*A部門入選作発表*

当季雑詠*全62投句(入選47句)


【特選】

一席
●空き缶の突つ立つてゐる油照=紅椿


○久、香、秋、資△葱、ラ、喋、夏、ま、ス=14点
(久:じりじり、じっと我慢ってのが伝わってきます。 秋:蜃気楼が見えてきそう。じりじりした蒸暑さを実感。 資: 炎天下の缶蹴りが中断した風景でしょうか。暑さがじりじりと感じてきます。 葱:「突っ立っている」のは風が死んでいるような状況なのでしょう、そこに「油照」ですから極暑は言わずもがな。 ラ:「油照」という季語が、よく利いています。)


ニ席
●遺品よりムームーの母現るる=十志夫


◎五、夏○入、紅△葱、久、秋=13点
(五:ムームーは夏の季語としていいでしょう。懐かしい句になりついつい特選に。ムームー姿のお母さんの写真が出てきましたか? 夏:ムームーがユーモラス。懐かしく一入寂しくもある。 葱:楽しくて明るくて優しくて面白いお母さんだったことでしょう。 久:遺品整理、経験しました。だから自分の時は最小限になるよう断捨離。)


二席
●長針のサルビア過ぎてゆくところ=紅椿


◎水○二、五、夏、ま△十、香=13点
(水:大きな花時計。サルビア過ぐがいい。 二:地方都市に旅に出ると駅前によく「花時計」がある。サルビアはその形も色も花時計に向いている。長針と花との1時間毎の出会いを見つめる作者。偶然のシャッターチャンスとも。もう少し詩的に「道幅が少しカンナに負けている」的な。 五:子供の頃に味わった懐かしさが滲み出てくる不思議な句です。 夏:花時計か?サルビアの赤が鮮やか。時間の経過も見える。 十:刻一刻と動く花時計の景をうまくとらえている。 葱:美しい情景ですね、「花時計」という言葉の省略が効いています。)


【入選】

●一斉にボートの櫂のうらがへる=十志夫
◎ラ、紅、ま△葱、資=11点
(ラ:「一斉に」」が巧い! 臨場感が伝わってきます。 葱:「うらがえる」時に水しぶきが反射して、思いきりスポーツの夏! 資:すばらしい着眼点。)

●転校の夏は小箱の内に秘む=夏海
◎入、久○五△水、秋=10点
(久:途中転校した経験はないけど、この心境わかります。中途半端な夏なのでしょうね。 五:転校は一度も経験したことがありません。小箱はご本人の当時の小さな心なのでしょう。私は転校生を苛めたガキ大将でした。今、その同級生の女の子には済まなかったといつも思っています。 水:どんな思い出があるのでしょう。)

●空蝉のひとつを我の箱舟と=二六斎
◎葱、ス○ラ△雪=9点
(葱:斎藤慎爾は亡父の暗喩として「空蝉」を、亡母のそれとして「螢」を詠み続けました。、この句が素晴らしいと思うのは「空蝉」を短絡的に「骸=屍」として無常や悲哀のシンボルとしているのではなく、逆に「箱舟=救済」として象徴化しているところです、つまり、「死」は最後の救いでもある、というイメージです。私は「永遠の生命」を与えられて永遠の孤独にうちひしがれる手塚治虫の「火の鳥」のワンシーンを思い起こしました。「死」はひとつの「救済」でもある、という観念は人間の晩年の生にとって、ひとつの重要なテーマです。 ラ:詩的感覚豊かな発想に、心惹かれます。)

●出口なき思惟や正座の夏座敷=砂太
○紅、秋、メ△入、資=8点

●伊之助の回し軍配(うちわ)や夏つばめ =十志夫
◎雪○水△二=6点
(水:見事な軍配さばき。 葱:ちょっと上手すぎるのが難と言えば難か?)

●おほぶりの雷にをののくイヤリング=水音
○喋△久、五、紅、秋=6点
(久:おほぶりはどちらにもかかっているのかな?近くに落ちた雷の色はオレンジでした。ああ怖。 五:イヤリングに雷落ちたらどうしよう?おそらく、おののいているのは、年寄りの他人で、本人たちは至って平気なのでしょう。心配症は年寄りになってきた証拠か?)

●家系図に惻々として紙魚の群=二六斎
◎資○葱△ス=6点
(資:しみが増えるように故人も増える。納得。 葱:「惻々として」とは「いたましさ、同情等を身に沁みて感じる様」のことを言います。家系図とはとりもなおさず自分の家族や親戚の系図、おそらく、作者の周りの近しい人達の人生にを振り返るとき、いろいろと困難で苦しい出来事が先に思い浮かぶのでしょう、愛する人達のことであるなら、なおさら身に沁みてつらいこともあるのでしょう。)

●風呂上りそっと置かれし氷菓かな=メゴチ
○久、阿、前=6点
(久:グッドタイミングかどうかで、やきもきさせますね。)

●ラムネ瓶からんと響く少女の忌=まさこ
○香、雪△夏、ス=6点
(葱:少女が死んじゃったのは何故だったんだろう?空のラムネ瓶のからんと哀しい音が暗示するものが、残念ながらもうひとつ見えませんでした。)

●海しづか夏のこゑより離れ来て=葱男
◎前○二=5点

●男逝きて朝高だかと月見草=砂太
◎香△入、五=5点
(五:この男は太宰治のようにも感じますし、更年期の男のようにも感じます。男のエロティシズム句とも解釈出来ますね。)

●甚平とと金と胡坐王手かな=メゴチ
◎阿○十=5点
(十:縁台将棋の三点セットを「王手」で締めた俳諧味。 葱:一昔前の裏町の風景か、「文化住宅」なんて言葉がありました。)

●花合歓の小鳥の団地そこより朝=入鈴
◎二○ス=5点

●青田道大志はいつも風孕む=二六斎
◎砂△前=4点

●朝市や曲がりきゆうりの大袋=まさこ
○前△十、メ=4点
(十:何もかも自然がいい。胡瓜もまた。葱:あったら迷わず買いますね、大きいの3本で100〜150円でしょう、実感句。)

●空蝉のごと黙す零戦熱帯夜=二六斎
○葱、砂=4点
(敗戦が8月だったせいか、または戦場の南方の島々を思い浮かべるからか、「零戦」には真夏の気配が漂います。もう動かなくなって展示されている戦闘機は空を飛べない「空蝉」の悲哀を感じさせます。 香::地位にしていたのですが、残念、季重なり?)

●炎帝やものみな声を潜めをり=雪絵
○ラ△水、久=4点
(ラ:確かに、そんな感じがします。 久:歳を重ねるにつれてこの心境、わかりますね。夏を乗り切る力が残るのかちょっと心配。)

●走帆の陸はなれては遠を見る=二六斎
○雪△喋、メ=4点

●ねぢばなの咲きのぼること男女(をめ)のこと=二六斎
○十△砂、喋=4点
(十:中七の「咲きのぼる」が秀逸。)

●仏壇の奥まで照らす走馬燈=ラスカル
○阿△砂、二=4点
(葱:こころの情景にも思えます。)

●みんみん蝉こどもでんわそうだん室=スライトリ・マッド
○夏△入、雪=4点
(夏:ラジオの番組にそんなコーナーがあったな、と懐かしい。)

●みんみんや議事堂前の赤信号=資料官
◎秋△水=4点
(秋:参院選はあまり熱くなれなかったけど。)

●緑蔭の子猫あそばす光粒=水音
○メ△香、夏=4点

●がしやがしやと丼洗ふ海の家=ラスカル
○砂△雪=3点

●歌人から家人へもどる水羊羹=葱男
○資△ラ=3点
(資:ゆるゆるの顔に変わるのでしょうか。水羊羹のなせる業。 ラ:オヤジギャグ句ですね〈笑〉)

●玄海の小島の沖や骨涼し=葱男
○ま△紅=3点

●蝉来しかラジオ電波のかく乱る=久郎兎
◎十=3点
(十:蝉からナンとなく電磁波を感じるという不条理だが納得の句。)

●蝉しぐれBフラットのチューニング=阿Q
◎メ=3点
(葱:なるほどちょっと微妙に半音下がる感じ。)

●茗荷汁こころ一隅まつさらに=夏海
◎喋=3点

●おみやげは天使の微笑み夏の月=香久夜
△阿、メ=2点

●夏風邪や算数解けぬ子の涙=スライトリ・マッド
△香、阿=2点

●夏の宴大阪城の見える窓=五六二三斎
○水=2点
(水:大坂夏の陣を思っているのでしょうか。)

●ぬれ煎餅青岬行き古電車=資料官
△前、ス=2点

●博多座に吸い込まれゆく夏の帯=雪絵
△前、ま=2点

●水自慢一頻りなる洗い鯉=夏海
△砂、二=2点
(二:鯉の泥くささが馳走ということもある。でもきれいな水で育つ洗い鯉の涼味が何より。大人の一句ですね。)

●悠々自適と書き添へ夏見舞=資料官
△五、ラ=2点
(五:破調ですが定型に収まります。題材はありふれているかもしれませんが、面白い破調なので残しました。 ラ:「悠々自適」と言えるのは、とても素晴らしいこと。)

●夢覚めて産声清し南風=香久夜
○入=2点

●リフトの足さわさわ触れる夏野かな=まさこ
○喋=2点
(葱:さわやかな高原の夏が感じられていいですね。)

●還暦の夏乍ら聴くみゆき節=久郎兎
△資=1点
(資:「時代」はまわるということですね。実感。 葱:これは多分、われわれ27年生まれお同級生の「中島みゆき」のことでしょうね、今、私が気に入ってiphoneでよく聴いているのは新曲の「孤独の肖像」です。)

●百日紅米寿を取り巻く孫ひ孫=香久夜
△十=1点
(十:数か月咲き続ける百日紅のエネルギーとピンクの花の可愛らしさ。)

●三輪車の轍に嵌るかたつむり=ラスカル
△ま=1点

●ボタ山に今は緑の風さやか=阿Q
△紅=1点

●南風吹く皿一面のアンパンマン=雪絵
△二=1点
(二:軽やかな行1句。海からもどっての夏座敷の一景と。)

●ゆらゆらと妖しく光る海月かな=メゴチ
△阿=1点


【無選】

●観世音寺の鐘ぞ広野のきりぎりす
(葱:俳句らしい、佳い句です。)

目の合ひて犬笑ふ朝ダリア真つ赤
(葱:笑っているのが感じられる動物が時々います、犬はその筆頭。ダリア真っ赤も気持ち良い。)


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