*A部門入選作発表*

当季雑詠*全48投句(入選38句)

【特選】

一席
●唇を開きてあけび山を食ふ=君不去


◎久、五、喋、雪、香○白△男、ス、二=20点
(久:今月アケビを詠みたかったけどうまくできなかったので断念しました。やはり唇なんですね。「開けて」ではなく「開きて」がいいです。山を食うのはアケビか人か。全体として趣があります。 雪:そういえばデパ地下で見たあけび、まさにこんな口をしてました。面白い発想ですね〜。 白:ひとつの情景がシンボルとなって記号から情念が漂いだす…そこに俳句のよさを感じるのは私だけでしょうか? 口ではなくて唇というなまめかしさとみずみずしさ…、「あけび」と「山」という相互に折りたたまれたシンボルの微妙な接点…そして、それを「食」って季をまるごと飲み込んでいく…その食感が伝わってきます。 五:「山を食ふ」がおどろおどろしくて、俳句の幻性あり。 男:あけびが山を食う発想が。 香:こんな逆の表現がおもしろいですね。 )


二席
●そぞろ寒荷台の牛の黒眼=雪絵


◎水○夏、砂、香、百△白、資、メ、ス=15点
(夏:牛は運命を悟っているのかなあ、ちょっと切ない。 白:今では牛そのものを見る機会もほとんどなくなってしまっています。土田舎で育った私はこんな光景をよく見ていたのでシンパシーを感じました。荷台にいる牛は、野や田畑にいる牛、牛舎にいる牛とは、まなざしが違うのです。 百:「くろまなこ」がきいてる。 資:ジョーンバエズのドナドナを思い出す。 香:売られていく牛でしょうか、淋しい色でしょうね。 ス:売られて行くのでしょうか? 葱:佳い句ですね、採りたかったところ。残念ながら次点になりました。)


三席
●蔦紅葉壁の形にしがみつく=雪絵


◎男○久、白、水△メ、二=11点
(男:しがみつくのが何とも。 白:私ならきっと「家の形」にしてしまっていたと思います。でも、それはやはり「壁の形」でなくてはならなかったのでしょう。カンディンスキーの絵を彷彿としてしまいました。 葱:たしかにしがみついてますね。)


【入選】

●ソネットの十三行目冬近し=葱男
◎白○喋、ス△雪、百=9点
(白:誰のソネットか、それとも自作? どういうくだりなのでしょう? でも、そこに確かに「冬」がある《感じられる》こと、そのこと自体にシンパシーを感じました。どういうソネットかも分からぬままに、十三行めに「冬」を置いた作者の感性が理屈なしに感じられました。そう、まさに十三行めなんですね。 ス:ソネットは14行詩!英文学講義を思い出しました。 百:ソネットってのは14行詩なんだね)

●千代紙の色落としけり秋の果=葱男
○男、資、メ、君△雪=9点
(男:色の多様性ですね。 雪:もうすぐ寒い冬。千代紙までもが色を失って行くように見えます。)

●干し和傘並び砂丘の秋澄めり=夏海 
◎資、砂○二△男=9点
(資:鳥取砂丘に白い和傘が並んだ記事かニュースを見た。まさに秋澄めりだと思う。男:なんとなく落ち着く雰囲気が。)

●すさまじき神の静寂に書をとぢる=白髪鴨
◎澄○葱、男△資=8点
(葱:「静寂」は「しじま」と読みました。なんだか凄く気になる句です。上五・中七の緊迫感が凄い! しかし、実感としてはどういう心象風景なのか、何か「死への恐怖」のようなものだと感じましたが・・・。 資:すさまじき、すさまじき神の意味がわからないのですが。)

●冬瓜の透き通る肌椀温し=君不去
◎百○久、喋△白=8点
(百:暖かそうな感じ。 久:「椀温し」は平凡かも。漆椀の黒さを入れるとかどうでしょう。勝手に想像してしまいました。 白:宗匠は「印刷された作品は、紙から立ち上がらなければならない」と言っていましたが、それは(浅薄な理解だと思いますがデリダのいう)エクリチュールの脱構築なのかもしれません。この句はとても日常な句だと思いますが「立ち上がって」いるように感じられたのでした。)

●秋天や恋歌つづる東巴(トンパ)文字=夏海
◎二○資△喋、砂=7点
(資:象形文字の恋歌なんてなかなか良い。 葱:好きな句ですが上五にもう一工夫欲しい感じ。)

●吸殻の一つひとつに秋深し=五六二三斎
◎葱○ス△水、君=7点
(葱:渋い男のメランコリーですね! かっこいい! ハンフリー・ボガードというところですか。 ス:吸殻も捨てたもんじゃないですね?! 資:一箱千円になればさらにそうですね。)

●鰯雲誰に電話をかけようか=砂太
○葱、二△男、水=6点
(葱:不思議な句、何故だかとても惹かれます。「鰯雲」の季語の働かせ方が凄い気がします。)

●秋飛行夕日にうねる河赤し=ひら百合
◎君○夏=5点
(君:大きな眺めですね。”河”はひょっとして黄河? 夏:眼下の大地の広がりと、夕焼けの大河、目に浮かびます。 葱:若い頃、上海から昆明まで夕方飛んだ事があります。日没から逃げるようにして飛ぶのです。黄昏の千変万化の桂林、漓江に息を呑みました。2時間ずっと日没寸前なのです。あの夕景以上のものはそれ以後見ていません。)

●篤姫は主役におはす菊花展=資料官
△葱、五、夏、雪、砂=5点
(葱:「宮崎あおい」ちゃん、大好きです。 五:篤姫いいですね。本物の写真は肝っ玉母さんみたいですが・・。 夏:タイムリーで! 雪:まさに篤姫は、今年の主役でしたねぇ。)

●チンダルの光りに群れる秋の小虫(むし)=前鰤
○百、君△香=5点
(百:「チンダル」って何かと思った。 葱:チンダル現象のミー散乱というのを初めて知りました。 これも神秘的で美しい句ですね、やはり次点。)

●アパラチア赤茶の秋のカーペット=ひら百合
◎メ△久=4点
(久:アメリカ便りありがとう。赤茶のモノトーン、巨大そう。)

●アールグレイ一碗の秋青の処女=白髪鴨
◎ス△百=4点
(ス:なんだかおしゃれな取り合わせ。 百:何が処女なんだろう。 葱:なんとなくかっこいいけど、「青の処女」においていかれました。)

●球根に掘り起こさるる秋蛙=ひら百合
△喋、香、澄、君=4点

●サフランのご飯の美味し胎児蹴る=スライトリ・マッド
○五△葱、香=4点
(五:この句もそこはかとなく生命を感じる。人間の三欲に相通じるものが出ている。  葱:前回、「サフラン」で特選を戴きましたが、なかなか新鮮で好きな季語です。 この句も「胎児蹴る」がsafuranの音によく響きます。)

●天高し千の風船放たれり=スライトリ・マッド
◎夏△砂=4点
(夏:大分国体でしょうか?私の中では東京オリンピックの抜けるような秋空が浮かびました。)

●一筋の秋灯西へブルートレイン=資料官
○雪、香=4点
(雪:遠くから見るブルートレイン、まさにこんな光景なんでしょうね。とてもきれいな句と思いました。 香:一筋というのが、残る1本しか走ってないという意味ですね。)

●秋静かメンデルスゾーンの漏れ聞こゆ=前鰤
○澄△久=3点

●たまのをのしやがみて路地を掃く女=葱男
△五、白、喋=3点
(葱:推敲句=「みせばやのかがみて路地を掃く女」 五:「たまのをや」にした方がよくないか?「の」で短い切れにした訳は? 白:これも情景がシンボルとなっている句だと思います。どんなシンボルかって? それはこの句だけが語ってくれています。)

●だんだんと遠くなる人暮の秋=五六二三斎
△久、メ、君=3点

●真四角に区切られし空小鳥来る=水音
○五△ス=3点
(五:「真四角」が素晴らしい表現ですね。 ス:ビルの谷間かしら?)

●秋日影まろき彩色古墳丘=夏海
△メ、二=2点

●憂さ忘れあとは小春の陽の光=久郎兎
○澄=2点

●クスクスと宰府歩きの秋日向(ひなた)=喋九厘
○砂=2点
(資:楠もなに見てクスクスか?)

●数珠玉や一万人の選手団=スライトリ・マッド
○雪=2点
(雪:遠目に見ると、人も数珠玉にみえますね!)

●地層見る俄か学者や海洞の実=雪絵
○水=2点

●薄紅葉カメラぶらさげ叔父逝けり=資料官
△澄=1点

●暮の秋ポニョを探して鞆の浦=メゴチ
△葱=1点
(葱:「今」を詠んで楽しい! 実は僕も「ポニョ」句を用意していたのですが、この句があったので控えました。 これは部長の特権かも。ちなみに用意していた句は「尾花鮹壷にはポニョも二匹ほど」。 資:映画「崖の上のポニョ」のこと?)

●十月桜今青空へ融けてゆく=砂太
△澄=1点

●次々と過ぎゆく速さ稲田跡=メゴチ
△五=1点
(五:何が過ぎゆくのか?最初は、車の速さのことかと思いましたが、そうではないと信じます。きっと、秋の移ろいの速さかと・・。)

●故郷や残る五号の櫨並木=五六二三斎
△夏=1点
(夏:油絵でしょうか?筑後の櫨並木の紅葉、良いですよね。)

●敗荷(はいか)刈る胸まで長き靴を履き=砂太
△夏=1点
(夏:生活実感がありますね。)

●ヒソヒソ、ヒソヒソヒソ。菊電車=喋九厘
△水=1点
(喋:今年も10月28日に大牟田から太宰府まで走りました。菊花展は11月1日から開催です。)

●せわしなくたどる家路や残る虫=香久夜
△資=1点


【無選】

●秋高し恐竜の世の2億年
(葱:人間はたかだか10万年? 恐竜の2000分の1か・・・。)


A部門入選作

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