あたたかき17音・石井清吾「水運ぶ船」=葱男

俳句とは視点(アングル)であり、想像力(イマジネーション)であり、詩情(ポエジー)であるが、それ以上に俳句とは人柄である。
句集にまとめられたとき、作者の人物像がくっきりと浮き上がってくれば、その人こそが「俳人」なのだと思う。
つまり、作者のボキャブラリーとか文法的知識とか文化的、経済的環境、ましてや年齢や容姿が重要なのではなく、作者がどんなキャラクターなのかが読者に伝わることが俳句文学の魅力だと思う。
そういう意味であえて言うなら、俳句は創作ではない。
句を詠むとは、自己を開示することである。人前で自分を晒けだす勇気のようなものである。その勇気は人を信じる力から生まれる。また人を信じる力は人から愛されることによって生まれる。
そのようにして読者は詠み人となんらかの共感のもとにあり、なんらかの形で両者が互いに救われることで「文学」は成り立っている。

清吾さんとはプライベートでもとても仲良くさせていただいている。
初めて清吾さんに会ったのはたしか「里」の超結社句会に出席したときだった。
池谷秀子さんと一緒に現れた背の高いおじさんを秀子さんは、同じ結社「青垣」の句友ですと私に紹介してくれた。

「里」の句会で私は少々苦々しい思いをしたのだが、そんなことはどちらでもいいぐらい、私は清吾さんに知り合えたことを嬉しく思った。
清吾さんはとても明るくて気さくなおじさんだった。
その後も秀子さんを通じて清吾さんと会う機会が多く、会うたびに清吾さんの人柄に魅かれるようになった。
どんな相手にも垣根を作らず、あけっぴろげで明るくておしゃべりで、あとで彼が「東大出」のエリートであったことを知って驚いたくらいである。
それほどに彼は(こんな言い方をしては失礼なのは百も承知で敢えて言うなら)「男のオバサン」なのであった。

その経歴を知ると、清吾さんがとても聡明な人間であることは言うまでもないのだが、それ以上に重要なのは彼が無類の努力家であるということだ。
博士号を得た生物化学の研究者が、ひとたび俳句を学ぶという段になれば、その勉強熱心なことは私の百倍以上だ。

彼が2020年度の「俳壇賞」を彼が獲得したというのはある意味必然なのかもしれない。
それにしても彼の年令や句歴を考えると、今回の受賞は俳句界にとってもとても稀有なことだと思う。
年齢や結社の力のせいにしてチャレンジを諦めている同人の方々が世にはたくさんいるけれど、彼の存在が「高齢者俳人」にとって希望の星であることに間違いはないだろう。

清吾さんの多くの句には、他者へのあたたかい眼差しがあります。

●子の描く魚に睫毛あたたかし
●風船とピエロの鼻がやって来る
●おふくろに名刺送りぬ新社員
●寺町に好きなカレー屋帰省の子
●畳目につまづいてゐる冬の蝿
●銛喰らうて百年生きし鯨かな
●犬の墓聞いて出て行く帰省の子
●昨日まで野に育ちたる子猫抱く
●予約しておきたきベンチ初紅葉
●縁側は爪切るところ石蕗の花
●曲水のつつかれて盃動き出す
●戻りたる本に書込卒業す
●南風吹く二人で絞る柔道着
●あら炊きの小骨美し生身魂

清吾さんの初句集「水運ぶ船」については十志夫さんが彼のブログ「俳句と主夫の間で(2)? (livedoor.jp)」でも鑑賞されていますので「写真俳句」のページの末尾、「句友のページ」からごらんください。


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