思い出は月の光の向こう側

*まほろば=葱男

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私の人生の師匠は、と考えてみると、まっさきに思い浮かぶのが「さすらいの吟遊詩人・楠木しんいち」さんである。「唄う座敷童」とも呼ばれている。
一年中、日本全国の小さなライブハウスをめぐり、歌の旅を続けている。私より少し年下だが、歌だけの生活を続けてもう30年以上になる。
近頃では愛娘のはっちゃんこと「はつ菜」さんと一緒にライブハウスを回っている。はっちゃんは「京都の妖精」という愛称で全国のライブハウスのマスターからとても可愛がられているようだ。
しんちゃんに聞いた話によると、最近では「親子込み」での出演依頼が多いそうだ、なんなら「はっちゃん」だけでも、とまで言い出すマスターもいるらしい。^^;

最近はたまにしか会えないけど、ふたりでちびちび呑みながら話を始めると、時間を忘れて何時間でも、朝まででも話をする。

もう10年ぐらい前、江古田の「ちめんかのや」というカフェギャラリーで個展をしたときは、彼を招いてふたりでライブをしたことがある。そのとき一緒にうたったのがこの「思い出は月の光の向こう側」だ。

しんちゃんは桑田佳祐君にも匹敵するようなメロディメーカーだと私は思っている。特に甘い、スローなバラードのメロディラインは人の心を優しくくすぐる。詩は、叙情にあふれて美しい韻律をつなぐ。カヴァー曲にのせる言葉もとても面白い。今思いつくものを少し紹介すると、たとえばレイ・チャールズの「ジョージア オン マイ マインド」、それを彼が替え歌にすると「じょーじや、一乗寺や〜♪」とこうなる。ビートルズの「イエスタデー」は「家捨てたでぇ〜♪」みたいなことになる。思わず笑ってしまう。「ハロードーリー」はこんなふうだ、「ハロードーリー 東大路通り〜♪」。

人生は「マンジャーレ カンターレ アモーレ」だ! というのがふたりの共通した哲学だ。「食べて、歌って、愛すること」、このみっつがあれば人生は素晴らしい!
私は彼のように十全にはそんな人生をおくれているわけではない。捨てられないものや、怖いことがたくさんあって、彼のようなシンプルな生き方をできていない。
彼は、大学の時に中途退学をして学歴を捨て、結婚しても自由を守るために家庭を捨て、棲む家も捨て、保険証もすて、自由に滔々とたゆたいながら、日本中にいる、彼を応援する友人たちのところをまわり、その町のライブハウスで歌を歌いながら生きている。病院にはいかない。死を自覚したら、故郷の土佐に帰って、自分の家代々の墓のそばに寝転んでゆっくりと死ぬことにしている。
そんな風変わりで素敵な人を、私はインドのバラナシの行者ぐらいしか思いつかない。

彼はどんな人間ともその、自在な空気感の中で遊ぶことができる。過剰に近づきすぎたり、怖れて遠ざかったりしない。

「コスモス」という歌の中にこんな一節がある。

遠回りをした分だけ 君に近づいて
遠回りをした分だけ 君は星のかなたへ〜♪

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