*現代カタカナ俳句=葱男

〜じゃんけんぽんパイナップルを6等分〜

いつもお世話になっている月刊「俳句界」ですが、今月号(7月)の付録の「現代カタカナ俳句集」に葱句が2句掲載されました。
まこと恥ずかしくも、嬉しいお話であります。

とりあげられたのは「カンナ」と「タオル」のアンソロジー。
「カンナ」のほうは「カンナカンナ母ディサービスに見送りぬ」、「タオル」のほうは「はなやかなタオルに巻かれ竹婦人」。 いずれも「めーる一行詩」で特選を戴いた句でした。

この冊子は「俳句界」2009年1月号から2011年5月号までの間に掲載されたカタカナ語を含む俳句を、「俳句界」の編集部が撰んだものだそうです。
その中には私のような初心者から小川軽舟、高橋克弘、神野沙希のような新進作家、正木ゆう子、池田澄子、有馬朗人、金子兜太のような大御所、平畑静塔や石田波郷、日野草城のような歴史的俳人の名もパラレルに並んでいて、それがなんとも楽しいかぎりです。

それでは一般誌の付録に葱句が掲載された記念に、「現代カタカナ俳句ー勝手に葱選」をここに紹介したいと思います。

宗匠曰く、「選句はエンターテインメントである。」 そうやなあ〜。

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「ア」
●坂道にアイロンかけて夏の陣   ねじめ正一
●やはらかき要塞(アジト)でありぬ飛花残花   田中亜美
●少年のアジトに生るる黒揚羽   梶等太郎
●アトリエを覗き見ている花梨の実   太田裕敏
●アニメソングクリスマスソングより迅し   河内静魚
●丸善で買ふ六法とアロハシャツ   林十九楼

「エ」
●をみならはエプロン持参春祭   小川軽舟

「オ」
●枝々を空へオブジェの冬木かな   北村たかし
●オリオンに光ゆづりし春の月   成瀬つよし

「カ」
●霜柱踏めばカタカナめきし音   大木雪香
●夜桜の一太刀浴びぬカップ酒   植野順聞
●カンナの緋離れてよりの息熱し   南雲愁子

「キ」
●青春のキャベツの玉が重かった   中上哲夫
●ゆるやかに抱き合ふ春のキャベツかな   吉村玲子
●弓立ててゆくキャンパスの木の芽道   柏原眠雨
●星の名をひとつ覚えてキャンプ果つ   水村幸雄
●キユーピーの翼小さし南風   高柳克弘

「ク」
●クリスマス街を絵本にしてしまふ  堀本芳子
●クローバに子を吐き出して滑り台   柴田良二

「ケ」
●手にゲーテそして春山ひた登る   平畑静塔
●ひまはりやゲリラ豪雨のやうな恋   原朝子

「コ」
●コスモスの畑は雲のとほりみち   小野淳子
●コップにアネモネ余震・余震・余震   鈴木鷹夫
●ゴム長のまぶしきことよ西瓜畑   関根しんのすけ
●コンビニのおでんが好きで星きれい   神野沙希

「サ」
●宙返るサーファーもゐて淑気かな   大矢恒彦
●大夕焼サイレン長き精錬所   堺谷真人
●工場の五時のサイレン鳥渡る   上野一孝
●サングラスはづせば緑濃き故郷   國分貴博
●サングラスなかに国家をひそめたる   鈴木六林男

「シ」
●ジーンズの膝に晩夏のほつれかな   稲垣鷹人
●十字架のごとくシャツ干す小六月   川崎光一郎
●Tシャツのモンロー笑ふ駅薄暑   青木のり子
●口開けて叫ばずシャワー浴びており   五島高資

「ス」
●買ったのよのスカートが回る   そねだ ゆ
●冬の月スカイツリーの剣(エペ)が突く   原朝子
●スケートや青くかなしき空の魚   平畑静塔

「セ」
●セ−タ−の背をセーターの胸で押す   原英俊

「タ」
●ダムの水万緑へ解き放たるる   山本一歩
●タンポポ咲くドレミドレミソミレドと   いのうえかつこ

「チ」
●向きあうてチェロ弾く姉妹あたたかし   小澤實
●チューリップわたしが八十なんて嘘   木田千女

「テ」
●多喜二忌のとわの写真のデスマスク   池田澄子

「ト」
●春うれひドーナツの穴永遠に   川越歌澄
●トマト一個ほどの心臓吾にあり   大関靖博
●トマトーの紅昏れて海暮れず   篠原鳳作

「ナ」
●相睦むナイフとフォーク夜の雪   関根誠子

「ハ」
●ぽすぽすと父のバイクや夏の空   剣持恵美
●ハイビスカス髪に日本語もて握手   宇咲冬男
●終バスの残して行きぬ良夜かな   片岡良子
●麦秋や教室の亀パンが好き   今泉かの子
●ハンモック風の形に寝てしまふ   村田一広

「ヒ」
●少しずつピアノが腐爛春の家   西川徹郎
●台風に目ありピエロに泪あり  花谷清
●ヒトもまた絶滅危惧種ほたるとぶ   川嶋隆史
●帽子にも形状記憶ヒロシマ忌   戸坂幽詩

「フ」
●おぼろ夜の昭和がブルース奏でをり   角川春樹

「ヘ」
●小春日のベンチを少し分けてもらふ   高岡慧

「ホ」
●ポインセチア愉しき日のみ夫婦和す   草間時彦
●ポインセチア秋波を送るときに邪魔   池田澄子
●三月のポケットにある切符の角   小林雪柳
●ポストまで歩けば二分走れば春   鎌倉佐弓
●蟋蟀の鳴くたび星のポンプ漕ぐ   豊里友行

「ミ」
●ミモザ挿す麻痺でも右の利き腕で   木田山日出夫
●猫の子の髭にミルクの真珠玉   青木冬鯉

「ム」
●芒のようムーンウォークの上手い奴   坂本洋子

「メ」
●メーデーの膝に抱く子は憲法です   敷地あきら
●ででむしのメビウスの輪に遊びけり   室生寛太
●水温む半分に割るメロンパン   涼野海音

「ラ」
●ラムネ飲むきれいに響くところまで   川名麻澄

「リ」
●リズムなき母の杖音寒の入   田中昭子

「レ」 
●編みあげたレースをほどくやうに逢ふ   北村峰子

こうして見るとカタカナ俳句の特長が少し分るような気がします。言葉の重量は伝統俳句に及ばざるものの、現代カタカナ俳句には伝統俳句にはない、ある種の特質的な香を感受することができます。例えばシニカルな知性、グローバルな世界観、客観的な現実把握、などなど。
とにもかくにも「俳句」はその時代、その場所に刻印された「文字」のおもかげをひたすら慕う文学でありましょう。

●夕凪に文字の面影浮かびけり  葱男 



■葱々集〈back number〉
大震災を詠む「遊戯の家」金原まさ子さらば八月のうた「ハミング」月野ぽぽな「花心」畑 洋子1Q84〜1X84「アングル」小久保佳世子ラスカルさんのメルヘン俳句「神楽岡」徳永真弓「瞬く」森賀まり『1Q84』にまつわる出来事「街」と今井聖「夜の雲」浅井慎平澄子/晶子論「雪月」満田春日 「現代俳句の海図」を読む:正木ゆう子篇 櫂未知子篇田中裕明篇片山由美子篇「伊月集」夏井いつき「あちこち草紙」土肥あき子「冬の智慧」齋藤愼爾「命の一句」石寒太「粛祭返歌」柿本多映「身世打鈴」カン・キドンソネット:葱男俳句の幻想丘ふみ倶楽部/お誕生日句と花