*A部門入選作発表*
当季雑詠=全75投句(入選53句)
【特選】
一席
●甘味屋に五坪の冬陽ありにけり=十志夫
◎葱、秋○風、ま、ぼ△ラ、杉、資、砂、水=17点
(葱:五坪という具体性が小さなお店の雰囲気を良く表している。きっと思ったよりも美味しかったのだろう。 秋:“五坪”がいい。 風:五坪=約十畳。この具体性がこの句に有効であるかどうかは疑問ですが甘味屋の冬陽は心地良いと思います。十畳ものサイズに「けり」と気づきの切れ字もどうかなとは思います。坪数が異なっていれば◎だったと思います。 ま:暖かく、やわらかい空気が満ちている小さなスペース、心地よく目に浮かびます。 ぼ:いいね、このささやかな時空間。 ラ:「五坪」がリアルで、実感として伝わってきます。)
二席
●拾ひ読むホテルの聖書雪激し=ぼくる
○ラ、砂、水、修、淳△十、杉、葱、ま、弧、秋=16点
(ラ:ネット環境の整っていない、僻地のホテルかもしれません。 十:背景としての窓から見える雪が効いている。 葱:「雪激し」に物語性を感じます。どんな旅なのか、作者に聞いてみたい。 ま:いろいろ想像が膨らみました。 弧:ホテルでの手持ち無沙汰はどこか空しく感じられます。)
三席
●ねんねこの子の首ひよいと落ちさうに=砂太
◎水○ま、紅、弧△る、風、葱、修、メ=14点
(ま:良く見かけます、ひょいとという感じですね! 紅:昔、良く見ましたね、こんな景。懐かしいです。 弧:愛らしい景の中に、子の宿命への慄きを覚えました。 る:ちょっとブラックで、漱石の「夢十夜」など想起しました。 風:何万と詠まれてきた景かとは思いますが見たままを素直に詠んだものには嫌な既視感は無いと思います。 葱:赤ん坊を扱うのは怖いですねえー、ほんとに赤ん坊って壊れやすい、だからこそ愛しい存在です。)
三席
●川の名を書き留めてゐる冬の雲=修一
◎入、喋○五、杉、風、葱=14点
(入:川に沿って風が吹き抜け、雲に模様を付けている?千と千尋の博のイメージ。 五:発想が愉快である。擬人化の好例である。 風:◎候補。最後まで迷いましたが○選。春、夏、秋、冬で確かに冬が一番良いような気はします。ただ、川の名を書き留めてゐる理由まで見えてくる季語が他にありそうな気がして○選です。 葱:雲の動きを上手くストーリー化している。中七の措辞が面白い、独特の感性です。)
【入選】
●障子閉ぢ一人の老に戻りけり=ぼくる
◎砂○久△や、資、葱、入、メ、弧、秋=12点
(久:)全く持ってその通りですね。障子の部屋は老いの揺りかごのような感じを受けました。 や:誰にでも自分に還る時がある。 葱:これも平凡な景ですが、季語の斡旋がハマっています。 入:障子って日本的曖昧さがあるが、閉ぢて一人の老に向き合う西洋的な個を考えます。 意味深いお句だと思う。)
●雪女にメールアドレス訊かれけり=ラスカル
◎る、雪、ぼ△五、喋、弧=12点
(る:イマドキの雪女ならそうかも。あるいは正体は雪女ではない?ドキドキ。 雪:今どきの雪女!おもしろい。 ぼ::面白い!いかにもありそう。 五:メアド聞いてくる中洲のお嬢さんとか居そう。今はLINE教えて!かな?)
●冬ざれの野に放たるる尻尾かな=十志夫
◎ラ、杉、ま△葱、入=11点
(ラ:その動物は何なのか、想像するだけで楽しくなります。 ま:いろいろな景が想像できましたが、いずれも躍動感に溢れ、生命力を感じ好きです。 葱:尻尾に犬の喜びがあふれています。 入:野鳥の会員としては嫌な句だが、滅びの景が顕つ。)
●異国語の闊歩してゐる年の市=紅椿
◎淳○久、香△水、メ、秋=10点
(久:)地方ではなく都会の風景ですね。東京アメ横を思い出しました。複数の言語なのでしょう。 淳:異国語が闊歩するっていう表現がいいですね。)
●何時の間に男ばかりや日向ぼこ=やんま
○杉、風、久、雪△ぼ、香=10点
(風:こういう事もあるでしょう。中七の「や」は自問の「や」でこれが効果的ですね。「落葉焚き」をはじめ季語が動くかなと○選。 久:何時の間に、がいいですね〜。こんな光景よく見かけます。 雪:に、がいいですね〜。こんな光景よく見かけます。 ぼ:とぼけた味あり、ちょっぴりペーソスも。)
●狐火や袖に残れる火薬の香=風牙
◎紅○る、入△雪、修、淳=10点
(紅:幻想的で野性味あふれたお句に惹かれました。 る:「火」繋がりですが、シンクロなのか飛び火したのか、とにかく面白いと思います。 入青森のマタギの生活感を思う。:)
●暮易し顎振り上げて飲む薬=砂太
○や、葱、入、秋△久=9点
(や:愛しい命を大切にする日々。 久:ロマンスグレイが格好よく服薬している姿が目に浮かびました。 葱:俳諧味が、なんともいいですねー。 入:そうなんです、そうしないと咳き込むはめに。 秋:薬の飲み方にも年を感じるこの頃です。)
●片側の減りし靴底おでん酒=紅椿
○や、ぼ△久、砂、水、雪=8点
(や:自分が自分らしく生きている。 ぼ:うらぶれたサラリーマンか、共感。 久:現場百回の刑事ドラマでしょうか。)
●時は無垢しらべは無限クリスマス=葱男
◎資○五△子、雪=7点
(五:上手い措辞である。無垢と無限いいなあ!)
●風邪気味と言訳しつつ歌ひ出す=ラスカル
○雪△十、杉、る、紅=6点
(雪:きっとカラオケ上手なお方でしょう! 十:いますね、そういう人。 る:ありがちですよね〜。 紅:目に浮かぶようです。こんな人ほど上手なんでしょうね。)
●さざんかのこんなに散つて雨やわらか=弧七
◎十△ラ、葱、水=6点
(十:)浮遊感があってスタイリッシュな句。 ラ:この感覚はとても好きなのですが、やはり定型に纏めて欲しいです。 葱:情景としては平凡なのですが、ひらがなの多用によって、女性的な優しさが潤うような、魅力的な表情を見せてくれました。)
●死者生者ともに踊りし雪の花=葱男
○十、資、香=6点
(十:六花って、生命の出口から降ってくるように思えることがあります。)
●故郷の自由空間枯葉舞ふ=白馬
◎五、久=6点
(五:自由空間という措辞が素晴らしい。 久:唐突なほどの硬い言葉自由空間が光ります。)
●オルガンのレッスン聴き入る冬菫=秋波
◎香○喋=5点
●モネ展を出でて湖面の冬日かな=雪絵
△ラ、風、葱、入、修=5点
(ラ:さぞかし、美しく見えたことでしょう。 風:「ねんねこの子の首ひよいと落ちさうに」同様かそれ以上に既視感たっぷりですが素直な句はそれだけでも好きです。 葱:モネに描かせてみたい風景ですね。 入:紫派印象の作品は少ない展覧会で、絶筆の寒色チューブのタッチからこのお句に同感。)
●朝散歩交わす言葉の息白し=メゴチ
◎子○淳=4点
●枯蘆や風にハープの音色せり=雪絵
○子、喋=4点
●くぐもりてぽをんぽをんと冬花火=入鈴
○メ△喋、淳=4点
●グラスワインに星ひとつ落つ聖夜かな=雪絵
○子、砂△ぼ=4点
(ぼ:メリークリスマス!)
●来ぬ人は待たぬ聖樹をそびらにし=るな
○紅△入=3点
(紅:きりっとした女性像が浮かんできます。 入:クリスチャンとしての潔さなんでしょうか?)
●白き月山より出づる寒の入=子白
◎メ=3点
●特等の出て後待ちのガラガラポン=久郎兎
◎や=3点
(や:神は私にふさわしい目を出す、地道に生きよと。)
●流れ行く先はみづうみ冬の川=るな
◎弧=3点
●冬落ち葉鳴らして帰るランドセル=久郎兎
△や、ま、ぼ=3点
(や:子供は風の子、ランドセルは夢の重力。 ま:楽しそう、可愛い姿ですね。 ぼ:一番いい時ですね。これからが大変。)
●ゆず三個もらつてうれし冬至の日=子白
◎修=3点
●風邪なのか鬱かもしれぬ眠りたし=淳一
○修=2点
●仕舞湯や柚子のしずくと足跡と=紅椿
○資=2点
●末つ子の可愛や冬の鳥美しや=るな
○弧=2点
●父母にポインセチアの赤と白=まさこ
△子、十=2点
(十:優しくほほえましい景です。)
●冬至柚子駅の足湯の賑はへり=資料官
○秋=2点
●にこやかな海と膝掛け車椅子=五六二三斎
△久、紅=2点
(久:穏やかな冬日和でしょうか。 紅:海も人も穏やかで、癒されます。)
●一人旅してきたコート戻りけり=五六二三斎
○十=2点
(十:分身としてのコートが旅の全てを知っているのでしょうね。)
●雪しまくモノクロームの村灯=まさこ
○メ=2点
●立冬や台湾へ母誘へり=香久夜
○入=2点
(入:慙愧の念があり、車椅子でもいい、連れていけなかったのかと。)
●「G線上のアリア」流れて松手入=ラスカル
△子、る=2点
(る:なんとも典雅な和洋折衷ですね。)
●ZIPPOの揺れて鰭酒点しけり=十志夫
○る=2点
(る:洋と和のミスマッチが面白いです。)
●有難きひと冬ごとの柚湯かな=メゴチ
△や=1点
(や:今年もかくかく在り、まずは佳しとする)
●オリオンの翳みて晴れと言ひ難し=白馬
△香=1点
●愚直にも守る戒律山眠る=風牙
△葱=1点
(葱:戒律を守ることが「愚直」かどうかは置いておいて、聖山に修行する若い僧たちの生活がまざまざと目に浮かぶ。)
●歳晩へ蝦蟇の油の紙吹雪=やんま
△紅=1点
(紅: 大道芸の「蝦蟇の油売り」、口上が聞こえてきそうです。チャンバラ好きは採らずにいられません。)
●霜柱せいいっぱいに背伸びする=メゴチ
△喋=1点
●聖夜来る那由多の赤子燃えにけり=葱男
△五=1点
(五:将来を担う赤子に幸せあれ!)
●友の子規の羨む美形漱石忌=美遥
△五=1点
(五:確かに子規より漱石はハンサムだ!)
●鼻赤き魚屋若し十二月=砂太
△ま=1点
(ま:無駄な言葉を一切省いて、すっきり表現されています。)
●冬日さす鴨の点在する湊=秋波
△香=1点
●冬夕焼つくばの耳を二つ染め=入鈴
△資=1点
●行く年やママのおごりの故郷の酒=ぼくる
△風=1点
(風:下五「故郷酒」と造語にせず「故郷の酒」としたところに好感。俳句である前にしっかりとした日本語。句作のための字数合わせや造語ほど見苦しいものはないですからね。実際には「くに」と読ませるつもりだとは思いますがルビをふっていないのでこれはこれで好感。)
●夜時雨ひとり泳げる野天風呂=修一
△淳=1点
●忘れたきことは忘れて年送る=香久夜
△砂=1点
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