能古島吟行句会 17/NOV./2013=葱男

〜白髪鴨さんを偲んで〜

■宗匠より

葱男様、御句労様でした。
参加したかったです。
はつしぐれの追悼句会、盛況裏に無事終えられて何よりです。
ありがとう。多謝。
胸にチクリとくる秀吟がそろいました。

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※今年、2013年の5月1日、高校時代からの親友で「丘ふみ游俳倶楽部」の句友でもあった一木正治君(白髪鴨さん)が突然の事故で亡くなった。博多と釜山をむすぶ「アリランレース」に出場するため、小戸ヨットハーバーを出航して釜山に向かう途上、春の嵐にみまわれ対馬沖で落水事故に遭った。6月30日、彼の遺骨は実子、一木悠史さんやヨット仲間の手によって博多湾に散骨された。 11月17日、博多湾に浮かぶ「能古島」で「丘ふみ」メンバー数人が集まって彼の「追悼句会」を開くことができた。「能古島」の別名は「残の島」である。
コメントに「和」としてあるのは句会当日、砂太先生に捌いていただきながらその場に参加していた水音、久郎兎、五六二三斎、雪絵、葱男等も含めて語られた感想を葱男がエディトリアルしたものであり、特定の個人の意見ではありません。「和=総和=和室」という程度の意味です。

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天  ●島の路地抜けて檀家(だんけ)の唐辛子=砂太
◎水○久、雪、資、秋=6点
(資:グルメエッセイスト檀太郎さんにふさわしい季語。和:檀さんの家のまわりには丘の斜面に添っていろんな作物が栽培されているだんだん畑がいくつもあり、唐辛子の赤い実がなっていました。「檀家=だんか」だと全く意味が違ってくるのでフリガナは必須です。 秋:吟行ならではの景色と感興。)

地  ●風がさらひ海が呑み込む冬の雲=葱男
◎ラ、メ=4点
(ラ:故人の象徴として「冬の雲」を提示しているところが、俳句の骨法に適っています。)

地  ●揺れやまぬ水府の風見ふゆかもめ=二六斎
◎秋○水、五=4点
(和:「水府」とは海のそこにあるという「架空の都」のこと。「風見」はヨットのマストのてっぺんに付けられた風向を読むもの。砂太先生によると、ヨットに詳しい人にしか詠めない句だということでした。以前丘ふみに出された同じ宗匠の句に「散骨や水府に水を打つやうに」があったことを思い出します。 秋:風まかせの風見鶏と鴎、夏とは違いどこか侘しげ。)

地  ●寒星や1カラットの嘘をつく=葱男
◎砂○水、メ=4点
(和:「寒星(かんぼし)」と読むのが正しいようです。「1」は「一」にしたほうが良いのではないか、また「ワンカラット」とカタカナにしたらどうか、などの意見もありましたが原句のまま、推敲なしの掲載です。)

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●ボジョレヌーボー月壺洞から見る夜景=資料官
○砂、葱、秋=3点
(資:月壺洞=檀一雄の能古別荘。 和:砂太先生の清記では「ボジョレ」は「ボージョレ」に推敲されていましたが、ここでは資料官さんの原句をそのまま載せています。発音としては先生の方が正しいのかもしれませんが、今では「ボジョレ」の表記で日本語化されているのが実情かもしれません。出席者全員で「オシャレな句」だなあ〜、と。)

●冬の海穏やかなれば遥かなる=水音
○雪、ラ、資=3点
(資:穏やかと遥かの「か」のリズム感が心地良い。 ラ:「遥かなる」に、作者の感慨がこもっています。)

●石祀る島でありけり石蕗の花=水音
○久、雪、メ=3点
(和:島の民家の玄関先に石をお祀りしているところが何軒もありました。島の「白鬚神社」には「力石」という2個の丸い石が祀ってあり、昔は若者がこの石で力試しをしたそうです。。なお、「能古島」の名の由来は、神社の御祭神のひとりである神功皇后が住吉の神霊を残した島なので「残島(のこのしま)」になった、といういわれがあり、この神霊を留めたのが「白鬚神社」だということです。)

●烏過ぐ柿の実一つ見送りぬ=久郎兎
◎葱○二=3点
(和:皆で島の路地を気ままに吟行している時、一羽の烏が、あまり聞いた事のないような、変に間の抜けたような声を発しました。その声は「アワ〜」とも「アホ〜」とも「アヘ〜」とも、なんとも可笑しな鳴き声だったので、一同大笑い、このあたりでは見なれぬ不審な団体に何か云いたかったのかも。)

●だんだんにふみれい蜜や冬の桃=資料官
◎二=2点
(葱:句会場では時間がなくて、中七の意味が分らず、調べる時間もなかったのですが、「檀ふみ」「檀れい」「壇蜜」の妖艶な三人の女性の名が隠されていたとは! 宗匠の特選をゲット!)

●冬日さす島の書斎や父ニ逢はん=資料官
○葱、五=2点
(和:砂太先生の御意見では「父ニ逢はん」がどうなのか?ということでした。三句切れにもなりかねないとのこと。ただ、尊敬する亡父に対する息子の心情を一雄の絶句に託して詠んだことは「能古島吟行句会」の席であることを考えるとよく理解できるというのが大方の感想でした。) 

●内海は何事もなく初時雨=秋波
○五、二=2点

●すくと立つ冬木は君の化身とも=ラスカル
○雪、メ=2点

●島の子のあいさつの声小六月=雪絵
○二、ラ=2点
(ラ:はきはきとした挨拶の声が聞こえてきます。)

●歌碑に触る人の背に来る冬日かな=砂太
○久、水=2点
(和:渡船場から10分ほど丘をのぼったところに檀一雄の息子さんである「檀太郎」さんのスペイン風の〈あるいはガウディ風の〉素敵なお家があり、庭の裏に一雄の歌碑があります。「つくづくと櫨(はじ)の葉赤く染みゆけど下照る妹〈いも〉の有りと云はなく」。律子さんを結核で亡くした3ヶ月後に詠んだ歌だとされています。)

●冬霧や島人五百の墓溜り=葱男
○砂、久=2点
(和:同窓会の会場になった料理旅館の裏山を少し登るとおよそ4〜500もの新旧の墓石がひとところに集められて祀ってある立派な墓塚がありました。おそらくあちこちの集落かにばらばらに置かれていたものをなんらかの理由でひとところに集められたものなのでしょう、まだ新しくくっきりと墓碑の読めるものも、風化して丸くなっている無縁仏も一緒に祀ってありました。島民同士、仲の良かったものたちの霊が、寄り添うように肩を並べていてとても暖かそうでした。)

●神の留守龍神様に白き貝=水音
◎久=2点

●酒店に古きポスター枇杷の花=雪絵
○砂、資=2点
(資:吟行の句ですね。レトロビールポスターに枇杷の花がマッチしている。)

●しぐれあとヨットはグレイの帆を上げる=水音
◎資=2点
(資:ヨットは夏の季語ですが,時雨と灰色が冬の寂しさを醸し出していて良い。しぐれとグレイの音感も良い。 和:吟行で浜伝いに歩いていると、冬の海にたくさんのヨットが帆を上げているのが見えました。きっと、小戸のヨットハーバーから出航した船でしょう、白髪鴨さんの骨が撒かれた海の周りを丸く廻っているように思えました。)

●曇天の窓を満たしぬ漁具の群れ=久郎兎
○水、葱=2点
(和:吟行や句会の席題など、即吟でよくあるのがこのように「季語」や「お題」を見失ってしまうこと。時間の余裕が無く、句を推敲しているうちによくある「落とし穴」です。「曇天」を「冬天」とかに直せばという意見もありましたが、ここでは無季句として原句のまま載せました。)

●新鮮な時雨にあそぶ能古島=水音
◎五=2点
(和:「時雨」に付された「新鮮な」という措辞が良い、という意見が多く聞かれました。砂太先生の指導を本人の了解で推敲、ちなみに原句は「新鮮なしぐれに遊ぶ能古島」。)

●対岸は十年未来渡船場=葱男
◎雪=2点
(和:これまた無季句、「対岸」があれば必ずしも「渡船場」は必要ないのでそこにどんな季語を持ってくるか、という話になりました。が、結局適切なものが見つからず原句のままです。)

●神渡し酔客満載能古渡船=資料官
○ラ=1点
(ラ:「酔客満載」という表現が面白いです。)

●にこやかな一雄の笑顔石蕗の花=五六二三斎
○秋=1点
(秋:季語が効いていると思う。)

●海を来よ海の落葉を掻き寄せて=二六斎
○ラ=1点
(ラ:海にも落葉があるのだという発想が斬新です。)

●振り向けば十一月の海の声=ラスカル
○二=1点

●句会報に遺る君の名龍の玉=ラスカル
○砂=1点

●友悼む友またありて秋深む=秋波
○メ=1点

●縁(へり)に座し島の暮らしを守る猫=久郎兎
○秋=1点
(秋:ゆっくり昼寝しているらしい猫の存在感がいい。)

●太き猫刈田斜交ひ闊歩せり=久郎兎
○葱=1点
(和:原句は「太き猫田をはすかいに闊歩せり」ですが、砂太先生の推敲がありました。)

●かたかたと冬のヨットのマストかな=雪絵
○五=1点

●寒海の湾曲に立す大都会=久郎兎
○資=1点
(資:日本で唯一北向きに開いている大都会福岡を良く表している。)

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■追悼句

●海に果てし君よ銀河の裾低し=砂太
●冬めく日渡船航路のあとさきや=メゴチ
●猛きもの呑み込みし海枯真菰=葱男
●天上の君の笑声返り花=ラスカル
●対馬から象瀬(ぞうのせ)を経て神の旅=五六二三斎
●見えますか冬コスモスのひと頻り=雪絵