*無法投区/桜月

〜気吹戸や死者に生者に桜咲く〜

*薬師寺・唐招提寺=葱男

■2013年3月30日(木)

百鳥・奈良吟行句会、今回は近鉄「西ノ京駅」周辺のお寺巡り。

奈良は私の住んでいる京都西陣から行くのにも思いのほか近くて便利な場所である。
というのも京都の地下鉄烏丸線と近鉄線が直通していて、うまくすれば奈良、橿原神宮、天理などへは電車一本で行けるので手間も時間もかからないのだ。
集合10:00ということで8時前に家を出たら、9時過ぎにはもう「西ノ京駅」に着いてしまった。
待ち合わせまで50分もあるので、幹事さんに電話してひとりでお先に「薬師寺」に入ることにした。
天気は上々、そこかしこに春の花々が満開、梅も桜も桃もいっぺんに満開。辛夷、木蓮、菜の花もミモザも雪柳も、レンゲ、たんぽぽ、レンギョウ、山吹と数え上げればきりがない。まさに絶好の吟行日和である。薬師寺も唐招提寺も初めて訪れるところなので楽しみ楽しみ。

薬師寺は入山料800円、特別公開の「大宝蔵殿」への入場料が500円で計1300円。ちょっと高い気がするがせっかくここまで来たのだから全部見ないと後悔しそうなので全部拝観させて頂くことにする。

*

薬師寺は広い境内に主要な塔中がぽつんぽつんと並び、やや殺風景な感じがした。
ただ、大講堂の仏足跡脇に立ち並ぶ、彫刻家「中村晋也」氏による釈迦十大弟子のブロンズ像は素晴らしかった。
智恵第一の「舎利弗」、神通第一の「摩訶目連」、頭陀第一の「摩訶迦葉」、解空第一の「須菩提」、説法第一の「富楼那弥多羅尼子」、論議第一の「摩訶迦旃延」、天眼第一の「阿那律」、持律第一の「優波離」、密行第一の「羅子羅」、そして中でも私が一番強く惹かれたのが多聞第一の「阿難陀」であった。
若い僧の、少し愁いを帯びた、柔らかで純粋な魂が風貌に刻まれていた。

●阿難陀の幽けき頬や柳影

●迫りくる潮のやうに雪柳

薬師寺ではほかに見るべきものといっても遠目からの三重塔が美しいのと、百度石の廻りに植えられた雪柳が盛んで迫力があったってぐらいかな。その時代の公共の役割を果たす神聖な場所なのだろうが、逆に、私的な趣味嗜好といった人間臭いところがほとんど見えないので何か閑散とした感じが拭えなかった。

薬師寺はそこそこに唐招提寺へと向かう。薬師寺から唐招提寺までは5分ほどの田舎道をのんびりと歩く。とっても気持ちがよい。近隣の民家も風情があり、田んぼや畦の風景の中を歩けばのどけしや、春うらら、といった心持ちである。今度の寺はどんなんかな?

●たんぽぽや寺から寺へ路すがら

昔、まだ30代のころ、1年かけて世界中を旅したことがあった。その最初の航路が大阪南港から上海港への船旅で船の名を「鑑真号」といった。乗客は日本に出稼ぎにきていて一時帰国する中国人が主で、みんな故郷に錦を飾るベく、メイドインジャパンの家電製品やバイクを買い込み、高いレストランは利用せず、自動販売機の即席ラーメンばかり食べていた。
唐招提寺はその船の名にもなった「鑑真和上」が西暦759年に建立した。中国の高僧が日本に仏教を伝えよう、広めようとして作った専修道場が起源の寺である。

*

どうも今の日中のイメージとは全く正反対で、薬師寺にはきらびやかな権力誇示の姿勢がみられ、唐招提寺には利休の詫び寂びにも通じる質素で枯淡なる境地が見られる。とくに「鑑真和上」の霊廟周りの庭や池、宝蔵、経蔵、戒壇のあたりには何か郷愁を誘うような風情があった。

*

●鑑真の墓の裏なる遊糸かな
●日中韓萬世同薫つちぐもり
●霊廟の池の澱みや亀鳴きぬ
●碧眼の僧にくねりし椿の枝
●木を組みて国造りなるつばくらめ
●戒壇にクミンの香り涅槃西風

寺を出て、句会場に向かうため、「西ノ京」の駅まで戻る。
来た路と同じ路を帰るのはつまらないので少し遠回りして秋篠川の川べりを歩いてみる。
川岸は一段高い堤になっていて公園やサイクリングロードが整備されている。川の両側には畑や田んぼ、竹林が広がっていて、たんぽぽやムスカリ、レンゲ、菜の花など、春の小さな花々があちこちに咲いていて、桜も今が満開と咲き誇っていた。

● 初蝶や秋篠川に寄り道す


*KITTEからきっぷ見下ろす彼岸かな=資料官

●はとバスの黄色に並びしのどけしや
●KITTEとは切手また来て春霞

*1 *

1:2009年10月
3年半前の工事風景
まだ旧東京中央郵便局の外壁だけ
東京タワーが見えた

2:2011年3月
2年前の工事風景 JPタワーもかなり背が伸びた
すでに東京タワーが見えなくなった

 3月21日,東京駅丸の内南口前に旧東京中央郵便局跡地の再開発のJPタワーがオープンした。麻生内閣の鳩山総務大臣の横槍で昭和6年に竣工した局舎の外壁面を残して再出発をしたいわくつきの建物。日本郵便が運営する初めての大型商業施設,切手にちなんで名づけられた「KITTE」も営業開始した。全国的に国鉄駅の横には郵便局という並びが定番だと思うが,ここはまさに本丸同士,東京駅と東京中央郵便局が並び立っていた。
昨年10月に東京駅の赤レンガが復興したので東京駅目当ての見物客が増加している。今回,旧東京中央郵便局の6階部分が屋上庭園「KITTEガーデン」として無料開放されたことから,新丸ビル7Fの展望テラスに加えて,また新しい展望スポットが誕生した。新丸ビルは東京駅を真正面から眺めることができるが,「KITTEガーデン」はより近く斜めから東京駅が俯瞰できるので,これまでにない角度で駅舎がカメラに収まる。「KITTEガーデン」がすばらしいのは線路に近いこと。東京−有楽町間の線路の真横にあり,東京駅に発着する東海道新幹線,東海道本線,京浜東北・山手線の電車が頻繁に目の前を通り過ぎる。東海道新幹線の懐かしい車両やブルートレインはもう見ることができないが,新型のN700系Aや東海道線のスーパービュー踊り子251系などもじっくり待てばやって来る。加えて,東北・新潟・長野新幹線の20番ホームに停車中の新幹線のサイドビューが綺麗に撮影できる。2011年3月から走り出したロングノーズの新型E5系の「ときわグリーン」「飛雲ホワイト」「つつじピンク」のスピード感はなかなか捨てがたい。電車好きはついつい時間が経つことを忘れてしまうスポットだが,一般の見物客は東京駅赤レンガの方に向かって記念撮影をしているようだ。
赤レンガの東京駅は高層ビルの谷間にあり,晴れても東京駅にビルの陰がかかるので,撮影にはむしろうす曇の日か黄昏時のライトアップの頃が良いと思う。新たなRail Viewスポットの誕生を心から喜びたい。それにしても,鳩山さん,良い「いちゃもん」つけてくれたということか。  

*3     *

3:2013年3月
KITTEガーデンからの東京駅

4:2013年3月
KITTEガーデンからの東京駅大俯瞰

*5  *

5:2013年3月
東北新幹線のロングノーズ新型E5の三色
向こうに東海道新幹線の700系,N700系が見える

6:2013年3月
KITTEガーデンから有楽町方面
出発する東海道新幹線,真下は「はとバス」の発着場所

*

7:2012年7月
新丸ビル7F展望テラスからJPタワー,右は丸ビル


【編集後記】

「つぶやく堂」のご縁で、清水哲男さんの「新・増殖する俳句歳時記」の週刊「ZouX324号」に、巻頭8句を詠ませていただいた。(ちなみに301号の巻頭はラスカルさんでした。)
清水さんは京大俳句の出身で、「百鳥」の大串章さんとは同期、神戸句会の師匠、原田暹さんの大先輩にあたる。
「H氏賞」を受賞した経歴からすれば「詩人・清水哲男」のほうが通りが良いのだろうが、ネット上で俳句を増殖させたのは彼の功績がもっとも大きいのではないだろうか。
つぶれそうになった月刊「俳句界」の経営をカン・キドンさんが引き継いだとき、初代の編集長として俳句総合誌の大衆化、ポップ化を図ったのも彼である。私より14才年上の74歳だが、現役バリバリ、Gパンの良く似合うハイカラな人で、古臭いものは似合わない。ポップでキッチュな清水さんの俳句は私が追い求めている俳句よりも、ずっとずっと先を行っているに違い無い。

このたびのご縁で、早速氏に「丘ふみ游俳倶楽部・百号発刊記念句集」を謹呈させていただいたのだが、さぞかし「古い臭い」編集だな〜、と苦笑されたことだろう。
「丘ふみ」の百号宣言で、「自由だ、自由だ」と声高に叫んでいる割には俳句の新しい地平が全く見えて来ないのが情けない。

「fなる風」はいつも、fuzzy,fantasy,forte,fanatic,feminineと、優しく強く、しなやかにたおやかに吹いて来てほしいものである。

 (文責 葱男)


■風信

葱男
清水哲男の「新・増殖する俳句歳時記』
「週刊ZouX」324号(4月7日発刊)の巻頭8句

●枯野来て時代の歌を分ち合ふ  中島葱男
『俳句界』4月号/「雑詠」【秀逸】(大串 章 選)
【佳作】(池田澄子 選)

●マッチ擦る掌の中にある雪催  中島葱男
 『俳句界』4月号/「雑詠」【秀逸】(豊田都峰 選)
【佳作】(角川春樹 選)

●小春日や瀬戸の港のねこだまり  中島葱男
『俳句界』4月号/「兼題/小」【佳作】(古賀しぐれ、橋爪鶴麿 選)

●小さき手に大きな林檎持ちて笑み  中島葱男
『俳句界』4月号/「兼題/小」【佳作】(名和未知男 選)

水音
●骨折はあ小さきあやまち春待月 山下水音
『俳句界』4月号/「兼題/小」【秀作】(名和未知男 選)


●クローブの香りが好きでクリスマス  山下水音
『俳句界』4月号/「雑詠」【佳作】(伊藤通明 選)

●光こぼるるクリスマスイブの箱  山下水音
『俳句界』4月号/「俳句ボクシング」【リングサイド】(坊城俊樹 選)

●極月や祈るかたちの膝小僧  山下水音
『俳句界』4月号/「兼題/小」【佳作】(佐藤麻績、橋爪鶴麿 選)

砂太
●歳の市電話片手の髭男 白川砂太
『俳句界』4月号/「俳句ボクシング」【リングサイド】(坊城俊樹 選)

●静けさや小雨一粒石蕗の花 白川砂太
『俳句界』4月号/「兼題/小」【佳作】(佐藤麻績 選)

●留守番を猫にまかせてゐる師走 白川砂太
『俳句界』4月号/「雑詠」【佳作】(山本洋子 選)


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