*無法投区/睦月*

〜神の名を備えて見あぐる山なりき〜


●別れの日 強く握りし手のひらに 最後の君の鼓動を受け取る=前鰤

●明けまして 呪文のように 年重ね=喋九厘

【あ】新しい年に
【け】健康と
【ま】誠の正直さ
【し】幸せ願い
【て】手を取り合い
【お】穏やかな日々を!
【め】目を閉じれば
【で】出て来る初夢
【と】酉年初笑いと
【う】嬉しい年の事始め

*涙痕抄2005年新年=資料官

親しかった会社の同期が2日に逝去。新年は葬儀で始まった。旧年中に見舞いも考えたが,行っても判らぬとのことで遠慮していた。やはり悔いが残る。

●何もせず訃報伝えし 初仕事
●暮れの雪残りし二日 君は逝く
●涙雨歩道を濡らし 冬の暮れ
●通夜帰り 赤ちょうちんに冬の雨
●もの言わず暖簾くぐりし 寒さかな
●熱燗や 三十年がしみ渡り
●友人を彼岸に送りし 七日かな
●外套の恩師白髪 かくしゃくたり
●母一人焼香に立てり 親不孝
●北風や 耐えて出棺見送りつ

*白川砂太先生に捧げる句=五六二三斎

白川砂太先生!昨年の同窓会で、御会いして、初めて先生と俳句の話しをさせていた だきました。これも、中島雅幸丘ふみ游俳倶楽部の部長の句会をしようとの呼びかけ があったからこそ実現したことでした。ここに、白川先生の熱き俳句に対して、感謝 の意を込めて、白川先生を題材とさせていただいた俳句を五句作りました。ご笑読下 されば、たいへん光栄です。

●寒稽古なお教え子へ師の句評
※白川先生の柔道寒稽古のご活躍の若かりし日を思い。
●初便ありぬや関所師の俳句
※しらかわ(白川?白河?後者だったような?)の関所を越えることは、たいへんなこと!
●初漁の砂浜太き手に応え
※砂太の先生の俳号の由来が知りたいところです。
●春隣太き師の腕思いはせ
※先生のことを思い出すにつけ、どうしても先生の太い腕がまず思い浮かびます。
●師の行く方酒を片手に冬の梅
※先生が今日も俳句散策に酒を片手にお出かけではないかと思ってしまいます。
どうか 、益々ご健勝で!一度、先生とご一緒に吟行がしたいものです。

*新春早々神泉深甚専心燦々洗心先進川柳=月下村

●延髄がドキリとした! 2005年1月13日25時13分01秒(いま)を掴む
●想ひ一途 刻み尽くして独楽終ふ
●去年より三歳若い初鏡
●琴始め トゥッ・イィ・キィンと鳴きにけり
※お琴の譜面は13弦が一(ヒィ)二(フゥ)三(ミィ)から始まって最後十(ジュウ)十一弦(トゥ)十二弦(イィ)十三弦(キン)と音符を発音します。
●新機種は うれしはずかし初電話
●聖名祭 ひのもと消ゆる今維新
●切なさに 白梅(はくばい)ほの字の吐息かな
●津軽から 詩神の風か霧の花
※二六斎に
●千代の春 君と生くるが愉しけれ
※妻、久代に
●っ新年か! 歌うぞ歌う! 観念しっ!(回文)
●・・・IWANUGAHANAの初日記
●泣き初めは あんたとふたり向田邦子
●貘枕 一無事/二莫迦/三あそび
●女正月仕事の山と恋の山
●わがおもひ 紅梅(こうばい)信じてくだしゃんせ

*A  Winter's  Tale=スライトリ・マッド

「ようこそ!今日は貸し切りだよ」
エレベーターの扉が開いた瞬間、ユウの耳にタカシの声が飛び込んできた
タカシは大学4年生
アルバイトで駅前のビルの屋上にある観覧車の切符切りをしている
先日アルバイト先の上司から、朝の早い時間に点検運転をすることになったが
用があって遅れるので、その1時間前から動かし始めてくれと頼まれたのだった
ユウは高校時代の同級生
気の置けない友達としてよく会う機会はあったが恋人といえるほどの仲ではない
違う大学に進んだが、結構近い所に住んでいる
ユウは、冬の朝早く電話で起こされ、怪訝な顔をしていたが
観覧車にこっそりのせてもらえるという話を聞き、頷いたのだった
まだ暗い中、自転車で駅まで走り、白い息を吐きながら、タカシに言われた通り
ビルの裏にある職員通用口から入り、エレベーターの8階のボタンを押した
扉が開くとそこにタカシが立っていた
「いいの?ほんとに」
「まだ暗いし、15分で回っちゃうから、大丈夫だよ」
「バイト、首になっても知らないよ」
「my world is spinnin' and spinnin' and spinnin'」とタカシは歌いながら
ユウを手招きした
窓越しに広がる別世界にうっとりした
少し明るさを帯びた空をバックに東の島の黒いシルエット
まだ眠っている街
タカシが持ち込んだCDプレーヤーのヘッドホンから
A Winter's Tale の曲がかすかに流れる
「もうすぐ、卒業だね。どうするの?」
「私なんか、平々凡々な人生よ。何とか就職決まったから、まずは2,3年働いて、結婚するの。相手の当ては無いんだけどさ・・タカシは?」
「院に進むよ。まだしばらくはビンボー暮らしだね」
「そっかー。いいなあ。なんか私と違って、目的を持ってタカシは生きてるって感じだもん。がんばってね。」
少し沈黙が続いた後、タカシが言った
「ほんとは、ユウに待っててくれって、言いたかったんだけど。今の僕にはそんなこと言う資格なんてないもんな」

)Dreaming) So quiet and peaceful
)Dreaming) Tranquil and blissful
)Dreaming) There's a kind of magic in the air
)Dreaming) What a truly magnificent view
)Dreaming) A breathtaking scene
With the dreams of the world
In the palm of your hand

ふと窓にうつった姿をユウは見る
そこにいたのは、一人の初老の女性、タカシはいない
それを見てユウは微笑んだ

■編集後記
相反するもの、心情の表と裏はもともと一体のものである。抒情とは歓喜と悲哀とが表裏一体となって万感胸に迫る感情であろう。まさにモーツアルトの「駈け抜ける悲しみ」であり、それを突き抜けて歓喜に至るベートーヴェンの『第九』である。

ひとが感じていることに優劣はない。それを愛おしむことに優劣がある。体験に感謝すること、よく認識することに本意がある。そういう意味ではおよそ、学問や芸術一般に共通した考え方が此処にあるだろう。哲学然り、俳句然り、音楽も演劇も料理も愛も同様。

言葉とは何か?
一般には動物と人間を峻別する一つの捉えかたとして、言語を獲得しているか、否かという議論がある。歴史や科学を持ち出すまでもなく、生死という究極のテーマをも前提として成立させているものは言語である。
ものの本でこんな話を聞いた。
狼に育てられた少年が人間社会の中で言語を獲得してゆく過程のはなし。
少年はそれまでの精神のカオスから抜け出でて、初めて安らぎと愛と「時間」の観念を見い出すのだが、同時にそれは今までは知らずにいた「死」の宣告でもあったのだ。

あなたが死んでも、ちゃんと神様は見ていますよ。(中島、文責。)

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