*無法投区/寝覚月

〜有明の月に鴨川ヌートリア〜


*鶴島=葱男

●サフランや胸に十字を切れば海

瀬戸内海に浮かぶ無人島、「鶴島」にキャンプを張った。

「鶴島」は遠藤周作の「沈黙」にも出てくる、隠れキリシタン流刑の地である。明治3年、幕末から明治初頭にかけて盛んに行われた宗教弾圧のさなか、浦上天主堂の信者117名がこの地に流されて改宗を迫られた。(「龍馬伝」に出てくる「お元」の一派だろうか?)

明治6年に禁令が解かれるまでの3年間、島の頂上付近に跡が残る「説教場」で、彼等は拷問を受けたのだった。
島の斜面、朝日がのぼる丘には小さなマリア像と、島で亡くなった16人のキリシタンの墓がある。

 

●コスモスやこの惑星がふるさとか
●丘の上の墓は語らず星月夜


この島に僕たちを誘ってくれたのは、みんなから「兄(あに)さん」と呼ばれている37歳の青年であった。「兄さん」らスタッフは一週間前からこの島に入っていた。彼は毎年2回、春と秋に「満月を愛でる音楽イベント」をこの島で開いている。
彼は私の従姉妹の息子にあたる男で、地元の姫路でDJを生業としている。
「兄さん」はイベントの前の一日を用意して、自分の両親とその友人たちをこの島に迎えてくれたのである。

周囲2キロの小さな島の北西にはわずかな砂浜があり、そこから伸びた埠頭に海上タクシーが横づけされた。
出迎えてくれた若者7名は全員真っ黒、男たちは上半身裸で長い髪をぐるぐるに巻いて頭に乗っけている。女たちはゴーギャンの絵に出て来るようなエキゾチックな顔をしている。
人懐っこそうな若者達の笑顔を見てとっさにこんな言葉が出た。
「大丈夫ですか、日本語、しゃべれますか?」

島に生活するとはこういうことなのだろう、20〜30代の彼等は都会で生活している同世代の若者とは外見からしてまったく違っていた。
彼等は大平洋の島々に暮らすポリネシアン、メラネシアン、あるいはオーストラリアのアボリジニ、ニュージーランドのマオリとも繋がる風貌になっていた。云うならば「ジャポネシアン」だ。彼等は日本全国から集まった、一風変わった生き方を貫いている若者達である。




「兄(あに)さん」」は彼等の「酋長」のような存在である。
それは「ものの考え方」「人の生き方」に関わる思想的、精神的な意味でもリーダーである、ということだ。
広く扇形に開いた浜には流木のトーテムポールが立っていた。
スタッフが寝泊まりするネイティブアメリカンの住居テント「ティピ−」もあった。
切支丹殉教の島は今、太古の海と月を取り戻しつつあった。



●網濯ぐ銀花や秋の夜光虫
●月こよひ火を焚くわれらジャポネシアン


20歳のころに重いB型肝炎に罹った「兄さん」は医者から「30歳までは生きられないだろう」というありがたくないお墨付きをもらった。
入院中に彼を見舞った今の奥さん「玉ちゃん」は初めて「兄さん」を見た瞬間に「ああ、私がこの人を見送るんだ。」と直感したという。

退院後、ふたりは長い旅に出る。
1年半に及ぶオーストラリアの旅の中で、彼等は変わった。
「兄さん」は奇跡的に健康を回復した。
それはある浜辺の出来事がきっかけだった。
ビーチに休んでいた彼等に地元のオーストラリア人が声をかけてくれたのである。
「今晩、友人のバースデーを祝う会がこのビーチで行われるのですが、もし良かったら、君たちも参加しませんか?」

満月の夜、一台のトラックがビーチに横付けされ、観音開きになったコンテナの中には巨大なスピーカーとDJのミキシング装置があった。
圧倒的な光と音と自然の中で、そして見ず知らずの東洋人を誘ってくれた異国人の大きな愛に包まれて、ふたりの中に何か奇跡的なものが宿った。

「兄さん」と「玉ちゃん」はこの鶴島を借りて、年に2回、「満月の夜のイベント」を行っている。
もう10年も続くイベントには毎回80名ほどの若者が参加する。
それは「仕事」ではない。そのイベントの費用(飲み放題のビール)は「兄さん」とその仲間たちがボランティアで身銭を切って用意する。島で獲れるアワビとムラサキ貝、サザエやワタリガニやアサリを料理する。埠頭で釣り上げたベラや小鯛やチヌを焼く。
音楽と踊りのイベントの最後に、「兄さん」は歓迎の「火踊り」をみんなの前で披露する。
アボジリニの太鼓と笛、彼の祈りのファイヤーダンスが空の満月に届けられる。



●満月に届ける祈り火の踊り
●黒き肌こころは真白月赤し


*西鉄の黄色い特急電車引退=資料官

西鉄のかっての特急用電車,昭和を駆け抜けた黄色の2000系が10月17日を最後に引退することになった。2000系が走り始めたのは昭和48年5月,西鉄初めての冷房電車,黄色の6両編成,2ドア,転換クロスシートの時代の先端を行く電車であった。これで特急券不要の特急としてはようやく関東・関西の私鉄に並ぶことができたと心から喜んだものである。5月10日の発車式には福岡駅に出かけて撮影したが,現在のような鉄道ブームでもなくにわか撮り鉄や鉄子も皆無,大牟田行きの特急をのんびりと見送った。
すでに筑紫丘高校卒業してから2年,在学中は校区の北限である薬院に住んでいたが,昭和46年8月に筑紫郡大野町に転居して大牟田線が足となっていた頃である。余談ではあるが,筑紫郡大野町は昭和47年4月1日には大野城市に昇格したので,小生が郡民だったのはわずか7ヶ月間であった。郡民の方々が筑紫丘へ通学していた高校時代は,大牟田線の電車に冷房はまったくなく,暑い思いをして通学したのであろう。


●新涼や起きてすぐ見る宝満山
●秋暑し筑紫郡から通学す


昭和48年から大牟田線の冷房化が始まったのであるが,小生の乗車駅は特急や急行が止まらない下大利,各駅停車に冷房車が来ることは極めて少なくやはり夏は暑かった。ただ2000系の特急の運用の狭間で各駅停車に使われるときには狙い済まして乗車したものである。朝,春日原始発電車というのがあり,これに2000系が使われていたので,下大利から乗車後春日原で下車して乗り換えたことが結構あったと記憶する。翌年には急行電車も冷房化され年々冷房化が進んでいくことになる。

この2000系は翌49年には鉄道友の会のローレル賞を受賞し,記念すべきヘッドマークをつけて誇らしげに大牟田線を快走していた。ローレル賞の表彰式はやはり福岡駅で行われ,参加者の記念乗車として柳河まで往復した。記念のネクタイピンは今でも大切に保管している。

しばし,昭和40年代の西鉄沿線風景を少々



B: 昭和48年5月10日2000系特急の発車式
晴れやかに大牟田行きの特急として福岡駅を出発
2代目福岡駅にて

C:薬院駅は西鉄城南線の電車と平面交差
城南線は昭和50年11月に姿を消した
女子高生も特急に便乗して道路を横断中




D: 筑肥線と交差する平尾駅は当事から高架であった
高宮を通過した福岡行きの特急が軽やかに勾配を上り平尾駅を通過する
ローレル賞受賞記念のヘッドマークをつけていた頃

E:昭和49年の大橋駅は急行も止まらない地上の駅
小さな駅舎とずらっと並んだ自転車が印象的である
郡民の下車駅は大橋派と高宮派に二分されていたような気がする




F:昭和47年4月に大野城市となった下大利
この辺まで来るとまだ田んぼも多く見られた
奥の森は水城の大堤,すでに九州自動車道の姿が見える

G:2000系は特急運用の合間には大宰府線の各駅停車にも登場
五条付近はまだまだ田園風景,宝満山も良く見えた


昭和50年には就職して福岡を離れたので2000系に乗る機会も減ってしまい,やがて後継8000系登場,急行用に格下げとなり2ドアが3ドアに改造されたものの,平成に入ってからも大牟田線の主力して活躍してきた。しかしながら今年で走り初めてすでに37年経過,次第に老朽化が進み2000系は逐次廃車となり,この10月17日に最後に1編成が終焉を迎えることになった。9月25日から10月16日までさよなら2000系急行電車が走る予定である。

●幸福の黄色い電車秋うらら
●秋高し車窓から見る母校かな

今年9月の彼岸前に帰省するとシャベ栗から2000系が特急で走るというビックニュースが飛び込んできたので,2日に渡って最後の特急で走る姿を撮影することができた。西鉄沿線も変貌し当事の高架は福岡駅と筑肥線をまたぐ平尾駅付近だけであったものが,大橋から北はすべて高架となっている。沿線の風景も様変わり,高いビルやマンションがやたら増えているし,なによりも高宮―大橋間の車窓から見る筑紫丘の校舎が建て替わっている。
私が乗っていた昭和の小型電車や青い特急型電車はすべて引退しており,この2000系の引退でまたひとつ昭和を象徴するものが姿を消してしまうことになるのである。37年間ご苦労様でした。



今年の9月20日,久しぶりの特急運用に遭遇
福岡駅に到着した2000系,8分後には特急として大牟田に向けて出発する
2000系電車に見る昭和の大牟田線沿線風景
この福岡駅は三代目


かごんま日記:「思い出すために」= スライトリ・マッド

2010年9月15日(水)

*ジオパーク認めましたと秋高し

セーヌ川の
手まわしオルガンの老人を
忘れてしまいたい
青麦畑でかわした
はじめての口づけを
忘れてしまいたい
パスポートにはさんでおいた
四つ葉のクローバ 希望の旅を
忘れてしまいたい
アムステルダムのホテル
カーテンからさしこむ 朝の光を
忘れてしまいたい

昨日の夕方、霧島市役所にある霧島ジオパーク推進連絡協議会の事務局に「霧島連山一帯が日本ジオパークに認定されました」との連絡が入って歓声があがった。鹿児島と宮崎の県境に広がる5市1町(鹿児島県霧島市、曽於市、宮崎県都城市、小林市、えびの市、高原町)にまたがる地域。ジオとはgeology(地質学)、geography(地理学)などのように、『地形や地質』を表す接頭辞。よってジオパークとは、地質学的に貴重でかつ美しい地球活動の遺産が存在する公園を意味する。霧島には約23の山、15の火口、10の火口湖があると言われている。「世界遺産」は国際条約で認められているが、「ジオパーク」はユネスコが支援する「世界ジオパークネットワーク」が推進する活動らしい。現在世界ジパークに認められているのは、世界20ヶ国、66ヶ所ある。日本からは糸魚川、洞爺湖有珠山、島原半島と、最近認定が決まった山陰海岸の4ヶ所が世界ジオパークになっている。世界遺産が保全や保護を重視するのに対して、ジオパークは貴重な地質や地形などの自然を、観光、教育、地域振興に積極的に活用する取り組みを重視しているのだそう。実際コーラス仲間の貫見さんが先週新潟の糸魚川に行ったと話してたなあ。だから市町村が躍起になってお墨付きをもらいたいってわけね。果たして霧島が日本で5番目の世界ジオパークとなるか?!日本ジオパークの認定は世界ジオパーク認定への前提となる。世界ジオパークネットワークの事務局はパリにあるとのこと。

*すいつちょん龍馬お龍のシルエット

はじめての愛だったから
忘れてしまいたい
おまえのことを
忘れてしまいたい
みんなまとめて
今すぐ
思い出すために

家から東の方向に高千穂の峰が見える。1574m。凛凛しい山容だ。NHKの大河ドラマ「龍馬伝」にも霧の高千穂峰や天の逆鉾のシーンが出てきて、鹿児島では話題となった。JR隼人駅の看板も最近掛け変わったばかり。「ようこそ霧島へ」と、日本語、英語、中国語、ハングルの4ヶ国語の大きな文字で書かれている。霧島の四季を表す4枚の写真と、真ん中には仲むつまじく龍馬とお龍の歩く姿の影絵が描かれている。いつか高千穂に登ってみたいなあ。

*「思い出すために」 詩 寺山修司  曲 信長貴富 (2002) より引用


■編集後記

今月、宗匠の選が面白い。A部門は期せずして

●赤い空その雲ちぎれ曼珠沙華 (地位)
●赤い靴姉妹の順に日向ぼこ  (人位)
●赤とんぼまぎれて遥かちぎれ雲(人位)
と三句、「赤」がそろった。
天位の「鶏頭の朱携へて父に会ふ」も「朱」であるから、今月の宗匠のオーラは虹の上のほうだったのだろう。

宗匠に限らず、主宰級の方々の選句は常人とは少し変わっている。
私が参加している「百鳥」では森賀まりさんと原田暹(すすむ)さんがそうだ。
先日の大阪句会でまりさんの特選は第一句会2句、第2句会1句の計3句が全部暹さんの句だったので驚いた。 「こんなことはもう二度とないでしょう」なんて口の悪い幹事が冗談を言っていたが、その時のまりさんのコメントが面白い。
「くやしい〜〜!」 だって。
つまり、暹さんの句が上手いのは当たり前なので、まりさんは「上手い句」を選びたいとはちっとも思っていないのだ。
それよりも句の内側に隠れている作者のわずかな「詩性」をかぎとることがまりさんの喜びなのだ。
同人クラスの俳人はお互いの手だれた俳句を取り合って安心している。
しかし、まりさんや暹さんは人の選ばない句を選べたときに喜ぶのである。

で〜〜〜、先日、誰からも選ばれずに埋もれそうになっていた私の句を、まりさんひとりだけが並選に取ってくれたので驚いた。

●強引なジェーン・バーキン胡桃割る

「普通、誰も取らないだろう〜!」、いやいや、まりさんはたいした俳人である。


閑話休題
来月から木陰さんがカンバックしてくれる予定です。 乞う御期待!
それから、今月23日、NHKで「さらば八月のうた」が上演されるようです。
昭和の世代は感涙にむせぶこと必定、必見ですぞ!!!

(文責 葱男)


■消息

葱男:『俳句界』10月号/「めーる一行詩」【特選】
●カンナカンナ母デイサービスに見送りぬ  中島葱男
『俳句界』10月号/「兼題」【佳作】(名村早智子選)
●ポケットは全部空つぽ夏の浜  中島葱男
『俳句界』10月号/「兼題」【佳作】(石井いさお選)
●ポケットは全部空つぽ夏の浜  中島葱男

水音:『俳句界』10月号/「兼題」【佳作】(山崎十生選)
●梅雨空やジャズの音色は縞模様  山下水音
『俳句界』10月号/「兼題」【佳作】(石井いさお選)
●梅雨空やジャズの音色は縞模様  山下水音

夏海:『俳句界』10月号/「めーる一行詩」【佳作】
●秋暑しドアの禁煙ステッカー  とりごえ夏海


■句友のページ
俳人・金子敦の小部屋俳句と主夫の間で♪<なを>の部屋空とぶ猫俳句魂海渡の海馬向後崎ふみ(十月桜)の気まぐれ歳時記俳句と写真で綴る日記「日々好日」nemurinn主義


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