*丘ふみ俳句:韜晦精神派(久郎兎篇)=葱男

*久郎兎(葱10選)

○盆の里 ご先祖様と 未来様 
○つつじ摘み 蜜吸い鳴らす 帰り道 
○夕陽背に グラウンドゼロの 赤とんぼ
○戦没の写真の学徒顔白し
○月満ちて 赤福餅の 指の痕
○春雨に天女踏切横切らん
○ブルトレの離合の汽笛雪消なる
○徒競走並びし手のグー息も止む
○桜花下の御母の膝に帰る母
○豆球に蚊帳の家族を懐かしむ

「丘ふみ俳句」では「三段切れの兎」という異名を持つ「久郎兎」さん。
句も上、中、下にスペースをおくことが多い。
俳句の可能性に横書きや行替えもあり、構成力も俳句の魅力だと思っている私は俳句の異端なのかもしれないが、そもそも短冊や色紙に墨書することは俳句が書アートであることを物語っているし、作品の善し悪しは別の話として、自己表現をするにあたって、その形態や形式は基本的には自由であるべきだろう。蕪村の俳画や芭蕉の紀行文などは文学とか絵画とか、俳句形式のの境界をとりはらったオリジナリティー表現のなせる技だと思う。

とここまできて、久郎兎さんの俳句について何を語らんか、であるが、ここが大変にむずかしい。
というのも、私が兎さんの句に感じているのは「共鳴を求める心」よりも「韜晦をひそかに個人的に愉しもうとする”はにかみ”」である。
したがって、私はいつも兎さんの句には韜晦されっぱなしでうまく鑑賞することも句評することもできないでいる、というのが正直なところかもしれない。

「関西一杯呑もう会」では前鰤さん、秋波さん、香久夜さんもご一緒して、少しは「俳句談義」することもあるが、ついにまだ兎さんとは「俳句の話」をしたことがないので、彼がこの五、七、五の短詩表現を借りて何がしてみたいのか、もうひとつわからないままである。
しかし、それもそれでいいじゃないか、と思う。俳句はあくまでも「手段」であって「目的」ではないのだから。
ひとつだけ、地図の測量を仕事としている久郎兎さんの句に顕著な特徴がある。それは「数字」を多様する俳句が圧倒的に多いということだ。
ここでは私が気にかかっている彼の数字入りの句を御紹介してみることにします。
さあて、久郎兎さんは俳句で何を表現したいと考えているのか、そのヒントになれば幸いですが・・。

二度と背を焼かれまいぞと誓う夏
走る汗 二人三脚 いわし雲
一年を 朱玉に賭くる 柿たわわ
結わえ手の みくじに笑みし 梅一輪
倫敦の9&3/4番ホームの霧
田舎では 二度目のロマンス 二ツ星
二日酔い 三日月太めの 宵さやか
わが夕餉 さんま七輪 かゆ五徳
ミカン剥きつ 知恵の輪からむ 五本指
枝もみじ 鮭茸五目 輪っぱめし
さらし竿 一人アパート つるし柿
未だ実見ぬ 十五の峠 青ホオズキ
三十一を 暑中見舞いに 添えし恋
陽に翳す 血潮の一葉 爪燃ゆる
バスハイク 一期一会の 小春かな
茶一服 一句ひねりつ 炭火換え
水差しの 桔梗二輪に 手を合わす
猟の間に三平汁や招く湯気
一陣に願うや春の鶴の家
二度と背を焼かれまいぞと誓う夏
五月晴れ洗濯二槽えんやこら
雑草に隙なく一途百合凛々し
実り盗る一画足らずの鳥の知恵
三日月を愛でて矩形に切り取りぬ
郵袋に草種一つ街に降り
櫨の下一二の三で走り抜け
早苗田に筑後の鉄路一直線
昨日より一分短き薄暮かな
二の腕の勲章の影薄れゆく
夢去るや午前三時の窓の雪
日向ぼっこ日課終へ帰す四時の猫
六十路なる船頭の声雪に散る

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「丘ふみ俳句」の鑑賞もこれで最後になりますが、これまで、一度でも「丘ふみ游俳倶楽部」に投稿してくれた、今は俳句から遠ざかってしまった過ぎ去りしOB連の句のなかから、この機会を借りて、記念に残しておきたいと思った句を勝手ながら集めてみることにしました。
ああ、こんな人も倶楽部に参加していたんだなあ〜と、思い起こしてください。(仮名遣いは本文のままです。)

*丘ふみ俳句:番外篇


木笛6句

虫の音に  二・三句詠みて  生きており
木漏れ日の  ゆらいで語る  花野かな
老犬に蚊取り線香そっと置き
野分中足踏ん張りて退院せり
柿たわわ実一つもぎて天弾(はじ)く
踏む土の去年の葉音や柿紅葉


男剣士8句

文鳥を葬むる朝や寒すずめ
春めきて人の歩みの確かなり
平安の心になりし滝ひとつ
精霊の舟もなくなる寂しさや
店先や柿一盛りに眼を落とす
主なきふらここ揺れる二月かな
潮干狩り子供の足のはしゃぎおり
洗濯機ぐるぐるまわる桜花


木陰9句

水仙の芽ぶきに寂しさ薄められ
牧師にも子の悩みありクリスマス
餅の数聞いた母亡く雑煮食う
細き首雨に折られし水仙花
どくどくと鼓動聞けそな春の樹木
立葵群れ咲く庭に秘密の戸
炎天に石の教会静まれり
白木槿トンネル抜けぬ母の闇
冬空の鴎凛々しく岩となる


澄響5句

台風の目のごときかな不動心
鴨鍋に友との語らい冬の夜
一輪の寒菊りんと語りくる
初めての時計草、母と二人で
海の中二人で眺めた竜宮城


五里7句

辻辻を きよしこの夜 回り来る
小白鳥鳴きおうてV字編隊
田起こしの土が天地の境なり
幼子に可笑しがられる運賃箱
山辺で 寝て見る月に 感嘆符
湯煙の端にて消える時雨月
炭焼きの破れ屋根から鰯雲


裸猿4句

一人身のイルミヌーション自殺行為
長年の言葉足らずか積りて潰れ
アスハアルツ在る神戸を垂れる頭かなー
飢餓突っ込み、美食では無く、もはや雑食


小夜女13句

サーファーとトンビ群れたり冬うらら
白モクレン新撰組のごとく散り
冬枯れや手を振る母の融けてゆく
土筆むく昔話や母の恋
訛りある人の集いし山開き
道を聞く人無く氷菓の溶けし跡
掌で乙女の如し茗荷かな
ファミリーのマネキン皆でサングラス
サッシ開け客にもてなす虫時雨
鎌倉のままに紅葉す源氏山
団栗をまだ拾ってる熟女かな
伽羅蕗はもう煮きらんと母の声
サングラス取りて別れの握手かな