*A部門入選作発表*

当季雑詠*全42投句(入選33句)

【特選】

一席
●脈診の三十秒をきりぎりす=夏海


◎君○葱、喋、水、砂、百、雪、メ、資△五=20点
(君:とりあわせが面白くて。「三十秒」も効いてます。 葱:「きりぎりす」、いいですねえ〜! 「斡旋王」の称号がふさわしい。 水:30秒の空白をきりぎりすが埋めるんですね。 百:案外長い30秒。 雪:これも季語の使い方がいい。脈を打つ感覚と、キリギリスの音感が・・。 資:診断の緊張感の中にキリギリスの声が聞こえる組み合わせが絶妙。 五:きりぎりすとの取り合わせがユニーク。 白:さながら空白の時間を、きりぎりすとともにきれいにとらえているようです。そこには自分の健康の不安が見えています。上手な句だと感じましたが、残念ながら他との比較で選外でした。)


二席
●後の雛アリスは深き穴に落つ=葱男


◎夏、百、白、ス○五、雪、二=18点
(夏:9月9日に飾る「後の雛」という季語が不思議で面白く、アリスの不思議さと響き合っていて、ワクワクしました。 百:取り合わせの妙。 白:おそらく作者を含めて「後の雛」を見たことのある人はいないでしょうね。そういう意味でこの季語は写生できないものです。感覚としてとらえるしかないものです。手元に1972年の現代詩手帳別冊第2号「ルイス・キャロル」があります。その中の一節に「…(前略)鳩の羽の血/形があるようでなく/ただ見つけ出さなければならない浄福の犯罪/大理石の内面を截れ/アイリス・紅い縞・秋・アリス/リッデル」とありました。アリスの季語も秋なんですね。 五:不思議の国のアリスを題材に風刺の効いた句になっています。日本人への警鐘のように感じました。 雪:季語がいい!)


三席
●天空はつづら田にあり曼珠沙華=雪絵


◎前、香○夏、メ△葱、喋、資、白=14点
(夏:上五・中七が良い。段畑と曼珠沙華は繰り返し詠まれるテーマでしょうが、でも鮮やかで美しい。 葱:ありそうな句ではありますが、その色彩感覚に打たれます。毎日見ていても夕日が格別なのと同じかも。 資:空と彼岸花の絶妙の組み合わせが目に浮かびます。 白:俳句という限られた詩形は、△な視点ではなく▽な視点の要求される詩形なのだと思います。日常の中の非日常、どろどろと潜む情念が一点に集約されるとき、細胞分裂のような心の脱領土化、それらが俳句の芯のような気がします。秋の天空をグーグルアースで縮約して曼珠沙華に焦点を結ばせる「語り」がいいですね。)


【入選】

●ひつじ田のちくちく青き日の溜まり=秋波
◎砂、雪、二△葱、喋=11点
(雪:「ちくちく青き」で決まり!もうひつじ田が見られるんですね。 葱:これは漢字で表記しないと雰囲気が足りません、MacOSX.の数すくない欠点のひとつです。)

●ぬくめ酒鼻に黒子のある猫と=葱男
◎喋○秋△水、砂、五、資、君=10点
(秋:そういう季節になりました。 五:黒子のある猫の傍らで月見酒を飲む。秋ですね。)

●三日月や舫ひのきしみ人を恋ふ=白髪鴨
◎メ○五、前△夏、秋、二=10点
(五:「舫ひのきしみ」とは良い表現。人を恋ふの展開も面白い。佳句です。 葱:☆「人を恋ふ」がねえ、兼題からの連想でしょうが、上五中七に対してもう少しの精度を期待してしまいます。)

●新蕎麦を啜りて遠き山の峰=君不去
◎五○資、前△喋、メ=9点
(五:信州蕎麦を啜る風景か?秋らしい風景です。 資:田舎の家の座敷に座って蕎麦を啜る至福の時がうかがわれる。お酒があれば最高。)

●月光の落つる壷あり水暗し=水音
○ス△葱、雪、メ、君、前、二、香=9点
(葱:なんだか修辞にひっかかってしまったような気もしますが、下五の「当たり前さ」がなかなかすごい! 白:上、中の句は見事に幽玄をクレッシェンドしているのですが、下の句はもう少し何とかならなかったでしょうか。このままではひどく憂鬱な心情としかとらえられません。月光の落ちる先を見つめている作者の心情はそんなに暗いものではなかったと思えます。)

●仲直り出来ない理由青瓢=五六二三斎
◎資○百、香△水、ス=9点
(資:青ふくべの悲しげな顔が浮かぶ。 百:青二才なのかな?)

●血に依らず父娘となりぬ実紫=葱男
○白、二△砂、夏、ス、香=8点
(白:未だ子の配偶者を得ぬ身には実感はわかないのですが、ときおり想像はします。それってひどく恐ろしいことのような気がします。その不安定な識感。季語〈もっとも実紫は晩秋の季語とのことですが〉とのマッチングが妙を得ているようです。

●夕焼に触るるカヌーが沖をゆく=砂太
○葱、君△夏、メ=6点
(葱:ちょっと「愛されずして沖遠く泳ぐなり(藤田湘子)」が浮かびました。泳ぐのとカヌーとはどちらが哀しいでしょうか?)

●小鳥来るグラバー邸の格子窓=雪絵
◎水○秋=5点
(水:爽やかな秋の句のお手本のよう。 秋:竹の春が効いています。 葱:☆うまくまとまっていますね。田中裕明さんの「小鳥来る静かな場所がここにある」の句からとって、森賀まりさんや満田春日さん、対中いずみさん、山口昭男さん、中村夕衣さん等数人のコアな「田中シンパ」で「静かな場所」という同人誌が「ふらんす堂」で作られています、素敵な同人誌です。)

●ありがたふ云ひ合ふ家族草の花=スライトリ・マッド
○砂、香=4点

●ウェディングキッスさわやか校門前=スライトリ・マッド
◎葱△水=4点
(葱:キスの中でも「初めてのキス」と「ウェディングキッス」が飛び抜けて出色なものと思われますが、この句のいいところは場所の設定ですね、「校門前」とは素敵すぎる!)

●星座盤と磁石と薄荷ドロップと=夏海
◎秋△二=4点
(秋:深夜の星観察。薄荷は眠気を払うため? 白:コピーライティングですね。)

●出囃子を待つ一時の夜長かな=君不去
○夏△百、前=4点
(夏:一瞬を詠んで巧みな句。 百:これもちょっとした時間を長く感じる,脈診に通じる 。)

●星飛びて背中に視線感じたる=水音
△澄、雪、資、二=4点
(澄:流れ星ですか? 資:特に今年は流星の視線を感じた人は多かろう。 葱:☆季語の斡旋次第では三光だったかも。)

●山を焼く椎葉のおばば蕎麦の花=スライトリ・マッド
○秋△白、君=4点
(秋:蕎麦の花が山間の風景をより彷彿とさせて、効果的。 白:どんなおばばなのかいろいろと想像させる句ですね。そしてそのおばばと作者の関係も彷彿とさせます。上の「山を焼く」から下の「蕎麦の花」を効果的につないで豊かな情感を感じます。三角だったのは今ひとつの飛躍、強度を欠いているようにいるように感じられたからです。)

●青北風や汝れは得がたき老ひを得る=白髪鴨
△百、資、香=3点
(百:「得難き老い」という考え方があったんですね。 資:自分のことなのか。こういう心境で還暦を迎えたいな。)

●航跡の葉脈とみゆ秋の海=水音
△雪、秋、二=3点
(白:視点は面白いのですが、いまひとつ俳句らしくない表現を感じます。「葉脈のごと澪〈みお〉映しけり秋の海」などはどうでしょう。でもこれも単なるスケッチですね。そこにこもる心情は作者でないと分からないので偉そうなことは言えません。心が「見える化」すること、それが宗匠が言っていることのような気がします。)

●月こよひ一人夜勤の看護師へ=夏海
○水△砂=3点
(水:激務、孤独、、、冴えざえとした月ですね。)

●二日の月塩基のカプリース奏でけり=白髪鴨
○ス△二=3点
(葱:二日月と塩基配列〈遺伝子〉とカプリース〈練習曲〉の華麗なるトライアングルにはどんな世界が広がっているのか、覗いてみたいものです。)

●名月や夢も終わりと虫笑ふ=喋九厘
◎澄=3点
(澄:おもしろい!)

●喚きつつ落ちたる蝉や妻に老=砂太
○白△前=3点
(白:世間でいう、ともに老いる喜び…などとは無縁な冷静な視点を持っているようです。ある意味、酷い…。その奥さんにあなたは今でも「愛してるよ」と言って抱くことができますか? でもそんな視点は好きです。 葱:☆思いきった句です、男らしい!)

●をみなへし挿して合掌父の墓=資料官
○澄△五=3点
(澄:私もお墓まいりいかなくっちゃ。 五:父と来れば資料官さんか?親孝行の長男ですね。)

●イベントの騒ぎに目をむく秋刀魚かな=メゴチ
△白、ス=2点
(白:あっ、という感覚。かつて魚の目を哀しいと感じたことがありますが、目をむいた魚という感覚をもったことはありませんでした〈魚には瞼がないのでいつも目をむいている〉。それは驚き、怒り、あきれ顔、いずれとも取れるのでしょう。おもしろいですね。)

●きっと来る雁来紅に願かける=メゴチ
○君=2点

●旅立つきみへ馬の鼻向け金木犀=前鰤
○喋=2点

●父逝きて十年月の知恩院=五六二三斎
○澄=2点
(澄:私も先日知恩院行ってきました。 葱:☆浄土宗の総本山の重みが一句を支えています。)

●巨峰喰ふ田主丸にも葡萄月=喋九厘
△澄=1点
(澄:巨峰おいしいですね!)

●秋耕や農夫集える黒き土=香久夜
△澄=1点
(澄:土の香りがします。)

●夏雲と同居も巻雲同化せず=秋波
△百=1点
(百:ちょっと理屈っぽい感じもしますが・・。)

●墓地前のいつもの花屋濃りんどう=資料官
△秋=1点


A部門入選作〈back number〉

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