AREZZO

●ROMA
 骨董市 ●そのルーマニアのおばちゃんに出会ったのはアレッツォの町で毎月第一土、日曜日に開かれているイタリアでも最大規模の骨董市だった。
天使(アンジェラ)という名前のおばちゃんは店のまん中にどっかりと腰をおろし、昼間から1リットル瓶のワインを飲んでいた。
ええ〜?この人が今日から3日間お世話になる《ヴィラ・タッコ》の女主人なのう〜〜?
「大丈夫かいな?」とその時ははっきり言って不安だった。エージェントの歌子さんが私達夫婦を紹介した時も「あんた達、だ〜れ?」みたいな投げやりな表情が垣間見えた気がした。
ところがやはり世の中は分らない、これがすごい、かっこいい、素敵なおばちゃんだったのである。
●骨董商と貿易で女ひとり、一代で大きな財産を築き上げたヴィラ・タッコの主人は2年前に最愛の旦那様を亡くした未亡人だったのである。
彼女の邸宅(古い石作りの民家の内部を高級ホテル並みに改築したもの)は広大で、すべての面において、すみずみにまでちゃんと手が行き届いていた。
スタッフは歌子さんと、ビオリという名の42才の働き者のルーマニア人。
去年の11月からこの3人で本業以外にB&Bを始めた。ヴィラの敷地には膨大な数の骨董品と羊、七面鳥、鶏が飼われいた。
写真でもお分かりのようにこの可愛い家畜たちは食用のものである。
料理上手のアンジェラはなんでも自分の手で材料をさばく。豚でも羊でも、七面鳥でも兎でも。
 ヴィラ・タッコ
自然 ●私は生まれて初めて、羊の脳みそと目玉を喰った。最高に美味。脳みそは濃厚な河豚の白子焼みたいだったし、目玉は魚と違って、中心の固いところがなく、丸ごと全部食べられた。
アンジェラは私が出会った女性の中では一番強く、気高く、生きる事に真剣で、そして情熱的 な女である。
彼女は25歳の時に出会い、恋したイタリア人を追って単身ルーマニアからイタリアに移住した。どういう事情があったのかはわからないが、その男性を実に24年間愛し続け、5年前にようやく結婚する事ができた。今の財産はすべて、女ひとりがイタリアで暮らしてゆく為に一生懸命働いて一代で築いたものである。その男を愛するがゆえに。
2年前、最愛の夫を彼女は失った。それでも今の事業を続けていくのはどんなに辛いことだろうか?
若いイタリアのカップルは町中いたるところで熱いキスをかわしている。しかし、彼女以上に情熱的な恋を私は聞いた事がない。
タッコの近くには本物の自然がいっぱいだ。30分散歩すると、かのモナリザの背後に描かれているブリア−ノ橋がある。庭には家畜だけでなく、夜になるとどこからか蛍が飛んでくる。

 *螢火の上りて天に北斗星