*無法投区/桜月

〜さくらさくら兄ちゃんいつも味方だよ〜


*今年の桜句=葱男

●さくらさくら兄ちやんいつも味方だよ
●花冷やましらに墓を荒らさるる
●金斗雲飛んで桜の便りかな
●今生の一分一秒花時間
●千代に逢ふ桜の森の真暗闇
●枝ごとに闇を深める桜かな
●花朧キスされずとも目覚めけり
●花の雨さつぱり剃りて顎軽し
●あと幾たび花見ではかる余命かな
●花守となりし二宮金次郎

ヒット作なしのやや低調な今年の桜句でした。


*東京は霞遠富士なほ霞=資料官

  最寄の西武池袋線の石神井公園駅の上り線が2月7日から高架になった。まだすべてが完成したわけではないので大変不便である。南口から一旦北口に出て64段の階段をホームに上がる。エスカレーターやエレベーターは設置されているものの朝は混むし,上がる向きが反対方向なのでやむを得ず階段を使っている。地下道を潜るから実質的には86段の階段を上っており,さすがにホームに着くと息切れがする。
嬉しいことにホームから富士山が見えるようになった。駅の周囲はビルが立ち並んでいるので実際に見えるのは前から2両目の3ドア4ドア付近と10両目の最後尾付近だけである。10両目付近は工事中のマンションが出来上がると完全に遮断される運命だし,2両目付近も石神井公園駅が完成すればおそらく見ることは難しくなるだろう。池袋線は高架工事で電車の窓から富士山が見えるようになったが,年々沿線でのマンションなどの建設が進み,しだいに見づらくなってきたのは残念なことである。


1 西武池袋線石神井公園駅上りホーム2両目付近から富士山 




富士山との付き合いは,昭和43年筑紫丘合格のご褒美の東京旅行が最初だろう。実はこの旅行,往路は北陸本線・信越線経由で上野着,復路は山陰線経由で博多まで戻ったいわゆる乗り鉄の原点。武蔵小金井の祖父の家から初めての富士山を見たはずである。寝室のカーテンを開けると向こうに富士山が見え,東京からこんなにきれいに見えるのだと感激した記憶がある。富士山を身近に見たのは昭和44年10月の修学旅行である。雨が上がりの白糸の滝付近で富士山と対面,夕刻は五合目に上り,翌朝は河口湖から勇壮な富士山に対峙した。

小金井の祖父の家からの富士山(2は平成20年1月,3は昭和49年2月)
30年余経過して樹木は伸び高層ビルが目立つようになった 
<左の写真は鉄と写真の師匠であった叔父加藤恒夫氏の遺作>  

2 3


4 昭和44年10月 修学旅行3日目の朝 河口湖からの富士山 
5 平成18年11月 定番の新幹線車窓の富士山 三島−新富士間

4 5


平成10年7月から2年間静岡に単身赴任していたが,住んでいたマンションの13Fの屋上から富士山が見えた。天気が良い朝は屋上で富士山の写真を撮ることを日課とし,特に秋から春の間はパジャマの上にコートを羽織り三脚を抱えて屋上に上がった。東京の自宅に帰らない週末は富士山を眺める散歩・山歩きを楽しんだ。特に,東海道の由比宿と興津宿の間にある薩た(さった)峠からの富士山はすばらしく,富士山がクリアに見えそうな日には早朝から出かけた。

6 平成12年4月 住んでいたマンション屋上からの富士山
手前の駿府公園の桜が満開  
7 さった峠から富士山 左から東海道本線,国道1号線、東名自動車道
平成12年4月  




そして今は,練馬区役所の展望階20Fから眺める富士山がすばらしい。朝は9時からしか上れないのが難点であるが,上れば富士山が丹沢の山並みの向こうにくっきり浮かび上がり,思わず撮影に時間の経過を忘れてしまう。朝も良いが夕方の日没の頃も良い。富士山に日が沈むダイヤモンド富士と称する光景に出くわしたことはないが,一度はその時期に出かけて見たいと思っている。

8 練馬区からの富士山の落日
平成21年12月 



●台風の贈りし夏の富士を見ゆ     17年8月(12号)
●遠富士の初雪ヒルズ五拾弐階     18年11月号(27号)
●初富士や朝一番のロマンスカー    19年1月(29号)
●はっとしてのぞみの窓の雪解富士   18年7月(23号)
●富士山の姿が嬉し寒日和       20年1月(41号)
●くっきりと富士見ゆる日の冴かへる  21年3月(55号)


かごんま日記:「 悍馬〔一〕、〔二〕」= スライトリ・マッド

2010年3月7日(日)
*鈴かけの馬のマンボや草萌える
悍馬〔一〕
毛布の赤に頭を縛び、     陀羅尼をまがふことばもて、
罵りかはし牧人ら、      貴きアラヴの種馬の、
息あつくしていばゆるを、   まもりかこみてもろともに、
雪の火山の裾野原、      赭き柏を過ぎくれば、
山はいくたび雲シ翁の、    藍のなめくじ角のべて、
おとしけおとしいよいよに、  馬を血馬となしにけり。

 今日は、鹿児島神宮の初午祭。460年の歴史を誇る伝統行事で、国の無形民俗文化財に指定されている。小雨の中、周辺は隼人駅前から神社まで、歩行者天国となっていて、自転車で行ってみた。約20万人の人出。薩摩、大隅にある鹿児島の数ある神社の中で霧島神宮に並ぶ大社。神宮の名を名乗れるのは、格式の高い『一の宮』だから。本殿は木造建築では日本隋一の広さとのこと。確かに立派なお社である。「初午」は歳時記では、1月の季語になる。旧暦の1月18日を過ぎた日曜日ということで、例年2月か3月の初めに行われる。毎年20数頭の飾り立てられた馬と2000人の踊り連が繰り出し、賑わう。出番を待つ馬が、ヨイサー、ヨイサーのお囃子が流れると、蹄を上げ、リズムを刻み出す。三味線や囃子歌に合わせ、全身で踊る馬も。まるでマンボダンスだ。栗毛色の体から湯気が立っていた。郷土玩具の馬の絵と神宮が描かれたポンパチと鯛車を買った。

*和弓引く高校生や牡丹の芽
悍馬〔二〕
厩肥をはらひてその馬の、   まなこは変る紅の竜、
けいけい碧きびいどろの、   天をあがきてとらんとす。
黝き管藻の袍はねて、     叩きをたたく封介に
雪ののろしはとどろきて、   こぶしの花もけむるなり。

   神宮の近くの、県道471号線沿いに、見たところ普通の民家だが、窓に何故か同心円の的が貼ってある家がある。よく見ると小さな看板が。桑幡大弓店と。霧島市の広報の3月号にたまたま弓師である桑幡さんのことが載っていた。県の伝統工芸品にも指定されている薩摩弓。鹿児島県では、豊富な真竹を使い、江戸時代ぐらいから格調高い薩摩弓が作られるようになり、明治、大正にかけては全国の生産の9割を占めたそう。しかし弓の需要が減り、今では県内で薩摩弓を作れるのは隼人町の桑幡元象さんと桑幡幸男さんの製作所2軒のみとなっているとのこと。先日我が家の近くの隼人工業高校の裏を自転車で通っていたら、弓道の部活をやっている高校生たちがいた。袴を付け、姿勢を正し、弓を引く女子高生がとてもステキに見えた。

* 「悍馬〔一〕、〔二〕」 宮沢賢治『文語詩稿』(1933年)   より引用


■編集後記

今月のA部門の天位はこれまで68回の「丘ふみ」史上において、歴代最高得点となる29点を獲得した夏海さんの句であった。

●さくら湯のほどけるやうに万華鏡

選者19人中13名、天位が6名、地位が4名、人位に選んだものが3名という快挙である。

「桜湯」とは塩漬けにした桜の花を湯に入れた飲み物のことだが、(「茶を濁す」という言葉を忌み嫌って)よく見合いや婚礼の席で用いられるそうだ。
「桜」は日本人の気質が一番好む花であり、古代の「梅」に替わって、唐風から国風に、日本固有の文化の変遷を象徴する木でもある。

桜の花弁が湯にほどけて開くように、日本人は大陸文化の真似だけにとどまらず、それを独自の島文化に編集しながら歴史をかたちづくってきたのである。 「桜湯」が婚礼の席に用いられるというならば、結婚生活とはまさに「万華鏡」のように花ひらくものではあるまいか。それは個々の家系の歴史や文化でもあり、また国の歴史や文化に喩えられるだろう。

佳い句とはこのように、鑑賞者にいろいろなイメージを喚起させ、解釈を広げさせてくれるものである。

たとえば、ネットで「さくら湯」を調べてみると、「スカンジナビア神話に出てくる愛と美の女神バナジスが名前の由来のバナジウム溶岩石を使った入浴剤のこと」とあった。 実際この句を「温泉」と読んで点盛りをした人も何人かいたようである。 それもまた俳句の面白さのひとつであり、たとえ作者がどのような句意を表わそうとしたのだとしても、俳句はそれを超えて一本立ちしてしまうのである。
まさに「万華鏡」のやうに。

※夏海さん、「部長賞」は貴女が公の「俳句賞」を受賞した時のためにとっておくことにします。まだまだ俳句道の先は長い、みんなでゆっくりと参りましょう。(^0‐)


■消息
葱男:『俳句界』4月号/「めーる一行詩」【佳作】。
●前髪のきちんとそろふ雛の客

夏海(とりごえ夏海):『俳句界』4月号/「めーる一行詩」【佳作】。
●浜の砂鳴かせて凧を揚げてをり




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