*無法投区/文月*

〜命の香りを忘れるな〜


●行く年ぞ 心待ち顔 同窓生=久郎兎

●ああ夏や!季節さき取り蝉時雨=喋九厘

(天気いいのに部屋にコモルのは体に良くない。早くしないと夏が終わってしまう!
さすがにたまらず本日は大分県は玖珠地方まで出掛けて来ております。
真夏の太陽と暑さに夏バテ寸前ですが、まだ生きとります。
梅雨明けはいつやったとかいな?)

●金沢に来てまで飲むかと 友を待つ=資料官

(たまたま金沢に出張で出かけたら濱地さんと一緒になりデパートの前で待ち合わせ をした。わくわくしながら異郷で飲む不思議な気持ち。

●スコッチに匂う優しさ 初恋の =一木

(なぜかスコッチを初恋の味と感じる。で、スコッチは僕の中では春の季語になる。って感じで、新しい季語を作るのも面白いかも……)

●追山笠(おいやま)に なおこの胸の恋さわぐ=五六二三

※丘行きつけの中洲のスナック、ジョリードッグのママのなおこさんに捧げる句
(ジョリードッグは私たちの3年先輩の超美人の秋山洋子さんが長年ママをしておられ ました。その頃、バイトで働いていたのが、今のママのなおこさん!私はなおちゃん と呼んでいます。私の陸上部の1つ先輩のO氏はオバキューと呼んでいました。なか なか理知的な女性です。キープしてたら、3500円ぽっきりです。どうか、お誘い あわせの上、お出かけください。)

●チルンド橋にて=スライトリ・マッド

ザンビア生まれのシングルマザー、クリスチンは19才
5才のジョニーと4才のグレタの母親
子どもたちを寝かせつけるとチルンド橋へ
ジンバブエとの国境を行き来するトラックの行列
ヘッドライトに映るクリスチンの影
トラック運転手や出稼ぎ労働者の男たちを待つ
クリスチンの値段は400円
稼ぎがなければ子どもに食べさせるトウモロコシ粉が買えない
たくさんお金を稼ぐためにコンドームは使わない
HIVが忍び寄っているのも知らずに
日毎にやせ衰えていくクリスチン
薬を買う術も知らず、いつの日か街から姿を消す
ジョニーとグレタは路頭に迷う
地球の反対側では少女は寂しさを紛らわすため身体を売り少年は殺人を犯す
こんな世界にしたのはだれ? 
(毎日新聞7/27コラム「見えない戦争・ザンビアのエイズ」参照+フィクション)

●980円の死(追悼ジャガマリン)=月下村

ふと、観覧車の回る音が聞こえたような気がして目が覚める。
しかし、それは錯角でしかない。彼女はもうこの世界には存在していない。
去年の三月に購入してきたので、誕生石のアクアマリンにちなんで、「ジャガマリン」と命名した。売り場で一番ちっこい、よわっちい雌の子供を選んだ。ジャンガリアン・ハムスターは雌が一匹980円という値段だった。
元来が夜行性の動物でとても神経質。はじめは触ろうとすると、すぐに前歯を見せて怒った。暗くなると、夜中じゅう、一心に観覧車をまわしていた。カラコロカコロと永遠に続く乾いた音の中で、私はいつのまにか眠りについた。

慣れてくると、機嫌のいい時には掌の中によじ登ってきて、ガジガジと皮膚に齧りついた。しかしその感触からはもう恐れの意識は伝わってこず、いわゆる、じゃれて、甘噛みをしているのである。
手からひまわりの種や、キャベツを食べる時と、こんな触れ合いだけが彼女との間で可能な、すべてのコミュニケーションだった。

ハムスターの寿命は、一般には二年といわれている。そんなに短い時間を彼女は観覧車を回し、ひまわりの種やキャベツを齧るだけの一生を終えるのだろうかと思うと哀れな気持ちが先にたった。篭から出して広い畳の上に置いてみても、オドオドとしてそこらをちょこっと廻ってみるぐらいで、すぐに自分の篭に戻りたがった。
そしてまた、元気よく観覧車を回すのである。

庭との間のサッシの扉が20cmほど開いていたのである。
家に帰って来た時はすぐに気がつかなかったけれど、ふと篭をみると、いつものティッシュぺーパーのふとんに血のようなものがたくさんこびりついていた。ほし草が少し乱れて飛んでいる。「マリンちゃん、マリンちゃん!」と呼んで篭の中をさらってみたものの、彼女の姿はもう、どこにも見えなかった。

寿命をまっとうさせてあげられずに、彼女は不意のアクシデントにみまわれて1年4か月で逝ってしまった。
ごめんなさい、マリンちゃん。怖かったろうね。痛かったろうね。
7月20日があなたの命日です。(了)

■編集後記
「丘ふみ游俳倶楽部」、念願の創刊号を上辞する事ができた。感慨もひとしおである。 何人の賛同者が手を上げてくれるのか、とても不安だった。たとえ投句の数が1句でも2句でも、貴重な時間を他人から拝借するほどの価値がこの倶楽部発足にあるのだろうか? なんら実質的な利益を与えないという事だけは確かである。時間の無駄。その「無駄」の部分に少しでも光をあてることができたら、という思いがあった。
連衆の皆さん、この創刊号を読んでくれた皆々様、皆さんの「かきくけこ(?)」が「丘ふみ游俳倶楽部」に今、一番必要なものです。二号からが本当に大切だと思います。なんでも一回目というのは、「失態」はあったとしても本質的に「失敗」はないもんね。
「感動、気力、工夫、健康、好奇心」。命の香りが丘全体に広がりますように・・。(中島 文責  06/AUG/2004)