*A部門入選作発表*
当季雑詠*全57投句(入選41句)
【特選】
一席
●ざつくりと切りし秋思の断面図=ラスカル
◎馬、水、雪、メ、紅○ス△香、二=19点
(水:どんな断面図なのか、人それぞれの断面図を見てみたい。 雪:秋思を切断!うまく言えませんが、すっきりと歯切れのいい句と思いまし
た。 紅:「秋思をざっくりと切る」とは、何とも斬新な発想です。)
ニ席
●鵺鳴きて九月哲学的なN=葱男
◎二○五、十△水、喋、メ、秋、入、ス、阿=14点
(二:辞書には十個の鳴くという漢字ががある。改めて調べてみた、泣は声をたててなく、哭は大声でなく 。啼くがよさそう。鵺は国字で、「空偏に鳥」という元の字があるという。よくぞという出来映えで感心しました。 五:Nは何のこと?No?しかし、回文俳句久しぶり。おめでとうございます。ごろにゃんさいの作品は一つしかない。 十:俳句としてきちんと成立したこれだけの回文句は中々作れない。 水:意味はちょっと分からないけど、こんなのができるってすごい。 秋:見事です。私は新聞紙くらいしか思いつかないのに。)
三席
●白を秘め青きを纏ふ月今宵=葱男
◎五、ラ○メ、ス△砂、資=12点
(五:満月の月だろう。白くまた青く。何とも言えない夜だ。 ラ:レトリックの巧さが際立っています。)
【入選】
●プラントのけものめきたる望の月=水音
◎葱○五、砂、二△雪、ス=11点
(葱:「プラント」には植物群と工場地帯の二つの解釈がありますが、こちらは後者、「ブラックレイン」の世界を想起しました、今の中国都市部ですね。 五:プラントの獣を鎮めるがごとき満月が昇る。うまい。 二:「たる」がどうしても古めかしい衣のような気がします。句材の拡張という一句ですから。「望の月湾岸プラント獣めく」ではどうだったでしょう。鈴木六林男の「猥談と帰る分解瓦斯放出塔(フレアスダック)の明り」のようにプラントの部分に注目することもおもしろい。)
●味噌を溶く間も台風の近づき来=ラスカル
◎入、香、ス△十、紅=11点
(十:日常性と大自然の組わせの妙。)
●十五夜のカマンベールのとろうりと=まさこ
◎阿○ラ△十、水、喋、資、二=10点
(ラ:美味しそうです! 十:カマンベールを詠んだ句に初めて出逢った。月見にワインですかいいですねぇ。「とろうり」が効いている。 二:下五がぬるい。せっかくの取り合わせが惜しい。配合自体のおもしろさと発見が句を支えているので、月の「盈虧(えいき)=月の満ち欠け」を詠むことだけでこの句は完成型になるはず。)
●迷はないやうに真白き曼珠沙華=五六二三斎
○馬、十、雪、入、二=10点
(十:群生する真つ赤な彼岸花の中に点在する白い花を「死界への水先案内人」として詩的に表現。 二:散文的であることを評価の中でどう考えるのかの問題。「逃散の夜のましろき曼珠沙華」の完成度との比較。)
●花婿の楚々ときたれり蕎麦の花=水音
○葱、喋、入△馬、十、ラ=9点
(葱:たとえば、第二の人生に「蕎麦打ち」を選ぶ男達特有の、職人的草食性や優しさが感じられる句です、作者の好きなタイプの男性はそんな感じなのかな? 十:「花嫁」でなく「花婿」としたところに現代性を感じる。 ラ:楚々とした「花嫁」ではなく、「花婿」にちょっとびっくり。)
●手に残る種の軽さを糸瓜垂る=二六斎
◎十○香△葱、久、水=8点
(十:「種の軽さを」の「を」が、哲学的なパラドックスのように微妙な効果を生んでいる。 葱:「種」は正岡子規の撒いた「俳句の種」だろうか?あまりにも「俳句的」なるがゆえの教育的加点、「を」の使い方に注目! 久:軽さや、かなとも思いましたが、意味不明のところがあります。)
●月の夜手巻き時計の螺子の音=まさこ
○秋、資△砂、久、メ=7点
(秋:今年の中秋の月はほんとに綺麗でした。静かにただ眺めていたい、そんな気分でした。 久:とても静かな夜なのでしょう。おさまりすぎもありますが。 葱:童話的で好きなんだけど、デジャ・ブあり)
●パラグライダーのゆりかご七つ阿蘇の秋=雪絵
○砂△ラ、ま、入、資、二=7点
(ラ:「七つ」で、阿蘇の空の大きさが見えてきます。 葱:秋の空はことさら気持ち良さそう!)
●月満ちて海底トラフ軋みけり=十志夫
○水 、雪、紅=6点
(水:満月や新月には地震が起こりそうと思うんだけど、実際は如何に。 雪:凄い不気味感。 紅:満月の夜はこんな事も起りそうです。)
●風さやか街中に聞く機の音=雪絵
◎ま○ラ=5点
(ま:今時珍しい音を聞いた時の気持ちが季語によく表れています。 ラ:旅行吟でしょうか。「風さやか」の季語がぴったり。)
●手のひらにグラス遊ばせ月の雨=紅椿
◎資○喋=5点
●浮遊する海月のごとく風の盆=秋波
○ま、秋△紅=5点
(紅:「風の盆」は一度は見たい行事ですが、作者独特の感性を感じました。)
●満月やつぎつぎ爆ぜる原子の子=十志夫
◎久○紅=5点
(久:変わらぬものとして月なのでしょう。福島の海も変わりましたし。 紅:目の前の原始からある形あるものと、目に見えない現代的なものとの対比が面白いです。)
●名月や気迫静かな石の音=白馬
◎秋○メ=5点
(秋:石庭の冷たいけど存在感のある石肌のイメージ。 葱:この句にはものすご惹かれましたが、もうひとつ意味が咀嚼できない、「気迫ー静かー石の音」反転する構図が魅力的なんだけど、最後になにが表現したいのかが理解しようとしてもできませんでした、「仏教の禁欲的な精神美」みたいなもの???)
●秋の風からだ貫くニュートリノ=白馬
○水、ま=4点
(水:秋は特に貫かれてる気がする。)
●十六夜や少年の夢捨てきれず=砂太
○秋△紅、阿=4点
(紅:作者は年配の男性だと思うのですが、夢はいつまでも追っていただきたいです。季語がいいですね。)
●鬼蜻蜒眼を真緑に今生れし=砂太
○馬△葱、入=4点
(葱:「真緑」の「真」に強さがあります。)
●切り爪をじっと見つめる長き夜=久郎兎
△馬、五、秋、香=4点
(五:長き夜を貧しさに堪えているのか?秋は哀しい。)
●名刹の奥襖へと芒原=葱男
○久△五、ラ=4点
(久:ススキの原で能狂言をやっているのかな、とも思いました。幽玄の世界のことかな? 五:名刹の裏庭に芒原がある。京都の大本山か? ラ:品格の高さが感じられます。)
●秋の気の缶いつぱいの色えんぴつ=まさこ
△砂、久、香=3点
(久:はつらつさが出ています。 葱:「缶いつぱい」がいいですね!)
●有明月白線を引く教師ゐて=入鈴
○葱△ま=3点
(葱:地味な句かもしれませんが、昔ながらの実直な教師像に共鳴しました。)
●納屋裏の吊るし玉葱労証す=久郎兎
◎喋=3点
●理科室の隅に消火器秋暑し=十志夫
◎砂=3点
●くさめしてそんな頃かと衣替え=阿Q
○久=2点
(久:そんな頃か、が軽いですね。くさめ、が古めかしいから。)
●散骨や能古は色なき風の中=雪絵
○香=2点
●稲架掛くる朝の男のシャツ赤し=砂太
△葱、ま=2点
(葱:自分の句の本質がが女々しい抒情的なせいか、骨太、極太の俳句には個人的に平伏すところがあります。)
●花板(いた)に月も無頼の法善寺=二六斎
△秋、阿=2点
(秋:オダサクの世界?)
●みかづきや夜間飛行の読書灯=スライトリ・マッド
○資=2点
●オカリナは人を過ぎゆく秋の風=水音
△メ=1点
●掛軸の山水図より秋の声=ラスカル
△二=1点
(二:山水図が瓢鯰図であったら少しは類想を離れられたかも知れない。掛軸も不要かも。「襖絵の金銀を着る鳥けもの」「はせ川の河童屏風の雨月かな」の完成型へどう接近するか。)
●この家とあの家秋刀魚焼く匂ひ=スライトリ・マッド
△阿=1点
●走帆のシェリー死せる日を望の月=二六斎
△ス=1点
●大輪のいつしか小ぶり牽牛花=紅椿
△雪=1点
●だしぬけの雨に端折られ運動会=紅椿
△阿=1点
●友逝きてテニスコートの風冷やか=メゴチ
△馬=1点
●寝て起きて食べて寝ること草の花=資料官
△喋=1点
●昼の月小さなタイムスリップする=入鈴
△雪=1点
●二日目のカレーに値打ち十六夜=秋波
△五=1点
(五:十六夜の方が十五夜よりも素敵だ。まるで二日目のカレーみたい。)
【無選】
●稲藁の片付けの隙虫踊る
(葱:独特な写生の感性だと思います、感心しました。)
●来る来ないちんちろちんちろ来る来ない
(葱:この句は一見、恋占いのバレ句かと思いきや、よく味わってみるとギャンブラーの無頼派の句ともとれる、むしろそのほうがこの句の凄味が増すようだ、丁半どちらが来るか? 伊集院静と阿佐田哲也の交情を思い起こしました。)
●はるばると東宝満曼珠沙華
(葱:「西背振」と続きますね、これ、地元ネタ。)
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