*A部門入選作発表*

当季雑詠*全44投句(入選38句)

【特選】

一席
●更衣鏡の中に猫も居て=砂太


◎ス○白、資、百、入△五、夏、雪=14点
(ス:鏡の中の猫、じっと置物のように座っているのを想像しました。衣替え結構大変で、猫を見て一息つかれたのかもしれませんね。 白:鏡の中の猫が、その空間の静けさを感じさせます。縁の外は明るい初夏の日差し、そして部屋の中は対照的な陰翳が揺らいでいる様子。  資:ファインダーに切り取るように鏡の中の風景を描く面白さ。 五:愉快な句です。まとわりつく猫と忙しい日でしたね。 夏:日常の暮らしに猫の存在感。)


二席
●あと出しで負けてしまひぬサクランボ=葱男


◎雪、メ○五、喋△香、ス=12点
(五:サクランボのグーに負けてしまったのか?愉快な夏ですね。 香:最後の1コ?残念でしたね。 白:「じゃんけんに負けて〜」の句を類推してしまいます。 ス:じゃんけんですか?!後出しで負ける悔しさとさくらんぼの取合わせがおもしろい。)


三席
●薫衣香(くぬえこう)深い森には深い池=葱男


○水、白、夏△喋、雪、入、ス=10点
(水:古の森の奥に迷い込んだような不思議な感じ。 白:中、下の一体感が、上の句を引き立てているように感じます。 夏:心の奥の深い森と深い池・・・ 。 ス:麝香ですか?大人の香りですね。深いの繰り返しも効果的。)


三席
●午前九時はつなつ塊となりて来る=水音


◎白、夏○君△砂、百=10点
(白:季節を感じる感官に強度を感じます。飯田龍太の「涼風の一塊として男来る」の句に似てますね。この句は最も好きな句のひとつです。 夏:五月なのに突然とんでもなく暑くなった日があり、「午前九時」にはリアリティ。 葱:現代俳句の新鮮さがあります。 百:もうすごい暑さ。)


【入選】

●若葉風神馬の像の奮ひ立つ=雪絵
○五、秋、ス△水、香、夏=9点
(五:神馬の像はいいですね。奮い立つのを仕掛けるために若葉冷の季語の方が合いませんかね?予定調和になりすぎますかね? 秋:先日葵祭を見物しましたが、牛車の牛がモーと啼き公達の馬はフンを落としタイムスリップというかいっとき異空間でした。 ス:躍動感の感じられる句ですね。季語が効いている。 夏:若葉風の生命力と神馬の像が響き合っている。)

●いちはつの立ち居にしばし背を正す=秋波
◎五、百△君=7点
(五:いちはつという花があるんですね。シャキッとした花なのでしょうね。 葱:「I−CHI−HA−TSU」の音がすでに抱えもっている鋭利な感覚がもう素敵です。中七、座五もなかなかいいと思います。佳作。)

●伽羅蕗はもう煮きらんと母の声=小夜女
◎香○入△資、百=7点
(香:博多弁が何とも滑稽で、味があります。 資:大きな蕗と小さくなった母の対比。 葱:「博多弁」がいいですね! 百:なんで?)

●木洩日の中の聖堂ほととぎす=砂太
◎澄○雪△葱、五=7点
(葱:類句はありそう。 五:木漏日も季語かと勘違い。聖堂の「てっぺんかけたか?」と鳴いていたのかな?)

●墨吐いて生簀の烏賊の捨て台詞=夏海
○水、香、資△君=7点
(水:墨を吐くことを「捨て台詞」としたところに一票。 香:「捨て台詞」が面白いです。 資:呼子の河太郎の生簀を思う。捨て台詞が面白い。 葱:上手さがやや目立ちましたかね。「捨て台詞」がやや芝居がかったかなあ〜、上手いけど。)

●卯の花や魔法のやうに雨上がる=五六二三斎
◎資○雪△ス=6点
(資:卯の花というと雨を思うがその逆の発想が良い。 ス:似た経験をしたことがあり、その時のわくわくした気持ちを思い出しました。 葱:「魔法のやうに」が心地よいですね。)

●シェパードの胸の満タン夏来たり=スライトリ・マッド
◎葱、入=6点
(葱:新しさ、強さ、切れ、全部いい!)

●ソラマメを焼きやき青き空を食む=夏海
○香、喋△白、メ=6点
(白:「やきやきあおき」のリズム感と、小さな豆と大きな空との対比がいいですね。  葱:スキップしているような楽しい句です。「焼きやき」と「漢字ーひらがな」が成功しています。「SORA−SORA」も。)

●五月雨や変奏曲と二人居り=ひら百合
○秋、メ△白=5点
(秋:雨だれの音からショパンを連想しました。恋人同士の関係もいつの間にか微妙に変わっていくもの。この句の変奏曲は長調か短調か? 白:グールドのゴールドベルクなら最高です。 葱:「五月雨」が音符を視覚化してくれますね。)

●ノックして夏の扉を開け放つ=雪絵
◎水△喋、澄=5点
(水:歌謡曲の歌詞みだいだけど、爽快さをいただきました。 葱:この句も「現代俳句」を感じます。「ノック=ドア」が和風の「開き戸」とは異なった情緒の開放感に繋がるからでしょう。 白:切れがないようです。詩の感覚としては素敵です。)

●薫風や丸い言葉の「ありがとね」=水音
◎喋△メ=4点

●初夏おくる南端駅の黄のポスト=喋九厘
○ス△葱、香=4点
(ス:指宿線の幸せのポスト。指宿は菜の花で有名です。 葱:「黄のポスト」が映像的にいい役割をしています。15才の少女をワンシーン、ワンカットで見たい。)

●初夏の風透き通る愛宕山=五六二三斎
○砂△資、澄=4点

●鮮やかな文法理論緑さす=スライトリ・マッド
○メ△白=3点
(白:昨今の政治家の言だとすれば、見事に俳諧ですね。  葱:今月のA部門は佳作がいっぱいありました。この句もそうでした。ただ、「文法理論」は他の理論に比べて「鮮やかさ」に於いてやや弱い気もしました。しかし、逆に「数学的」なものでは「鮮やかさ」も当たり前ですので、難しいところです。)

●片麻痺の妻と腕組バラ愛でる=小夜女
○君△喋=3点
(葱:「片麻痺」がちょっときつい感です。字余りでも「麻痺の残る妻と腕組バラ愛づる」ぐらいではいかがでしょ?)

●干潮の極みや夏の小漁港=砂太
○葱△秋=3点
(葱:「干潮」に夏を感じる視線が若々しい!)

●唐船峡に車椅子押し初夏の風=喋九厘
◎秋=3点
(秋:爽やかな優しさがつたわります。 資:鹿児島時代にそうめん流しに行った。夏でも涼しい。)

●名を呼ばれし記憶の最後鉄線花=雪絵
◎君=3点
(君:”記憶の最後”に深い哀しみが。 葱:情況が絵を結ばない句でした。作者に句の解説をお願いしたいところです。 白:鉄線花に閉じ込められ、包まれているものは何だろう。記憶が無意識的であればコンテクストは内在化し、過去のコンテクストを、現在の感覚と不可分なものにする。ふたつの時間の間の類似性が、もっと深い同一性へとおのれを越えていくのと同時に、過去の時間に属している接近性は、もっと深い差異性へとおのれを越えて行く(ドゥルーズの受け売りです)。俳句としては選びにくいけど、哲学を感じます。 )

●虹色の波紋起こしてキスを釣る=メゴチ
△葱、水、雪=3点
(葱:素直さが伝わってくる句でした。 水:白く輝くキスに「虹色の波紋」が効いてます。「キスを釣る」がいい?、「キス釣れり」とかは?他には? キスは漢字がいいかも。)

●初鰹少年山河ありと告げ=入鈴
◎砂=3点
(葱:被災地の漁港の今を思い浮かべます。少年には大きな希望を託したいですが、「山河」だけ変わらないのが逆に悲しい。)

●春惜む博多の小路ぬけられず=入鈴
△水、百、君=3点
(水:小路なのに抜けられないというところと「春惜しむ」が呼応している。)

●マロニエは咲きぬ蜜蜂飼ふ銀座=夏海
○砂△秋=3点
(秋:がんばれ蜜蜂! 葱:先日は札幌の蜜蜂の話をテレビでみました。都会の鴉除けにもいいそうですね、「札蜜」だそうです。)

●みはるかす若葉魔法(マジック)きのふけふ=水音
△砂、入、メ=3点

●大筍掘り上げ母の得意顔=資料官
○澄=2点
(資:28年前,筑紫野市天山総代宅裏山にて。 葱:「大筍」は「おおたけのこ」と読むのでしょうか?「たかうな」「たかんな」という語感を使う手もあったかも。)

●胡瓜苗提げし人皆微笑みぬ=君不去
○夏=2点
(夏:苗を得て微笑んでいる人、この先の収穫への期待感が伝わってくる。)

●金蘭やおばさんたちの一眼れふ=入鈴
○百=2点
(百:だから一眼レフ買えなくなっちゃったんです 。)

●薔薇ありて集いし小鳥華やかに=メゴチ
○澄=2点

●一畝ほどキャベツ畑は賑やかで=スライトリ・マッド
△夏、入=2点
(夏:「一畝」が良い。家庭菜園の実りの喜び。)

●葵葉のいにしえの影御簾にゆらぐ=秋波
△葱=1点
(葱:この句、「に」を省いて「葵葉のいにしえの影御簾ゆらぐ」としたらどうだったでしょう。句の意味が変わったでしょうか。葵の影が御簾に映り、その御簾が揺らいでいるという情景は変わらないように思います。その一字の省略がつまり「俳句的」だ、と私は思いますが、どうなのか??? 白:下句が「御簾ゆらぐ」ならば、葵葉の影の色がもっと引き立ったと思います。 )

●王妃の名持ちし薔薇ゆゑ凛として=君不去
△五=1点
(五:何という薔薇の花?もう、ケイト妃の名前が付いた薔薇かな? 葱:「プリンセス・ミチコ」でしょうか。今回の震災後でもよく外国の人から「日本人」の礼儀正しさやチームワークの良さについて指摘され、尊敬もされましたが、従順に過ぎて、やや個性に欠けるところは「俳句」も「天皇制」も共通したところがあるのかな。)

●甲斐駒や五十路の暮れの夢雨月=ひら百合
△砂=1点
(葱:歌謡曲〜してるって感じ。)

●ボンジュール手習いの春躁と鬱=ひら百合
△秋=1点
(秋:この年になると習い事もなかなか上達せず…。共感の句です。)

●水玉や無邪気に邪気をはじかせて=葱男
△澄=1点

●矢車の音遠き日々思ひ出づ=君不去
△資=1点
(資:耳で聞く鯉幟が新鮮。)


【無選】

●父代はりかも先生は花水木
(葱:「親代わり」では平凡だったのか?)

●母の日や鯛釣りて帰す子等いとし
(葱:盛り沢山で言葉同志がやや窮屈そう。)


A部門入選作〈back number〉

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