〜春 笑ふ〜
●がんばつたとんがりたまご草青む
●きのふより五度あたたかき春を噛む
●啓蟄や湯殿に首の並びをり
●ミモザ咲く銀座に巴里がありしころ
【はるもにあ】
●春の土ゲートボールをトンと打つ
【はるもにあ】
●背に負ひし黒き太陽かの子の忌
【はるもにあ】
●からつぽの泪壺へと春の雪
【はるもにあ】
●春の旅メコンてふ名のウイスキー
【はるもにあ】
●ヴェネツィアを渡る春風獅子に羽
【はるもにあ】
●「内祝・鰹節」付きの仔猫来る
【はるもにあ】
●花咲いて花散り山の一呼吸
【はるもにあ】
●おそざくら墓に布団はかけられず
【はるもにあ】
●馬の仔の耳立て人の仔をさぐる
【はるもにあ】
●春の夜ピンポン玉のひところび
【はるもにあ】
●春愁の上澄みなるや酒を酌む
【はるもにあ】
●陽の力若葉の力対峙せり
『俳句界』9月号/「兼題=力」【佳作】(名和未知男 選)
●春の田や今も黄色き妻の声
『俳句界』7月号/「兼題/黄」【佳作】(橋爪鶴麿 選)
●春灯や物見櫓は闇の中
『俳句界』7月号/「雑詠」【佳作】(加藤耕子 選)
●祝盃に浮かぶ顔あり夜の梅
『俳句界』6月号/「兼題/祝」【佳作】(名和未知男 選)
●利休忌や火入ることなき常夜灯
『俳句界』6月号/「雑詠」【佳作】(大串 章 加藤耕子 選)
●豆六十食うて知足の春があり
『俳句界』5月号/「兼題/足」【佳作】(名和未知男 選)
●下萌やこどものやうな陽のやうな
『俳句界』5月号/「雑詠」【佳作】(大串 章 選)
●食べさしのリコッタチーズ春の風邪
『俳句界』4月号/「めーる一行詩」【佳作】
●探梅や古稀の乳房に添い寝する
『俳句界』3月号/「めーる一行詩」【佳作】
●大事さうに蕊をつつみし椿かな
『俳句界』8月号/「雑詠」【佳作】(伊藤通明 選)
●花大根似ていなくても双子なり
【百鳥】
●春山のゑくぼのやうな桜色
【百鳥】
●連翹や跳箱一段高く積む
【百鳥】
●この橋を渡ればアジア豆の花
【百鳥】
●避難所の庭駆けつける桜守
【百鳥】
●人好きの人アレルギー春の月
【百鳥】
●日に月に夫婦善哉春の雪
【百鳥】
●髭立てて風船を売る燕尾服
【百鳥】
●桜までまだ夢十夜三十夜
【百鳥】
●春あけぼの玉子問屋の倉庫から
【百鳥】
●髪留めのピンの震へる卒業歌
【百鳥】
●卒業式脱けて仏蘭西パンかじる
【百鳥】
●桜桃の人肌ほどの花咲けり
【百鳥】
●啓蟄や鍼灸院の水ベッド
【百鳥】
●さみどりにあゆみそめしか初ひ五月
【百鳥】
●リコーダー二本のセッション桜狩
【百鳥】
●絨毯が飛ぶ空を見し啄木忌
【百鳥】
●麦こがしまだ早口の幼妻
【百鳥】
●山影はラフスケッチの朧なる
【百鳥】
●ゆく春や草月流に生きて来し
【俳句界】大串 章 選
●万緑や全肯定否大肯定
【俳句界】田中 陽 選
●鹿の子に初めての海かがやきぬ
【俳句界・めーる一行詩】
●汚されし水汚されし空残花
【俳句界・めーる一行詩】
●カンカラのうらら江ノ電サブレかな
【俳句界・めーる一行詩】
●春なかば土葬の塚のほころびぬ
【俳句界・めーる一行詩】
●さへづりや交番のある百貨店
【俳句界】辻 桃子 選
●春ゆふべ紫明通りへ買出しに
【百鳥】
●春の宵父母の位牌を寄り添はす
【百鳥】
●花蜂や三十路と云ふてまだこども
【百鳥】
●もものひのみそじよそじのこどもたち
【百鳥】
●つつましく実のなる桜二輪づつ
【百鳥】
●雪解や線路の耳や貝の耳
【百鳥】
●ピノキオにどこか似てゐる喜寿の春
【百鳥】
●悲しみは菜の花ばかりなぎ倒す
【百鳥】
●三月の雪降りつづく破れ船
【百鳥】
●花大根似ていなくても双子なり
【百鳥】
●春山のゑくぼのやうな桜色
【百鳥】
●連翹や跳箱一段高く積む
【百鳥】
●この橋を渡ればアジア豆の花
【百鳥】
●避難所の庭駆けつける桜守
【百鳥】
●微熱もて遠足の朝明けにけり
【はるもにあ】
●磯あそびナザレの犬の柔き腹
【はるもにあ】
●ソレントの檸檬のかほるシャボン玉
【はるもにあ】
●花の塵水道橋を渡りけり
【はるもにあ】
●おもひではさらはれず在り花筏
【はるもにあ】
●桜逝くゆくがよろしき桜かな
【はるもにあ】
●麦踏や一筆箋の広きこと
【はるもにあ】
●春日影母の身丈の生つむぎ
【はるもにあ】
●孕鹿海近くして膝くずす
【はるもにあ】
●夕東風やひとり寄道してもどる
【はるもにあ】
●春の川花丸の渦をちこちに
【はるもにあ】
●フェルマータ五線譜に亀鳴きにけり
【はるもにあ】
●亀鳴いて極楽寺まであとすこし
【はるもにあ】
●朧夜の猫を離れし猫の胆
【はるもにあ】
●あたたかや群を離れし羊雲
【俳句界】奈良文夫 選
●赤錆びし細きレールや山若葉
【百鳥】
●花の雨さつぱり剃りて顎かるし
【百鳥】
●窓越しに指をかさねてあたたかし
【百鳥】
●こひびとはたまに道化師豆の花
【百鳥】
●西陣の春ぞへだたる機の音
【百鳥】
●卒業の運動場の広さかな
【俳句界】辻桃子 選
●雛の間にみしりみしりと歩み入る
【俳句界】辻桃子<特選>
土性骨卒寿の畑に鍬を打つ
【俳句界】大高霧海 選
●前髪のきちんとそろふ雛の客
【俳句界・めーる一行詩/佳作】
●はにかみ度2はづかし度3卒業式
【俳句界・めーる一行詩】<秀逸>
●しやぼんだま飛んでエデンの東まで
【俳句界・めーる一行詩】<秀逸>
●決して目を合わさぬ少女紙風船
【百鳥】
●たびら雪しばし窓辺に迎へけり
【百鳥】
●さへずりやケーキを恨む淑女たち
【百鳥】
●町家からカレーのにほひ春燈
【百鳥】
●春の土養豚場は引越せり
【百鳥】
●金平糖の角舐めている春休み
【百鳥】
●花菜風かぐはし豚の貯金箱
【百鳥】
●金斗雲飛んで桜の便りかな
【百鳥】
●鷹化して鳩となりたる銀婚式
【百鳥】
●いとくり草屋根裏部屋に聴くバッハ
【はるもにあ】
●猫の骨散らせし花の影に雨
【はるもにあ】
●原つぱの土管より見し春の夢
【はるもにあ】
●葱坊主なかつたことにされてをり
【はるもにあ】
●花時を酒の二合とおもひけり
【はるもにあ】
●暮れかぬる門よりキリコ遁走す
【はるもにあ】
●アトリエに神域のあり桜貝
【はるもにあ】
●ふらここにおこりんばうと泣き虫と
【はるもにあ】
●白子干冥土の父に叱らるる
【はるもにあ】
●うすらひはおもかげ母の洗面器
【はるもにあ】
●春雪に音を吸はれし音楽堂
【はるもにあ】
●路地裏の小さき祭壇猫の恋
【はるもにあ】
●白梅を杖でつつきて爺わらふ
【はるもにあ】
●蚕豆の花なつかしきひとに逢ふ
【俳句界】茨木和生 <秀逸> 今井千鶴子、岩城久治 選
●春繊月不憫なものに母の爪
【俳句界・めーる一行詩/佳作】
●春筍やラヂオを買ひて同棲す
●豆腐屋の朝まだ早き昭和の日
●陰雪や海馬の底に失くした日
●さかさまに座るサドゥや花筏
●サムライにコノハナサクヤヒメのキス
●妃殿下の歩み花時花の雨
●豆の花老々介護十年目
【百鳥】
●蒲公英の身丈三尺ほどもあり
【百鳥】
●花の雪くぐり石段駆け上がる
【百鳥】
●花守や金婚式の感謝状
●三毛の鼻春のかたみに舐めてをく
【はるもにあ】
●歩いたね桜の道を同ぢうし
【はるもにあ】
●花うぐひ愛は汽水に充ちてあり
●告白は低音なりき卒業子
【はるもにあ】
●講堂へ枝垂れ桜を分けて入る
【はるもにあ】
●桜湯をながめてはまた戴きぬ
【はるもにあ】
●げんげんや猫壷のまだ部屋にあり
●若楓汚れなき手を伸ばしけり
【はるもにあ】
●稜線のゑがくとほりのうららかさ
【百鳥】
●サイレント映画に字幕つくづくし
【百鳥】
●旧式なる告白も良し春休み
●式目は花の座にありおばあさま
●あさのひかりゆふべのひかり花を待つ
【俳句界】山崎十生 選
●光より影疾かりし春の鹿
●淡月や妣の生まれし日を老ゆる
●やまあひに桃笑ふ村トンパ文字
●裕明は決して走らず葱の花
【俳句界】茨木和生 選
●はららごのみなやはらかし花衣
●春の虹百年を焼くトースター
●石王尉ゆらりそらりと梅祀る
●古梅園美女の貞淑噎せかえる
●遊行期を水辺に住みて分葱食ぶ
【俳句界】齋藤慎爾 <秀逸>
●春日あそぶ露天に古りしアフロディテ
【俳句界】田中 陽選
●たれか死す春の蛍のおぼろかな
【俳句界・めーる一行詩/佳作】
●あはゆきの汝のこゑにとどまりぬ
【俳句界2月号/09】掲載
●ヴァラナシの魚氷に上る行者かな
【俳句界2月号/09】掲載
●春かなし匂ひを打ちて描き終はる
【俳句界2月号/09】掲載
●君子蘭汝しずかなnonを云ふ
【はるもにあ】
●時知らず十九の猫と暮らしをり
【俳句界2月号/09】掲載
●よさこいの太鼓と少女土匂ふ
【百鳥】
●草朧猫は二十歳になりにけり
【百鳥】
●外遊の叔父春色を持ち帰る
【百鳥】
●抱きよせて魚氷にのぼる宵となす
【はるもにあ】
●鞦韆や終生の友さびしさう
【はるもにあ】
●ふらここもかの下宿屋も雨の中
【はるもにあ】
●春日ごとはこばれてゆくビュ−列車
【はるもにあ】
●春の雪部族に長(おさ)のありし頃
【はるもにあ】
●草矢射つ無くなることのなき空に
【俳句界】田中 陽選
●昭和の日ずつしり重きビルヂング
【百鳥】
●花過ぎの胃の腑にそそぐミント水
【はるもにあ】
●聖書(バイブル)に新旧のあり紫荊
【はるもにあ】
●惜春の岩石と化すコッペパン
●見送りしのち糸柳みどりなす
●春満月キコリとキリコ読み違ふ
●につぽんに吹き寄せられし花埃
【俳句界】岩城久治選
●花の雨女子テニス部の声やまず
【百鳥】
●陽に撥ねて踊り初むるや花みづき
【百鳥】
●花筏ひとひらは母けふ逝きぬ
【百鳥】
●春送る瀬音しばらくふくらみて
【百鳥】
●昼酒の穏やかなりし櫻守
●雛納め大好きな娘に通せんぼ
●混浴のバーニャカウダで春野菜
●水張りて律をあらはす棚田かな
●吹き替へのこゑに焦がれし水圏戯
●春の潮母子鯨を乗せて引く
●白魚火やネット心中ほどに燃ゆ
【俳句界】田中 陽選
●参道に大亀石のみな温し
【百鳥】
●梅真白瑞源院趾とだけありぬ
●あの頃の木造校舎花すみれ
●墨色のベニスに湮む春の夢
●楠音のひそみにならふ紅枝垂
●序の舞や春霞より沸き立ちぬ
●斑鳩の春宵を容れ煌けり
●貝寄風や頬ぷつくりと膨らみぬ
【百鳥】
●はじめての絵本ミモザの芽の赤し
【はるもにあ】
●文鳥の爪ほど賢し柳の芽
●春うれひ待合室のモーツァルト
【はるもにあ】
●丘越ゆる立春大吉モアイ像
【はるもにあ】
●節分や人形の眼と魚の目
●烟草春霞分市川崑 ※2月13日 市川崑 没
●鶯や西への旅の涯てのファド
【百鳥】
●煙草吸う猿の不可解半仙戯
【百鳥】
●黄鳥やポルトガル語の歌覚ゆ
【百鳥】
●品格は飼ひ犬にあり春景色
【百鳥】
●義歯装填ややサイボーグ椿餅
●鞦韆の風待てど稚児待てど来ず
●雛も婆も座りつぱなしひひなの間
●妖かしを臺にとどめ椿落つ
●亡き友に誕生日来る春の雪
【百鳥】
●艶めきて素頓と笑ふ桃の花
【俳句界】田中 陽選
●松の花茶髪に黒き眼かな
【百鳥】
●球児らの遠投の弧に光る風
【百鳥】
●初蝶にト音記号のこども達
●葉を剥ぎてはにかむやうに桜餅
【百鳥】
●マラケシュに水売る男つばくらめ
【百鳥】
●大喰いのパンダのこども春の園
【百鳥】
●寝袋の木乃伊でござい春の昼
●片栗の花医学書を開帳す
●てふてふやてのひらふたつばかりなり
【百鳥】
●やなぎかげけふみちならぬかよひみち
●遠足の空初めての塩味チョコ
●阿の狛の面欠けてをり春の草
【はるもにあ】
●リハビリに添ひし穀雨の数十分
●聖母月猫のあくびに吸ひ込まる
●忘(ワシ)らりみ命(ヌチイ)ぬ香ばさ弥生尽
【はるもにあ】
●欝去れば慈悲心鳥のかぎろひぬ
●空亡くす聖五月より一頁
●うかれ猫ちよこれえとの歩を進む
●春光に織部の茶器のゆがみかな
【百鳥】
●春暁やどろり目覚むる天地人
●あまつさへ春一番のショコラーテ
●しろうおや最期にのどをくすぐりぬ
●円窓にふたとき黙す春の庵
【百鳥】
●春夕べ巴水の雲を数へけり
【はるもにあ】
●水の春この感情の在り処
●色に飽いて墨に気散じ遠霞
●顕信の忌や自由律に 聖痕出づ
●海雲すするはてなと思て生きてこな
●五分五分に割る芋の酒雨水来る
●遠き道ににんで歩む春と修羅
●禅寺に白人濡るる春の闇
●蓬餅ふしぎな動物右にをり
●高千穂の鉄路かなしき草朧
●なのはなのしあわせなのはなにぬねの
●玉になる日を待ちながら紙石鹸
●風優し千代田ポマード春の月
【はるもにあ】
●月朧李白の父の青まなこ
●角打ちや横丁で遭ふ春の月
●亀鳴いて独坐の雨の上がりけり
【はるもにあ】
●風が来て君を知りぬる菫かな
●はるぬにてそら色が好き空が好き
●芥川の真似する父や万愚節
●薄闇に生れては消ゆる櫻色
●音もなく雪解のやうに夜の尿(しと)
●烙印において二子なる涅槃雪
●春雨や筆を洗うてひとしきり
●見上ぐれば光太郎忌に母の遺影(かげ)
●春分やあくび鴉とともに起く
●二分ほどに花燈しけり里衣
●あどけなきしどけなきみよ春の川
●ひととせをさくらにつくしはつるのみ
●掌を合はせ何も願はず白木蓮
●拾はれてやよひてふ名の猫になる
【はるもにあ】
●春日傘小物屋に遭ふ猫や猫
●櫻月母のウテナの化粧水
【はるもにあ】
●うすらひをふむやうに序破急ならむ
●春きざす噛りつきたし草の朋
●精霊の姿あつめて春しぐれ
●白梅やみはらしれみみどしらはみ
●遣らずの雨か独居庵鉢の梅
●あたたかきうすゐのあとのうめのはな
●オフィーリア浮かぶ水面に風信子
●半木(なからぎ)は二河白道の紅枝垂れ
●シナプスに櫻蕊降る震源地
●連歌師にからめとられて春の月
【はるもにあ】
●をみなかなやよひの山も花も香も
●制服の遊糸かなしき堕落論
●咲きぬれど少しはにかむ小梅かな
●ちはやぶる告白の門卒業歌
●白魚の腹噛みにけり少年兵
●ふらここのまだ揺れており空焼ける