カナリア 金子敦論=葱男
映画「未知との遭遇」のワンシーン。
主人公のロイが鳥籠を手にデビルズタワーに
向かう場面がある。
鳥籠にはカナリアがいて、外気に何か異常が
あればカナリアに変化が起こるはずだ。
謎の毒ガスが発生したとして、デビルズタワ
ー周辺は軍によって「立入禁止地区」に指定
されていた。軍の最高機密により、UFOとの
交信場所としてデビルズタワーは一般の人々
から情報を遮断されていたのだ。
映画のストーリーではその後、ロイは真実を
確信し、ガスマスクを外してUFOに遭遇する。
鉄条網ひとつひとつの棘に雪
現代の世界は不安と狂気に満ちている。
そして私たちは、その不安や狂気を作り出し
ているものの正体を見ることができない。
何かがおかしい、世界は本当は美しいはずな
のに、人々は善意に満ち、輝きながら命を謳
歌できるはずなのに・・・。
人々はいつの間にか支配者層から管理され、
人生のベルトを敷かれ、人工的で劣悪な環境
の中に押し込められ、マネーに縛られ、得体
の知れないピラミッド社会の底辺で重い荷物
を背負わされ、搾取されている。
縦社会の競争や謀略から一定の距離を置き、
今も繊細で純粋な子供の心を持ったまま大人
になってしまった金子さんは、そのような社
会変化を敏感にとらえるのだろう。
金子さんの俳人としてのキャッチフレーズに
「猫俳人」もしくは「スイーツ王子」がある
が、私はひそかに彼の「カナリア性」のある
句、あるいは「海月性」の高い俳句にも惹か
れてきた。
おそらく、金子さん本人はそれらの特異的な
自分の感性を意識していないと思う。彼は彼
の「猫俳句」「スイーツ俳句」を多くの金子
ファンのために詠んできた。金子さんのファ
ンが彼に求めている俳句を提供することで、
彼のタマシイの欠けた部分が満たされてゆく
からだ。しかし、それでもなお、現代社会は
彼から多くのものを奪いにくる。
いや、彼だけではない、本当は今を生きてい
る都会人の99%の人間は、残りの1%の支
配者層から何か大切なものを盗まれている。
現代の複雑で人工的で詐欺的なシステムに
組み込まれた多くの現代人は、自分のタマシ
イを盗まれていることにも気づかず、日々の
生活を必死に生きることで精一杯だ。しかし、
彼の持っている純粋で傷つきやすい、むき出
しのタマシイはそれに敏感に反応する。
得体のしれない、気づかぬうちに取り込まれ
てしまう非人間的な社会、人が人を家畜のよ
うに規制、抑圧してくる管理社会を、鋭い直
感で掴む17音の叫びは、金子さん独自の俳
句領域だと私は感じている。
彼から贈っていただいた第6句集「シーグラ
ス」の裏表紙には、私がリクエストしたこの
句がしたためられている。
まだ僕は海月の骨を探してる
この五年の間に「丘ふみ」に投句された次の
ような句群は、私と彼を深く結びつける「文
学」の本質ではないか。これらの句群のほと
んどは、彼の6冊目の句集には掲載されなか
った、日の目を見なかった俳句かもしれない。
しかし、同じ時代を生きるものとして、私は
深く、彼の傷ついたタマシイに共感するので
ある。
マネキンの唇真つ赤万愚節
落花浴び孤島にひとりゐる心地
天窓を過ぎるドローン冴返る
ながながとdelete押して冴返る
裸木に三面記事のまとひつく
2021年
史実より美化さるる劇神の留守
献花台にひざまづく人鳥雲に
いま90%ほど凍つる蝶
政治家の言ふ正論や寒波来る
2020年
底冷やAIが句をあまた詠み
遮断機の無き踏切や返り花
「ねじ式」を読めばいよいよ霧深し
傷口のぱつくり開いてゐる海月
海月より教はりしことまだ秘密
海月ならきつと分かつてくれる筈
2019年
ゲルニカの贋作十二月八日
居酒屋にゾンビの集ふハロウィーン
自ずから水葬となる海月かな
蝙蝠のミイラ貼り付く室外機
前世を語り始める蟇
夜汽車から蒼い水母が降りて来る
2018年
露の世のスマートフォンの重さかな
吸殻の彷徨つてゐる夜の噴水
不登校の子の落書きや鳥雲に
2017年
タマとシイふたつ重なるましら酒 葱男
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あたたかき17音・石井清吾「水運ぶ船」 *
西鉄福岡市内線の思い出=資料官 *
ラクナ梗塞・闘病記=葱男 *
虹魚さん(土屋竜一君)・追悼=葱男 *
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*北海道ツアー/十勝・富良野・浦臼篇 *
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*2017・写真俳句大賞 *
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*第8回・田中裕明賞 「フラワーズ・カンフー」小津夜景 *
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金子敦「乗船券」 *
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