梅雨明けや母いそいそと父のもと=資料官
 
●父の墓夏雲消へて空さみし
●おはぐろとんぼ母の魂ゆらゆらと

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7月13日に母が永眠,享年88歳。



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母は昭和3年7月12日に長崎で生まれ,そこで学生時代を過ごし,終戦は長崎で迎えた。昭和23年に東京に移り住んだが,昭和25年に父と結婚しふたたび九州へ,以降ずっと福岡で暮らしてきた。

若い頃はあまり外に出ることも多くなかったが,60歳を過ぎた頃から人が変わったように出歩くようになった。野草の会のツアーに参加して全国の山々を駆け巡ったり,女学校時代の友人達との泊りがけ旅行,父と姉とのスイスツアー等々,話を聞くたびに驚かされた記憶がある。平成17年7月,77歳の時に弟が同行して3泊4日で尾瀬を縦断したことがあった。母の遠出はこれが最期だったと思うが,本人はもうこれで満足したと納得していたようだ。

母は花が好きであったが,華麗な花よりは,小さな野草を好み,自宅の庭には好みの草花を植えて,まさに植物園のように草花が生い茂っていた。特に,玄関横の弟が植えた福寿草が咲くのを楽しみにしていた。この8年間は足が不自由で独りで外出することもできなくなっていたが,冬に帰省するといくたびもつぼみの数を尋ねられたものである。

平成20年6月,父が亡くなった直後に80歳を迎えたが,独居生活が始まった頃から毎年何らかの入院を繰り返すようになった。ひとりで住むには大きな家であったが,地元の兄弟やヘルパーさんたちに支えられて最後まで自宅で生活できたのは何よりである。今年の4月に体調不調を訴えて入院,以降次第に体力の衰えが顕著になってきた。父が88歳の10日前に亡くなったので,母には88歳に到達してほしいと願っていたが,88歳の誕生日の翌日静かに旅立った。

この間,丘ふみ游俳倶楽部に母を詠んだ句を投句してきたので,振り返ってみると色々なことが思い出される。母がいることを口実にたびたび福岡に出かけてきたが,そういう口実もなくなって何かさびしい思いに駆られている。福岡も少し遠くなってしまった。

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●白日傘差す母のかを若く見へ    2006年5月
●グラジオラス傾きそうな母の肩   2008年7月
●アマポーラ母へみやげのペンダント 2009年8月
●母ひとり花一輪の福寿草      2009年12月
●山茶花のはらりはらりと母縮む   2010年11月
●独り居の母の夕餉や暮れ遅し    2011年4月
●きっぱりとこれが最後の賀状書く  2011年11月
●石蕗咲けば母を残して同窓会    2012年11月
●代筆の母は元気と寒見舞      2013年1月
●リハビリの母の背中に青嵐     2013年5月
●すり減りし被爆手帳や長崎忌    2013年8月
●寝て起きて食べて寝ること草の花  2013年9月
●花石蕗や母の独り居はぁひふへほっ 2013年11月
●一人静大きな家に小さき母     2014年3月
●玄関の緩和スロープ冬林檎     2015年1月
●文月や母のはがきの震ふ文字    2015年8月
●定刻にヘルパーの声敬老日     2015年9月
●百坪の庭のふくらみ福寿草     2016年1月


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