*丘ふみ俳句:ユ−モア精神派(喋九厘篇)=葱男


*喋九厘(葱10選)

■天の川見上げてごらん男泣き
■ススキにも小さな秋の誕生日
■夏来たり由布岳仰ぐ足湯かな
■乾杯!ビール覚える文化祭
■五月湧く裏宝満の金の水
■行く春や四ツ葉クローバーに寝転がり
■冬晴れの函館根室一筆に
■夏名残つつつつつつと月と蟻
■秋指すや参道カフェの風見鶏
■渋柿に白煙流れ肥薩線

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今月5月号の「俳句界」の「鉄道で行く! 初夏の 名句めぐりの旅」には
喋九厘さんこと、「栗原隆司」さんの写真がたくさん掲載されています。
どの写真も明るくて、屈託がなく、濁りのない透明感に溢れる写真です。
写真も俳句の人柄も変わりません。なんの衒いもなく、なんの飾りもない少年のような句柄が彼の句の本質です。
喋九厘さんは「旅ぐらふぁー」と自称するように、人生のほとんどの時間を旅の途上に、電車や汽車や季節の花々の写真撮影しながら暮らしています。日本中、一体、どのくらいたくさんの町や郊外の田園風景の中に身をおいて過ごしてきたのか、想像がつきません。ですから、毎月送られてくる彼の俳句の半分は旅の土地や駅の名前が入ってるんじゃないかと思われるぐらいです。
日本中、さまざまな楽しい土地の名前が詠み込んである句をちょっと紹介いたしましょう。

雪見列車 石炭ストーブに 岩木山
雪も舞い 津軽海峡 夢景色
野焼き済み阿蘇山麓の一心行
櫻花散る齢重ねて知覧にも
山藤で観世音寺に時満つる
秋桜や彩を乗じて水城跡
駅名に源じいの森杉花粉
川水流(かわずる)の鉄路無惨に秋気配
高千穂やレール赤錆びて鰯雲
牙をむく五ヶ瀬川にも秋近し
梅散りぬ大畑(おこば)駅前るうぷ線
すみれ咲く由布岳優し風の声
美袋(みなぎ)なるローカル駅に木の実熟れ
鶴泊林檎を揺らす五能線
玖珠川の友呼ぶ三隈鵜飼かな
ぶくぶくと蕾秋桜花真幸駅
思案かな七草ナガサキ今日も雨
錦江の向こうの夏に桜島
川辺と球磨清流逢ひて初夏の風
代掻きの土くすぐるや阿志岐の子
十三里(とみさと)と三里木結ぶ秋鉄路
エゾシカも釧路根室も氷点下
流氷やオホーツク閉じて凍る息
唐船峡に車椅子押し初夏の風
吉木っ子宝満川に潜る夏

しばしば旅のエッセイ(コメント)が句に付け加えられているのも彼の俳句の特徴です。

紅葉山新夕張に標朽ち
(夕張線紅葉山駅が石勝線新夕張に改称して幾歳月。駅前には旧駅名標が朽ち果てる…次駅の楓駅も廃止されて久しい。大夕張炭田の名残りは今…。)

夏草の夢まぼろしと現川
(長崎本線の山深き駅を寝台特急「あかつき」が通過して、長いトンネルへと吸い込まれて行く)

竈門社のぼけ平凡と花みくじ
(竈門神社の花みくじ あなたの花は ぼけです。花ことば 平凡 中吉50円)

嘉例川百六歳の桃節句
(満百六歳を迎えた嘉例川駅舎に雛飾り、華やぐ3月の午後)

山ゴボウ秋紫の色香かな
(四王寺山頂にて、朝日を浴びた山ゴボウ、茎も実も豊満な赤紫が艶っぽい。山中で、黄色いハート形の葉を目印に、つるを探り山イモ掘りに興じたは遥か小学生時代)

根子岳の七色王冠かぶる秋
(阿蘇五岳のひとつ根子岳はギザギザ頭の山容で、山麓、山腹に彩り鮮やかな紅葉が輝き始めると、それは自然の大いなる王冠に)

はいチーズ筑高生の桜舞台
(桜満開の竈門神社にて留学生を招いての観桜会、現役の筑高生が日本舞踊を披露する。和服の彼女らを取り囲む記念撮影の留学生たちの列はいつまでも途切れない)

満々と桜映して荒瀬ダム
(春は桜並木の美しいダム湖畔をSL人吉号たちがのどかに行き交うが、夏になればよどんだ水と堆積物で異臭に悩まされるという。地元の願い通り一日も早いダム撤去は実現できるか?)

両毛の紫陽花想ひ思川
(チェルノブイリ25年、放射能を克服したネズミの進化が実証されたそうです)

浪江より夜ノ森末続大晦日
(30年前にふるさと浪江に帰った彼女と、いつの日かの常磐線復活を願い沿線の人々に捧ぐ)

三鉄や希望走らせ除夜の鐘
(被災したすべての人に捧ぐ、三鉄は三陸鉄道)

冬の虫3・11片男波
(来年こそは平和で笑顔の年となりますように)