*A部門入選作発表*

当季雑詠*全46投句(入選34句)

【特選】

一席
●めそめそと冬の満月ついて来る=五六二三斎


◎喋、白○水、メ、雪、砂、二=16点
(白:効果的なメトニミー〈換喩〉の技法が、ある情景をうまくつかまえている。そこには可能な想像の広がる幅がある。ちなみにメトニミーは科学の方法であり、メタフォール(隠喩)は美術の方法だそうだ。 水:冬の満月と「めそめそ」とは相容れないような気がするけど、そう表現したのは何故?分からないけど面白い表現だと思いました。 雪:めそめそしているのは紛れもなく自分、ですよね。満月が余計に心もとなさを引き出している感じです。 葱:「めそめそ」がうまい。 心寒い夜の帰り道の情景がよく表されていると思います。)


二席
●溶接の火の粉は堅し空つ風=雪絵


◎入、ス○水、君△百、白、香、二、夏=15点
(ス:先だって溶接を間近で見たことがあって、青い火花が飛んでました。空っ風と合いますね。 水:乾燥しているが故に輪郭のはっきりとした火の粉を「堅い」と表現したことが面白い。 百:火の粉が「堅く」て,寒さを感じる。 白:堅い火の粉と空つ風が引き締まった冬の光景を語っている。それは単に写生にとどまらず、緊迫した人間の生活も滲ませている。 香:熱い火の粉と外の寒い風が対比され、「堅し」で、溶接の力強さを感じます。 葱:「堅し」という表現に冬の風の冷たさがよく表れています。)


三席
●壁も屋根も解かれて冬のがらんどう=砂太


◎君○葱、二、夏△五、水、白=12点
(葱:解体された家に対する思い。「がらんどう」は心に空いた穴のよう。 夏:家が解かれる寒々しい風景に一層季節感を感じる。 五:壊される家を詠んだ句みたいですね。「がらんどう」は繰り返してるだけかもしれませんが、「冬のがらんどう」はいい表現。 水:生家の解体でしょうか。心の拠りどころのなさが冬の寒さを増幅してます。 白:発句で躓いているのが気になるが、「解かれて冬のがらんどう」という表現が、失われゆく記憶の形に寄せる思いを強く伝えている。)


三席
●ぽってりと太りし冬の夕日落つ=香久夜


◎水○喋、砂、小△久、メ、葱、=12点
(水:急速に寒くなる時刻、夕日を「ぽってりと」と表現したことで、何か良いことのあった一日なのか、或いは暖かい家庭に帰る途中なのか、ほっこりとした作者の心情まで伝わってきます。 葱:「ぽってり」が落ち着きます。 メ:確かに大きくみえます。)


【入選】

●寒鰤の背から膨れる市の声=白髪鴨
◎五○葱、ス△百、砂、夏=10点
(五:膨れる声という言い方が新鮮でした。普通、考えられるのは、「響ける」とかになるのでしょうが・・。それでは、ありきたりです。 葱:「膨れる」は「膨るる」? ス:鰤の脂の乗った背中が目に浮かぶようです。西日本のお正月に欠かせない魚ですね。 百:太った寒鰤なんでしょう。)

●六花音無きを聞き目覚めけり=水音
◎メ、資○ス△二=9点
(メ:うまいなあ。 資:雪がしんしん降る夜は本当に静か。それでも目が覚める老いを感じた。 ス:無音に目覚めると言うのがユニークで採りました。 白:伝わってくるものはあるが、なぜか句にぎこちなさを感じる。残念ながら選外。)

●初氷秘密をひとつ共有す=葱男
◎夏○白、小△香=8点
(夏:「秘密をひとつ」というフレーズは初見でないのに、抗い難く惹かれてしまう!リズムの良さだろうか? 白:何か得体の知れない不安を掻き立てる。共犯幻想? 60年代の不安…。それとも他愛のないいたずらか? 香:ロマンチックですね。 小:何か意味深ですね。)

●足踏みのシンガーミシン冬の虹=スライトリ・マッド
○夏、資△水、白、香=7点
(夏:足踏みミシン=母の手づくり、寒い季節の家うちの様子が良く見えてくる句。 資:あざやかな冬の虹に若かりし頃の母の姿を重ねたのでしょうか。 水:古くて、調子が悪いミシンだけど、季語の働きにより愛着を持っていることが分かります。 白:これもなんと言うこともない日常句だが、そこにあるミシンの存在が際立つ。物そのものが語ってくれる情動。)

●あとに生れさきに逝くひと冬菫=葱男
○久、香△水、入、ス=7点
(香:つらいことですね。 水:悲しみで固く悴んでいる様と、大切な記憶とが「冬菫」に凝縮されているようです。 ス:去年年下の従兄弟が白血病で・・、スミレ→漱石を。松山生まれの従兄弟に繋がりました。)

●Xの大文字かじるクリスマス=葱男
◎雪○五、百=7点
(雪:目のつけどころが楽しいです。「大文字のXかじる」とすれば、また違った意味になるかな。 五:X'masの由来を知る意味で勉強にはなりました。「かじる」の意味がよく分かりません。ケーキのマークをかじってるのかな?それなら愉快です〈笑〉。 百:そう見えるよね.着眼点に一票。)

●掻巻の襟のビロード母の色=スライトリ・マッド
◎香○入△百、小=7点
(香:ビロード、もうないですね。お母さんの暖かさ、懐かしさが溢れますね。濃いエンジ色を思い浮かべます。うちには、その色のおんぶ紐があります。 百:昭和の色? 葱:私の母の色は銀糸の縫いの入ったチャイナドレスの色です。〈笑〉 小:何かにつけて親を思い出す年になりましたね。)

●シャンパンの泡ホツホツと年の暮=君不去
◎前○雪△砂、資=7点
(雪:こんな風に泡が出ては消えて行き、何も出なくなった時に静かに新年を迎える、そんなことをイメージしました。)

●初雪の積もりて幼かりし日へ=五六二三斎
◎小○百△葱、雪=7点
(小:小学校の低学年の記憶からしかないのですが皆さんもそうでしょうか? 百:いくつになっても雪は非日常。 葱:初雪を見るときの浮き立つ気分は幼きころと全く同じですね。 雪:小学生だった頃、福岡でもよく雪が降っていて、1、2時眼目は運動場で雪遊びの時間になったこともありました。)

●花弁落ちさざんかの蕊花となる=君不去
◎葱、百=6点
(葱:蕊だけを「花」と見ることの眼の透明さ。椿とさざんかの決定的な違いもそこにあります。 百:見たまますぎても,詠んだ事に価値がある。)

●寒夕焼太宰生家の丸ポスト=資料官
◎砂△久、雪、夏=6点
(白:光景はまざまざと浮かぶのだが、そこにどのような感情が佇んでいるのか見えてこないので、残念ながら選外。)

●ミクロンの蒼突き破る冬の天=水音
○五、君△メ、喋=6点
(五:冬の晴れた青空の喩え?しかし、裏にははやぶさの快挙を讃えている句なのかもしれません。 メ:よくわかりませんがなんか壮大感がある。)

●アコーディオン漬け菜の樽へ聴かせをり=夏海
○白、香△五=5点
(白:なんと言うこともない句のようだが、いろいろな場面を想像できる。アコーディオンと漬け菜の樽のミスマッチングのおもしろさか。 香:きっと漬物もタンゴのような、サクサクした味に? 五:漬け物に音楽?楽しい感じですが、そんなおまじないとかあるのかな?)

●狐火は弾けてとける夜の思惟=白髪鴨
△喋、前、二、ス、君=5点
(ス:物の怪、アヤカシが感じられる。思惟がやや観念的かな?)

●白菜割りあな美しと言へり妻=砂太
◎久△葱、君=5点
(葱:うーーん、夫婦愛、美しい!)

●実南天きおくのそこに溢れ出づ =入鈴
○メ、資△喋=5点
(資:庭木か生花でしょうか。逝きし人の記憶がよみがえったのでしょうか。)

●木守りの林檎寒かろ五能線=資料官
○喋△久、二=4点
(葱:童話風のポエジーを感じます。)

●仰ぎ見る空の青さよ冬桜=資料官
△入、砂、小=3点

●追ひかけて先回りする落葉かな=雪絵
○久△前=3点

●蔵窓の冬青空へ吸われたし=夏海
◎二=3点

●些事多く流され我も浮寝鳥=君不去
○入△五=3点
(五:冬の疎外感が伝わってきます。「些事多く」がどうだろうか?普通、「我もまた些事に流され」かもしれません。)

●ベランダの病葉掃きて陽を集む=久郎兎
○メ△入=3点
(メ:「陽を集む」がいい。)

●年惜しむ三人チェスの六角盤=夏海
△雪、君=2点

●人情を汲みて涙の初寄席(よせき)=砂太
○前=2点

●鵺啼きて薬売来る雪催い=スライトリ・マッド
○前=2点

●青空をレースに透かし冬紅葉=香久夜
△前=1点

●サックスの奏でるタンゴ冬の月=雪絵
△資=1点

●裸木や想いを秘めつ冬の空=メゴチ
△小=1点

●冬桜アウトフォーカスの夢の夢=喋九厘
△資=1点
(資:冬桜の淡い白に色々なことが思い出された一こまでした。)

●ぽきぽきと折れぬものなり軒氷柱 =入鈴
△ス=1点
(ス:ツララが出来る地方にお住まいなのでしょう。発見がありますね。) 


【無選】

●神の前クリスマスローズは伏目なり
(葱:「懺悔」の気分が作者にあるからなのか?神の前では誰もが罪人です。)

●冬の水流せるものはみな流す
(葱:「断捨離」ですな! 面白い〜!)

●夢去るや午前三時の窓の雪
(葱:「夢去るや」という措辞には惹かれました。)


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