〜玻璃に棲む火とポエジーと長き夜〜

Subikiawa食器店=葱男

* Subikiawa食器店さんとの付き合いはもう5年ぐらいになるだろうか

彼女は同じ「手づくり市」に出展している作家さんのひとりで、初めて会ったそのころにはもうすでに 400以上もある「手づくり市」のブースのなかでも特に人気のあるお店だった。
お店とは言っても、彼女のブースには雨をよけられるようなターフやパラソルの屋根もなく、
しっかりとした重みのある白い丸テーブルを、お寺の境内の地べたの上に直接3台ほど並べ、
その上に彼女の絵の入ったカラフルでポップなガラス食器をいっぱい並べて売っていた。

その小さな丸テーブルの上には「卓上のサーカス」とか「コビト会議」とか、可愛いコンセプトに彩られた小宇宙が展開していて、彼女はまるで絵本の中から飛び出してきたような不思議な雰囲気を身ににまとい、ただひたすらお客さんが買ってゆくさまざまなグラスやビンや花瓶を包んでいた。
あんなにたくさん並べられていたテーブルの上の商品はみるみるうちになくなってゆく。
いったい、一日に何個のビールグラス、カクテルグラス、ブランデーグラス、ウイスキーグラスが売りさばかれてゆくのだろう、私は驚嘆の思いでそれをながめていたものだった。

彼女の描く絵の題材も不思議なものが多かったが(たとえば「烏」とか「トルソー」とか「恐竜」とか「ハイヒールを履いたストッキング」とか)、それにもまして私が惹かれたのは彼女がよく、短い詩のようなものをガラスの食器に書いていたことだ。

「手づくり市」でなんども話をするうちに、彼女と私の奥さんは不思議なぐらいに仲がよくなっていった。
そのうちに私も、親子ほども歳が違う彼女との会話になんの世代間の乖離を感じなくなっていた。

私たち夫婦は「手づくり」の作家さんたちの業界のことを全く知らない素人だったのだが、若くして手づくり作家暦9年の彼女は、その世界のノウハウやルールや、いろんなことをほとんどすべてを私たちに教えてくれたのだった。
三人で1台の車に荷物を積んで、名古屋の「クリエーターズ・マーケット」やビッグサイトでの「デザイン・フェスタ」に出展したのが今では懐かしい思い出である。

その後、彼女は自分の店を持ち、食器に絵や字を描くだけではなく、もっと幅広いジャンルで彼女の世界観を表現できるようなデザインや図案にその活躍の幅をひろげていった。

今ではもう、「手づくり市」でテーブルを並べて隣どおしで楽しく商売をする機会はなくなってしまったけれど、それで全く疎遠になったかというとそうではない。
彼女と奥さんのふたりは今、週に一回、一緒にジャズダンスとピラティスに通っているし、うちで宴会をするときには、還暦ぐらいのおじさん、おばさんたちの集まりのなかに、たいていふたまわりも世代の違う彼女の顔がある。

キュートでキャッチィーでクールな彼女の素顔をみせられないのは残念だが、彼女の作品は下記のページからいくらでも見ることができますので、どうぞ、ごゆっくりと。

Subikiawa食器店の作品画像


■ 葱々集〈back number〉
*ジャポニスム*金髪の烏の歌*Mac崩壊の一部始終*香田なをさんの俳句*能古島吟行句会*Calling you*白鴨忌*葬送*風悟さんの絶筆*小田玲子・「表の木」*初昔・追悼句*大濠公園/吟行・句会/2012,11,11金子敦「乗船券」丘ふみ俳句:丘ふみ俳句:韜晦精神派(久郎兎篇)丘ふみ俳句:協調精神派(前鰤篇)丘ふみ俳句:行楽精神派(メゴチ篇)丘ふみ俳句:ユ−モア精神派(喋九厘篇)丘ふみ俳句:俳精神派(五六二三斎篇)丘ふみ俳句:俳精神派(香久夜・資料官篇)丘ふみ俳句:俳精神派(水音篇)丘ふみ俳句:詩精神派(秋波・雪絵篇)丘ふみ俳句:工芸精神派(君不去・夏海)丘ふみ俳句:実験精神派(白髪鴨・ひら百合・入鈴・スマ篇)丘ふみ俳句:砂太篇俳句とエチカ現代カタカナ俳句大震災を詠む「遊戯の家」金原まさ子さらば八月のうた「ハミング」月野ぽぽな「花心」畑 洋子1Q84〜1X84「アングル」小久保佳世子ラスカルさんのメルヘン俳句「神楽岡」徳永真弓「瞬く」森賀まり『1Q84』にまつわる出来事「街」と今井聖「夜の雲」浅井慎平澄子/晶子論「雪月」満田春日 「現代俳句の海図」を読む:正木ゆう子篇 櫂未知子篇田中裕明篇片山由美子篇「伊月集」夏井いつき「あちこち草紙」土肥あき子「冬の智慧」齋藤愼爾「命の一句」石寒太「粛祭返歌」柿本多映「身世打鈴」カン・キドンソネット:葱男俳句の幻想丘ふみ倶楽部/お誕生日句と花