「砂太先生を囲む会」=葱男

11月5日、博多駅筑紫口のジャンカラで「砂太先生を囲む会」が開かれた。
前日の高校の同窓会、これまで毎年のように参加していた先生だが、今年の幹事連は84歳になる先生の体力を考慮してか、会へのお声掛けを遠慮したようだった。
せっかくの博多詣なのに、先生に会わずに帰ることはできないと思い、博多在住の俳句クラブ連中に声をかけて、雪絵さん、五六二三斉さん、久郎兔さんと、先生を合わせて五人で集まって、昼のカラオケ屋で「プレバト句会」を開くことにした。
パソコンのない先生からの選句はいつもコメントなしの番号だけのファックスなので、この機会に大いに俳句を語ってもらおうと、今月号の参加者五人の選句をもとに、気になった句についてみんなで自由に感想を述べ合うことにした。
なんせ、昼酒を飲みながらわいわいやるプレバト句会なので、私の記憶もいい加減なものである。発言者の名誉を傷つけかねないので、発言者の名は伏せて、大体こんな話が先生を中心に交わされた、という風に理解してください。
■B部門
●いちじくの万有引力房囓る
※「万有引力」というような難しい言葉、専門的な言葉を俳句に遣うキーポイントは、「その言葉が句の中でちゃんと光っているかどうか?」 前後の脈絡もスッキリとさせないと難しい、という意見が多かった。この句の場合、なぜ林檎ではなく「無花果」なのか?たとえば無花果の実が必ずしも下にぶらさがらず、上を向いた状態で成ることを「万有引力」と結びつけたのか? 「房」という形容が無花果にふさわしいのかどうか?そのあたりをクリアーできないとなかなか句の形としてはむずかしいだろう、という会話が交わされました。
●無花果や鍼灸院の犬の老ゆ
※一番問題になったのは下五の「犬の老ゆ」。賛否両論だったが、「犬」に焦点を合わせることで句意が曖昧になる可能性も指摘されました。主人公は何なのか? 「犬」だとすれば「鍼灸院」がちゃんと響き合っているのか、「犬」ではないのだとしたら「無花果」の効果はあるのか、それとも単なる「写生」だったらそれで良いのか?
●銀杏黄葉舞台女優は肩で泣く
※「舞台女優は肩で泣く」がやや常套句、聞いたようなセリフ、あるいは演歌の歌詞めいていて、ついつい気持ち良くさせられてしまうのではないか、そのために句の内容に深く入り込む前に選句してしまいそうな、そんな一句でもある、ということ(それがダメだということではなく)。
●傷口のやうに無花果そっと舐む
※この句はおそらく「男の句」ではないか、「女性」が詠んでいたら面白いのに。という会話で盛り上がったあと、作者名が明かされて、みんなビックリ!! だから俳句は面白い!
●三分で選ぶ駅弁薄紅葉
※三分が長いのか短いのか、句意としては「短い」ほうを表現しているのだろう、というみんなの見解。 つまり、駅弁は二の次で、主役は「薄紅葉」だ、ということ。 事実の「三分」は相当に熟慮できる時間だと思うが言葉の使い方としての「三分」はまた、意味が違うということ。
●罪深き手に無花果の乳垂るる
※「罪深き」という重たい言葉を乗せているが、話題は僕らの子供の頃に。通学の途中などにいくらでも「無花果」の成っている大きな家があり、なんとなく誰にも断らず、椀いで食べていた、という話。今のように高級品として果物屋やスーパーでお金を出して買うことは少なかったなあ〜、^^;
●封切れば言葉溢るる虫の夜
※「虫の夜」を斡旋した作者の感覚についてああだ、こうだと話が弾んだ。美しくもあり、うるさくもあり、雑多でもあり、澄んでもいて、「虫の夜」はいかようにもイメージが広がる句である。
●マナー良き野球少年草紅葉
※「マナー良き」に少し再考の余地がある、という意見が多かった。「野球少年」のマナーの良さはは当たり前すぎるので、たとえば「眉の凛々しき」とか、具体的な表現が欲しいところ。「野球少年凛々しき眉や草紅葉」、とう〜〜ん、推敲するとなるとなかなか夏井いつき先生みたいに上手くはいきませんが、、という話。
●蓑虫やをかしき言葉書き写す
※なぜ「をかしき言葉」なのか、理解できない人のほうが多かったが、「ミノムシは木の枝や葉っぱだけでなく、そこらに落ちているものなら毛糸くずでもゴミでもなんでも衣にしてしまう」からではないか、という話が出て、それなりにみんな納得しました。
●紅葉かつ散る言葉瞬く間に乾き
※「散る」と「乾き」の動詞ふたつがどんな効果をもたらしているのか、という議論になった。それがリズムになって面白い、という意見、季語の本意を考えると「言葉の曖昧さ、いい加減さ、その時の気分で意味も変わる」ということでもありそうだ、いや、その「目くらまし戦法」が良いんだとか、逆にざわつくとか、なかなか多事争論の一句でした。
●紅葉山鞍馬天狗の鼻色に
※「天狗の鼻の色」の赤を言っているのだろう、ということになったが、「鞍馬天狗」は「鞍馬山」の紅葉を想像させるためにわざとなのか、下五は「鼻の色」とスッキリさせたらどうか、という意見もありました。
■A部門
●大花野少年突如走りだす
※この少年がいくつぐらいだろうか、という話になった。小学生や幼児では当たり前過ぎて面白くないだろう、という意見もあった。中学生、高校生でも分かる、という意見もあった。いずれにせよ、気持ちの良い句である。
●来るたびに迷子の心地して花野
※佳句であることは間違いないが、「来るたびに」が説明になっているのが惜しい、という意見も出た。
●小鳥来る尊徳像の薪の上
※この句に対する評価が分かれ、話はいわゆる「モノ俳句」と「ただごと俳句」の話になった。 具体性のある句(ここでは尊徳像になるが)はより景が鮮明になる効果がある一方、そこに「ポエジー」が感じられないとただごとになってしまう。俳句は「モノ」に託し、「我」を主張しないのが「俳味」であるが、そこに「ポエジー」がないと日記や説明に堕してしまう。一方、いわゆる観念俳句、難解句は「我」を主張して抽象的にすぎることが多く、ひとりよがりで終わってしまいがち。そのあたりのバランスのとり方が微妙で、まさにそこが俳句のむずかしさでもある。 このテーマは「トクホンの微かに匂ふ月の客」についても言及された。 サロンパスとトクホンは以前は関東と関西で大きく分布が分かれたようだが、はたして「ポエジー」はどこから生まれるのか、興味深い問題であった。
●月の雨黒鍵だけのピアノ曲
※あとで調べると「月の雨」は「雨月」の傍題にあるのだが、その場では「雨が降っていながら月が見えるのか?」という話になって脱線。どこまでを「傍題」として認めるのか、たとえば他の句会で問題になった「風神の筆の捌きや絹の雲 葱男」でははたして「絹の雲」が季語として認められるのかどうか、という話になった。歳時記によっては「絹雲」は「巻雲」とともに「鰯雲」「うろこ雲」と並んで「秋の季語」とするものもあれば、載っていないものもある。 いずれにせよ、俳句における「有季、定型、旧かな遣い」のしばりは「美」でもあり、「束縛」でもある。
●爪を研ぐ猫の真顔や文化の日
※いまどきの「猫ブーム」はなにも俳句にかぎったことではないが、現代俳句においても「猫俳句」「猫俳人」がもてはやされ、特集もよく組まれている。 なにも「猫」に責任があるわけではないが、自分の趣味で句の良し悪しを判断することはどんな分野においてもタブーである。 「鉄道」「食(酒や料理、スイーツなど)」「父母もの」「懐古趣味(昭和や大正モダン、江戸文化)」「洋物(カタカナや外来語)」などの句に対する評価も、単に自分の好みだけで判断していないか、逆にそれが良くないことなのか、むずかしいところである。
●長き夜や寝顔を照らす読書灯
※句の解釈に違いがあった。自分が読書していてうつらうつらして、目が覚めた時の「読書灯」なのか、読書しながら眠ってしまった家人を誰かが傍らから見ているのか? はっきりとした結論は出なかったが、「景がはっきりとしない」ことが必ずしも駄句だとは言い切れないのではないか?

■句会・同窓会を終えて 葱男
俳句をめぐっていろんな話をすることは大きな喜びであり、学びである。
自分の中に引きこもって自分の美意識を追求すること、自分の句柄を見つけ出すことだけに拘泥すれば、おのずと俳句はエゴイスティックで自己満足的なものになるだろう。
ネット句会は自分の部屋の中にいるだけでも参加できるという大きな利便性を持っているが、俳句は、いや、そもそも人間は他者との関りを抜きにしては成立しえない。
それが可能であるならば、できるだけ多くの吟行や句会の参加し、他者と接触することによって、より自分が(または自分の俳句が)磨かれてゆくのではないだろうか?
今後も京都、東京、博多を起点に、「丘ふみ」会員や超結社の吟行、句会を企画していきたいと考えています。
機会があればまたどこかで、「俳句」を肴にして、才能も個性も豊かな素晴らしい人たちとの交流を深めたいと願っています。

同窓会風景:この一枚の写真の中に、雪絵さん、久郎兎さん、五六二三斎さん、喋九厘さん、資料官さんが映っています。
(そのほかにも、OB会員としては、君不去さん、信久翁さん、五里さん、政治さん、湯姫さんのお顔が見えます。)
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*第8回・田中裕明賞 「フラワーズ・カンフー」小津夜景 *
*金子敦「音符」 *
*賀茂川吟行句会 *
*150号発刊・記念句集 *
*玻璃の展覧 *
*梅雨明けや母いそいそと父のもと=資料官 *
*利普苑るなさん・追悼 *
*2016年4月・鎌倉吟行 *
*2015〜2016 雪・雪・雪 *
*2016・写真俳句大賞 *
*冬のはじまりの手しごと市 *
*地面下句会 *
*平成二十六年俳諧国之概略 *
*杉山久子・「春の柩」 *
*大森健司・「あるべきものが、、、」 *
*利普苑るな・第一句集「舵」 *
*「筥崎宮・蚤の市」吟行句会 *
*楠木しんいち「まほろば」 *
*銀座吟行句会 *
*Subikiawa食器店 *
*ジャポニスム *
*金髪の烏の歌 *
*Mac崩壊の一部始終 *
*香田なをさんの俳句 *
*能古島吟行句会 *
*Calling you *
*白鴨忌 *
*葬送 *
*風悟さんの絶筆 *
*小田玲子・「表の木」 *
*初昔・追悼句 *
*大濠公園/吟行・句会/2012,11,11 *
金子敦「乗船券」 *
丘ふみ俳句:丘ふみ俳句:韜晦精神派(久郎兎篇) *
丘ふみ俳句:協調精神派(前鰤篇) *
丘ふみ俳句:行楽精神派(メゴチ篇) *
丘ふみ俳句:ユ−モア精神派(喋九厘篇) *
丘ふみ俳句:俳精神派(五六二三斎篇) *
丘ふみ俳句:俳精神派(香久夜・資料官篇) *
丘ふみ俳句:俳精神派(水音篇) *
丘ふみ俳句:詩精神派(秋波・雪絵篇) *
丘ふみ俳句:工芸精神派(君不去・夏海) *
丘ふみ俳句:実験精神派(白髪鴨・ひら百合・入鈴・スマ篇) *
丘ふみ俳句:砂太篇 *
俳句とエチカ *
現代カタカナ俳句 *
大震災を詠む *
「遊戯の家」金原まさ子 *
さらば八月のうた *
「ハミング」月野ぽぽな *
「花心」畑 洋子 *
1Q84〜1X84 *
「アングル」小久保佳世子 *
ラスカルさんのメルヘン俳句 *
「神楽岡」徳永真弓 *
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『1Q84』にまつわる出来事 *
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「夜の雲」浅井慎平 *
澄子/晶子論 *
「雪月」満田春日 *
「現代俳句の海図」を読む:正木ゆう子篇 *
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田中裕明篇 *
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「伊月集」夏井いつき *
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「粛祭返歌」柿本多映 *
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ソネット:葱男 *
俳句の幻想 *
丘ふみ倶楽部/お誕生日句と花