*A部門入選作発表*


当季雑詠=全83投句(入選57句)

【特選】

一席
●黒板に残る数式鳥渡る=ラスカル


◎や、ス、裕、玻、ぶ ○秀、資、雪 △十、清、ぼ=24点
(や:眼前の遠近。裕:廃校になった母校でしょうか?玻:冬鳥が渡りはじめたのだろうか。ふっと空を見上げたくなる一句である。白鳥だろうか。黒板の黒とのコントラストが思い浮かぶ。数式をが「残る」という措辞から、夕刻間際の情景が浮かび上がってくると同時に、淡い夕焼けの色を、黒板とチョークというモノトーンの世界に足す効果も生んでいる。「残る」という言葉だけで色彩豊かにした作者のバランス感覚が素晴らしいと感じます。また「数式」が残っているという指示もロマンティック。なんの数式だろう。きっとシンプルでブリリアントな数式に違いないと想像豊かになる十七音でした。ぶ:「博士の愛した数式」という小説を思い浮かべた。数学と文学の楽しい邂逅のようでもある 秀:「博士の愛した数式」を思い出しました。季語もよく合っています。雪:季語にぴったりの上五中七ですね。十:懐かしい夕景がうかんできます。既視感がややあり。清:生物の時間に、渡り鳥の飛来する日の数式を先生に披露して貰う。それを次の時間まで消さずに残して行った先生のちょっとした配慮。ユーモアもある句だ。ぶ:生物の時間に、渡り鳥の飛来する日の数式を先生に披露して貰う。それを次の時間まで消さずに残して行った先生のちょっとした配慮。ユーモアもある句だ。ぼ:苦手な数学、来世は渡り鳥に生まれたい。)


二席
●草を抜く言葉を深く知るように=ぶせふ


◎秀、香、ま、入 ○砂、葱、五、ス △ラ=21点
(秀:草を抜く言葉を深く知るように・・・「言葉を深く知るように」がよかった。 この二つの行為は、かなり響きあっている。香:根が切れないように抜きたい。けど、こんな発想初めてです。ま:中七下五の表現がすばらしいと思います。一つの言葉から想いを深く馳せていく心情が伝わってきます。入:不思議な経験で、わかるような気になります。葱:雑草の根は思いのほか深く地中に張っていて、地上に見える緑だけでは想像できなかった様相をしている、「言葉」もそういうものなのだろう。五:深い句だ。草に命があることを言い聞かせている。草と禅問答をしている感じだ。ラ:それは、哲学者が遺した言葉なのかもしれません。)


三席
●ひめゆりの少女曝書のなか老ゆる=十志夫


◎修、秋、ぼ、水 ○紅=14点
(秋:戦争の記憶は年々風化していく。避けられないことではあるけれど、私達は想像力を失ってはいけないと思う。ぼ:感無量です。一読肅然としました。水:そうか、少女たちも老ゆるのですね。永遠に少女でありながら70年という時間がここに存在している。紅:語り継がなければ・・。まだ71年しか経っていないのです。)


【入選】

●シャンパンは喉に弾けて流れ星=秀子 
◎五 ○子、ラ、ぼ △香、喋、水=12点
(五:お洒落な句だ。流れ星は弾ける泡のようで綺麗な句である。ラ:野外での宴会でしょうか。とても楽しそう。ぼ:どの酒よりもここはシャンパンが似合う。水:都会的でおしゃれです。)

●読書灯消して始まる夜長かな=裕 
◎雪、淳 ○秀、資 △や=11点
(雪:読書を終えた後のさらなる夜長、眠れない夜だったのでしょう。秀:言い得て妙ですね。そういうことって、ありますね。資:なかなか眠れぬ秋の夜長でしょうか。 や:眠れぬ夜は蛍を数える。)

●あかときの月を枕に眠りけり=五六二三斎
  ◎清 ○ス、メ、入=9点
(清:詠者は夜型であろうか。あかつきの月が出ている頃夢枕で心地よく寝ている姿が浮かぶ。気持ちの良い佳句だ。入:極上の夢ですね。)

●秋蝶や海に向きたる墓石群=雪絵
  ○ま、秋、久、裕 △資=9点
(ま:澄んだ空と青い海を見はるかす爽やかな景とはかない蝶の取り合わせに魅かれました。秋:取合せがうまい。久:素敵な光景、昔の歌謡曲にこのような風景がありました。エリカかエリコかな? 裕:秋蝶と海沿いの墓石の取り合わせが綺麗であり、淋しくもあり 資:何処の島の墓地の風景。勢いの無い秋蝶が句の中では生きている)

●かなかなや礼拝堂に灯る燭==ぼくる
  ○清、ま △紅、修、入、雪、ぶ=9点
(清:かなかなが鳴く度に揺れる蝋燭の灯。田舎の教会をイメージ出来た。好きな句だ。ま:美しく印象深い景です。かなかなが響き渡っていますね。紅:ちょっと寂しさも感じられる、静かな佇まい。入:音、内と外、またこもる燭の暑さまで感じられます。ぶ:讃美歌の聞こえてきそうな切迫感。美しい教会の内部が浮き上がる)

●夜長なり遺品の中の母子手帳==久郎兎 
◎メ ○ぼ、水 △秀、秋=9点
(ぼ:今さらながら知る、母の深い愛。水:紙質が悪くて薄っぺらい色あせた母子手帳。時代やら母の気持ちやら、いろんなことに想いを馳せる時間がたっぷりありますね。秀:遺品の整理をなさっているんですね。「母子手帳」がいろいろなことを語り始めます。 入:しみじみといたしました。)

●秋蝉やたまに遮断機下りる街=裕
  ◎資、久 △清、修=8点
(資:遮断機も少なくなってきたし「たまに」というローカル的なところが良い。きっと電車ではない気動車の世界ではないかと勝手に想像してしまった。久:長閑であり気だるい夏の終わり、時間が止まっているようにも感じられます。清:田舎の単線を走る電車の踏切を思い浮かべる。弱々しく鳴く秋の蝉と滅多に下りない遮断機の警報器の音との共鳴。好きな句だ。)

●背番号二桁の子や天高し=ラスカル
○砂、葱、水 △十、香=8点
(葱:少年野球や甲子園で背番号が二桁というのはレギュラーポジションを得られなかった選手を意味する、彼らの仰ぐ空の高さには勝っても負けてもレギュラー選手とは違った思いがあふれる。水:新チームでレギュラー目指して頑張っているんだね。十:補欠選手の悲哀を中7で上手に表現している。香:優しい視点ですね。)

●秋薔薇や銀糸を紡ぐやうな雨=ラスカル
◎風 ○淳、ぶ=7点
(風:秋薔薇は雨の中でこそ美しいと思います。「やうな」の口語旧仮名も効果的。ぶ:美しいお句だ。詩情があふれている)

●正門の名残の柱鳥渡る=雪絵
  ○や、ラ △秀、紅、十=7点
(や:廃校の空に悠々の空あり。ラ:今でも残る物と、渡っていってしまう物との対比。秀:同じ景は私も詠んだことがありますが、「名残」という言葉を選ばれたのが、よかったと思います。紅:廃校になった学校でしょうか。秋らしいお句です。十:小学校か中学校でしょうか。懐かしい校名の書かれた門柱への感慨。)

●わが恋は例えば指の赤とんぼ=やんま
  △清、紅、喋、修、メ、入=7点
(清:赤とんぼは群をなして飛んでいるが、あるときその中の一匹がふいに自分の指に止まったとの恋の物語。ロマンチックな句だ。紅:一度で諳んじました。素敵なフレーズです。 入:ちょっとかっこつけ過ぎとらん?)

●深閑と真昼の漁村秋暑し=ぼくる 
○修 △十、水、淳、久=6点
(十:朝早い漁村の昼の景を巧みに切り取っている。「深閑と」がやや生硬な印象。「閑かなる」なら〇。水:影がやたら濃く、物音はせず、潮の匂いだけがある。久:暑い塊を小さい秋が切って通り抜けてる感じですね。)

●七夕のハローワークの検索機=風牙
  ◎十 △子、葱、雪=6点
(十:現代の七夕の景の俳諧味。新しい職場との出会いを託す作者の思い。葱:願いを懸ける「七夕」にハローワークとは、皮肉が効いている、私の周りで、退職したあと、楽しそうな仕事にありつけた友人は二人いて、ひとりは「南禅寺の寺の掃除」ひとりは「鴨川河岸の掃除」である。適度に体を動かして、まわりが奇麗になると心もすっきりとするようだ。雪:七夕との取り合わせがとてもおもしろい!)

●朝顔の折り紙色に咲きにけり=十志夫
  ○淳 △子、葱、秋=5点
(葱:「朝顔色の折り紙」ではなく、「折り紙色の朝顔」であるところがポエムのポイント。)

●五島より持ち帰りたる秋の風=五六二三斎
  ◎葱、○ぶ=5点
(葱:「五島列島」はとても興味ある島だ。キリスト教の島が「大本教」に変身していった歴史にも、その風景にも大いに興味があります。高橋和己の「邪宗門」で私は「宗教」の本質が少し分かったような気がしていました。ぶ:五島への楽しい旅のお土産が秋風だなんて、なんという幸福。これぞ、俳句の醍醐味だと思う)

●常識の外にしんじつ吾亦紅=ぶせふ
  ○子、香 △砂=5点
(香:「しんじつ」のかな書きで柔らかい主張になってます。)

●長き夜を囁くラジオ深夜便=やんま
  ○玻 △十、子、資=5点
(玻:「囁く」ウイスパー・ボイスは女性の専売特許。きっとパーソナリティは女性であろう。「囁く」措辞だけで人物像を連想できる佳句。「ラジオ深夜便」と番組タイトルをさりげなく置き、秋の夜長の時間帯まで容易に気持ちが飛んでいける。夜が長く感じる夜は人の声を聴いていたい、それもとびっきり優しい囁くような声を。そんな肌寒さも読み取れます。十:城達也の声が聞こえてきそう。資:比較的お年を召されたアナウンサーの声が心にしみます)

●涼新た味噌の香りの立つ朝=まさこ
  ○紅、修 △ラ=5点
(紅:味噌の香がしてきます。ラ:味噌汁の具は何だろうと想像すると、とても楽しい気分になります。 入:お味噌汁の朝は涼しくなくては 。同感です。)

●ちちろ鳴くゆふべ弟こよひ兄=白馬
  ○五、入 △メ=5点
(五:親の危篤で兄、弟が入れ替わり立ち替わりに来る。真ん中の兄弟が親を見なくてはいけなくなった境涯。入:少し声色に違いがあると?素晴らしい音感に脱帽です。)

●八月や被爆手帳を返納す=資料官
  ○十、水 △秋=5点
(十:もし自らの実体験だとしたら、重い決断だ。 水:私の母も長崎の被爆者でした。命日は八月です。いろんな思いがこみ上げてくるお句です。)

●秋の雨猫駆け抜けて点く灯り=白馬
  ○清、久=4点
(清:しとしとと降る秋雨の中猫が駆け抜けて行く姿を自動点滅ライトが映し出す。映画の一シーンの様だ。好きな句だ。久:猫が通っても点くというのが面白いです。)

●融け歪み固まり割るる八月尽=水音
  ○十 △香、資=4点
(十:八月に起きた四つの動詞の主体は何なのか?「人間模様」か「世界情勢」か? 答えは読み手の数だけ存在するような。香:避け難かった。まるで私の脳ミソのよう。資:動詞を四つ並べたところが面白い。)

●今朝はもう帰燕の空となつてゐし=秀子
  ◎紅 △砂=4点
(紅:暑さに苦しめられた2016年の夏もいつの間にか秋に・・。)

●小鳥来る北山杉の真つ直ぐに=清一
  △ま、五、ス、ぼ=4点
(ま:爽やかな明るい景で、気持ち良いですね。五:北山杉のように真っ直ぐに無垢な鳥たちと生きたい。ぼ:すっきり、さわやか。)

●日に透ける赤き葡萄や少年期=まさこ
  ◎砂 △十=4点
(十:日に透ける」という措辞に、少年期に同居する「純粋性」と「ひ弱さ」を感じる。)

●文面にコスモスのこと婿のこと=葱男
  ○風 △ス、玻=4点
(風:娘の愚痴をきく母親というかんじでしょうか。上五の「に」が気になって◎では取れず。文面も少し気になります。上五が説明的なのが残念。玻:そうそうそうなんです!すんなりとそういうことを、こう詠みたいんです。と私が口にしてしまった一句です。さらっとした軽みのなかに言いたいことが実はぎっしり詰まっているのは「コスモス」と「婿」という取り合わせで伝わってくるのです。あゝ巧いと溜息をつきました。)

●掘り返す土の匂ひの秋夕焼=ぶせふ
  ○風 △葱、裕=4点
(風:労働ご苦労様です。葱:「土の匂いや」では取ってないかも、「土の匂いの夕焼け」がいい。裕:芋ほりでしょうか?)

●夕風の連れ来る波や絵灯籠=紅椿
  ○喋 △ま、風=4点
(ま:灯籠にこめられた気持ちが、美しく、表現されています。風:海岸での夕風は陸から海へ吹く波消し風のイメージが強く△選)

●別れ際たんぽぽ呉れし童女かな=修一
  ◎子 △淳=4点
(葱:「たんぽぽ」を詠みましたかあ〜! 確信犯?)

●大雨に一日延ばす送盆=白馬
  ○雪 △ま=3点
(ま:一日でも長く留まってほしいお気持ちが胸にしみます。)

●帰省子のまたもやとんぼ返りかな=紅椿
  ◎ラ=3点
(ラ:「またもや」が、ちょっと可笑しくて、ちょっと切ないです。)

●雑魚寝する親子を鎮める団扇風=香久夜 
○や △砂=3点
(や:ポエムあり。 入:中七だと、親子鎮めり?)

●新涼の潮風通し越(こし)の酒=ぼくる
  ○秋 △五=3点
(秋:お酒はすっきり辛口がいいな。五:越乃寒梅のことが頭を過る。酒が早く飲みたいなあ!)

●天気図にしかと居座る野分かな=資料官
  ○メ △ラ=3点
(ラ:「しかと居座る」という表現が面白いです。)

●泣きに来る孫子(まごこ)や母の初盆会=砂太 
◎喋=3点

●鬼灯を口に遊ばす少女かな=清一
  ○喋 △雪=3点

●あいりんの日雇の買ふ鮭弁当=風牙
  ○香=2点
(香:まともな食事は1日一回だったりして、、、。)

●女郎花友の指さす黄の淡さ=入鈴 
△喋、メ=2点

●お留守番じいじとはしゃぐ夏の風呂=香久夜
  △や、風=2点
(や:身につまされる。風:作者にそのつもりは無いでしょうが、お留守番じじいと/はしゃぐ夏の風と切れを取りました。一人でお留守番している爺さんを翻弄する夏の風面白いと思います。)

●蜉蝣の重なり合ひて死せるかな=玻璃
  ○裕=2点
(裕:重なり合っているとことが悲しいです)

●人拒む形相哀れ枯蟷螂=やんま
  △葱、久=2点
(葱:おおげさに鎌を振り上げる形相がおそろしくもあり、哀れでもある。久:安全な場所に移してやろうとすると拒みますね。人の善意とは関係がないのでしょう。)

●迷ひ子の虚ろなまなこ青蜜柑=雪絵
  △ス、裕=2点
(裕:迷子の不安そうな感じを青蜜柑に象徴させているところがいいです)

●虫鳴きてメランコリーな風流る=子白
  △葱、淳=2点
(葱:「涼しさ」も「メランコリー」な秋の気配です。)

●秋の蝉あーん、朝まで飲んぢやつた=風牙
  △五=1点
(五:秋の蝉が鳴き出すころの朝帰り。ご愁傷様です。お疲れ様です。)

●吃音の真継伸彦逝かれけり=修一
  △葱=1点
(葱:学生のころ、高橋和己、柴田翔、小田実、真継などが中心になって創っていた「人間として」という同人誌をよく読んでいたのを思い出した。)

●爽やかや亀がゆるりと顔を出す=裕 
△入=1点
(入:亀の気持ちがよくわかります。)

●新盆の出会ひ頭のお辞儀かな=紅椿
  △十=1点
(十:ほのぼのとした景が見える。)

●返信をやつと書き終へ桐一葉=水音
  △風=1点
(風:夏に来た手紙への返信が気がつけば秋という感じが良く出ていると思います。連用形による「切れ」が好きではないので△選です。)

●干梅の匂ふ真昼の口貧し=砂太
  △や=1点
(や:満腹なのに何か口が淋しい。)

●星の恋ゆっくりまわる観覧車=秋波
  △ぼ=1点
(ぼ:天上の恋と地上の恋を観覧車が繋いでいる。)

●窓のかぎり茘枝しししと揺れてをり=入鈴
  △ぶ=1点
(ぶ:楽しいお句。しししと揺れるなんてw言葉遊びが巧く決まっている)

●迎火を焚く十分に日が落ちて=五六二三斎
  △秀=1点
(秀:とっぷり日が落ちた闇の中、迎火がくっきりと。)

●モスラゴジラの卵転がる宮之浦岳=修一 
△ぶ=1点
(ぶ:無季語の句か?しかし面白くて、山の名前も 初めて聞くが、恐竜時代を想像した)

●病い臥し外の暑さを知らぬ友=淳一
  △久=1点
(久:でも本人は知ってると思いますよ。命日3月8日の母が病室で最期に「もうすぐ桜が咲くね」と言ったから。)

●龍平になれるか裕哉朔の月=葱男
  △裕=1点
(裕:私の名前で取りました)




A部門入選作〈back number〉

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