〜夏 滴る〜


●羅をしづめて地中海蒼し
【はるもにあ】

●島出でて握ればさみしラムネ瓶
【はるもにあ】

●ふたつの火消して夜風となる螢
【はるもにあ】

●爽雨の忌雨を仰げば雨の青
【はるもにあ】

●ハイタッチの瞬間温度夏来る
【はるもにあ】

●麻の葉やミスパスつづく相関図
【はるもにあ】

●滴りやクンとも啼かず犬の逝く
【はるもにあ】

●烏瓜白塗りで舞ふやうに咲く
【はるもにあ】

●シトロンの夢見るやうに泡立ちぬ
【はるもにあ】

●2の指と5の指結び遠花火
【はるもにあ】

●あと出しで負けてしまひぬサクランボ

●現実が喉を通らぬついりかな

●明暗を提げ尺八の影涼し

●蛍舟見たいと云ふてそれつきり

●昔ソプラノで歌ったよ蛍

●とんつーとん蛍も喋らず

●祭果つ役者一人を失ふて

●赤い鳥どこへ逃げたか夕焼空(2011/7/19 原田芳雄 逝く)

●ゆつくりと回すプロペラ大夕焼

●火がうせて風となりぬる螢かな
    『俳句界』10月号/「雑詠」【佳作】(大串 章 選)

●まなうらに蛍火奔る番外地 
  『俳句界』10月号/「兼題/地」【佳作】(大高霧海 選)

●ドクダミの花の数だけ無縁仏 
  『俳句界』10月号/「俳句ボクシング」【リングサイド】(岸本マチ子 選)

●葉が好きで葉を食べてゐる桜餠
【百鳥】

●鈴鳴らすたびに赤らむ桜の實
【百鳥】

●暮遅し豆の缶詰ふくらみぬ
【百鳥】

●鹿の子に初めての海輝きぬ
【百鳥】

●枇杷の實の空に突き上げたる拳
【百鳥】

●北斎の狂気にならふ雲の峰
【百鳥】

●夏果つるラヂオ塔から島の唄
【百鳥】

●どの道もローマに遠し飯饐る
【百鳥】

●下校時のことによく鳴るラムネ玉
【百鳥】

●浴衣著て闇のにほひを嗅ぎ合へり
【百鳥】

●親戚の子らみな集ふ金亀子
【百鳥】

●肩組みて物干し場から夕焼雲
【百鳥】

●芙美子の忌燃えて泣くなり赤ん坊
【百鳥】

●逃ぐるほど楽しき鼠花火かな
【百鳥】

●宇治を抜け無事金時を発掘す
【百鳥】

●タクトからヒッグス粒子夏の魔女
【百鳥】

●撫子やファンタスティックな足さばき
【百鳥】

●空蝉の爪の先までもぬけなり
【百鳥】

●英霊の海駆け巡る瓜の馬
【俳句界】山崎十生 選

●夜の秋文語にはかにいろめける
【俳句界】佐藤麻績 選

●夏の夜の間のびしやすきトロンボーン
【俳句界】能村研三 選

●日覆にこもる熱気や出口なし
【百鳥】

●朝鈴に眠れる安居院(あぐい)商店街
【百鳥】

●巷間に一時帰宅の生見玉
【百鳥】

●塩梅も加減もできぬ残暑かな
【百鳥】

●食ひ意地を鱧の頭に睨まるる
【百鳥】

●ポケットはぜんぶ空つぽ夏の浜
【俳句界】石井いさお、名村早智子 選 

●前髪のこころもとなき祭の夜
【百鳥】

●緑さす新譜を前にチェロ奏者
【百鳥】

●菖蒲園渡れぬ橋の多かりし
【百鳥】

●夏帽子おさへ海への下り坂
【百鳥】

●妖怪を好きになりさう布袋草
【百鳥】

●江ノ電に水着審査を了へし子ら
【百鳥】

●青東風に一輛電車吹かれあり
【百鳥】

●「滅私奉公」平八郎に扇の書
【百鳥】

●梅雨明けて郷にしたがふ瀬音かな
【百鳥】

●かはほりの住処となりし出版社
【百鳥】

●押し入れに引金熱き幻灯機
【百鳥】

●寝ころんで横にしてみる雪解富士
【百鳥】

●大きくも小さくもなき樽神輿
【百鳥】

●あいすくりん小さきベニヤの匙使ふ
【はるもにあ】

●蝸牛まさかのフォークダンスかな
【はるもにあ】

●ひとかきでざわめく夜のプールかな
【はるもにあ】

●田ん神のうぶ毛揺れゐて風青し
【はるもにあ】

●青草のままをヴェールで守りたき
【はるもにあ】

●炎天にリボンを解かぬ少女かな
【俳句界】加古宗也 選

●白塗りのカエサルに汗石畳
【はるもにあ】

●はなやかなタオルに巻かれ竹婦人
【俳句界・めーる一行詩】<特選>

●ビニールに全部詰め込む夏休み
【俳句界・めーる一行詩/佳作】

●中津川きつと最後の夏休み
【はるもにあ】

●萬緑や大往生に介護なし
【はるもにあ】

●まどかなる犬との暮らしふたごもり
【はるもにあ】

●入牢にそつと手をかす螢狩
【はるもにあ】

●夏の月沙蚕となりて白濁す
【はるもにあ】

●十薬を火垂るの墓と覚えけり
【はるもにあ】

●白シャツの貝より白く渇きけり
【俳句界】加古宗也 〈特選〉

●大好きな先生のひげ青嵐
【俳句界】田中 陽選

●泉あり結界のその向かうがは
【俳句界】山崎十生 選

●短冊の文字照らしをり夏の月
【百鳥】

●夏料理すずしき手より分けらるる
【百鳥】

●神社よりグンと大きく楠茂る
【百鳥】

●遠雷やドラマはまたも最終回
【百鳥】

●父の日やシングルモルト月に挙ぐ
【百鳥】

●蛍見の集ひの知らせ壁新聞
【百鳥】

●絵葉書の1ユーロ分ジャカランダ
【百鳥】

●うしろから不意の目かくし手鞠花
【百鳥】

●新緑の葉いちまいを欲しけり
【百鳥】

●光陰やプールを叩く通り雨
【俳句界・めーる一行詩/佳作】

●あふれだす青水無月の泪壷

●濁してはまた濁しては夏の海
【俳句界・めーる一行詩】<秀逸>

●また雨かまた蚊遣火の渦の果て
【俳句界・めーる一行詩/佳作】

●梔子やどうやら今日も雨女

●閻魔堂念仏狂言壁新聞

●緑陰にトマト果汁のはじけとぶ

●マリア月死んだふりして遊びけり
【俳句界・めーる一行詩/佳作】

●妃殿下の畑の繭の五十年

●十薬の庭にトレモロ忘れ傘

●夏の月腹の脂肪のうすきひと

●そばかすの数だけ笑ふ霞草

●物理学教授の好きなミニトマト
【はるもにあ】

●浮くたびに裏返しやる浮人形
【はるもにあ】

●炎天のコロッケ父に支那事変
【はるもにあ】

●蝉の背の十字に割りし告白記

●夏惜しむ父上は大審問官

●ガラタ橋揺れながら喰ふ鯖サンド

●なめくぢら海への道を忘れけり
【俳句界】田中 陽選

●頂きの見ゆる坂道花蜜柑
【百鳥】

●炎昼にリボンだらけの愛玩犬
【百鳥】

●赤き斑ほつりと焦がし山女魚焼く
【百鳥】

●真夜中のプールに聞こゆ沖つ波

●青瓢ギブスの少女よく笑ふ

●空へゆく水底へゆく夏の果て

●川床を飛ぶ蛍に近き微熱かな
【はるもにあ】

●白南風や屋号の桝の藍しぼり

●初めてのひと居て酔ひし半夏生

●仏門に入りて培ふミニトマト
【俳句界】田中 陽選

●自転車に乗れし不思議よ子供の日
【百鳥】

●矢車や古新聞の捨てがたく
【百鳥】

●万緑の大向かうから吹奏楽
【はるもにあ】

●母の日やサンドイッチの耳残る
【はるもにあ】

●境内に羅漢のうたげ姫女苑
【はるもにあ】

●夏衣また小走りに編集子

●ひとたびのふたたびならず若葉風
【はるもにあ】

●蚕豆やジャックの登りやすき空

●野に光五月のパンとワインかな

●風青し流木ひうと鳴りまする

●猫に土盛りて緑雨のきざすまま

●草矢射つ無くなることのなき空に

●愚痴つぽく聞こゑたかしらかたつむり

●素っ裸ふたりのボブの歌を聴く
【俳句界】加古宗也選

●草いきれおおかた仏大陸上部
【百鳥】

●まひまひや北へ旅立つフォーク歌手
【百鳥】

●夕蛍十年前の話から
【百鳥】

●久美浜も小浜も遠し金魚売り

●湯帷子秘色の海を映しけり
【百鳥】

●玉蟲の渦巻く空やインク壷

●バーチャルは塋域あとは炎ゆる街

●江戸前のこはだ恋しや柳影

●仲良しの又従兄弟です甜瓜

●泡こぼしはしやいでまはるラムネ玉

●彩雲は湧く湧く香魚は笊に跳ね

●いくたびか夏の海から生還す

●炎天下初戦のキックオフまぢか

●冷や奴竹紙に君の名を見つく

●芍薬の匙打つように落花せり
【はるもにあ】

●入梅やお風呂屋さんの照り起くり

●青梅や手をとり義母を歩かしむ
【百鳥】

●黒板に残る数式大南風
【百鳥】

●一ノ滝二ノ滝からは龍の喘

●父の日の水茎の跡風のあと

●白南風やフーさんは名漢方医

【百鳥】

●蚊遣香揺らさぬ風のかよひ来て

●青時雨肌に零るる自然数

●ほほゑみしマリア観音麦の雨

●夕立風猫町抜けて猫小路
【百鳥】

●星の座を呑み干す琉球麦酒かな

●切支丹み胸に小さきサクランボ

●夏衣やいにしゑごころかよひける

●13の階乗ほども夜光虫

●のきしのぶ衛星北斗を亘りけり
【百鳥】

●麦の秋さみどりのノンアルコール
【百鳥】

●彼の世には彼の夜の√夏の月

●青葉潮猫のあくびに吸はれけり

●細帯の結びもきりり夏に入る
【はるもにあ】

●夏桜とをかぞへれば零れけり
【はるもにあ】

●若楓インクラインの錆び朱し
【はるもにあ】

●ラヂオからいつちにさんしい金魚玉
【はるもにあ】

●ゆやけ雲あれからずうつと文科系
【はるもにあ】

●子燕やマラケシュに水売る男
【はるもにあ】

●盆踊り代名詞から接続詞
【百鳥】

●風死して走る資格を問はれけり

●風抱きヨット小島を傾がせる
【百鳥】

●大湖までヨット洗ひに集まれり
【百鳥】

●夏葱や句会異色の顔合わせ

●たたかひを終へて不屈の夏残る

●月見草訪ねてみたき俳句町

●網膜に片蔭ありぬグッドバイ
【はるもにあ】

●たなばたやあらひざらしのねがいごと

●水海月いまだ覚悟を決められず

●螢子のほんたうの母の火影かな

●七変化雨から慈雨にぬくもりぬ

●ほうたる戀甘い苦いと明滅す

●ほうたるをびっくりばこに幽閉す

●いぢらしきニ冊の句集蛍籠

●ほの明かり初折裏の蛍かな
【百鳥】

●大守宮壁から壁へとびうつる
【百鳥】

●白シャツと渾名せし師の三回忌
【百鳥】

●中心之舟螢舟之心中

●夏の月ほろりと揺れて高野川

●立ち漕ぎの少女の背中夏に入る

●麦笛や呼び戻されし昭和の譜

●仄めくは初折裏なる蛍かな
【はるもにあ】

●博愛として白玉のをのこなり
【はるもにあ】

●毒消売の聲のむかうに隣まち
【はるもにあ】

●枝蛙水閉じて水開きけり

●寡婦燈心蜻蛉の羽をちぎりけり

●たたむ過去たたまぬままに月光魚

●現在地奇跡と思ほゆ青田風

●ほんたうの戀の火影や螢籠

●薔薇喰ひて囚われびとと笑はるる

●さびしきは異国の薔薇のかほりなる

●遠花火 不意にあなたのアリアかな

●草清水きららの石の積まれけり
【はるもにあ】

●風死して倫敦の火の消ゆる晨

●庭涼し条幅の書の余白かな
【百鳥】

●ひと文字で氷と書いて雲の峰

●氷鳴る切子の中のジ・エンド

●風死してフーテンのまたひとり逝く(永嶋慎二氏を悼む)

●大江戸の恋ひし雀に夏終わる(杉浦日向子さんを悼む)

●香水の海に没する聖樹(ハリウッド)

●蚊の聲の俄に遠し夜立かな

●旅を終え一日(ひとひ)を終えて沙羅の花

●十万の眼に白煙の法王忌

●夏の霧ピエタの肩を濡らす世に

●蛍火の昇りて天に北斗星

●ボナセラを橄欖に告ぐ鐘の韻

●幻世の遺跡に沈む夏の夕

●一瞬を点描するや芥子の赤

●火蛾ともに優作を待つ二番館

●素足から数えるほどの十五歳

●墨色に白雨(はくう)暮れゆく五十年

●テレビ塔聳ゆる丘に夏の雲

●むらさきの午睡に出づる夢の糸

●丘の上(へ)に天使のかよふ園在りき
 
●梅雨籠ディセタンの息閉じ込めて

●紫陽花は接吻のあと慈雨に変わる

●背は柱眼は窓の外夜の翡翠