追悼・利普苑るなさん
 
5月27日、FaceBook上で「利普苑るな(本名・大倉良子)」さんの夫、安央さんからコメントがあり、闘病中の彼女が入院先の病院で息をひきとったことが告げられた。
苦しむこともなく安らかな最期だったそうである。
るなさんとは私が彼女の 句集「舵」の鑑賞文 を「丘ふみ游俳倶楽部」に掲載したことからご縁が生まれ、FaceBookのお友達になったあと、2015年1月から「丘ふみ」の部員として、1年4か月の間、句会をご一緒させていただいた。
2016年3月末に「入院のため、今月はお休みします。」とメールをいただき、それが最後の応答になった。

彼女は、母なる慈愛に満ち、他人には礼節を保ち、自己をよく抑制したカッコいいスマートで清冽な俳句を詠む女性でした。

それではこの15か月間に「丘ふみ」に投句された、彼女の全90句をご紹介します。

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利普苑るな

2016・3月
A部門
●裏山にミモザ縺るる西東忌
●二寸ほど猫を動かし春夜眠る
●柳絮降るもう働く日なき吾に
B部門
●陽炎や男の子に甘き女親
●草餅を春の病といふ人に
●昭和よりの甘き香りや春の夢

2016.2月
A部門
●風立つや如月の森きらきらと
●紅梅に身を薄く立つ女かな
●野を焼くや雨意の兆せる西の空
B部門
●如月や荒ぶる吾子の赤き髪
●菜の花や夕べに人のもどる家
●満ち足りにけり菜の花を箸にして

2016・1月
A部門
●待春や愛蘭土のやうな雲
●鳥のこゑ谺してをり冬の水
●三日はや猫遊ばする文の反故
B部門
●ああ嗚呼と声こぼしけり寒鴉
●樹間より光の束や寒鴉
●病窓に躍る光や冬すみれ

2015・12月
A部門
●来ぬ人は待たぬ聖樹をそびらにし
●末つ子の可愛や冬の鳥美しや
●流れ行く先はみづうみ冬の川
B部門
●漱石忌この一病を友として
●冬林檎記憶の友の少女なる
●逝きし友まだ無し賀状書き了る

2015/11月
A部門
●霜月や火の無き部屋にラジオつけ
●つなぐ手の無くて小春の橋渡る
●綿虫の消えしあたりの風の声
B部門
●山茶花や廊下の奥の狐面
●野を駆くる狐の影のかろさかな
●綿虫や町外れれば野に至る

2015/10月
A部門
●小鳥来る長き病棟端の窓
●秋刀魚焼けウーロンハイの芒色
●深秋のワインボトルに挿す一輪
B部門
●十月の更地に眠るスクーター
●十三夜渚に寄する銀の波
●真夜の鴉長鳴きしたる暮の秋

2015/9月
A部門
●鬼城忌の待合室に聴くバッハ
●秋麗や金目銀目の白き猫
●長月や背表紙にある銀の文字
B部門
●敬老の日や豆菓子の抹茶味
●新婚のキッチンに貼り「火の用心」
●鶺鴒の発ち不用品回収車

2015/8月
A部門
●稲すずめ婆の語りに嘘すこし
●スコーンにクリーム九月の新居訪ふ
●猫の毛に指絡めゐる良夜かな
B部門
●消え失せし桃売りを待つ広場かな
●すこし首反らしかりがね水に落つ
●木槿咲く造反有理壁になほ

2015/7月
A部門
●島唄やわらわら笑ふ夾竹桃
●生者の貌もて潜りたる茅の輪かな
●夏蝶や大寺抜くる通学路
B部門
●大章魚を茹づるも喰ふも箸二本
●ギリシアの壷絵の章魚の脚絡む
●たぶんひと味違ふシチリア産の章魚

2015・6月
A部門
●さつきからコップに半分のビール
●半生は母でありたりほととぎす
●流木のやうに海原泳ぎたし
B部門
●人の名を久しく呼ばず夕焼空
●黒南風や掌中の玉磨く刻
●手鏡をきゆつと磨いてそれつきり

2015/5月
A部門
●ぎしぎしやなんと忙しき犬の息
●はつなつや海の香まとふ鍵ひとつ
●もう読めぬ詩人の墓標羽蟻とぶ
B部門
●青嵐吹き合鍵のもう要らぬ
●熊楠の黴ナウシカの黴合体す
●この世には吾子と黴の書遺すらむ

2015/4月
A部門
●春泥を踏み水に会ふ鳥に会ふ
●アユタヤの菩薩のねむり雉の声
●犬の写真子どもの写真あたたかし
B部門
●菜の花や向岸よりぬるき風
●花よ鳥よ風よ今しも昼の月
●夕爾生家ありし菜の花あかりかな

2015/3月
A部門
●アネモネや旅を了へたる靴洗ふ
●風船に息入れ息のまるくなる
●足りて寝る猫や赤児や春ともし
B部門
●すぐそこに賀茂の水音青き踏む
●水攻のごと跳石に佇てば春
●龍天に昇る日和や誕生日

2015/2月
A部門
●水に沿ふ光と影や春の夕
●涅槃西風天目指すビルまたひとつ
●桜貝最期はきつと波の音
B部門
●節分草透けては水となる未明
●野火走るをとこの貌を照らしては
●爪先にまで野火這はす女かな

2015年1月
A部門
●冬さうび少女倒るるまで踊る
●雲間より差せる冬日や罪と罰
●冬北斗母より賜ふ一病と
B部門
●冬林檎齧る修司の齢超え
●和音にて始まる曲や冬さうび
●人日のオブジェのやうな和菓子かな

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【風信】

■五六二三斎
葱男さん、おはようございます。るなさんが亡くなられたとは!驚きました。ご冥福をお祈りします。

■雪絵
丘ふみ句会だけの短いお付き合いでしたが、とても残念に思います。
ご冥福をお祈り申します。

■美遥 先月の句を鑑賞し、僭越ながら鑑賞を篠へ文として、載せました

力強い句でしたので、感銘を受け書かしていただきました

縁を感じました
御愁傷様です

■やんま 増俳でこの2月5日に採らせていただいたばかりでした。あの縫ひぐるみは最後まで抱かれていたろうか。「鳥交る綿のこぼるる縫ひぐるみ 利普苑るな」ご冥福をお祈り申し上げます。

句集「舵」所感       鳥交る綿のこぼるる縫ひぐるみ  利普苑るな

私の近くの利根川周辺では春先になると「ケーン、ケーン」と雉が叫び始める。鳥の発情はおおむね春から初夏にかけてである。そのころオスは囀ったり、嘴を触れ合ったり、毛色が変わったりする。尾を広げて見せるクジャクや、愛嬌のあるエミュー(ダチョウ)のダンス、ツルの翼の舞。そして季節は孕み鳥へと移ろってゆく。命はめくるめく性の営みによって万古の時を紡いでゆく。
様々な愛の形を他所に、独り人形を抱きしめるだけの孤独な愛もある。来る日も来る日も綿のこぼるるまで抱いて過ごした愛の残滓の縫ひぐるみがそこに置かれている。命愛しや。他に<鳥雲に主いとりの理髪店><きゆつと鳴るナースサンダル春の昼><卓上の鳥類図鑑暮遅し>などあり。『舵』(2014)・・・・やんま

■茶輪子
慎んでご冥福をお祈りいたします。(。-_-。)
最近は体調のことを考え、るなさんへのコメントは控えさせていただいておりました。
FBを通しての僅かな期間のお付き合いでしたが、何度もお会いしたことがあるような、身近に寄り添っていただくような、交流であったと思います。悔やむらくは、お元気なうちに一度お会いしたかった。
ご闘病もそれを支えるご家族のご苦労もたいへんでしたでしょう。るなさん、安らかにお眠りください?

■清一
突然の訃報に驚いております。御家族の方々に心よりお悔やみ申し上げます。るなさんのご冥福をお祈り致します。
ご葬儀には出席出来ませんが、遠くよりご冥福をお祈り致します。

■秀子
るなさんとは、お会いしたことはなかったんですが、とても、立派な女性でした。彼女の文も句ももう読めないと思うと、ほんとに寂しいです。

お会いしたことがない方だったので、好奇心の覗き見みたいなことになってはいけないといつも思っていました。けど、句会をともにしたり、句集を読んだということは、大きなご縁だったんですね。あの理性的な前向きの文章をもう、読めないと思うと、ほんと、寂しいです。

葱男様
るなさんの全投句をまとめてくださって、ありがとうございました。
私は3回しかごいっしょできていなかったんですね。
中でも好きな句を5句選んでみました。

菜の花や夕べに人のもどる家
霜月や火の無き部屋にラジオつけ
犬の写真子どもの写真あたたかし
冬北斗母より賜ふ一病と
冬林檎齧る修司の齢超え

最後までほんとに頑張られました。

■ラスカル
あまりにも突然で、悲しさのショックのあまり、なかなかコメントを書き込むことが出来ませんでした・・・。いつも明るく、とても強いるなさんから、沢山の「元気」を貰っていました。これからは、るなさんの俳句や文章が読めないのだと思うと、本当に寂しいです。涙ぐみつつ、この文章を書いております。うまく文章が纏まりませんが、僕がとても感謝しているという気持ちを、るなさんにお伝えしたいです。るなさん、本当にどうもありがとうございました。合掌。

るなさんが亡くなられたこと、いまだに信じられず、頭の中がぼ〜っとしています。とても前向きで、とても強い方でした。いつも不安定な精神状態の僕にとって、どんなに元気づけられたことか! 以前に、るなさんの句を色紙に書いてプレゼントしたことがありました。その時、とても喜んでくださったのが、つい昨日のことのように思えます。るなさんのご冥福を、心よりお祈りしております。合掌。 

るなさんの魂は、皆さまの心の中で、永遠に光を放ち続けることでしょう。僕も、るなさんのような強い心を持って、生きたいと思っております。そして、るなさんの分まで、俳句を詠み続けます。遠方のため、ご葬儀には出席することが出来ませんが、心よりご冥福をお祈りしております。

合掌。

■ぼくる
ネット句会でしか存じ上げませんでしたが、誠に残念です。葱男さんの鑑賞文、以前に拝読し、一度お目にかかりたいと思っておりました。ご冥福を心よりお祈りいたします。

■弧七
利普苑るなさんの訃報も、大変残念でした。

これまでの投句をしみじみと拝読し、色々と気付かされるところがありました。
自分の句の幼さが恥ずかしく思われます。
ご冥福をお祈り致します。

■香久夜
こんばんは。るなさんの悲報伺いました。気丈に病に、そして俳句に向き合われてたんですね。無念だったことでしょう。ご冥福をお祈りいたします。

■秋波
こんばんは。秋波です。
るなさんのご冥福を心よりお祈りします。
どんな方だったのでしょうか。俳句にも生き方にも
学ぶべきところがたくさんありますね。
私めはこのところ仕事でアップアップで俳句の方はサボりがちです。時々お休みしますがお許しを。
では投句、よろしくお願いします。

■久郎兎
久郎兎です。るなさんのご冥福をお祈り申しあげます。利普苑を何と呼んでいいか解らずじまいでしたが、豊中の方とのこと、池田から梅田に出るときはこの街にも句友がいるんだと思いつつ通っていました。障子に関しての勉強になる句評もいただきました。最近の句で「二寸ほど猫を動かし春夜眠る」をいただきました。猫がお好きだったんですね。猫も布団で一緒に眠れるんですね。最近ネット広告で見ました。

■まさこ
お知らせありがとうございました。
るな様の悲報とてもとても残念です。
時々ブログを拝見していましたが闘病中なのに明るく、前向きでいらっしゃって すばらしいなと感じていました。

■紅椿
こんばんは。
雨の日曜日でした。

るなさんの事、とても残念です。心よりご冥福をお祈り致します。
一度も個人的なお付き合いはありませんでしたが、葱男さんのお陰で良き俳縁をいただきました事、感謝申し上げます。

こうして改めて、句を読ませていただくと、熱いものがこみ上げてきます。

●つなぐ手の無くて小春の橋渡る  るな

このお句は採らせていただいたのですが、楽天的な私は能天気なコメントをつけてしまい、作者を知ってからとても反省致しました。
今読むと、たまりませんね。

るなさんは私の句も時々採ってくださいました。

●盆歌に乗るや手の反り背ナの反り   紅椿

自信作でしたが、たいして点は入りませんでした。
でも、るなさんの◎をいただいたのです。忘れられない句になりました。

今月も詠めなくて、お休みさせていただこうかと思っておりましたが、 あと2日、頑張ってみます。      紅椿

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*2016年4月・鎌倉吟行*2015〜2016 雪・雪・雪*2016・写真俳句大賞*冬のはじまりの手しごと市*地面下句会*平成二十六年俳諧国之概略*杉山久子・「春の柩」*大森健司・「あるべきものが、、、」*利普苑るな・第一句集「舵」*「筥崎宮・蚤の市」吟行句会*楠木しんいち「まほろば」*銀座吟行句会*Subikiawa食器店*ジャポニスム*金髪の烏の歌*Mac崩壊の一部始終*香田なをさんの俳句*能古島吟行句会*Calling you*白鴨忌*葬送*風悟さんの絶筆*小田玲子・「表の木」*初昔・追悼句*大濠公園/吟行・句会/2012,11,11金子敦「乗船券」丘ふみ俳句:丘ふみ俳句:韜晦精神派(久郎兎篇)丘ふみ俳句:協調精神派(前鰤篇)丘ふみ俳句:行楽精神派(メゴチ篇)丘ふみ俳句:ユ−モア精神派(喋九厘篇)丘ふみ俳句:俳精神派(五六二三斎篇)丘ふみ俳句:俳精神派(香久夜・資料官篇)丘ふみ俳句:俳精神派(水音篇)丘ふみ俳句:詩精神派(秋波・雪絵篇)丘ふみ俳句:工芸精神派(君不去・夏海)丘ふみ俳句:実験精神派(白髪鴨・ひら百合・入鈴・スマ篇)丘ふみ俳句:砂太篇俳句とエチカ現代カタカナ俳句大震災を詠む「遊戯の家」金原まさ子さらば八月のうた「ハミング」月野ぽぽな「花心」畑 洋子1Q84〜1X84「アングル」小久保佳世子ラスカルさんのメルヘン俳句「神楽岡」徳永真弓「瞬く」森賀まり『1Q84』にまつわる出来事「街」と今井聖「夜の雲」浅井慎平澄子/晶子論「雪月」満田春日 「現代俳句の海図」を読む:正木ゆう子篇 櫂未知子篇田中裕明篇片山由美子篇「伊月集」夏井いつき「あちこち草紙」土肥あき子「冬の智慧」齋藤愼爾「命の一句」石寒太「粛祭返歌」柿本多映「身世打鈴」カン・キドンソネット:葱男俳句の幻想丘ふみ倶楽部/お誕生日句と花