*初昔・追悼句=葱男

●ハモニカは空耳なりき年の逝く (小沢昭一 10/12/2012)

※ 哀愁を帯びたハモニカの音が遠くから聞こえくるようです。「丘ふみ」の阿Qさんの俳優修業は小沢昭一の「芸能座」から始まったように聞いています。今月の彼の投句のうち4句が師に捧げられた追悼の句でした。 「歳の瀬にわが師は逝きて空青し」「師の逝きてまた路地の声飾売」「 師の声によく似た啖呵の飾売」「 歌舞伎座の柿(こけら)待つ路地飾売」

●寒声の似て非ならざる勘九郎 (中村勘三郎 05/12/2012)

※十八代目中村勘三郎は昭和30年生まれ、私より三歳も年下だった。こんなにも人の命というものは熱く、輝きを放ちながら、それでも脆く、儚いものなのかと今だに彼の死が信じられない。彼は自分の関わることのできた全ての人間を愛し、またその全ての人間から愛されたように思う。役者としても、伝統文化の継承者としても大きな役割を担っていただけに、ひとりの歌舞伎役者の死を芸能界全体が嘆き悲しんでいるように思う。年末の番組でビートたけしが呟いた「談志が連れていったな・・」という言葉が今でも深く耳に残る。息子の勘九郎の、深い哀惜の中にも凛としたりっぱな佇まいが余計胸に響いた。

●紳士たれ政治家諸君!竜馬の忌 (三宅久之 15/11/2012)

※「TVタックル」が好きで毎回かかさず見ている。中でも歯切れの良い三宅さんの弁が好きで、その時事放談には澱んだ政治世界の雲を一掃してくれるような清新な風をいつも感じていた。何よりも紳士であった三宅さん。物事を真正面から捉え、詭弁や晦渋を画策することがなかった。彼が最後に思いを託した安倍晋三が総理大臣になったので、少しは品格のある政治を期待してみようかと思う。

●冴え冴えと眠りの森の時間です (森光子 10/11/2012)

※喜劇もこなす達者な役者さんで可愛いところもあったけど、苦労人でもあり、華やかな場所にずっと立っていたわりには何故かその身の内に「悲しみ」を感じた。

●セクシーに紫色の月冴ゆる (桑名正博 26/10/2012)

※不良ぶっているわりには育ちの良さが出てしまう優しい男だったんじゃなかろうか。「月のあかり」はカラオケの持ち歌のひとつです。

●飄々と名の木散りぬる北の国  (大滝秀治 2/10/2012)

※感心するほど演技が上手かったなあ〜。ドラマ「北の国から」や「うちのホンカン」が大好きだった。八千草薫とのコンビで演じた、情感のこもった温かい夫婦役が忘れられない。

●凍星に十篇の詩の転位せり (吉本隆明 詳細不明)

※「共同幻想論」はさっぱり理解できなかったが彼の詩はわりと好きだった。高橋和己や三島由起夫にはない透明感と、原初的なる倫理がそこにはあったように思うがどうだろう。純朴か唐変木か、「思想」というよりは「思念」の重量感のようなものを感じていた。