*A部門入選作発表*

当季雑詠*全53投句(入選44句)

【特選】

一席
●息をのむ程の月出る終の里=砂太


◎葱、久、五、君○澄、香△白=17点
(葱:「息をのむ」、なんでもないような表現なのに大きなインパクトがあります。 久:大きな満月にハッとさせられますが、その事を素直に「息をのむ程」と、この状況ではこれがベターなのかも。 五:掲句は、10月の俳句界、文学の森の福岡句会のごろにゃんさい特選句でした。砂太先生句とは分からずに選句しました。「息をのむ」がまず素晴らしい。老境の感動と哀感が伝わってくる。「の」音のリズムもよろしい。今回は、選者の選句眼を試す意味でも、また特選にしました。 白:シンプルな情景を詠んだ句だと思いますが、そのシンプルさがよかった。)


二席
●柿熟れて納屋にベンツとコンバイン=砂太


◎雪○葱、久、百、前=11点
(雪:ベンツとコンバインが面白い! 葱:ベンツとコンバインの鮮やかな対比が印象的。 久:コンバインは埃をかぶっていそう。 百:ベンツとコンバインの取り合わせの妙。)


二席
●チェシャ猫の軒から笑ふ十三夜=水音


◎砂○資、白、君△前、ス=11点
(白:猫のいないにやにや笑いは、数学者キャロルならではの発想だと感じるのは私だけでしょうか? あるものが消えて等価のあるものが残る、そんな数学の奇妙さが感じられるんです。十三夜はチェシャ猫に表象されると同時に、そこにはチェシャ猫はいない、そんな奇妙なずれ=差延が感じられる句ですね。 君:わんだーらんどが目の前に。 ス:アリスin ワンダーランドの大ファンです。)


二席
●別れきて冬瓜(とうが)に母の眉目かな=入鈴


◎前、喋○二、夏△小=11点
(夏:しみじみとした句です。)


【入選】

●雨後の畦正す農夫や秋夕焼=君不去
◎ス○香△葱、五、前=8点
(ス:整った感じがしました。 葱:地味ながらも滋養のある句だと思います。 五:日本の農村風景を忘れないようにと選句しました。 入:ミレーの晩鐘という絵画の思いに通ずるかなあ。)

●運慶の玻璃(はり)の目はしき半月夜=入鈴
◎白、香○喋=8点
(白:情景の鬼気を感じました。それは妖しさとはちょっと違う鬼気です。ちょうどぴった りに闇と光が溶け合う瞬間が刻まれているような表現だと思います。 葱:鋭角的で幻想的な美しさ。) 

●声色を使ふ子のゐて草の花=雪絵
◎夏△葱、二、水、香、喋=8点
(夏:生き生きした子供の様子が伝わってきて素晴らしい。 葱:大人になるといろいろと面倒なことも多くなるのでしょう。昔のように無邪気なところは失われたのかもしれませんが、それも人生の「草の花」です。 水:子どもも草もたくましいですよね。)

●根子岳の七色王冠かぶる秋=喋九厘
◎資○小、メ△君=8点
(喋:阿蘇五岳のひとつ根子岳はギザギザ頭の山容で、山麓、山腹に彩り鮮やかな紅葉が輝き始めると、それは自然の大いなる王冠に。)

●本を閉ぢ月に未在の海思ふ=葱男
○白、ス△二、五、百、雪=8点
(白:マラルメの一節を思い出します。「絶対は外部に--月に存在するであろう--時間の上方に。」はたして月に海は未在なのでしょうか? ス:月に思いを馳せる、いいなあ。 五:ちょっと書生風情な句。 百:「閉ぢ」が私にはまだできません。 雪:「未在の海」、という言葉と思うこころに惹かれました。)

●小鳥遊(たかなし)を額に切り取る里の秋=メゴチ
◎小○喋△二、水=7点
(小:額には切り取らず飛び去るまで見とれたこの頃、良くわかります。水:たかなしって面白い のどかな農村風景。)

●牧閉すいくつもいくつも帰り道=葱男
○五、水、入△砂=7点
(五:秋の哀しさがよく出てます。広い牧場には、帰り道はいくつもありそう。それには、人生の岐路を何度か経験してきた作者の悔恨が含まれているようです。「i」音の繰り返しもよい。 水:冬を迎えるうら寂しい風景なのに、充足感のある感じ。)

●郵袋に草種一つ街に降り=久郎兎
○二、夏△小、前、香=7点
(夏:「郵袋」と「草種」に目を留めた作者の眼力に拍手。 小:映画のようですね。)

●いま風を得たる千羽の鷹柱=夏海
○砂△久、資、メ、君=6点
(久:鷹柱、初めて知りました。鷹匠との関係があるのかな? 葱:壮観ですね!)

●ジーンズも月もエデンの東から=葱男
◎水△入、夏、砂=6点
(水:青白い月光に立つジェームス・ディーンが目に浮かびました。 入:上手い! 夏:俳趣ある句だと思いました。)

●木星のそっと寄りそふ秋の月=資料官
◎澄、メ=6点
(メ:思わず空を見上げてしまいました。)

●吾亦紅そうかそうかと摘みにけり=小夜女
◎入、百=6点
(百:草木と対話する。)

●こちら向く山羊の目白し草紅葉=雪絵
○葱、前△百=5点
(葱:白い目に山羊の悲しみ、無力感が漂っています。 百:山羊の目が印象的。)

●若冲の柿落ちぬべしのちの夢=君不去
○資△久、二、白=5点
(久:雄鶏の絵を思い出させますが、カキ?コケラ?よく意味が分かりませんでしたが△を入れました。 白:鳥獣花木図屏風に描かれた果実が柿なのか?ですが、before man というよりも after man を感じさせる絵でした。そしてその絵を髣髴とさせる句は気に入りました。 葱:勉強不足でよく分からないのですが「落ちぬべし」はどういう意味になりますか?)

●出どころは秘密の写真後の月=水音
△葱、五、夏、雪、ス=5点
(葱:この句が詠まれるに至った元凶は私のありますので、責任を取らせて頂きます。 五:ストーリーのある句。月が秘密を暴くという滑稽さもあって面白い。 夏:サスペンスドラマのようで面白い。 雪:謎が謎呼ぶ句ですね〜。 ス:ひょっとしてあの写真?!)

●読みさしの父の蔵書や秋の暮=資料官
○小、メ△夏=5点
(夏:秋のもの悲しさが伝わってきます。)

●荻吹くや真夜の霊の影ふたつ=白髪鴨
○五、君=4点
(五:怖い句です。私は、「霊」を「みたま」と勝手に読み、選句してました〈笑〉。御霊が荻を吹いてる様がよい。しかも真夜中。佳句です。作者の了解があれば、「おぎふくやまよのみたまのかげふたつ」と読みたい。古語調の方が怖さが増すと思いますが、皆さまのご意見や如何に? 君:作者の目線が愉快です。)

●闇に聞く金木犀に招かれて=久郎兎
○入△澄、白=4点
(白:香は「聴く」ものだと誰かに教えられた記憶があります。下五のまとめがいまひとつ気に入らないのですが、闇夜の金木犀に感情の同化を感じました。)

●指ぬきに矢羽のもよう鳥渡る=水音
◎二△雪=4点
(雪:小さな指ぬきにももようがあるんですね〜。)

●熊本の地下喫茶店水澄めり=五六二三斎
○ス△久=3点
(ス:熊本の水道は100%地下水なんですよね?! 久:熊本の水道水は地下水=有名ですね。地下の喫茶店が出てくるのでえっ?と思いました。)

●今朝の雨桜紅葉の映ゆる坂=五六二三斎
○久△メ=3点
(久:京都東山の法然院の山門前の緩やかな坂を思い出させます。)

●地図ひらくお巡りさんやきりたんぽ=スライトリ・マッド
○雪△水=3点
(雪:新人の駐在所のお巡りさん!とみました。 水:金八先生の巡査を思い出した。)

●引き抜けばひとからげなり破れ蓮=ひら百合
○水△資=3点
(水:もののあはれを感じます。)

●秋の暮じゃんけん石段駆け降りる=香久夜
△小、メ=2点

●今天より舞い降りし通草揺る=小夜女
△澄、ス=2点
(ス:ほんとに天から降りてきたらビックリですけどね。 葱:何が天から舞い降りてきたのでしょう? 竜巻か何か?とても不思議な味の句です。)

●色柔き花窗玻璃(はなまどはり)の秋深し=メゴチ
○百=2点
(メ:「花窗玻璃」はステンドグラスのことです。深水黎一郎の小説です。 百:「花窗玻璃」って小説の題名になってるけど字面がいいですね。)

●埋めつくす父の遺影や秋ざくら=小夜女
○澄=2点
(葱:そんなにたくさん「父の遺影」ばかり祀っているのでしょうか?少し怖いような・・・。)

●子ら駆けて登山遠足山の秋=喋九厘
○砂=2点
(喋:45年振りに母校、太宰府小学校の宝満山登山鍛練遠足に参加。)

●十八夜ライブハウスの小さき卓=夏海
○雪=2点
(雪:ライブハウスってどこもこんな風。)

●なるやうになるさ八拾壱の秋=資料官
△百、君=2点
(百:そういう心境になるでしょうね。 君:こんなふうに歳を重ねたい!!)

●ダンサーの裾のフリルや葉鶏頭=雪絵
△喋=1点

●諦念に濡れ駆けぬけるしぐれ雨=ひら百合
△入=1点
(入:ぬれ、かけ、ぬけ、の動詞の畳みかけが時雨とぴったり。)

●天高く先立つもなお可愛い妻=久郎兎
△砂=1点

●豆腐屋の主人の眉間秋日射す=五六二三斎
△香=1点

●童謡のどんぐりころころ大中小=砂太
△喋=1点

●始まりの前の世いかに流れ星=夏海
△入=1点

●表象を拒むがごとく山粧ふ=白髪鴨
△資=1点
(入:黄葉した山の空気感というのは、具象そのものです。)

●星月夜オリオンまでは何千里=君不去
△澄=1点

●みかづきに月毛色して印旛沼=入鈴
△二=1点


【無選】

●朝寒や緩やかな陽に同化する
(葱:「緩やかな」という修辞がいいですね。)

●山ゴボウ秋紫の色香かな
(喋:四王寺山頂にて、朝日を浴びた山ゴボウ、茎も実も豊満な赤紫が艶っぽい。山中で、黄色いハート形の葉を目印に、つるを探り山イモ掘りに興じたは遥か小学生時代。)


A部門入選作

創刊号 2号 3号 4号 5号 6号 7号 8号 9号 10号 11号 12号 13号 14号 15号 16号 17号 18号 19号 20号 21号 22号 23号 24号 25号 26号 27号 28号 29号 30号 31号 32号 33号 34号 35号 36号 37号 38号 39号 40号 41号 42号 43号 44号 45号 46号 47号 48号 49号 50号 51号 52号 53号 54号 55号 56号 57号 58号 59号 60号 61号 62号