*A部門入選作発表*

当季雑詠*全54投句(入選39句)


【特選】

一席
●思ひ出をこはさぬやうに桃を剥く=ラスカル


◎ま、雪、水、香、阿○砂△葱、五、紅、ス=21点
(ま:大切な想いが深く感じられとても惹かれました。 雪:私など桃を剥く時は、実をつぶさぬよう、落とさぬよう必死になってますが・・。きっといい思い出なんでしょうね。 水:それはとても大切な思い出だと分かります。 葱:大事に大事にそっと抱えている「思い出」。 五:どんな思い出かストーリーがありそう。辛い思い出の失恋か?)


ニ席
●腰掛けし石の熱さや原爆忌=砂太


○十、ラ、ま、雪、久、紅△水、メ=14点
(十:坐った時の石の熱さには象徴としての原爆忌がピタリ。 ラ:「石の熱さ」に、語らせているところが秀逸です。 ま:熱さをいつまでも忘れてはいけませんね。 雪:腰掛けた石の熱さに、ヒロシマ、ナガサキを思い出す。忘れてはいけない事のひとつです。 久:石は原爆に抗せる唯一のものの意味なのでしょう。テレビドラマで松たか子と国分太一が演じていましたね。 水:被曝は決して過去のことではないんですよね。)


三席
●枕辺の櫛と手かがみ星流る=紅椿


◎前○二、水、資△五、メ、秋=12点
(二:櫛と手かがみが置かれてあることに、静謐さを感じました。「星流る」の選択も適切かと。 水:竹久夢二の絵のよう。大正の匂いがする。 五:古風な仕上がりです。源氏物語絵巻みたいな句です。光源氏になって覗いてみたい。)


【入選】

●鴇色の塩の結晶秋立ちぬ=まさこ
◎五○久、水、紅△砂、雪=11点
(五:塩の結晶は無色透明ですが、海水から塩を取ると、鴾色になるのか?それとも、秋とはいえ暑い日射しにそう見えたのか?或いは、汗のことか?何れにせよ、塩という物質に焦点を当て、季節の移ろいをうまく詠んでいます。 久:夏に海水を汲んできて家で放置していたら角砂糖の形の塩の結晶ができました。 水:初秋の季節感が淡紅色の結晶によく現れていると思います。 雪:鴇色って、ほんとにこれでしか表現できない色ですよね。その色に秋を感じて。)

●秋螢ことだま残る受信箱=葱男
◎紅、秋○メ△喋=9点
(紅:季語がなんとも切ないですね。私の受信箱にも残っています。)

●今日在りし人の明日や送り南風=雪絵
◎喋、資○前=8点
(資:おくりまぜ,盆の無常観が伝わってくる。)

●長き夜を了へたる母の糸切歯=十志夫
◎ス○葱△ま、香、メ=8点 (葱:夜なべして裁縫をする母、昔の時代の話しですねえ〜。 ま:懐かしい、やさしい光景ですね。)

●おもかげの海よりもどる真菰舟=二六斎
○前、喋、雪△紅=7点
(雪:真菰舟、きれいな言葉ですね。毎年、どんな顔して戻って来てくれるのでしょうか。 葱:「真菰舟」とはお盆に精霊を迎える祭壇〈盆棚〉に敷くもので、その上に米、茄子や胡瓜などを刻んで蓮の葉の上に載せて位牌と一緒に供えます。宗匠に聞くとそれをそのまま舟にして海に流すそうです。)

●散骨や水府に水を打つやうに=二六斎
◎葱○香△五、雪=7点
(葱:「水府」とは海底にあって水神の住むという都のこと。水に水を打つという発想が素晴らしい! 五:白髪鴨さん追悼句でしょうか?白髪鴨さんのご実家の側に水城という大宰府を守る堤があります。水府は水城と大宰府から来る造語と感じましたが、水府とは水戸のことですか? 雪:何ときれいな情景でしょう!うるうるしそう。)

●ふくべ棚くぐりヤクルトおばさん来=ラスカル
◎十○二△砂、ス=7点
(十:瓢箪から駒ならぬヤクルトおばさんが出てくる意外性。 二:ヤクルトおばさんがへちま水を飲んでいたらちょっとおもしろい。ふくべの位置変換に成功した例として入選。 葱:楽しい風景ですね、まさかの写生?)

●I have a dream 一葉ひるがへる=五六二三斎
◎二、ラ△阿=7点
(二:TVで集会のニュースを見ました。英語短詩として10通り位の表現を考えてみたらどうでしょう。 ラ:英語と日本語の配合が、無理なく決まっています。)

●赤トンボ畦の熱塊乱切りす=久郎兎
◎メ△葱、二、前=6点
(葱:「乱切り」という措辞がトンボのスピード感をうまく表現していますね。 二:鬼房流の情念の目が感じられました。)

●自転車に乗つて教会島は秋=雪絵
○ま、ス△ラ、久=6点
(ま:通り過ぎる風がもう秋を感じさせてくれるのですね。行ってみたい所のひとつです。 ラ:「二十四の瞳」を思い出しました。 久:多分能古島でしょう。島にカトリック教会があるらしいけど信者さんは島外からかな?、ああ、コスモスですね。 葱:なぜか「青い山脈」の映像が浮かびました。)

●秋日濃し上唇でかむ睡魔=十志夫
◎久○五=5点
(久:自分で実際にやってみて「上唇を」かもしれないと思ったけど、やっぱり「で」でしょうね。東電の説明する人が話の最後にかむのは下唇でした。 五:最近、昼に睡魔が襲うことしばしば。仕事場の窓にはまだ強い秋の日射しが。年を取りました。定年はあって然るべしです。 二:「で」の使い方が選落ちの理由です。)

●永遠つてどんな風だい苧殻焚く=葱男
○喋、秋△水=5点
(水:この問いかけに、その人に答えて欲しい。)

●シャガールの中に我ゐて大花野=十志夫
○砂△ま、水、資=5点
(ま:淡い色合いの気持ち良い感覚に浸っています。 資:さびしい私にも幸福感。)

●すり減りし被爆手帳や長崎忌=資料官
◎砂△香=4点

●福岡は北に海ある盂蘭盆会=二六斎
○五、香=4点
(五:私も聞いた白髪鴨さんの最後の言葉。「福岡は北に海があるんだなあ。」を句にしています。これを聞いたのは、砂太先生、雪絵さんと私の3人だけです。盆参りには私は遠慮してしまいました。すると、2人のうち盆参りに行かれた方が作者ですかね?)

●いなびかりあにといもうとうらおもて=スライトリ・マッド
△砂、喋、阿=3点
(葱:男と女は裏表、女が強し! 平仮名が並ぶ楽しさ。)

●「薄香(うすか)」てふロケ地の港夕化粧=雪絵
△葱、二、資=3点
(葱:「あなたへ」という映画〈高倉健、田中裕子共演〉のロケ地になった平戸市の「薄香地区」ですね、私も見ました。田中裕子の「自分の骨を平戸の海に散骨してほしい」という遺言で、健さんが平戸まで旅するロードムービーでした。脚本のディテールにはよく理解できない部分もあったけどさすがに雰囲気は良かった。 二:無季として選を入れました。歳時記に載っている季語を使うことに大きな意味があると考えますが、〈私は無季認容派です〉。 資:平戸の薄香,大滝秀治や高倉健などの老優が光っていた。おしろい花が良い。)

●海原へ沖まで奔れ稲穂波=葱男
○ラ△前=3点
(ラ:作者の「心の元気の良さ」が伝わってきます。)

●敗戦日すこし似ている排卵日=二六斎
○葱△久=3点
(葱:一見して駄洒落のよう感じてうっちゃってしまいそうですが、意味を考えると「敗戦日」と「排卵日」はよく似た構造を抱えています。つまり、その「一日」は「何か〈新しいものを生み出す〉きっかけになりうる日」だということ。我々はいくども訪れた敗戦記念日に何か〈新しい思い〉を孕むことができたのか? 久:音だけの遊びかそれとも深い意味があるのかわかりませんが、なんだかすっきりって感じかな?)

●南(みんなみ)へ離陸機遠し敗戦日=砂太
○十△雪=3点
(十:8月15日、南の空に飛び去る旅客機の尾灯に知覧のカミカゼが重なる。 雪:零戦は南へ南へと飛んで行ったんですね〜。私の父の戦地はビルマでした。)

●指先を流るる写真夏が逝く=紅椿
○資△二=3点
(資:プロカメラマンの暇つぶしの写メールでは。少しさびしい。 二:類句がたくさんありそうです。そのままの句があるかも知れませんね。)

●秋渇き起死回生の右中間=水音
○メ=2点
(葱:ん?野球?)

●乾きたる葉擦れの音や八月逝く=まさこ
△十、ラ=2点
(十:涼も新た。乾いた葉音にそこはかとなく感じる秋。 ラ:「乾きたる」に、確かな実感があります。)

●夏陰の屋内(やない)に陣取る自在鉤=秋波
○資=2点
(資:涼しげな風景の中に自在鉤の存在感がある。)

●ひっそりと片陰道なる城下町=秋波
○阿=2点

●プルタブに指をかければ秋の風=水音
△十、ま=2点
(十:ぶしゅ。中から出てくる炭酸の風はまさに秋の趣き。 ま:作者の繊細な感覚に惹かれました。)

●「指笛の日」来たる琉球暦かな=二六斎
○阿=2点
(葱:「琉球暦」とは沖縄の方言でさまざまなことわざや警句が書かれた「日めくりカレンダー」のことだそうです。)

●辛口の発泡ワイン秋の虹=まさこ
△ス=1点

●川の字に従兄弟三人秋出水=五六二三斎
△十=1点
(十:夏休みの終りを襲う秋出水。遊びにきているのか“従兄弟三人”がリアル。)

●くるくるとロボットルンバ秋涼し=スライトリ・マッド
△ラ=1点
(ラ:ロボットの「ルンバ」を詠んだ句は所見です。)

●酷暑かな水仕事なら辛うじて=香久夜
△阿=1点

●新宿の女の訃報秋暑し=紅椿
△久=1点
(久:美人で嗄れ声の歌手でしたね。年齢が近いので複雑な思いです。ちなみに嗄れ声でエポックメーキングな歌手は森進一です。テレビのタワーバラエティで初めて見た時は下手だなと思いました。 葱:「藤圭子」の自殺、ウ〜ン重たい。)

●新涼や白きベンチに鳩の来て=ラスカル
△紅=1点

●寅さんのマドンナ若し鳳仙花=資料官
△ス=1点

●干上がりしダムに秋雨倍返し=五六二三斎
△前=1点

●蜩やビルの谷間で陣を張る=メゴチ
△喋=1点
(二:「で」の使い方が選落ちの理由です。蝉の繁殖の陣を張るという言い方が成立するのか疑問?)


【無選】

●甘酒やそろりそろりと夕涼み
(葱:時間の流れが見える。)

●言い訳に秋思烏の高笑い
(葱:諧謔のお手本句。)

●扇風機羽根越しに坐す犬可愛ひ
(葱:心和む一句。)

●地下鉄のホームでジャンベ叩く秋
(葱:「ジャンベ」ってアフリカの太鼓だそうで、知りませんでした。 二:「で」の使い方が選落ちの理由です。)


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