*A部門入選作発表*


当季雑詠=全77投句(入選句)

【特選】

一席
●少しづつみんなが歪み金魚玉=秀子


◎白、や、ラ、砂 ○水、紅、清 △弧、風、ぼ、茶、ま=23点
(白:金魚もそれを見ている人の顔も。 や:寄せ合う顔が見えてくる。ラ:現代世相を、鋭く風刺しているような感じがしました。 水:世界はみんな歪んじゃった 紅:金魚からの目線でしょうか。面白いです。ぼ:面白い当たり前。清:ネット社会の現状を“みんなが歪む”の措辞で良く表している。茶:「金魚」か「人」か、はたまた「みんな」か。「少しづつ」に金魚がゆったり泳ぐ情景も浮かびました。弧:金魚目線では世界はどう見えているのか。視点を逆転させた面白さがあります。 金魚はやはり、その歪んだ世界こそが「世界」である、と認識せざるを得ないの でしょうか。風:「歪み」と「金魚玉」で好きな句なのですが上五「少しづつ」が抽象的なのと中七の連用中止法に意味を見いだせず△選。ま: ユーモラスな中に、人間の持つ本質も感じさせられ、魅かれました。)


二席
●ハミングに続くハミング若葉道=ぼくる


◎ス、雪 ○紅、ラ、五 △葱=13点
(雪:ハミングと季語の言葉しかありませんが、色んな想像が膨らみます。紅:初夏らしいとても気持ちの良いお句です。ラ:軽快なハミングが聞こえてきます。五:リズム感のいい句だ。若葉風の季語とハミングがぴったし 葱:ハミングのリフレインが心地よい。)


三席
●白牡丹咲いてたちまち陰宿す=やんま


◎弧 ○久、子、ぼ、秀 △資=12点
(弧:幾重もの花びらがつくる複雑な陰。微妙な和声をもつフランス音楽のようです。 陰あってこその形象、という世界観が感じられました。久:花が大きければ陰ありですね。帚木の句を思い出しました。ぼ:紅ほのかに対抗(?) 。いいね!秀:咲いたとたんに陰ができるという把握がステキ。下5がやや読みづらいかな。)


【入選】

●昆布屋の醤油のにほひ薄暑かな=修一
○ス、ぶ、秀、や △子、雪=10点
(ぶ:昆布屋には醤油の匂いがする。街は薄暑の佇まい。今を楽しいんでいるお句 秀:醤油の匂いがこれから暑くなるこの季節にぴったり。や:老舗の看板が苔でも生えそうな雰囲気。雪:今にも香ばしい醤油が匂ってきそうな感じ!)

●滑るごと猫バスの来る青葉の夜=ラスカル
◎水、ぼ △葱、清、秀、喋=10点
(水:本当に来そうな夜です。ぼ:理屈抜きで好きですねえ、こういう句。葱:トトロ、思い出しました。清:トトロの風景だ。猫バスが青葉風に乗ってやって来た。秀:来たらいいですね。)

●うす墨の不一の文字や額の花=十志夫
◎ま、資 △水、葱、喋=9点
(ま:しっとりとした 情緒のあるお句です。不一が効いています。資:紫陽花の一筆箋。水:古い日本家屋の書斎の様子が目に浮かびます。葱:ま、額装ということですかね。)

●えぐられしままの山肌田水張る=紅椿
○砂、ま、ラ、白 △五=9点
(ま:被災されても、日々は動き始めているのですね。頑張って!! ラ:「えぐられしまま」が、とてもリアルです。白:大きな水害の跡まざまざと。五:阿蘇の山肌と棚田を思い起こす。頑張ろう熊本、大分!)

●背丈より大き子の声夏来たる=雪絵
◎紅、修 ○ス △資=9点
(紅:「背丈より大きい声」の発想が秀逸です。季語もぴったり!この時期ですね。修:卓越した比喩に脱帽 資:子供の声を背丈と比較した着眼点が良い)

●左手に酒右肩に神輿こぶ=十志夫
○水、ぼ △砂、ス、ま、ぶ、ラ=9点
(水:酒飲みはさぞかし楽しいでしょうね。ぼ:おお、よか男ばい!ま:何も説明はしていないのですが、お祭りの後の情景が鮮やかに目に浮かびます。ぶ:男の夏・祭りの夏 ラ:このパターンはよく見かけますが、この句は巧く出来ていると思います。)

●塩うまし夏の真昼のゆで玉子=子白
◎茶 ○ま △修、や=7点
(茶:玉子」ではなく「塩うまし」としたところが上手い! ま:とても美味しそう!塩うましが、特に良いですね。修:同感!しゃきっとなります や:うで玉子は自分で出来る唯一のレパートリ、好物は捨難たし。)

●じゃがいもの花や野球を知らぬ子ら=水音
◎風 ○葱 △修、ぼ=7点
(風: 切れ字「や」が絶妙で広大なじゃがいも畑の景とそこに住む子供達がはっきりと見えます。十七音の外の景が広い句は好みです。現代性も十分。 葱:自分専用の部屋でゲームばかりしてる現代っ子、三角ベースの草野球の面白さを知らんやろうなあー、可哀想。学生も麻雀のゲームとしてのスゴさを知らんやろうなあー、可哀想。修:環境も遊びも変わってしまった ぼ:じゃがいも頭だった我が少年時代をふと。)

●飛ぶコツは泳ぐ要領アゲハチョウ=ぶせふ
◎秀 ○修 △葱、メ=7点
(秀:ここまで言い切ってしまった面白さ。修:巧い!それでバタフライ泳法か 葱:あはは、バタフライっことかな。)

●天狗棲むうわさ英彦山滴れり=雪絵
○砂、や △葱、ぶ、秀=7点 (や:となれば逢いに行こうかな。葱:日本昔ばなし、みたいなホッコリとした感じ。 ぶ:夏の日に英彦山の清水がまぶしい。ここは古来天狗の棲む謂れ。冷涼 秀:生活の中に天狗が棲む余地があったほうが豊かですよね。)

●サングラスはづし千家の躙口=清一
○葱、十 △紅、五=6点
(葱:権威あるものとサングラスの力関係の対比が面白い。十:現代的なサングラスを外す動作が、古めかしい茶室との境界となっている。 紅:お茶会にサングラスで行かれたのですか?それはすごいです。五:ちょっとキザな俳句だ!グラスはお茶の時はしちゃいけないのだ!)

●丼の蓋を浮かせる穴子かな=十志夫
○風、雪 △紅、白=6点 (風:切れ字「かな」がしっかりと仕事してて美味しそうな句。雪:見事な大きさの穴子の天ぷら!?おいしそう〜! 紅:ボリュームたっぷりで、おいしそうです。白:大きな穴子だ!これが鰻なら-----。)

●母の日やミキサー食にプリン添え=メゴチ
○資、白 △紅、ラ=6点
(資:プリンを添えたところが優しい 白:介護の日々の中の優しさ。紅:介護食ですね。一品添えられたプリンを喜んでおられた事でしょう。ラ:流動食しか食べられないお母様なのですね。どうぞお大事に。)

??うなだれて蛍袋の日暮かな=ぼくる
○裕 △十、葱、砂=5点
(裕:うなだれているのは蛍袋なのか本人なのか? 十:しっかりとした自然詠なのだが、人事詠にも読める面白さ。葱:しみじみとしていていいですね。)

●エンジンのかからぬバイク走り梅雨=まさこ
◎メ △久、ス=5点
(久:走れない⇔走る、の対比が面白いです。)

●単線の小さきホーム夏薊=雪絵
○裕 △茶、清、や=5点
(裕:都会ではお目にかかれない光景です 茶:薊のかわいらしい花と単線のホームがしっくりきました。清:田舎の駅に夏薊がどかっと座っている雰囲気が良く出ている。や:そんな駅にふらりと降り立つ一人旅。)

●マザコンで生きてきましたアマリリス=五六二三斎
○久 △ま、ぶ、白=5点
(久:天才作曲家のラリラリラリラ調べはアマリリスですね。やっぱりマザコンですかね。口語俳句ではヒットではないでしょうか。ま:小声で言う人が多い中、公然と、きっぱりと潔いですね。アマリリスが、なんとも良いです。ぶ:言い切っていいおうせた。母なるもの乗り越えた人の句。アマリリスがいい 白:甘えん坊だった僕。悪いかい?)

●短夜やモノクロームの笠智衆=ラスカル
◎葱 △久、裕=5点
(葱:笠智衆、でいただきました、いかにもモノクロ。久:モノクロだと迫力がある俳優さん。カラーだとほんわかしてしまうから不思議です。裕:短夜はこういう映画が似合いますよね)

●やはらかとなる長茄子のねむりかな=弧七
◎久 ○十=5点
(久:皿に盛られた焼きナスでしょうか。最期を眠りにしたところがユニークです。十:漬け物であろう。糠床に眠る茄子。)

●夜の新樹オセロのやうな窓灯り=紅椿
◎十 △ラ、雪=5点
(十:マンションの夜の情景。景鮮明です。 季語も効いています。ラ:「オセロのやうな」という比喩がユニークです。雪:「オセロのやうな」でいただきました。)

●油虫走る図書館カフカ読む=清一
△十、葱、ぼ、秀=4点
(十:取り合わせの面白さだが、設定がやや出来すぎ(笑)葱:グレゴール・ザムザと油虫とは、愉快、愉快!ぼ:油虫がカフカの化身に思えて来た。 秀:「図書館」ではない場所のほうが、もっとおもしろかったかも。)

●淡竹とる堤の上に村の墓地=修一
○弧 △喋、風=4点
(弧:連綿と続いてゆく村の営みの風景、その集団の生死が静かに切り取られて見えます。風:淡竹が良いですね。しかしながら「淡竹」の筍なのか成長した竹なのかわかりません。「上に村の」が余計な印象もあります。)

●合コンに他人の空似かきつばた=久郎兎
○資 △裕、風=4点
(資:かきつばたが効いている 裕:なんとなく後ろめたい感じ? まったく同じ上十二音の句はいくらでもありそうな気はしますが嫌な既視感もなく「かきつばた」との取り合わせは絶妙だと思います。)

●鷺草や遠き空より妣のこゑ=清一
○喋、雪=4点
(雪:季語の「鷺草」がぴたりとはまった感じです。)

●生と死の境泰山木の花=ぶせふ
○清、五=4点
(清:二物衝突の句、泰山木の季語が効いて生と死の狭間で悠然と立っている。五:定型に収まる。泰山木の花は蓮と一緒で宗教的色彩あり!)

●初蛍今宵は光妊むかも=葱男
◎裕 △弧=4点
(裕:光を妊むに惹かれました 弧:光が妊むこととつながっている光景、神秘的です。この蛍たちは、うっかりと卵 でなく光を産み落としてしまいそうです。)

●穿つ雨立夏立夏と跳び跳ねる=メゴチ
○喋 △水=3点
(水:立夏立夏がリズミカル)

●ががんぼやペットボトルで洗ふ尻=風牙
◎清=3点
(清:一茶並みの諧謔が効いた面白い句だ。少々の擬人化も見えて来る。)

●公館のオルゴールの間緑の夜=秀子
○茶 △十=3点
(茶:どんな緑色なのでしょう?オルゴールの音色が夜に溶けている。ロマンティックだなぁ。十:季語が効いている。)

●借景は隣の庭の薔薇の門=白馬
◎子=3点

●断層の底の愛憎夏来る=五六二三斎
○修 △砂=3点
(修:断層をこう表した人を初めて見ました)

●夏の月老いの眼に目玉焼き=白馬
◎喋=3点

●何故に蛍光って恋心=子白
◎五=3点
(五:蛍と云えば恋だ。現代かな遣いもいい。)

●虹の根に硝子の鳥を置く天使=ラスカル
◎ぶ=3点
(ぶ:美しいとしか言いようのない繊細さ・ファンタジー)

●浜木綿や空のプールに波の音=まさこ
△裕、修、秀=3点
(裕:空のプールがいいです 修:ああ聞こえます 秀:聞こえるはずのない音が聞こえるような。)

●もう誰も居ぬから笑ひ五月闇=やんま
○弧 △清=3点
(弧:不思議な句です。笑いと闇が一体化して、異様な苦しさを感じます。清:孤独を楽しんでいる不敵な笑い、人間の闇の部分だろうか。)

●あぢさゐやむかし電車の駅の跡=資料官
△茶、白¬=2点
(茶:「むかし電車」と「あぢさゐ」の仮名遣いとのレトロさがいいなと思いました。白:廃線になってしまった淋しさ)

●琴に和す尺八の音も青葉の夜=ぼくる
○子=2点

●すゞしさや浮巣たゆたふ鳰の湖=風牙
○ぶ=2点
(ぶ:琵琶湖にカイツブリの巣が浮いている。風に揺れているのだろう。涼しさ極まる)

●スマートフォンふつと見つめて蟻這はす=資料官
○風=2点
(風:抽象的なのが好みではないので◎ではとれませんが韻文としてイメージは伝わります。私は「スマホ」の略語は問題ないと思っていますのでその浮いた字数で具体性があればなと思います。)

●その先は行き止まりなり蔦若葉=紅椿
△久、雪=2点
(久:壁の蔦が両側にあると、その感じ良くわかります。雪:蔦若葉が壁を連想させますね。)

●ねえあのさ話をしてよ夏帽子=風牙
○茶=2点
(茶:サラダ記念日風の会話句!帽子へ語りかけるという点も素敵です。)

●軒下の五月雨ワルツ親子馬=久郎兎
○メ=2点

●青空に薔薇くしやくしやの笑顔して=五六二三斎
△資¬=1点
(資:薔薇って良く眺めるとくしゃくしゃだ。)

●主なき荒れた畑地にダリア伸ぶ=秋波

△子¬=1点

●卯の花くだしポストの前の潦=資料官
△や¬=1点
(や:湿気が多いこの季節、濡れないようにして投函。)

●かたつぶり迹は確かに月の消ゆ=茶輪子
△メ¬=1点

●関門にうづ潮巻いて夏も来ぬ=喋九厘
△子¬=1点

●散華あり弔ふやうに青時雨=葱男
△五=1点
(五:悲しい別れ!青時雨がいい。)

●十坪の一隅紫陽花着物の地=茶輪子
△メ¬=1点

●新茶汲むことに他人の修羅場なら=水音
△ス=1点

●そんなものうそようそよと夏の蝶=弧七
△葱=1点
(葱:口語が成功してる上手い例ですね。池田澄子派でしょうか?)

●夏空や門に威光の鏡石=ぶせふ
△水¬=1点

●ほほ ほほ筒鳥森の奥深く=修一
△弧¬=1点
(弧:空白による休符的なリズムが面白いです。)

「ちょっと気になったこと」:風

A部門の「●かたつぶり迹は確かに月の消ゆ 」の下五「月の消ゆ」ですが恐らく規範文法にこだわって「月消ゆる」としなかったのかと思いますが、規範文法だと言い切り形は「月消ゆ」か格助詞「の」を使った場合は二段活用の動詞は「月の消ゆる」と連体形で受けるので「月の消ゆ」という表現はありません。「月消ゆる」の「消ゆる」は連体形では無く室町期の正規文法の終止、連体一元化した終止形の「消ゆる」なので平安中期の文法にこだわらなければ何ら問題ないと思います。


A部門入選作〈back number〉

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