トラックの豚と目が合う溽暑かな=裕


◎清、ラ、ぼ、水△十、入、砂、喋、久、淳=18点
(水:豚の行く末を思うとき、耐えきれない暑さを感じる。 清:田舎での光景だろう。豚が犇めき合っているトラックの荷台、その一匹と目が合った、嘸かし蒸し暑く感じたことだろう。 ラ:これから、売られてゆく豚でしょうか。とても切ないです。 ぼ: 俳味があって、ペーソスあり。 十:そんな経験、そして感覚ってありますね。 久:憐れみと感謝と節約ほかいろんな言葉が浮かびました。)


二席
●銀漢や箒で描く無限大=十志夫


◎秀、資、裕、雪○清△子、ス、葱=17点
(秀:秋の夜空を掃くように、無限大を描いて。宇宙は限りないですものね。 資:スケールの大きさが好きです。 裕:大きな句景と思います。 雪:記号の無限大は小さいけれど、空には無限大の星たち。対比が鮮やかです。 清:宇宙は膨張を続けている。果てしなく拡がる宇宙、それは無限大の記号でしか表せない。それを箒で描くところが面白い。 葱:掃除をしている途中に箒で無限大の∞を描く、その行為の中に作者の「人間という生物」に対する哲学的な思いの発露があります。)


三席
●七月の空をめくればキノコ雲=十志夫


◎砂○や、ま、玻、淳、五=13点
(や: 今日本の空の青さよ。 ま: 新鮮なフレーズが印象的です。 玻:日本の夏の代名詞としてやはりかの大戦はある。八月の空としないところが素晴らしい。物憂いは七月には始まっているのだから。映画チャンネルでは 戦争特集が始まり否が応でも忘れさせてはくれないのだ。空をめくるという措辞はカレンダーの八月を容易に想像させる。めくればキノコ雲という措辞もまた秀逸で上空の空気感と そのときの空気感をも想起させる。読めば読むほどにイメージが拡がる佳句です。 五:原爆のことを暗示する警鐘!)


【入選】

●青胡桃いぢめつこだつた人とお茶=まさこ
◎玻、淳、香○久△ぼ=12点
(玻:なにやら不穏な空気を感じる句である。 未熟さから起きる出来事は多い。 いぢめもその未成熟の現れであろう。あとあとその体験が人間関係に翳りを落とす。 青胡桃という堅い青い実の季語が効いている。 青胡桃以外にあのいぢめの青さはない気さえしてくる見事な斡旋だと感じた。 自分をいぢめた人かいぢめつことレッテルを貼られた人かは謎だが 過去形なので なんとなくすっきり爽やかな空気になっている。 いろいろなシーンをそこから想起できる佳句。作者の懐の深さも感じます。 久:「オレニハゼッタイデキナイ」ことです。 ぼ: だから人生は面白い。)

●鷺草の空恋ふ形して静か=砂太
○秀、白、香、五、葱△ま=11点
(秀: とても美しい。 白:中七がとても佳いですね。 五:「空恋ふ形して静か」の措辞が良い。 葱:決してその場所から動き出すことのできないのが草花です、作者は自身の内にある何かを鷺草の姿に照らし合せているのかもしれません。 ま:中七の表現にとても魅かれました。)

●本に棲む異界の人と夜の秋=葱男
◎や○玻△ラ、雪、淳、修、五=10点
(や: 異界に入り灯火親しむ。 玻:棲むというのは 住むとは異質である。もうどうしようもなく巣食うようなイメージがある。その感じと異界の人の措辞がしっくりきている。異界とは 人間の世界を超えた魔界か天界か。芸能界か政治界かというようなモンスター的な世界は秋の夜長に本くらいで付き合いたいなと興味はあれども距離感を保ちたい世界の存在をちょっといろいろ考えてしまう不思議な佳句。怖いもの見たさと読みたさの感覚が 「本」という対象であることに作者の知性を感じます。 ラ:「異界」という一語が、とてもよく利いています。 雪:どんな本か気になります。異界ってどこでしょう? 修:夜の秋という季語の微妙な情趣が効いています。 五:本の世界は涼しそう!)

●嵐山へ開け放つ部屋冷奴=ぼくる
◎ぶ○ラ、裕、修△砂=10点
(ぶ:上五中七の雄大さと、冷奴の対照に参った。食用をそそるお句でもある。 ラ:座敷に涼しい風が吹き抜けてゆくようです。ご相伴したいです。 裕:夏の京都で冷奴いいですね。 修:気持のいい句です。)

●あの母にこんな時代もサングラス=紅椿
◎白、ス○ぼ△秀=9点
(白: 亡き母の青春時代の写真。 ぼ: 「あの」と「こんな」が巧み。秀:私にだって、若い日々はありました!ただ、「あの」とか「こんな」は 句を緩くしてる感じがありました。)

●タブレットに魚の泳ぐ熱帯夜=秀子
○十、ま△ラ、玻、水、雪、修=9点
(十:タブレット端末の写しだされる金魚に涼を感じるという現代的な景。 ま:現代の景ですね。私も同じように涼を求めています。 ラ:その魚は、水底にどんより漂っている深海魚のような気がしました。 玻:熱帯夜というのは 湯の中にいるようで そう 爽やかとはいかないものだ。どうにか涼を求めてと 先人は工夫を重ねてきた。金魚のレースのような尾ひれや風鈴の音色。どう考えても気温が下がるものではないのだが感受性の中で涼を感じるのが人間の摩訶不思議である。作者は デジタル機器のタブレットに涼を見つけた。タブレットの表面を生き生き泳ぐのは何の魚だろう?「魚」をいろいろ想像するだけで 涼の差も変わりそうだ。現代社会ならではの切り口と情緒との兼ね合いが秀逸。無機質になりがちなデジタル世界も俳句が豊かにした佳句です。  水:水:少しでも涼しく感じれば、、。 雪:涼しそうに見えても所詮映像の魚たち。熱帯夜、いつまで続くんでしょう。 修:本物のような画像だし。)

●湧水(ゆうすい)に肩まで浸かるラムネかな=雪絵
◎久○資、香△五、葱=9点
(久:ラムネの瓶に肩があるのか、涼しげでいいですね。 資:ラムネを湧水で冷す風景が懐かしい。肩といったところが良いですね。 五:確かな観察により涼しさが伝わる。 葱:いかにも美味そうなラムネですね、肩までよく冷えて!清涼感抜群です。)

●空蝉の生前葬に似てゐたり=葱男
○清、喋△白、資、玻、水=8点
(清:蝉は地上に出れば必ず抜け殻を残す。やがて死んでもそれは形となって残る。生前葬なる比喩が的を射る表現だ。 白: 率直な感慨ですね。 資:なるほど,まだ蝉は鳴いている。 玻:魂の抜け殻にでもなるような出来事はある。そんなとき ふと目に止まった空蝉。なんだか自分みたいだなと生前葬的気分に陥る。自己憐憫に陥りがちな気分を美しく季語の斡旋と ユーモラスな生前葬の措辞で救っています。 水:作者の心境、さびしすぎませんか。)

●かき氷尖りの蜜をひと噛みす=久郎兎
◎五○砂△紅、淳=7点
(五:涼しさが伝わって来る。 紅:「あるある感」いっぱいで目に浮かびます。)

●日に焼けし葡萄のごとき少女かな=修一
◎子○雪△紅、香=7点
(紅:部活帰りの少女でしょうか?健康そうで、おばさんは羨ましいです。 雪:葡萄のような少女とはおもしろい比喩ですね。思いっきり黒くて丸っこくて。)

●島唄のうら声哀し夜の秋=雪絵
◎紅△秀、葱、ス=6点
(秀:もう夜は秋の気配。島唄が沁みます。 紅:沖縄の悲しさが伝わってきます。季語の斡旋が秀逸で、即◎にしました。 葱:「うら哀し声」と「うら声哀し」では全然違いますね。)

●夏帽子江ノ電どうしすれちがふ=資料官
◎葱△や、十、喋=6点
(葱:見知らぬもの同士が路面電車で、互いの存在も意識せぬままにすれ違う。その後に何かドラマが生まれるのだとしたら、この世に生を受けたことと同じように、それも一つの奇跡です。 や:街を抜ければぱっと白波。 十:電車がすれちがう時、車窓を挟んで夏帽子もすれちがう。ホンワカした景。)

●噴煙の無き日トマトは熟れに熟れ=水音
◎入○ぶ△香=6点
(ぶ:火山列島ならではの緊張感と、自然の恵みへの感謝を感じる。)

●足跡の波に引かるる涼しさよ=秀子
○入、淳△葱=5点
(葱:最後の「涼しさよ」の中にほんの少しの「寂しさ」を感じます。)

●坂道を転がるやうに秋近し=五六二三斎
◎メ△清、ぶ=5点
(清:暦の上では、八月の立秋を過ぎれば秋だ。まだ八月は夏の感覚だが、転がるように秋に入っていく。 ぶ:暑かった夏もその盛りを燃やしているが、坂を転がるように時が展開してゆく。実際に何か転がっていくのを見てのお句かもしれないが、気分をうまく表現している。)

●白砂を整へる音夕焼雲=ぶせふ
◎十△や、メ=5点
(十:寄せては返す波が「白砂」を平らに均していく。その音と沖遠くの「夕焼雲」を取り合わせた聴覚と視覚の見事なハーモニー。 や: 白い砂に真っ赤な夕焼けの光線が射す。)

●天国は早寝早起き蓮の花=十志夫
○喋△紅、水、修=5点
(紅:ユーモラスに詠まれているところが魅力です。 水:天国とはそういうところなんですね。蓮の花も朝が早い。 修:リズミカルなH音、健康的。)



●雨あがり地に香り立つラベンダー=香久夜
○子△ま、裕=4点
(ま: まさに、そうですね。下からにおいたっていきます。 裕:北海道の爽やか夏を連想。)

●浮き輪売りの並ぶ田舎に会議かな=裕
○ラ、ス=4点
(ラ:鄙びた田舎の中に居て、会議をしているというギャップが面白いです。)

●おはぐろとんぼ母の魂ゆらゆらと=資料官
○秀△十、清=4点
(秀:この方のお母様はおはぐろとんばとなって帰ってこられた。 十:その黒い色合いから先祖の魂に例えられることが多い。亡母への哀悼句。 清:6最近都会では見かけない翅黒蜻蛉、名前を聞くとふる里の妣を思い出す。その母の魂が蜻蛉に乗り移る。)

●谷隔つ岩峰近し夏の朝=修一
○入、水=4点
(水:作者の心境、さびしすぎませんか。)

●星月夜天よりショパンポロネーズ=五六二三斎
○ぼ△清、砂=4点
(五:中村紘子さん逝く。 ぼ: 格調高き追悼句。 清:中村紘子さんへの追悼句であるが、文字通り天国でもショパンを弾いておられることだろう。)

●星々とハイビスカスと白波と=ぼくる
○修△白、喋=4点
(修:白波は焼酎?てことはないか。でもこんな海辺で一献。 白: 南国の景が見えるようです。)

●大花火猫背伸ばしてむふと言ふ=やんま
○裕△久=3点
(久:猫が言ってるのではないですよね。 裕:猫も花火に見とれているんでしょうか。)

●白玉や火星に棲むと云ふ少女=清一
◎喋=3点


●石斛の花やトトロの通り道=水音
○砂△ラ=3点
(ラ:その通り道へ赴いて、トトロと逢ってみたいです。)

●月見草たけく月への道かほる=入鈴
◎修=3点
(修:「かほる」は「かをる」?月への道という大胆な表現。)

●波際に琥珀の小瓶夏の果=ラスカル
○紅△裕=3点
(紅:藤村の歌が聞こえてきそうです。 裕:琥珀の小瓶が寂しげです。)

●波の間をすすむカヤック鳥渡る=修一
◎ま=3点
(ま:広大な景と季語とが響き合っていて魅かれました。)

●苦瓜を焼いて味噌味男味=やんま
○子△ま=3点
(ま:初めての食べ方です。男味、美味しそう!)

●乗り越して戻る車窓や富士夕焼=ぼくる
○十△資=3点
(十:僅かな時間の経過に起こる自然の変化を上手く捉えている。 資:(明るいうちで良かったし,何か得したような気分。)

●婆が行く夕菅の道爺と行く=砂太
○葱△玻=3点
(葱:夕菅の高原、婆の足取りはまだ達者、爺のほうが後ろから付いてゆきます。「婆さんはまだ若いなあー、それに比べて俺は少々歳を食っちまったなあ、婆さん、今まで長い間ありがとうよ、という爺さんの声が聞こえるようです。 玻:夕方に先 朝にしぼむ夕管の花は うら若き魔性を想像させる。そこに 婆と爺である。晩夏のもの悲しさと老いの行方がリンクしてなぜ?夕管?と往きすぎた魔性にまた戻って読んでみる。そうすると 夫婦なのか 老いらくの恋なのか?はたまた句友か?と道行くふたりの関係性にまで想像は膨らむ。何気ない幸せな老いの日常を詠んだような上五 下五の景色がこの季語の斡旋で 特別の光景に変わる。俳句の醍醐味をみる佳句です。)

●葉の雫はらりと落ちて梅雨明けぬ=白馬
○紅、メ=3点
(紅:今年の梅雨明けはまさにこんな感じでした。)

●マティーニの底に沈むる夏の月=玻璃
△資、裕、五=3点
(裕:一人でしょうか? 五:オシャレな句!)

●夜の秋の紙石鹸の香りかな=ラスカル
△ま、入、雪=3点
(ま:ほのかに感じられるもの同士、繊細な感性ですね。 雪:小学生の時紙石鹸を集めてました。今もあるんでしょうね。香ってきそう!)

●アッパッパ入浴剤の海の色=紅椿
○雪=2点
(雪:季語の使い方、勉強になります。海の色はやはり夏を思わせます。)

●クレヨンの先で笑顔のひまわり達=秋波
○メ=2点

●シュメールの神の剣や蝉涼し=ぶせふ
△や、子=2点
(や:神の剣の前に熱く鳴く蝉が涼しく聞こえる。)

●潮の香のしるしばかりの水着かな=紅椿
△白、ぶ=2点
(白: ちょっと色っぽい句ですね。 ぶ:エロティシズムと俳諧味が効いて思わず採ってしまったw)

●地に倒るテツペンハゲタの炎暑かな=茶輪子
○久=2点
(久:もう行くところまで行った感ありですね。)

●ちゃぶ台で氷ひとつのお茶を飲む=メゴチ
△入、久=2点
(久:倹しく身体にもちょうど良い感じ。)

●花空木観世音寺に考古学=砂太
○白=2点
(白: 空・寺・考古学の取り合わせが。)

●遥かなる夢の後先夏薊=やんま
○資=2点
(資:ふと,陽水の少年時代かな。)

●日扇の町家おたなに鉾の列=久郎兎
○ぶ=2点
(ぶ:祇園祭の風景か。にぎわいと静けさを感じる。そして積み重なった時間。)

●短夜やホースの端に残る泡=ラスカル
○水=2点
( 水:生ぬるいホースの中の水。そこに残った泡になにを思うのか。)

●店番のおばあの揺らす古うちわ=雪絵
△ぶ、香=2点
(ぶ:沖縄の日常をさりげなく描いて、夏の日差と静かな時間を表現している。古うちわがいい。)

●もののけの悪しき仲間となる昼寝=葱男
○や=2点
(や:一炊の夢に一大ドラマが展開。)

●あるときは雪崩るることも大花火=水音
△秀=1点
(秀:雪崩れ落ちますよね。)

●漢方医はメタボ体型蛙鳴く=まさこ
○ス=1点

●しじみ蝶ミントの上に留まりけり=子白
△ぼ=1点
(ぼ: それだけの事だが、幸せな気持になる。)

●尺蠖に測らせてゐる景気かな=清一
△ぼ=1点
(ぼ: とぼけた味あり。)

●父の墓夏雲消えて空さみし=資料官
△子=1点

●水枕蝉さえ鳴かぬうだる午後=秋波
△メ=1点

6●夢現へとうちよせて?時雨=弧七
△メ=1点


A部門入選作〈back number〉

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