*無法投区/田草月

〜野に光五月のパンとワインかな〜


*音羽川の滝・立夏=葱男



 京都は東山、宮本武蔵が吉岡一門と決闘したという「一乗寺下り松」を東に、曼殊院から比叡山への登り口を別名「雲母坂(きららざか)」という。
山懐を小川が流れ、その川に沿って、いくつかの堰を越えると、少し広い河原があり、林の中をいくつもの八ツ橋を渡ると、小さな渓谷に辿り着く。
渓谷の行き止まりにあるのが「音羽川の滝」。

●音羽川堰き入れて落す滝つ瀬に人の心の見えもするかな
●君がくる宿に絶えせぬ滝の糸はへてみまほしき物にぞありける
●音羽川水はたぎりてながるとも君が宿にはまさりしもせじ

「拾遺和歌集」に権中納言敦忠の歌がある。

初夏の眩しい光を透かし、若楓のモザイクに一瞬、遠い青春の思い出が映される。
私は意味もなく、河原にいくつかの石を重ねて積んでみた。
夏草の甘い匂いがした。

●草清水きららの石を積みにけり 
(「丘ふみ・第12号」掲載句)


*甲斐の山々陽に映えて=資料官

鉄道少年探偵団8名。シャベ栗をはじめとして九州に5名(K氏,N氏,C氏,M氏),東京にT氏と私そして山梨県にS氏。T氏もS氏も父親が転勤族のため小学校と中学校の何年かを福岡で過ごしただけなのですが,汽車好きという縁で長い付き合いが続いている。
平成17年に鉄道写真集を出版した縁で,私とシャベ栗と私もその仲間となった。

いま山梨ディスティネーションキャンペーンとかで,「週末は山梨へ」と売り出し中であり,この4月には中央東線に蒸気機関車(以下SL)が走ることとなった。地元のS氏のご好意もあり東京の私とT氏は山梨県に夫婦同伴でSL影にいくことにしました。しかも。
ちょうど甲府盆地はさくらが満開,桃も平地では満開でして,丸一日花とSLを丸1日満喫することができました。




桃の花と南アルプスの山並み

●通過する駅ごとさくら眺めけり

新宿駅7:30発の特急あずさ3号乗車。高尾の先は通過する駅ごとに桜並木が続き,うとうとしながらも沿線のさくらを楽しんだ。そうして山梨市駅下車,S氏が来てくれた。しばらくしてT氏夫妻は小淵沢方面から到着。

●汽車を待つカメラの放列桃の花
SLの運転は甲府−塩山間を1日3往復。沿線には遠方からの鉄道ファンに加わり地元のにわかファンも大勢繰り出していた。口の達者なおばさんや若い女性(にわか鉄子)もあちらこちらに。




鉄子登場 SLにカメラを向ける

●桃の園上り下りのあずさ来し
中央東線は東京と甲府・松本を結ぶ幹線です。SLを待つ間,特急あずさと特急かいじがひっきりなしにやってきて,これも飽きない。

●赤ワイン飲み赤ら顔桃の花
列車の合間にS氏の自宅で昼食をいただいたが,地元の小さなワイナリーの赤ワインも堪能した。ついつい飲みすぎてSLの通過時間を間違えて,2本目のSLを撮影に行った時はすでに通過した後の祭りでした。

●D51(でごいち)のひた走りけり桃の花
D51の引く列車は塩山着,9:42,14:13,16:43の1日3本。先頭SL,客車4両,最後尾電気機関車(以下ELという)の編成でした。ちょっと走っては主な駅には止まり,特急や各駅停車の電車に追い越され,またゆっくり走り出す。この日1日甲府盆地に汽笛が響き,煙がたなびいていたのです。




桃畑の中を走るSL列車

●糸さくらあふれて甲斐の山また山
●陽に映えて風に流れて糸さくら
 塩山から大菩薩峠に向かって車で10分,慈雲寺には樹齢300年のイトザクラがあります。SL撮影終えて帰京する電車まで約1時間も余裕があったので,S氏にこのお寺を案内していただいた。夕方にもなると見物客もがくんと減っていてなかなか良かった。夕日に映えて揺れるイトザクラの壮大さに圧倒されて,しばし見とれていたのです。




樹齢300年慈雲寺の糸さくら

●花見ても電車に乗っても日々俳句
そうして夕方塩山発の特急で南アルプスの夕映えを眺めつつ帰京の途についたのです。


かごんま日記:「たいせつ」= スライトリ・マッド

2008年4月26日(土)

*ピアノ弾く後姿や麦青む

いつまでも見つめていたいと、遠くから願った背中
無邪気な笑顔、輝いてたひとみ
永遠にこのときがあることを信じてた
開けない扉もどかしく、言えなかった言葉あるけれど
背中を押してくれたのは、大切なこの場所

信号のない西別府のくねくねした山道を運転中、FMをつけると、話がおもしろい。ローカルの番組。ついつい聞き入る。
ゲストに酒匂加代子という鹿児島出身で現在ニューヨーク在住の舞踊家が出ていた。彼女は高校時代を県立鹿児島中央高校で過ごし、吹奏楽部に所属していたとのこと。同じ部にいたのが、音楽家の吉俣良で、現在NHKの大河ドラマ『篤姫』の音楽を担当している人。吉俣は番組に出演はしていないが、メッセージを残していた。「おかえりー。サコウ!僕もだけど、サコウもいい年になったよな〜?!6月、一緒に仕事が出来るので楽しみにしてま〜す」酒匂は「失礼しちゃうわ!ニューヨークでは、女性に面と向かって年取ったなんて言葉、絶対言わないですよ!それじゃ通用しないと教えなきゃ(笑い)」現在彼らは48歳。「高校時代の吉俣は?」との問いに酒匂はこう答える「彼は下級生から人気がありましたね。部活では彼はパーカッション担当だったんですが、音楽室で一人ピアノをよく弾いていて。それがまるで別人のように見えて確かにかっこよくて。私は同学年だし、何とも思いませんでしたが・・・(笑い)その頃からピアノはうまかったですねえ」

*ベクトルの校章今も蔦若葉

いつか思い出すのかな、渡り廊下から見つめた
高く空に吸い込まれたボールを
春が来て夏が過ぎて、秋に会い冬が行くけれど
心は感じていた、春がもう来ていることを

涙ぐんだり笑ったり、声の向こうには友がいた
大切なことは、わかりあうことだと
そうだね、今なら素直にうなずける
叶わない望みはないから、どんな奇跡もおこせるから
キャンバスに描くのは、果てのないこの思い

加治屋町にある県立鹿児島中央高校は1963年創立。校章は3方向の矢印を模しており、生徒たちの間ではベクトルと呼ばれているそうだ。鶴丸、甲南と合わせて、鹿児島県の公立進学校御三家と称されている。中央高校の本館は、県立第一高等女学校の校舎として1935年に竣工。竣工直後は陸軍大演習の大本営が置かれ、また、行在所となり昭和天皇が7日間滞在。その後,県立第一高等女学校の校舎として、1949年からは県立鶴丸高等学校の校舎として、1964年3月から鹿児島中央高校の校舎として使われ、現在に至る。創建当時は鉄筋コンクリート造りによる校舎は珍しく、その造りには数多くの意匠が凝らされているそう。私は同校に縁はなく、入ったことはないが、写真で見ると正面玄関の階段室をもつ建物など、とても重厚な造りだ。目を引く美しさを今も保っている。昨年8月には、本館と講堂が、国の登録有形文化財に指定されたとのこと。

*たいせつの流るる校舎春色に

いつか思い出すのかな、月明かりの下でひとり
深呼吸して星と話したこと
春が来て夏が過ぎて、秋に会い冬が行くけれど
本当は知っていた、同じ春は来ないことを
いつか思い出すのかな、同じ風が吹いたとき
背中を押してくれた大切な場所
春が来て夏が過ぎて、秋に会い冬が行くけれど
変わらないのはただ、春があふれてたこの場所

13期生の現在ダンサー・振付師の酒匂加代子は、6月11、12日に"Kayoko Sakoh Dance Performance"と称し、かごしま県民交流センターで、ニューヨークで活躍中のダンサー5人とともにモダンダンスの公演を行うらしい。 ゲストには吉俣良を迎え、音楽とダンスのコラボとなり、2人にとっては初の里帰り公演となる。また吉俣は、2004年に同期生のうまごえ尚子氏(元編集者)とともに母校の愛好歌を作っている。40周年記念愛好歌制作委員会の生徒達の作った歌詞に作曲、編詩をして出来上がったものらしい。校歌は椋鳩十作詞の別のがあるとのこと。今春、中央高校を卒業した、私の友人の娘さんのしほりちゃんから聞いた話だが、昼休みには校内放送で「たいせつ」が流れている。

*「たいせつ」 作詞 鹿児島中央高校愛好歌制作委員会、編詩 うまごえ尚子
        作曲 吉俣 良 (2004) より引用


■編集後記

緑蔭の季節がやってきました。
何か新しい事にチャレンジしてみたくなる季節、自然はなんと美しいのだろうと実感できる聖五月です。
みなさんはどんなゴールデンウィークを過ごされたでしょうか?
「何、気楽な事を言ってやがんだい! こっちは、親の介護でそれどころの話しじゃないぜ!(どこ弁や?)」
というような声も聞こえてくるようです。

先日、木陰さんの御両親がお亡くなりになりました。
私の父母も6年前、同じ年にそろって他界し、二月に七回忌を済ませたばかりです。
つい先日、まるで飛花落花と季節に同じうするように、知り合いの御母堂が亡くなられました。
現在ただ今、ご容態が急変されたお父様の介護にかかりっきりの友人がいます。

●散る桜 残る桜も 散る桜(良寛)

今、私達の世代はちょうど肉親の病ひや死に直面しています。私達はみんな、「散る桜」である事に抗うことも逃れることもできない。そして、この当たり前の事実を受け止める勇気が、これからはとても大切になりますね。

けれども木陰さんがひとりフランスに旅立ったように、いつも私達は、何か次ぎに来るものへチャレンジし続けなければ他に生きる生き方はありません。
そしてますます自然の美しさ、命の不思議さを実感するのです。

●見送りしのち糸柳みどりなす (葱男・推敲)




2008年・秋 「丘ふみ游俳倶楽部」記念句集 出版予定です!


無法投区

創刊号 第二号 第三号 第四号 第五号 第六号 第七号 第八号 第九号 第十号 第十一号 第十二号 第十三号 第十四号 第十五号 第十六号 第十七号 第十八号 第十九号 第二十号 第二十一号 第二十二号 第二十三号 第二十四号 第二十五号 第二十六号 第二十七号 第二十八号 第二十九号 第三十号 第三十一号 第三十二号 第三十三号 第三十四号 第三十五号 第三十六号 第三十七号 第三十八号 第三十九号 第四十号 第四十一号 第四十二号 第四十三号 第四十四号