*A部門入選作発表*

当季雑詠*全47投句(入選39句)

【特選】

一席
●虎落笛夜の継ぎ目にある不眠=水音


◎砂、君○二、夏、小、白△葱、百=16点
(君:捉え方にひかれました。 夏:夜の継ぎ目」に痺れました。 白:夜の継ぎ目から滲み出すものは何だろう。傲慢な不眠。あるいは存立平面のひび割れに吹き抜ける風。そしてそこから脱領土化が始まる。 葱:悪夢と北風と「時の喪失」は片山右京の富士登山事故を想起させます。)


二席
●掃き捨つる憂さを集めて缶火鉢=君不去


◎久、香、メ○前、資、百=15点
(久:力まないこの句はいいですね。ほっとします。缶は灯油缶でしょうか。)


三席
●鮟鱇の獣の如く吊るさるる=砂太


◎男○雪、ス△久、香、君、白=11点
(男:顔はまさに獣でも…。 雪:鮟鱇は吊るされる運命でしょうか?違う吊るされ方をしている句を読みました。 ス:そんな感じですね?! 久:吊るさないと解体できないそうですが、その形相にギョッ、でしょうか。 白:獣の如くという表現にひどく違和感がある。しかしやはり獣の如くなのだろう。何だったらいいかと問うことにも無理があり、そして結局…。)


【入選】

●落葉踏むほどの罪あり紅茶飲む=雪絵
◎資○砂、水△小、香、白=10点
(水:どんな罪なのか、紅茶を飲むけだるさの中で考えよう。 白:この罪とはcrime、sin、offence、viceのいずれに近いのだろう。crimeでないのは確か。紅茶にまぎれるほどの罪なのだからおそらくどれにも該当しない。句をうまく遊んでますね〜。)

●花街のありし辺りや年の市=夏海
◎雪○二、小、白△葱=10点
(雪:かつて花街だったところ、今でもその雰囲気が感じられるのでしょうか。しみじみとさせる好きな句です。 白:外からの目線が勝っていていまひとつすっきりしないのだが、描写力の強度ゆえに選んだ句。作者の感情はどのあたりにあるのだろう。 葱:なんとなく華やいだ年末の空気。「花街」は今で言うなら「銀座」や「梅田」や「祇園」の色街にも重なります。)

●ちゃんばらでたんこぶだらけちゃんちゃんこ=葱男
○五、男、香△二、砂、喋=9点
(五:人位から格上げ。「ん」音が四回出てくる愉快さ。冬休みのちゃんばらには、訳あり。木切れが手に入りやすい。懐かしい思い出。 男:ちゃんちゃんこで遊ぶ子供が今はなし。)

●訃に暫し無音の枯れ野はぐれ雲=久郎兎
◎小、百○メ△五=9点
(小:ありきたりの風景がドスンと心に食い込んでくる。そんなことが多いこの頃。 五:最初は天位でした。急な訃報の愕然とした表現。やや、脚色しすぎかもしれないが、はぐれ雲と枯れ野の対比がよい。暗すぎるのが格下げの理由。)

●極月のちんどんと練る福の神=夏海
◎五、白△喋、君=8点
(五:人位から天位に格上げしました。明るさがあるからです。昨年の拙句 「鐘太鼓響く師走の乾きかな」と近い。掲句が進化しててよい。 白:黒澤的な、あるいは実相寺的な情景。ふむ、で、どちらが近いのだろうか。どちらにしてもリゾーム都市の情景。ある膨張があり、ある収縮がある。)

●冬至日のしゅわしゅわ溶けるタブレット=夏海
◎二、喋○葱=8点
(葱:「しゅわしゅわ」はそんなにオリジナリティのある擬音でもないのですが、「冬至日」がどこかで効いているのでしょう。)

●冬帽子さみしき顔にのせてをり=葱男
◎ス○香△五、砂、君=8点
(ス:なんだか惹かれて。 五:地位から下げました。寂しい句だが、冬帽子の季語の選択の勝利。)

●青空にあるもゆかしき冬の月=五六二三斎
◎澄○百△小、白=7点
(白:おそらく同じ月を見たのではないだろうか。私には「ゆかしき」月とは見えなかったけれど…。映画ライトスタッフに似たような場面があったと思う。徹底的に透き通り凍りついたような静寂、日常を蔽いながらそこだけくっきりと異世界が存在する。)

●日曜は素つぴんのまま枇杷の花=雪絵
◎水○五、夏=7点
(水:桜のような素敵な形なのに無骨な感じの枇杷の花。この女性はきっと美人だと思わせる。 五:人位から格上げしました。批杷の実は瑞々しいし、きっともち肌のお方なのでしょう。素晴らしいことで。 夏:女性にはよく判るんです、この感じ。控えめな枇杷の花がピッタリ。 葱:季語が動かないかどうか?)

●水張りて豆腐ゆらりと師走かな=砂太
○水、喋△前、メ、ス=7点
(水:忙しくてカリカリしてる師走なのにこのゆるさがいい。 ス:主婦の目線かな?)

●極月や寂しき時に麒麟鳴く=水音
◎葱○砂△夏=6点
(葱:麒麟は瑞祥の具現化であり、もともとは神性の介する喜びやお祝事のイメージですが、この句では作者が寂しい時に鳴いてくれると言っています。まづ、その反転のからくりが面白いとおもいました。「鳴く」という措辞も良い。 夏:私も麒麟が鳴くのをテレビで観てました。ちゃんと句に仕上げた作者に大拍手。)

●花束となり揺られ行く冬の薔薇=五六二三斎
○葱、資、澄=6点
(葱:「揺られ行く」が「売られ行く」ならもっと好きでした。)

●俎板の煩悩の鮹十二月=砂太
○久、水△前、雪=6点
(久:蛸でない鮹の字は初めて見ました。タコはやっぱり煩悩があるんでしょうか。 水:俎板に鯉ではなく蛸。しかも煩悩がある。蛸の形そのものが煩悩か?う〜〜ん おもしろい。 雪:鮹の動きは煩悩?なるほど!)

●遺跡掘る人びと居りて年の暮=スライトリ・マッド
◎夏△水、百=5点
(夏:過去と現在という異なる時間の流れが見えて 対比が面白い。 水:遺跡掘る人は時間を超越しているようで、いないようで。)

●思い出が浮いて沈んで柚子湯かな=メゴチ
○前△葱、香、ス=5点
(葱:人位3句目を「聖樹」「日曜」と迷いました。取り合わせの是非を問われないこの句の素直が最後の決めてでしょうか。 ス:今年も柚子湯に入りました!)

●かたはらに夫(つま)居るけはひ冬ぬくし=君不去
◎メ△久、水=5点
(久:独居老人を思い浮かべました。我々もいずれは。 水:仲が良いご夫婦なんですね。)

●寒濤厚し平均律も変容す=白髪鴨
○久△夏、百=4点
(久:平均律って音楽の、なんですね。寒さでそれが狂うんですね。年を重ねるとカラオケで音程が狂ってるのも分からなくなるようです。)

●寒鰤や河岸に荒ぶる日本海=水音
○君△砂、雪=4点
(雪:冬の日本海、一度見てみたい!)

●木枯らしに吹き寄せられて母の胸=香久夜
○喋△男、小=4点
(男:ああその光景。)

●街しはす仏頂面をつらねたり=香久夜
○雪△五、メ=4点
(雪:師走になると人は忙しく行き交い、顔も険しく・・・。 五:地位から下げました。寂しい師走。来年こそ明るい年でありますように。)

●三本目避けて轍(わだち)の今朝の雪=ひら百合
◎前=3点
(前:雪ではありませんが、沖縄の砂利道で轍から抜け出せず、崖下に落ちたことがあります。轍を作った車も崖下に落ちたそうです。)

●聖樹の灯坂田金時堂ケーキ=スライトリ・マッド
△二、夏、雪=3点
(雪:和菓子屋さんのケーキ? 葱:「sakatakintokido-ke-ki」の音がいい。)

●石蕗の花咲く竜宮の亀の石=スライトリ・マッド
○澄△資=3点

●新たなる海図もとめて年終う=白髪鴨
○ス=2点
(ス:海図とは何を表しているのでしょう?)

●大雪や雲海抜けて宝満山=喋九厘
○君=2点

●熊猫の三寒四温ねころがる=葱男
△喋、澄=2点

●再発を抱えて胸に寒の朝=ひら百合
△久、メ=2点
(久:胸に抱えて、ではないところが、いろんなことを想像させますね。)

●パソコンに賀状書かせてうたた寝す=資料官
○男=2点
(男:便利に慣れてしもうて。)

●寒椿枝折る手に触れて落つ=小夜女
△資=1点

●寒の朝蛇口癒せし斜陽光=久郎兎
△二=1点

●妻と娘のブーツ林立居場所なし=資料官
△男=1点
(男:うちも一緒。)

●飲むほどに香り広がる蕎麦湯かな=メゴチ
△澄=1点

●初雪やはしやぎし子らに気づかさる=雪絵
△前=1点

●振り返る速さ身にしむ年の暮れ=メゴチ
△男=1点
(男:年を重ねた証拠。)

●ほっこりと湯気のむこうに冬至かな=喋九厘
△澄=1点

●舞い枯れ葉百円札に見えし頃=久郎兎
△資=1点


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