*無法投区/七夕月

〜水を打つ石の濡れつつあるが佳き〜


*大徳寺吟行句会 =葱男



所属している「染織サークル/とお染ぼ」の勉強会、今年は私にお世話役がまわってきたので、ここぞとばかりに「俳句会の体験学習」を計画した。
「染織の世界も俳句も、日本固有の四季の美しさを愛でる心から生まれる。 『歳事記』というもうひとつの道具を手にする事は染織に携わるわれわれの仕事にとっても、必ずやプラスになるに違いない! 」
とまあ、そういうお題目である。

という訳で当日の7月27日、猛暑日の続く記録的な炎天下、集合場所の「大徳寺正門前」に参加者を待ち受けた。
生まれて初めて俳句を詠むために、はたして何人の同士たちがこの暑さの中を集まってくれるのか、正直大変に不安だった。ところがどっこい、なんとまあ律儀な仲間たちであろうぞよ! 午後1時きっかりには予定していた14名全員がこの門前に集まってくれた。

〜待ち合わせじりじり灼ける大正門〜

全員が揃うと挨拶を交わす間もなく、吾先にとばかり、寺の深い緑陰に「涼」を求めて予定のコースである「龍源院」の、石庭を見渡す広い縁側へとみんなで避難を開始する。

〜夏日和風さわさわと方丈の庭〜

大徳寺は臨済宗大徳寺派の総本山で、その境内には多くの名だたる寺院があまた建立されている。
中でも年間を通じて拝観を受け入れているのはこの「龍源院」、つづいて伺うのが細川家ゆかりの「高桐院」である。

〜ゆったりと広がる寺の松の道〜

二十にもおよぶ塔頭が広い石畳の卍模様に伸びる道の先々に立ち並び、「茶の湯」文化とも縁の深い松林の境内はいまでも近代の雰囲気をとどめ、現代社会の夏からはどこか断絶した涼気を保ち続けている。

〜地下水のまだ澄みてあり高桐院〜

とにもかくにもこうして初心者13名に私を加え、第1回「とお染ぼ俳句会」は決行されたのであった。


■天位
●黒アゲハ一陣の風人去りし  伸子
◎広、静、英、司、敏○良、俊=12点
(葱:上手すぎるので「座五」の意味に迷いこんでしまいました。)

■入選
●ガラシヤに昔をしのぶ炎天下  修一
◎信○俊、静、英、浅=6点
(葱:「高桐院」には細川家12代までの墓が安置されているが、この寺を建立した三代目「三斎」は千利休の弟子の七茶人に数えられた粋人、彼の墓にはその妻細川ガラシヤも共に瞑っている。しかもその墓の形は利休が創らせた灯籠そのものである。)

●緑陰に女紅葉のきはだちぬ  葱男
◎浅、伸○俊、静=6点
(葱:庭の中央に一本だけ紅葉している燃えるような楓の木があった。寺の僧侶の話だと「女紅葉」と呼ばれる種類の木だそうである。)

●そこべにのさえきりたるやむくげかな  浅子
◎俊○静、信、伸=5点
(葱:「さえきる」が素晴らしい。「むくげ」の傍題である「底紅」を形容詞のように使う手法は初めて見たので驚いてしまいました。「や」と「かな」と、切れ字が2つあるのが惜しい!)

●夏日和風さわさわと方丈の庭  俊子
◎修○光、司、敏=5点
(葱:「方丈の庭」の字余りは不思議と気になりませんが、単に「石の庭」でもよかったかも。)

●暑いのが好き・好き・好き・とせみは泣く  英世
○修、広、静、伸=4点
(葱:やはり「鳴く」より「泣く」で面白い。)

●金色に輝く苔の大海か  静
◎葱○伸=3点
(葱:苔を「金色」と詠んだ天真に感動!)

●あんどんのどこへとびたいいととんぼ  浅子
○良、静=2点
(葱:ひらがな表記に幻惑されて情景がよく、鑑賞できませんでした。「行灯の何処へ飛びたい糸蜻蛉」、「あんどん」ではじまり「いととんぼ」で終わる音感は美しい!)

●炎昼に片影踏みし苔の青  伸子
○良、俊=2点

●石庭に風吹きわたりせみしぐれ  俊子
○信、光=2点 ●地下水のまだ澄みてあり高桐院   葱男
○良、浅=2点
(「三斎井」と名づけられた井戸はまだ健在で、地下から水道が汲み上げられている。)

待ち合わせじりじり灼ける大正門   葱男
○修、透=2点

●緑濃き木陰に白き君が有り  良雄
○修、司=2点
(葱:「緑」と「白」の対比のあとに「有り」がとても愛〈かな〉しい。大人の句ですね。)

●しずけさの中に細川家の紋所  英世
○葱=1点
(葱:細川家の紋は「九曜の紋」だそうですね。そのまま使っても面白いかも但し、脚注「※高桐院にて」は必要かもしれません。「閑けさや墓に九曜の紋所」。)

●見上ぐればいらか尊し白き雲  良雄
○葱=1点
(葱:「いらか」を「尊い」、という感覚は素晴らしい。移り行く雲の変転に対比して、はじめて「いらか」の悠久の時間を感じ取ったものです。)

それにしても、今まで全く俳句のはの字も知らない人間でもこれだけの17文字が詠める、という事に正直とても驚いた。
何も知らない、という事はとても幸いな事でもある。
ところで、圧倒的な支持を得た「黒アゲハ」句の伸子女史は夏痩せダイエット部門でもダントツの天位を獲得、賞品として「松屋藤兵衛」の「味噌松風」一箱が贈られた。
全部食べちゃったらリバウンドにご注意!!


*2008年 夏の花の思い出=資料官

平成16年栗原隆司氏(以下「シャベ栗」という,敬称略)が「九州花の旅」を出してからか,正月を過ぎると花便りに耳を傾けて花を追いかけてすごしてきた気がする。冬牡丹や梅に始まり,寒桜・白木蓮・木瓜・福寿草が続き,3月後半からは各種の桜,連休が近づくと躑躅や藤,5月は薔薇,6月は紫陽花に花菖蒲。このあたりで一段落なのですが,夏は夏で花が楽しめる。游俳倶楽部の約50回記念の中でも夏の花を題材にしてきたが,これまでを振り返りつつ画像を加えた夏の花の話題を三つ。

●紅一点みほとけわきの百日紅 
鎌倉の大仏 高徳院銅造阿弥陀如来坐像(国宝) 游俳倶楽部第2号二席(17年9月)



真夏に鎌倉を歩き回るのにはちょっぴり勇気がいるが,お寺の木陰は涼しげであり,帰路横浜中華街をまわって中華料理に冷たいビールを楽しめるから,最近の夏の行事である。なかでも鎌倉の大仏様(高徳院)は冬も良いが夏木立に囲まれた頃も良い。江ノ電の長谷駅から歩いてすぐだし,銭洗弁天でお金を洗ってから向かうこともできる。大仏様の後ろには有名な与謝野晶子の句碑がある。

かまくらや みほとけなれど 釈迦牟尼は 美男におわす 夏木立かな

この「釈迦牟尼」というのは間違いで,「阿弥陀如来」だとか,晶子はこのことを知ったが,直さなかったとか色々な話があるがどうでもいい。やや頭が大きく猫背気味の姿,いつ見てもこの大仏はいい顔をしている。屋根もなく緑青の薄緑,木々の濃い緑,百日紅のピンク色の組み合わせが実に妙である。

●花カンナ三連水車を見守りつ
朝倉三連水車 游俳倶楽部第2号(17年9月)



4年前の夏,シャベ栗と由布院まで撮影に行く途中に朝倉三連水車立ち寄ってもらった。ほんの田舎道の横の小さな川に三連水車は素朴にコトコトまわっており,さながら線路を小さな蒸気機関車が走っているようであった。シャベ栗はすかさず無人販売の瓜にかぶりつき腹を満たしつ水分補給。のんびりと水車の動きに見とれていたが,久大線の特急の時間も気になり始めてそそくさと立ち去った。シャベ栗の「九州花の旅」の花カンナの写真ん方がみごとに咲いている。

●凌霄花(のうぜんか)気ままに咲いて散りにけり 
游俳倶楽部第25号 (18年9月)

石神井公園のマンションから駅に歩いて向かう途中に檀一雄(檀ふみ)の自宅がある。ちょっと遅めに咲く山桜,いつの間にかすっかり蔦に絡まれた塀,檀太郎さんの2階の書庫の裸電球,この家の木々影の上に昇る満月など,横を通るだけでも趣のある家である。今でも落ち葉掃きやゴミだしに精出すそ子夫人,本にも登場させたでかい犬を連れて石神井公園を散歩する女優の檀ふみなどなど檀家の人々にはよく遭遇する。
檀家の近くの家にはみごとな凌霄花が毎年花をつける。あまりのみごとさにカメラを向ける人も少なくないが,凌霄花の橙色と蔦の緑の組み合わせがなかなかみごとである。駅からの角を曲がると凌霄花が視野に入ってくるが,檀家の前を通り過ぎるまで約2〜3分,この橙と緑の位置の微妙な組み合わせを楽しみながらゆっくりゆっくり通り過ぎる。  



やがて凌霄花の下を抜け正面の檀家の玄関前を右に折れる


かごんま日記:「哀れな草」= スライトリ・マッド

2008年7月31日(木)

*葭簾開かずの窓に翳つくる

土手の上にすかんぼは
れーるの間に立つてゐた
急行ごとに氣を附けをし
人の旅するを眺めてゐた

夕方やけに空が明るい。遠くで雷の音もしている。一雨来そうな感じ。ふと東の空を見ると桜島の左側に大きな虹が!ピンクとオレンジを混ぜたような空の色と大きな虹をパチリと写す。夜の天気予報で、7月のお天気のまとめを発表していた。
鹿児島の今月の平均気温は29,2℃。最高気温の平均は、33,3℃。熱帯夜は31日中、なんと29日!統計開始以来、7月は最多の記録とのこと。暑いと思っていたが、やっぱり暑かったのだ。連日の猛暑で、今年は、はめ殺しの窓には、簾をかけたり、直接日が入らぬよう、ヨシズをあらたに5ヶ所追加したりもした。「暑い!暑い!」を友人に連発していたら、植物を植えたら良いとのアドバイス。植物は熱を吸収し、蒸散作用と言って水を気化させ熱を奪ってくれるというお利口さん!なのね。よし、いろいろやってみるぞ。家の周りは、コンクリートのため植物は植えられない。水遣りが面倒だったので、玄関の水道の近くに鉢植えを集めていたが、窓の近くに、葉っぱの多い鉢植えを移動させ・・せめてものグリーンのカーテンだ。そういえば甲突川沿いに10月にオープンする鹿児島市環境未来館(仮称)が建設中なのだが、建物の色と形が目を引く。屋根が両方の地面からなだらかなスロープを描いて緑色。屋根には全面芝生が植えられている。

*目に涼し芝生を走るユートラム

埃にまみれ 烟を吸ひ
肺を患ひ うらぶれた
哀れな草 弱い莖
眼あり 心あり 耳もある

鹿児島市には路面電車が走っている。大正元年に運行を始め、今年7月で80年に。昭和40年代に、車社会の到来とともに、全国各地で、路面電車が姿を消していった。鹿児島でも、昭和60年に、上町〜伊敷線の廃止という苦渋の合理化も行われたものの、現在なお、1系統(鹿児島駅南〜交通局〜谷山)と2系統(鹿児島駅南〜鹿児島中央駅前〜郡元)で運行されている。最近は、「ユートラム」という黄色いしゃれた連接式超低床電車などが導入されたり、バスと兼用のIC乗車カード「ラピカ」が使えるようになったり、軌道敷内の緑化も進められたり、ますます元気。都市のヒートアイランド現象の緩和にと、去年から軌道敷に芝生が植えられているが、何とも目に涼しい!緑化されていない場合、43℃もある路面が、31,5℃に緩和されるのだそう。しかし、軌道敷の芝生は、屋上に植えられた芝生より過酷な運命が待っているだろうな。振動、熱、車からの排気ガス等々。がんばれ〜芝生くん!

*夏痩せの横顔も見ゆ市電かな

汽車は去り 汽車は近づく
哀れなすかんぼは
鐵道ばかりを見て暮らし
かつて汽船を見たことなし

鳴り物入りの洞爺湖サミットも、いつの間にか終わった。2050年までに二酸化炭素の排出量を1990年に比べ50%削減するという遠大な目標も洞爺湖の霧にかすんだままのよう。2012年に切れる京都議定書以降のプランも明らかでなく、結局、各国エコよりエゴでは?!
しかし、会場の雪冷房にはビックリ。風、太陽、雪に加えて、雨なんかもエネルギーにならないのかなあ?今の車は、空気は汚すは、ガソリン価格は上がる一方。良いところが少なくなってしまった。渋滞の原因にもなる。事故も起こるし。それでも、家から目的の場所までと、目先の便利さに負けて、ついつい使ってしまうのだが・・。ちょっとの不便さを我慢し、みんなが公共の乗り物を使うようになると、0.01%くらい空気がきれいになるのかしら?安いし、時間も正確だし、市電も悪くないかも?そうそう、私の好きなものは、いろいろあるが、夜の街をガタンゴトンと走る市電を眺めるのもその1つ。読書する人。眠りこけてる人、考える人。メールする人。何もしない人。暗い夜、それぞれの人生を乗せて走る明りの灯された箱。なかなかよくない?

*「哀れな草」 by ヨアヒム・リンゲルナッツ 板倉鞆音訳 (1941)より引用


■編集後記
 地球温暖化の影響なのかどうなのか知らないが暑い! とにかく暑い!
京都はもう、毎日が猛暑日の37度超えである。
「欲も得も(前からなかったが)あったもんじゃない。」
首を長くして陽が傾くのを待ち、一気によく冷えたビールをグビリグビリと呑む!
嗚呼、それだけが生きる希望である。

お陰さまで、仕事にも俳句にもてんで集中力がわかない。(言い訳みたいだけど・・・)
とんでもない、「夏の恋」どころの話しではなかった。

今週末からは家内の実家、徳島へ帰省する。
4時起きで、家の槙垣を刈り込んで、お盆を迎える準備をしなければならない。
90才の義父が「自分でやる!」と云うのを「ああ、そうですか、それはご苦労様です。」とは義理の息子として、言える訳ないじゃないですか、ねえ・・・。

そんな訳で今年の夏はこの55年間生きて来た中でも一番暑い夏になりそうだ。

(文責 中島)


無法投区

創刊号 第二号 第三号 第四号 第五号 第六号 第七号 第八号 第九号 第十号 第十一号 第十二号 第十三号 第十四号 第十五号 第十六号 第十七号 第十八号 第十九号 第二十号 第二十一号 第二十二号 第二十三号 第二十四号 第二十五号 第二十六号 第二十七号 第二十八号 第二十九号 第三十号 第三十一号 第三十二号 第三十三号 第三十四号 第三十五号 第三十六号 第三十七号 第三十八号 第三十九号 第四十号 第四十一号 第四十二号 第四十三号 第四十四号 第四十五号 第四十六号 第四十七号