*無法投区/卯月*

〜野の花に光届けや朧月:男剣士〜


*学級経営=砂太

 高等学校の学級経営の一つに学級日誌での応答がある。実力テスト監督の無聊から、パラパラとめくっていてふと感じたことがある。
 ◯月◯日 とにかく暑かった一日の学級日誌、生徒反省欄
「暑い暑いどうにかしてくれー。」
「黒板拭きがこんなに大変だとは思ってもみなかった。」
「午後からは、T君とI君が手伝ってくれた。ありがとう。本当に・・・。」
と記入されていた。担任教師の朱筆に、
「大変良いことですね、助け合って行きたいものです。」とあった。
 その通り、人と人が助け合うのは良いことではあるが、この場合(教育の場合といい代えても良い)それだけで終わるのは少しばかり物足りない気がする。何なのかと考えて見ると、最近人の親切に素直に「ありがとう。」といえる人が少なくなって来ている、ということに気が付いた。この学級日誌の記入者は、他人の親切に素直の礼をいっている。
それも大きな声で。(組担任が必ず読むことを知っている。)これも又大変良いことではないだろうか。教育の現場にいて最近寂しく感じることの一つに、生徒の返事の声が小さくなって来たことがある。「おはようございます。」にしても、「失礼します。」にしても聴こえるか聴こえないか、「はい。」と返事を、したのかしないのか判然としないものが多い。素直に元気よく「ありがとう。」といってはどうだろう。聴こえないことは、いわないことと同じなのだから。


*櫻句五句=五六二三斎

今年の櫻は長く楽しめた。今年こそは、櫻句をたくさん詠もうと頑張った。しかし、 なかなか櫻句はむずかしい。

●愛でる間もなく裏庭の山櫻
大学の裏庭にひっそりと咲く山櫻。いつもそのひっそり感を楽しみにしていたが、何 と4月1日にはすべて散り、葉櫻だけになっていた。

●昆虫と宴楽しく山の花
4月8日に、山口県の山奥の銅(あかがね)鉱山にギフチョウを採りに行った。ギフ チョウは満開の櫻に吸蜜に来るとのこと。櫻の木が5本あった。待てど暮らせど、現 れない。蜂やシロチョウは吸蜜に盛んに訪れていた。山の花は、昆虫だけと宴会を楽 しくやっていた。

●花の雨曇りガラスの車窓かな
満開になりかけで博多は雨になった。西鉄大牟田線の高宮と平尾の間の高宮中学のそ ばに櫻並木がある。電車の中から一瞬ではあるが、この眺めは素晴らしい。曇りガラ スに顔を押し付けて眺める櫻並木。冷たい感触が頬に。

●雨に濡れ涙に濡れし櫻かな
今年の櫻は長くもった。でも、雨には何度か見まわれた。しかし、感激の涙を流した 人たちもきっといたことだろう。櫻に涙、こんな気持ちも味わいたい。

●特急の通過花片ひとつ舞ふ
4月22日の朝の大橋駅。ホームに八重櫻の花片ひとつ舞う。近くに櫻の木はない。 答えはすぐに浮かんだ。電車だ!電車が郊外の櫻を連れて来てくれている。機械とし てしか見ない電車だが、こんな風流なことをしてくれているのだと感激したことだった。  


*サイフォンと唐辛子=月下村

サイフォンの
すぐに沸騰する
milkyな泡立ちだね

サイフォンの ヴィーナスの
生れては消ゆる (消えないけど 消えちゃいそうなぐらい)
ヴィーナスの丘の ヴィーナスにくちづけ

ジワジワと熱い 唐辛子のような私です
唐辛子のような役割の
レシピにも載ってるでしょ
唐辛子の 愛しかた
味わい 音色 絡みかた
なんとも関わりがなさそうで
韻も踏んでないし 齢だって随分離れてるけど

じゃ〜〜〜ん 関係ないじゃ〜ん
既成事実としての 真実現実としての
眼前の
GUNS & ROSES
鉄砲と薔薇 月と太陽 雨情と花 恋人同種ぼくときみ 

サイフォンな君への便り とんがらし


* かごんま日記:" SEVEN SEAS OF RHYE" = スライトリ・マッド

*海坊主春眠破る落とし穴
4月9日、鹿児島県大隈半島南端の佐多岬沖で高速船トッピー4が何かに衝突した。右舷後部に損傷を負い、当初は鯨に衝突か?と報道される。乗客乗員110人が全員怪我をし、骨折などの重傷者は27人にものぼる大きな事故。時速80kmで走行中の出来事。腰椎を複雑骨折した男性の話によれば、ワイヤーかロープのようなものに船が引っかかった感じで、突然、前のめりになり、落下したとのこと。天井が落ちてきて、落とし穴に落ちた感じだったと話しておられた。恐怖の一瞬だったであろう。事故の原因については、鯨の線は消えた。沈没した木材運搬船から流失した丸太かもしれないという話や、超音波に反応した物体が海底に沈んでいるなどいろいろあって調査中だが、定かではない。まさか海坊主のいたずらではないよね?

Fear me you lord and lady preachers
I descend upon your earth from the skies
I command your very souls you unbelievers
Bring before me what is mine
The seven seas of Rhye

Can you hear me you peers and privy councillors
I stand before you naked to the eyes
I will destroy any man who dares abuse my trust
I swear that you'll be mine
At the seven seas of Rhye

*さくらさくら眩暈の如く降りつもる
今日、押し花アートのインストラクターをしている友人に誘われ、県民交流センターの展覧会へ。彼女が属する押し花アート倶楽部の杉野氏は植物学者だそう。花を一番美しい状態で残せないものかと、試行錯誤を重ね、独自の技術を開発したと聞いた。私も学生の頃、よく道端の花を摘んで、ティッシュに包み、本の間にはさんで押し花を作った。が、すっかり忘れてしまって、後日セピア色に変色したものに「あら、こんにちは」もよくあったものだ。短期間のうちに乾燥させ、真空密閉をすることによって、花が変質するのを防げるらしい。急速冷凍と同じ原理かな?桜は散るからこそ美しいのかもしれないが、昆虫採集をするマニアの心理に似ているのかもしれない。草花をそのままの形できれいに配列したものもあれば、全く創作的に違ったものとして使っていて、うーん、これはすごいな!と思う作品もあった。桜の花びらをふんだんに使って舞い散る様を表した作品に目を奪われた。

Sister I live and lie for you
Mister do and I'll die
You are mine I possess you
Belong to you forever

*春動く幾億の生海の中
同じフロアに「海の生き物たち」という写真展があり、ふらりと覗いてみる。写真が素晴らしかった。写真につけた解説もうまいなあ。思わず引き込まれる。後で聞いた話では、南日本新聞に3年間連載されたものらしい。道理で。ラッキーなことに会場にその写真家がいて、つかまえていろいろ質問すると、にこやかに丁寧に答えてくれる。出羽慎一氏。昭和44年大阪生まれの36歳。鹿大大学院水産学部の出身。錦江湾に魅せられ、鹿児島に根をおろしてしまった人。彼は水中写真家として、体調が好いときは1年のうち300日以上潜っていたらしい。まるで半魚人だ!魚類の行動生態学を研究していて錦江湾のどこに行けば、どの魚がいるのかわかるらしい。同じ魚がわかると言うから驚きだ。魚語が話せるのかも。20代の頃、5年の生存率0%という病に侵されたが、2度の大手術を受け、病魔と闘い抜いたというつわもの。潜れないときは写真を見ながら魚たちのことを考えていたことが支えとなっていたとも。現 在は潜るペースは週に1,2度。水中でゆっくり過ごし、さまざまな海の生き物たちと話をし、海の中で彼は癒されるのだろう。彼の話によると、錦江湾は世界に誇れる魅力あふれる海であるとのこと。へーっ、4年住んでいるけど知らなかったなあ。大体東京湾と同じくらいの面積だが、作りが違うんだそう。錦江湾の場合、霧島火山帯に属しており、内湾に古代の海中火山の爆発によってできた姶良カルデラと阿多カルデラの二つの大きな深海があり、浅瀬、岩礁、深海が織り成している。そのために多様な生物が生息できる。約630種類の魚たちを確認しているとのこと。ちなみに東京湾は浅瀬。春の海は濁っているので光が届かず、少し潜っただけでうす暗い世界だそうだ。水温もまだ冷たい。温暖化で水温が冬場に下がらぬと魚たちが年々姿を消していくので良くないのだと。静謐が支配する世界。酸素のポコポコ音だけが響く。きっとお天気のいい日には静かな春の海に包まれ冷たくとも幸せなひとときを過ごしているに違いない。今後の海案内人としての彼の活躍を、是非、是非、期待したい。

By flash and thunder fire I'll survive
I'll survive I'll survive
Then I'll defy the laws of nature
And come out alive

Begone with you you shod and shady senators
Give out the good leave out the bad evil cries
I challenge the mighty titan and his troubadours
And with a smile
I'll take you to the seven seas of Rhye

* " SEVEN SEAS OF RHYE " by Queen (1973) より引用
「桜島の海へ」


■編集後記

自分の中でますます俳句熱が高まっている。
関係しているグループは「めじろ遊俳倶楽部」「つぶやく堂」「増殖する俳句歳時記」「百鳥」「俳句 ににん」「はるもにあ」「月下村連歌会」そしてこの「丘ふみ游俳倶楽部」である。
それぞれに愉しみ方の質が違っていて、それぞれのステージで勉強できる事も、少しづつ異なっているように思える。
どんな場所に置かれているとしても、どんな環境で詩を詠むとしても、自分が表現しようとしている世界は変わらない。
その世界しか表現できないし、また、それを表現するしか私がこの世界に存在している意味はないのである。
持つべき道具が何か、見習うべき技法は何か、獲得しなければならないものの多くは外側に在るとしても、表現する主体はただ此処にある。
さて、主観を離れよ!とは一体どんな詩神の声なのだろう?

(中島、文責。)

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