*A部門入選作発表*


当季雑詠=全72投句(入選50句)

【特選】

一席
●外野手の深き守りや敗戦日=水音


◎風、弧○十、五、紅、ぼ、美、雪△葱、砂、修、資、喋=23点
(風:深読みしようと思えば可能な上12音ですが、深読みせず敗戦日の高校野球の1コマとしてこのままが読むのがよいですね。 弧:抑制のきいた表現ながら、強い思いを感じます。 十:季語との微妙な響き合いがいい。取り合わせの高度な技術。 五:甲子園もたけなわの敗戦日。 紅:高校野球の選手宣誓にもありましたが、ずっと平和でありますように。 ぼ:何か考えさせられる深いものあり。 雪:これから変わってゆく日本に身構えているかのように感じました。 葱:面白い取り合わせだと思いました。 修:清水哲男さんの詩集を久しぶりに開いてみた。 資:8月15日の高校野球ですね。中七が良い。)


ニ席
●嫁ぐ荷のピアノの傷や赤まんま=雪絵


◎や、香○十、る、紅△子、ラ、ぼ、ま、メ=17点
(や:やがて子を生せば子守歌を奏でるだろう。 香:喜びとはうらはらに寂しさが募りますね。 十:いろいろな思いがめぐるのでしょう。実感あり。 る:その娘さんが、赤まんまで遊んでいた頃の傷かもしれませんね。 紅:子供の頃をよく知っているピアノと一緒のお嫁入り、いいですね。 ラ:「傷」は、大切な思い出の一つなのではないかと思います。 ぼ:もうままごとではない人生のスタート。 ま:お気持ちよくわかります。)


三席
●おしろいの刷毛の肌さす今朝の秋=雪絵


◎十、る、水、メ○資△香、ま=16点
(十:微妙な感覚を詠んでいる。女性ならではの句。 る:肌の感触がはっきりと変わったのでしょう。こんなふうに、いきなり訪れる秋もありますね。 水:夏に少し荒れてしまったお肌。秋になるのがうれしい。)


【入選】

●文月や母のはがきの震ふ文字=資料官
◎子、砂○美、メ△や、紅=12点
(や:年齢によるのか、強い思いによるものか。 紅:母の事を思いました。きっと数年前までは達筆でいらっしゃったのでしょう。)

●秋涼や宇宙図鑑の銀の文字=まさこ
○や、ラ、資、雪、水△葱=11点
(や:銀色文字の強調が宇宙の神秘へ誘う。 ラ:「秋涼」と「銀の文字」が、よく響き合っています。 資:宇宙と銀のうまい組み合わせ。 雪:宇宙図鑑ってあるんですね。銀の文字が星を連想させます。 水:銀の文字と秋涼が響き合っている。 葱:類想はありそうですが、文字の並びが美しい。)

●かなかなや一人遊びの子を呼びに=ぼくる
◎ラ○砂、る、や△淳=10点
(ラ:郷愁が感じられます。谷内六郎の絵を、ふと思い出しました。 る:淋しい感じのもの同士かな、とは思いますが、光景が浮かびます。 や:遊びに熱中するこの子は一人っ子か。)

●秋の夜や隣家の客の帰る音=十志夫
◎久、ま○淳=8点
(久:田舎の静けさを感じました。隣人をよく知っているのかな。余韻があります。 ま:エアコンを使わなくなり、外の気配を感じる季節にお隣の人の気配まで。季語が作者の気持ちをよく表していると思います。)

●テリーヌの市松模様星月夜=ラスカル
○修、風、雪△十、雪=8点
(修:三つの単語の組み合わせ、贅沢な世界です。 風:◎選迷ったのですが中七が「星月夜」を確定させるのに弱いです。上12音(内)、星月夜(外)で高層ホテルの上階のお洒落な夜景を見下ろすレストランだと思いますがだとすると「市松模様」の語感にお洒落さがないので「星月夜」と響きあわない気がします。それと視覚と視覚になっているのも物足りないかんじです。同じ視覚でも色彩を刺激すれば味覚に転化するのですが。もしかしてダブルミーニングで「(ミシュランの)☆付きよ」でしょうか? 水:色のきれいなテリーヌなのでしょう。 十:四角と星形の造形的な取り合わせ。 雪:おしゃれな句!)

●猫の毛に指絡めゐる良夜かな=るな
○砂、修△ラ、久、水=7点
(ラ:猫好きなら、誰もが共感することでしょう! 修:触れるだけじゃなく、絡めるとは!快感。 久:ゆとり感じます。 水:長毛種なのですね。猫と人間が揃って月を見ている?)

●独り占めか一人ぼつちか大花野=ラスカル
◎葱△る、修、美、弧=7点
(葱:この逆転の発想が面白い、躁の「独り占め」、鬱の「一人ぼつち」とも言えますね、「大花野」に大きな救いがあります。 る:観念的ではありますが、こういう句は好きです。 修:一人について少し考えました。)

●風紋に神の視座あり流れ星=十志夫
◎資○ぼ△や、水=7点
(ぼ:スケール大きく格調高し。 や:この世は人間業を超えたもので溢れている。 水:風紋が示すのはどんな視座なのでしょう。)

●稲すずめ婆の語りに嘘すこし=るな
○ま△十、紅、雪、水=6点
(ま:ユーモアの中に真実がさらっと織り込まれ軽快です。 十:鄙の宿での語りべの昔話。たしかに聴くひとを喜ばせる誇張はありそうな。 紅:「舌きりすずめ」を連想しました。 雪:何故か舌切りすずめの話を思い出しました。 水:真剣に聞き入る子どもたちの姿が見えます。)

●五億年前の翡翠や秋気澄む=水音
○ラ、ま△風、香=6点
(ラ:五億年前の時代に、思いを馳せている作者が伺えます。 ま:夜長をうまく捉えられていると思います。 風:良い雰囲気なのですが「上12音=秋気澄む」とも思うので△選。)

●月と云ふまるい墓あり終の旅=葱男
◎五△久、雪、メ=6点
(五:月に召される実感ありなのか? 久:墓代ただですかね。こんなふうに合理的に考えられたらいいけど。 雪:白髪鴨さんもここにいるんでしょうかね〜。)

●堂々と道にはみ出す芙蓉かな=メゴチ
○五、風、弧=6点
(五:芙蓉はよく道をはみ出している。いい観察だ。 風:別に芙蓉でなくともと思いますが芙蓉なんでしょうね。「かな」の詠嘆がそんな気にさせてくれます。「道に」は「道へ」だと思いますが。)

●敗戦の日のとおくチェロ奏鳴曲=弧七
◎美○香△風=6点
(風:これも「外野手の深き守りや敗戦日」同様に深読みせずにそのまま読むのが良いと思います。)

●風呂場にて洗ふ作業着虫の声=風牙
◎ぼ△十、淳、五=6点
(ぼ:確かな生活感と余情あり。 十:リアル。さまざま想像が浮かぶ。 五:草取りを終えたら虫の声がしてきた。初秋の風情。) <BR><BR> ●赤まんま紙飛行機を抱き止めぬ=ぼくる
○久、弧=4点
(久:とんがった心も受け止めてくれそう。「抱く」としたところ、味があります。)

●秋の猫五七五と歩を進む=葱男
◎修△る=4点
(修:こんな風に詠むよゆう、境地に脱帽。 る:俳句のことを俳句にするのは難しいとよく言われますが、これは面白い着眼なのでは。)

●誘われて頭まっしろ天の川=白馬
◎喋△葱=4点
(葱:この場合、男の子が好きな女の子から誘われたのでしょうか? 逆なら逆で、また可愛い。)

●羽根落す夕日の烏広島忌=砂太
○葱△や、久=4点
(葱:原爆ドームが背景に見えてきます。 や:幾度烏が生まれ変わろうが消える事の無い原爆の記憶。 久:不吉な語句が効果的ですね。)

●朝早し光の筋に秋を見る=淳一
○メ△風=3点
(風:上五が説明的なのと「光の筋」に具体性を欠くので△選。)

●翳りたる森あちこちに百合の花=修一
○久△淳=3点
(久:ぴんと力強い花の白さが際立っている様子を想像しました。)

●Kよりのメール短かし秋黴雨=やんま
○喋△弧=3点

●灯籠や時に大きく波頭=紅椿
◎淳=3点

●初恋や手の平にある赤のまま=やんま
△砂、雪、メ=3点
(雪:「赤のまま、赤まんま」この季語は幼いころのことを思い出させます。好きな季語です。)


●屋根飛んで八月終える我が家かな=喋九厘
◎紅=3点
(紅:大変な事が起こったのに、淡々と詠まれていて、つい笑ってしまいました。築50年の我が家も他人事ではありません。)

●色鳥やネット予約の新刊書=まさこ
◎雪=3点
(雪:今どきの句ですね〜、読書の秋でもあるし。季語が効いてます。)

●天の川泳ぐ村の子稲の花=修一
○喋=2点

●神楽坂上り詰めれば酔芙蓉=五六二三斎
△ぼ、資=2点
(ぼ:地名が効いている粋な句。)

●カゴの蝉初めて触る子の勇気=香久夜
○淳=2点

●鞄には煙草とパンと夜学生=美遥
△ラ、ぼ=2点
(ラ:パンだけだったら、句にならなかったのではないかと思います。 ぼ:いかにもそうだろうなと。)

●新涼や今日やることの三つあり=香久夜
△五、ぼ=2点
(五:今日やることは何なの?興味を引く句。 ぼ:新涼で気合が入った。)

●新涼や木魚を打ちて門を入る=葱男
○子=2点

●掃苔や更地となりし一区画=紅椿
○香=2点
(香:盆の墓参りのことですね。最近は実家のお墓を移す人も増えたそうで。)

●旅衣替へて踊の輪の中へ=ぼくる
△砂、十=2点
(十:「して踊の輪の中へ」は多少類型感がありますが、景があざやかに浮かぶ。)

●火の恋しあいびき茶屋の古曲かな=美遥
△る、香=2点
(る:ちょっとレトロな感じで、季節感が良いと思います。)

●プチトマト処暑の窓へと伸びきりぬ=風牙
△修、紅=2点
(修:一瞬蔓科?と思ったけど、言葉の使い方がうまいです。 紅:下五がいいです。たくさん生ったのでしょうね。)

●星月夜霊峰富士は静かなり=メゴチ
○子=2点

●秋暑し百葉箱の上に猫=資料官
△葱、美=2点
(葱:「猫」句には「猫好き」の過保護が見えやすいけど、この句は客観的でユーモアがあります。)

●秋めくや長袖揃ふじじい会=メゴチ
△五=1点
(五:年寄りは寒がり?面白い句。)

●餘部を飛んで越えたや秋の月=喋九厘
△葱=1点
(葱:下から見上げる視点でしょうか?そんな衝動にかられた気持ち、よく分ります。)

●丑三つに目覚む暫しの蝉時雨=久郎兎
△美=1点

●炎天下陰探しつつ立ち尽くし=淳一
△子=1点

●蜉蝣の音無く消えていく夕べ=白馬
△喋=1点

●傘寿なり静けき風の夏夕べ=砂太 △喋=1点

●少しだけ和みし秋の薄曇り=五六二三斎
△子=1点

●セピア色になりかけてゐる秋薔薇=ラスカル
△葱=1点
(葱:そのまま奇麗にドライフラワーになるのでしょうか?)

●火遊びの結果は知れず灯取虫=やんま
△弧=1点

●お漏らしの母は童女のごとく佇ち=修一
△雪=1点 (雪:この句の背景にあるものを、色々と想像してしまってます。介護の厳しさは先が見えない事です。)

【無選】

●この唄が終わらば散れる踊かな
(風:ちょっと気になった句<今回は△選に好きなだけとれなかったので> 「終わらば」の仮定条件なら「散らむ」で「散れる」の完了なら「終われば」の確定条件ではないでしょうか?前者なら「終われば散ってしまうだろう」後者は「終わってしまったので散ってしまった」と全く景が変わってしまうので選外というか対象外でした。)



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