*無法投区/弥生*

〜ひととせをさくらにつくしはつるのみ〜

*鶯=砂太

 卒業式の翌日、福岡高校図書館の横に並んだカイズカイブキの下闇で、鶯の初音を聞いた。
まだ幼鳥なのであろう、『ホウ、ホケキョ』とまでは鳴けず、ホロホロと鳴くだけであった。丁度、英語科のY先生が近くに居られたので、お教えすると、「本当・・・・・」、「春なのですね。」と笑顔が美しかった。
 三月の初旬、卒業式の翌日なのだから、当然、春であることはわかってはいるのだが、都会の真ん中の高等学校の、僅かばかりの緑の下闇から聞こえてきた鳴き声なので、思わず口に出た言葉であったのだろう。私も又、こんな場所で、鶯の初音を聞くなんて思っても見なかったので、何となく嬉しくて、新鮮で、生徒にも先生方にも、誰彼なしに話してみたのだが、思うほどの反応は得られなかった。やはり、こういうものは、実際に見聞きしないと、心を動かすことにはならないのかもしれない。人間の心の動きの感動という部分の、限界みたいなものを知らされて、少しばかりがっかりした。
 それにしても、良くこんな場所にまで、鶯がやって来たものだと、驚きながら、鶯に感謝もしているのである。

●学び舎の初音幼く木陰闇=砂太


*高千穂鉄道=喋九厘

喋九厘です。
まずは新入会員の皆さま、ようこそ!
どうぞ、お手柔らかに!我が輩はブービー賞狙うゾ!オーッ!

この場をお借りして、ちゃっかり、しばしの宣伝です。
ずうーっと以前に予告していました「高千穂鉄道」の本が4月中旬にようやく発売になります。
まだ最終印刷が終わってませんので断言は止めますが、良い本に仕上がると思います。
(色校正で版ズレや色薄し等、やや不安ありが懸念です。)

タイトル「高千穂鉄道」A5判128ページ、定価1800円+税です。またしても海鳥社からです。

昨年9月の台風災害で全面運休していた第三セクター「高千穂鉄道」は廃止ですが、新会社「神話高千穂トロッコ鉄道」により高千穂―日之影温泉間の復活運転がこの5月にも再開される予定です。
(今年も鉄道廃止が続きます。北海道ちほく高原鉄道、宮城県くりはら田園鉄道、岐阜県神岡鉄道など。日立電鉄も岐阜市内線も消えました。来春には西鉄宮地岳線の一部廃止も確定のようです。)

今回は被害をもたらした五ヶ瀬川ですが、高千穂鉄道はこの五ヶ瀬川に沿って走る車窓の美しい路線でした。
ありし日の高千穂鉄道を紹介し、これからの復活鉄道を応援する本です。
どうぞご覧になってください。また興味ありそうな方へも本のご紹介を頂けますと嬉しゅうございます。
初版は3000部しか本にならんで、重版されんと高千穂の鉄道が応援出来んとです。

●川水流の子猫の散歩レール道
●村の春おばあの背中ネコ隠れ
●春景色ゆるりひねもすニャンと猫

今回の自分句バラします。また下手な句でお恥ずかし。 今度の本に、猫君が2場面に登場です。さてどこでしょう?


*卒業生に贈る句=五六二三斎

 昨年から、卒論生にフルネーム入り俳句をプレゼントしている。実は、昨年、7人の学生に贈り、その全員が管理栄養士国家試験に無事合格したので、今回もということで、この企画を続けることにした。本年の学生は15人もいた。フルネームを入れるとなると、俳句としての出来はいまひとつになる。でも、挑戦しないといけない。管理栄養士の国家試験に全員合格してもらうために!
今回は、私の家にある高島野十郎の「さくらんぼ」の絵葉書に俳句をしたためた。この絵は没後30年高島野十郎展に出品されて、それを絵葉書にしたいとのことで、出版社から100枚もらったものである。さくらんぼの実が実るように、国家試験に全員合格しますようにと願いを込めて、ここに15句をご披露致します。3月23日の卒業式の時に全員に俳句をプレゼントした。季語は、春夏冬。ところで、国家試験は去る3月26日に実施された。全員合格!5月10日が合格発表とのことである。

●春の窓谷の空気は風に乗り     =春田理麻
●一里塚ここやすらかに桜舞ふ    =小塚恭子
●智を求め那の津の船や春の声    =船津智子
●炊く火あり幾代の幸を島の寺    =寺嶋郁代
●なまはげや摘みし夢あり村の衆   =有村夢摘
●育みし八幡の木の若葉萌え     =木幡郁美
●聖五月十の嵐は梢にも       =五十嵐梢
●山桜岬の道のまどかなり      =山崎まどか
●綾杉の香り本谷初明り       =本田綾香
●舞ひ獅子の上下左右のリズムかな  =上野麻衣
●根無草三歩進んで二歩戻る     =三根歩
●麻の花白く美し咲くを待つ     =松尾麻美
●青木の実赤く灯した庭もあり    =木下知美
●松葉蟹本場の宿の湖周かな     =松本周子
●松の内去りし田んぼのなつかしき  =松田理沙


博多暮色=月下村

●芥川の真似する父や万愚節
(父は小説家と云えば芥川竜之介を弧峰として、他の作家の文章を認めなかった。学生時代、僕が何か本を読んでいると、必ず「何、読んでるんだ?」と聞くので、思うままに、稲垣足穂、埴谷雄高、高橋和己、村上 龍、等の本を薦めてみたが、一読「文章が美しくない!」の一言で終わることが多かった。)

●あどけなきしどけなきみよ春の川
(昔も今も「あどけなき、しどけなき」女性が好き。水のように流れている女性に惹かれます。)

●薄闇に生れては消ゆる櫻色
(夕景をバックにほのかに霞む桜色はやがて、朧に変わる。)

●丘の上に菫の女王花開く
(須磨ちゃんの「お誕生日季語」は『菫のクイーン』。ハートの形の葉っぱを持つ菫は大のQUEEN狂!)

●音もなく雪解のように夜の尿(しと)
(最近、前立腺が肥大しております。「すぎな茶」が欠かせません。)

●風が来て君を知りぬる菫かな
(かごんまからの風かな?)

●亀鳴いて独坐の雨も上がりけり
(実際には亀は鳴かないけど、そんなふうに思えるほどの春うらら。)

●櫻月母のウテナの化粧水
(ウテナとは花の蕚のこと。その花の美しさを支えているところです。)

●春分やあくび鴉とともに起く
(鴉も春の朝にはなんだかのどかな感じ。)

●掌を合わせ何も願はず白木蓮
(藤原新也著「なにも願わない 手を合わせる」より。)

●二分ほどに花燈しけり里衣
(先日、26日の舞鶴公園の染井吉野は二〜三分咲きでした。)

●春雨や筆を洗ふてひとしきり
(仕事を終え、勝手なもの想いに耽る時間。)

●はるぬにてそら色が好き空が好き
(春には空色も、水色も、黄色もピンクも白も萌葱色もだ〜〜い好きです。)

●春日傘小物屋で遭ふ猫や猫
(僕の調査によると、小物屋の定番キャラクターは圧倒的に「猫」と「梟」と「兎」。あと、「天使」がちょこっと。)

●ひととせをさくらにつくしはつるのみ
(櫻の花の夜には櫻が本願である。)

●拾われてやよひとふ名の猫になる
(三月に拾って来た雌猫なら、そんな名前を付けるだろうな・・・。)

●見上ぐれば光太郎忌に母の遺影(かげ)
(母は「智恵子」と云いました。現在は「禅室智隆大姉」。)

●烙印において二子なる涅槃雪
(ほんとに双児みたいによく似た性格の人がいる。貌もなんだか似ている。あらら、どうしたもんかな?)


* かごんま日記:" WE WILL ROCK YOU" = スライトリ・マッド

2006年3月22日
*花吹雪少年の顔に戻るとき
ここに今朝の新聞に載った一枚の写真がある。昨日のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)第一回大会の表彰式の後、笑顔で記念撮影する日本代表の選手たちだ。場所は米国カリフォルニア州サンディエゴ市ぺトコパーク。紙吹雪舞う中、全員メダルを胸にかけ、世界一を示す人指し指か、ピースサインをした選手たちの飛び切りの笑顔。まさに少年の顔だ。イチローもいる。松坂も、川崎も、西岡も、福留も。大見出しの記事。これは一体何ポイントの活字?というくらいの大きさ。ドキドキハラハラのキューバとの決勝戦に見事勝ち抜き、初代の王座についた王ジャパンチームだ。野球少年たちの夢が叶った日!よかった、よかった!

Buddy you're a boy make a big noise
Playin' in the street gonna be a big man some day
You got mud on yo' face
You big disgrace
Kickin' your can all over the place
Singin'
'We will we will rock you
We will we will rock you'

*春の園日いずる国の旗の舞ふ
写真の真ん中には日の丸が。日の丸は古くから数々の武将たちに愛用されてきているが、種類もいろいろとあったらしい。現在の日の丸のデザインは、嘉永六年(1853年)大型船12艘、蒸気船3艘の建造を幕府に申請した島津斉彬が日本の総船印として、日の丸を掲げたらどうかと幕府に提案したものに基づいている。しかし幕府はこの提案を気に入らず、老中阿部正弘は三等分した横線を引き、中央部が黒という中黒の旗を幕府案として出した。斉彬は旗の縦横の大きさ、日の丸の大きさなどに試行錯誤を繰り返し、最終的に巾9尺1寸(2m73cm)、長さ1丈3尺(3m90cm)、日の丸の直径は巾の3/5というサイズに決定した。もし斉彬の案が通らなかったならば中黒の国旗がぺトコパークで翻っていたのかも。

Buddy you're a young man hard man
Shoutin' in the street gonna take on the world some day
You got blood on yo' face
You big disgrace
Wavin' your banner all over the place
'We will we will rock you'
Singin'
'We will we will rock you'

*日永かな勝利の酒に酔いしれる
祝賀会ではシャンペンシャワーのどんちゃん騒ぎ。いつもと違って饒舌なイチローがお酒を頭に浴びせられながら「おいこらあ先輩を敬え!」と楽しそうに絶叫するシーンがTVで何度も流れる。きっと、いい試合を見た後、いい気分で祝杯をあげる人も多いのでは?鹿児島県人は焼酎で乾杯か?鹿児島中央駅の正面にダイエービルがあって、その壁面に薩摩白波の巨大広告がある。鹿児島のシ ンボル桜島が黒じょかになっている。黒千代香とは焼酎のお湯割を呑む酒器。面白い画だなあと前から思っていたが、黒薩摩(黒もん)の有名窯元である長太郎焼の初代長太郎が、錦江湾に悠然と浮かぶ桜島をモチーフにそろばん球のようなボディを考案したと聞き、ふむふむと納得。かごんま弁で晩酌をすることを「だれやめ」と言う。だれるのをやめる、つまりお酒を飲んで疲れをとること。黒じょかは囲炉裏の自在かぎに吊るし立ち昇る炭の熱でゆっくり温め「だれやめ」を愉しむために使われてきたものらしい。いかにもほっこりした光景でいいなあ。

Buddy you're an old man poor man
Pleadin' with your eyes gonna make you some peace some day
You got mud on your face
You big disgrace
Somebody better put you back into your place
'We will we will rock you'
Singin'
'We will we will rock you'
Everybody
'We will we will rock you'
'We will we will rock you'
Alright
*" WE WILL ROCK YOU" by Queen (1977) より引用


■編集後記

ライブドアのホリエモンと、彼を糾弾するつもりが自分の浅薄を曝け出してしまった民主党の若手議員。
相反するはずのふたりが同じ穴のムジナだって事になって、世の中、政治も経済も現行システの欠陥が露呈した。
私が棲んでいるきもの業界でも「愛染蔵」の経営方式が崩壊し、おそらくそれに続く大手のきものチェーン店と、彼等を裏らか先導してきた大手の問屋は相次いで潰れることにだろう。
いい気味である。やはりまともな社会ではなかったのだ。
僕が子供の頃、植木等は「サラリーマンは気楽な稼業」と歌っていたし、公務員はひがな、のんびりとお茶を啜って仕事なんかしてなかった。お百姓さんだって、米専業で食えていたし、先生は皆から尊敬されて、停年後には多大な恩給がついた。セレブはまわりにいなかったけれど、貧乏人も結構楽しく暮らしていたのだと思う。
八っつあん、熊さんじゃないけど、茶か盛りにカマゾコと香々(こぉこ)、ダシジャコの尾頭付きで花見ができた時代があった。いい時代だったと思うけどなあ?

(中島、文責。)

無法投区

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