*B部門入選作発表*

B部門/『季:冷やか』『漢:人』=全42句 入選32句


【特選】

一席
●人喰ふて高座は果つる捨かがし=夏海


◎葱、砂、雪、秋、白、香○水、五、資△百、前、二=27点
(葱:「人を喰う」という言い方を落語家の話術に喩えるたくみさに感心しました、「捨かがし」がまた、気風の良さをうまくイメージさせてくれます、談志か枝雀ですね。 雪:「人喰ふ」がおもしろい。 白:噛めば噛むほど味の出てくる句だと思います。私の好きな部類の句ではないのですが、いかにも俳句らしい。下の句が句全体を「俳」に仕立て上げているようです。砂太先生でなければ〈部長の句ではないでしょう〉、作者は誰か? 実はこっちの方が気になってしまいます。 水:どんな噺だったのか?すべったのか? 秋:どこで開かれた高座なのかよくわからなかったけれど、面白いと感じた句です。 五:落語のペーソスと捨かがしの取り合わせがいいですね。やや、予定調和かもしれません。 百:かかしと落語は似合ってます。)


二席
●原書読む老人力や竹の春=雪絵


◎水○夏、秋、資、君、前、香△葱=16点
(水:竹の春、いいですね。まだまだいけると元気をもらえます。 夏:老人力、立派です。「竹の春」はぴったりなのか、付き過ぎか? 秋:竹の春が効いています。 資:マルクスの資本論を読む年寄りを思った。 葱:英語も読めない身としてはひたすら尊敬しますね、「竹の春」が茶道の宗匠みたいなイメージを生むようです。「千玄室」の顔が浮かびました。)


三席
●冷やかに睡眠薬の転げ落つ=雪絵


◎夏、五○葱、水△白、君、香=13点
(夏:自分自身の年齢のせいか、薬を飲むことへの共感が。 五:取り合わせの妙ですね。ぐっすり眠りたいものです。 葱:「冷やか」という季語をこんな場面に使うのは自分の領域だと思っているだけに「先を越された」感じです。 水:しみじみ冷ややかな情景です。 白:これを文字通りに読んでしまうと、とてつもない悲嘆句になってしまいますね。そしてそう読ませない工夫〈意図したかしないか別にして〉が「転げ」という文字でしょう。そこに滑稽感があり「俳」が感じられます。しかし、作者の心はいまひとつ見えてきません、そこが惜しい。)


三席
●冷やかや機械は人語もてかたる=夏海


○五、雪、白、ス、香△葱、水、砂=13点
(五:私の解釈では機械に人語は語れないという反語かと。 白:昨今の人工言語は本当によくできていてとても自然な感じになりました。それは若者たちの言葉よりも自然に受け入れられるものになっています。しかし、どこかに相変わらず違和感が残っています。「じんごもてかたる」というどもりのような口調が効果的ですね。 葱:ちかごろの「人間型ロボット」のリアルさはなんだか恐ろしい気がします、生身の人間が大きな錯覚を起こしそうで、そのうちに動物として錯乱しそうです、「人間はロボットではない!」と言い切れる根拠が薄らいでしまうようです。 水:古びた町工場を思い浮かべました。)


【入選】

●酔ふ人も連れだち巡る月の池=砂太
◎澄○秋、前△喋、メ、香=10点
(秋:自分が動けば動いたようについて来る月。池に映った月もほろ酔い加減らしい。)

●ありの実は人待ち顔に雫満つ=君不去
◎前○喋、百、メ=9点
(百:勉強になります。 葱:☆「ありの実」とは「梨」のこと、昔の人の言葉遣いは粋ですねえ。)

●秋冷を胸で斬りつつ走りけり=葱男
○澄、夏△喋、砂、資、ス=8点

●人や人わっしょい実りの声や声=秋波
◎メ、資○二=8点
(資:上五下五のリズム感が良い。 葱:「全身文学家」で宗匠が問題にしているのは「わっしょい」にするか「わつしよい」と全部大文字表記にするのか、ということです。俳句では「どじょう」も「どぜう」になってしまうのが通例。音的には「わつしよい」なんて発音すれば祭にもなんにもなりませんが、切れ字の「や」が入っているので基本的には大文字表記です。しかし、「や」という切れ字は現代でも比較的使われている言葉なので、この句を「現代俳句」とするなら、「わっしょい」のほうが気持ち良いでしょう。)

●ひやひやと魚のにほひするトマト=白髪鴨
○砂、雪、ス△五=7点
(五:魚とトマトの取り合わせはイタリアンなのでしょうか?オイルサーディンかな?)

●秋冷や宇宙(そら)に浮かべし望遠鏡=夏海
◎二△澄、白、ス=6点
(白:メルヘンチックな句ですが、秋冷と望遠鏡という対比に惹かれました。ところで今、宇宙はさらに加速的に膨張しているそうです。〈宇宙に浮かぶ望遠鏡を含めていろいろな種類の望遠鏡で〉はるか彼方の宇宙を覗いても、しかしわれわれには遠い過去の宇宙しか見ることができません。あ〜この矛盾…。)

●何人も刻む半年曼珠沙華=五六二三斎
◎百○白△秋=6点
(百:みな同じようでまったく違う人生 を考えさせる。 白:普通なら昨年の秋の彼岸との比較を持ってきて一年の時を感じる〈感じさせる〉のですが、春の彼岸からの半年で時を感じさせているところが新鮮です。曼珠沙華が刻んだ時を象徴していますね。 秋:これまでは1.17が、これからは2011.3.11が物事の時間の記憶の基準に。)

●秋冷の大笊に干す野菜かな=スライトリ・マッド
△水、五、百、雪、君、香=6点
(百:「大笊」「干」「野菜」の字面に惹かれた。)

●教会のペンキ剥がれて冷ゆるなり=水音
○葱△砂、ス=4点
(葱:世界平和のために、クリスマスまでにはペンキを塗り直してほしいものです。)

●先生の人生如何に秋彼岸=五六二三斎
○君△夏、メ=4点
(葱:☆昔の松竹の文芸映画を憶い起こしました。木下恵介風の。)

●つけまつげ人畜無害あかまんま=水音
◎喋△資=4点

●ひやひやと肩を包みぬ今朝の風=秋波
○澄、百=4点
(百:とりあえず肩を包むのが秋らしい。)

●虫籠を抱え行く人旅の宿=君不去
◎ス△澄=4点

●秋茄子を家人の皿からひとつ取り=メゴチ
○二△白=3点
(白:とても日常的な句なのですが、細やかな情感が感じられます。そこに〈さながら仕舞に似た〉動作があるからなのでしょうか、ひとつ日常から飛び出した感覚がありますね。ある瞬間の切り取り方ともいうべき…。)

●秋冷えの港ほつこり焼きカレー=雪絵
○砂△二=3点

●うろこ雲父には父の人生観=資料官
△澄、夏、雪=3点
(夏:類想あるのかも、しかしそれだけに共感もできる! 葱:☆良くも悪しくも「父」から学ぶことのすべてが息子の人格や気質を形成していると言っても過言ではないでしょう。そういう認識があってこそ、ようやく父を越えるのでしょう。)

●立待や深夜バス待つ人の列=資料官
◎君=3点
(君:都会の景色が切り取られて。実感!!)

●冷ややかな風のにほひの新しき=香久夜
○メ△喋=3点

●秋雨に滲むガス燈人や来ぬ=秋波
△メ、前=2点

●秋彼岸かうべをたれぬ人でなし=水音
△五、秋=2点
(秋:実るほどかうべを垂れる…、を意識した?)

●秋冷や四方の山々すまし顔=五六二三斎
○喋=2点

●良夜なりマスターの死は詩人の詩=葱男
△夏、雪=2点

●秋暑し烏賊焼く人も買ふ人も=砂太
△葱=1点
(葱:世間の中にあることの、今目の前のある「現実」に対面していることの真の「幸福感」が作者に内包されています。)

●コギトエルゴスム故の秋思や神の庭=砂太
△百=1点
(百:「cogito ergo sum」を俳句にしちゃう強引さ。)

●ソナチネの半音はずれて冷やかに=白髪鴨
△秋=1点
(秋:調子はずれの音も澄んだ空気の中では響くんですよね。)

●冷え冷えと父のゐぬ家三年半=資料官
△君=1点

●冷やかに散りゆく花の赤眩し=メゴチ
△前=1点


●まんじゆしやげとりどりに咲く家の人=スライトリ・マッド
△資=1点


B部門入選作〈back number〉

創刊号 2号 3号 4号 5号 6号 7号 8号 9号 10号 11号 12号 13号 14号 15号 16号 17号 18号 19号 20号 21号 22号 23号 24号 25号 26号 27号 28号 29号 30号 31号 32号 33号 34号 35号 36号 37号 38号 39号 40号 41号 42号 43号 44号 45号 46号 47号 48号 49号 50号 51号 52号 53号 54号 55号 56号 57号 58号 59号 60号 61号 62号 63号 64号 65号 66号 67号 68号 69号 70号 71号 72号 73号 74号 75号 76号 77号 78号 79号 80号 81号 82号 83号 84号 85号