〜秋 装ふ〜


●あそびたらずもう逆光のねこじやらし
【はるもにあ】

●新しき靴のにほへる秋の朝
【はるもにあ】

●ひさかたの白曼珠沙華咲き残る
【はるもにあ】

●小鳥来てつながる赤き糸電話
【はるもにあ】

●秋うらら淑女と結ぶ紳士協定
【はるもにあ】

●賀茂川に棲むヌートリア糸瓜の忌
【はるもにあ】

●露草や風に微かに発電す

●秋冷を胸で斬りつつ走りけり

●血に依らず父娘となりぬ実紫

●六感はこめかみにあり月夜茸

●一流といふ氣の流れ神の旅

●鐘冴ゆる月型卍くずしかな

●火を埋めて余分なことはよしにして

●旅憶ふ果物籠のもみぢ山

●古本カフェ開店まぢか金の秋

●酢橘摘むこの切なさを鋏とし

●貴女てふ作品に付す月の眉

●小鳥来る一羽と吾のかくれんぼ

●夜学士や地球を回す好奇心

●朝冷のしづかに待機する迎車

●同時代生きてぶどうの湧き初む

●生きたらず千度吠えたり十三夜

●溝萩や墓誌に童女の幾人か
【はるもにあ】

●芋名月血統を継ぐ黒毛なり
【はるもにあ】

●鳩吹くや身を軽くして逢ひにゆく
【はるもにあ】

●どんぐりとメンコ交換いたしませう
【はるもにあ】

●団栗の石の鍵盤跳ねて来し
【はるもにあ】

●良夜なりマスターの死は詩の一行
【はるもにあ】

●かぎりなくひまはりあふれゆく車窓
【はるもにあ】

●秋初め古本カフェの開店す
【はるもにあ】

●ねこじゃらしぽつねんとたつあすふぁると
【はるもにあ】

●露地ものの酢橘すぐさま完売に
【はるもにあ】

●月の雨ただたくさんの恋をした
【はるもにあ】

●窓秋にあまたのひかり天の川
   『俳句界』9月号/「めーる一行詩」【佳作】

●一尺に満たぬマリアや島の月
   『俳句界』2月号/「雑詠」【秀逸】(角川春樹 選)【佳作】(池田澄子、加藤耕 子 選)

●黒猫の秋の翳よりはがれけり
   『俳句界』2月号/「雑詠」【佳作】(大串 章 選)

●盆の月気儘に窓を出入りせり
【百鳥】

●ジオラマの省線に死す午後の風
【百鳥】

●水運ぶ仕事に美しきいわし雲
【百鳥】

●水鉄砲打たれて嬉し文月かな
【百鳥】

●裏盆の夜更けて響く貨車の音
【百鳥】

●二椀に浮き立つ萩の闇蒔絵
【百鳥】

●やや寒や朝そばを食ぶ人形町
【百鳥】

●ぬくめ酒鼻に黒子のある猫と
【百鳥】

●後の雛アリスは深き穴に落つ
【百鳥】

●身に入むや比叡の背の旭日旗
【百鳥】

●稲の秀や出世ばらひと云ふ御恩
【百鳥】

●還暦のつぎの日句会ななかまど
【百鳥】

●十三夜虚無僧のゐる時代劇
【百鳥】

●オリオンのまなうらに沁む秋の朝
【百鳥】

●物の音の澄みて妖怪島に入る
【百鳥】

●ねこじゃらしぽつねんと生ふアスファルト
【百鳥】

●円顔は本家の血筋阿波踊り
【百鳥】

●金秋の孤独肺よりあふれけり
【百鳥】

●サルスベリ天才の髪暴発す
【百鳥】

●哀しみの大きな鰡の揚りけり
【百鳥】

●呼び水に井戸よみがえり秋茄子
【俳句界】名村早智子 選

●お多福の悲しいときのラ・フランス
【俳句界】山崎十生 選

●水栗の気高き黄金比率かな
【百鳥】

●稲の花カフェに紫烟のただようて
【百鳥】

●路地ゆけば不審庵てふ竹の春
【百鳥】

●天窓と吾を寝かする天の川
【百鳥】

●白桃の寝蓙となりし茶籠かな
【百鳥】

●大向う唸らすほどの長十郎
【百鳥】

●均等に父母はんぶんこきりたんぽ
【百鳥】

●皀角子や搬入搬出くり返す
【百鳥】

●夫婦して引き算習ふ寒露かな
【百鳥】

●四方山に七輪けぶる芋煮会
【百鳥】

●おさがりの学生服や晩稲刈
【はるもにあ】

●草もみぢ母によく似た叔母とゐて
【はるもにあ】

●「わ」と書くに「和」をこころするもみぢかな
【はるもにあ】

●霜降のキス勲章を付するごと
【はるもにあ】

●白式部うたがひもなく母子感染
【はるもにあ】

●煮卵に守秘義務ありし露の宿
【はるもにあ】

●ロリータもフェアリーも居る虫の籠
【俳句界・めーる一行詩】<秀逸>

●カンナカンナ母デイサービスに見送りぬ
【俳句界・めーる一行詩】<特選>

●流木を焚いて踊の輪となりぬ
【はるもにあ】

●八月の乾いた砂と濡れた砂
【はるもにあ】

●進軍はくり返されし山の百合
【はるもにあ】

●ブラバンの練習あとの酢橘水
【はるもにあ】

●鳩吹くや十四代にのぼる墓誌
【はるもにあ】

●送り火に母の見てゐた戦後かな
【はるもにあ】

●四万十をうつして余す天の川
【はるもにあ】

●朝鈴に眠れる安居院(あぐい)商店街
【百鳥】

●食ひ意地を鱧の頭に睨まるる
【百鳥】

●女子が漕ぐ月の自転車ふたりのり
【俳句界・めーる一行詩】<秀逸>

●ララミーは町の名いまも鳩吹きて
【俳句界・めーる一行詩/佳作】

●小牡鹿の眉間に星火萌ゑそむる
【俳句界】大高霧海 選

●文庫本ひらく旅びと海桐の實
【俳句界】山田弘子 選

●どの川の瀬音も高し終戦日
【百鳥】

●学友のあきつの原にありしころ
【百鳥】

●送行や別れのあとの五色豆
【百鳥】

●水澄みて棲む魚ゐて事もなし
【百鳥】

●ふたおやのなくて泣きぐせ草雲雀
【百鳥】

●ふるさとは十三回忌草雲雀
【百鳥】

●蓑虫にこと足りてをり衣食住
【百鳥】

●コスモスにはなびらいくつちひろの絵
【百鳥】

●さかあがりできて綿雲草の花
【百鳥】

●どんぐりや指にぎりくる小さき手
【百鳥】

●茶羽織で御幸町より下りけり
【百鳥】

●小六月季寄せの春を覗きけり
【百鳥】

●底紅や人間(じんかん)三世立ちつくす
【はるもにあ】

●皇后の小さき帽子や敗戦忌
【はるもにあ】

●現世はまほろばなりし稲穂波
【はるもにあ】

●初秋の川いつまでもさかのぼる
【はるもにあ】

●小鳥来る生まれ故郷に遠くなく
【はるもにあ】

●頭頂葉おもひしづかに月の霜
【はるもにあ】

●黒鍵を拾うて飛べる蜻蛉かな
【はるもにあ】

●ひょんの實や忍だるまの坐る場所
【はるもにあ】

●過去帳の匂やかなりし秋の猫
【はるもにあ】

●物の音の澄みてことさら井戸深し
【はるもにあ】

●柿吊す糊のききたる割烹着
【はるもにあ】

●初鴨の水にゐて水飲みにけり
【はるもにあ】

●草の絮まじろぎもせず悲しめり
【はるもにあ】

●一病を月に授かる詩人かな
【俳句界・めーる一行詩】<秀逸>

●かりがねや古りし新町商店街

●芋煮会それぞれみんな病気です

●鑑賞のつづきは黄泉で小鳥網

●地蔵盆あの子この子も来ているか
【俳句界】加古宗也選

●溝蕎麦やもともと小さき庵主様

●よく熟れし桃から遠ざかるナイフ
【俳句界】中原道夫08年12月号「雑詠の部/特選」

●ましら酒このさき道はゆきどまり
【俳句界】舘岡沙緻08年12月号「兼題の部/特選」

●澄む秋や無頼を通し役者逝く(11月5日 緒方拳 逝去)

●裕明の影を幽かに野の錦
【はるもにあ】

●芋名月九州男児に生まれけり
【はるもにあ】

●松林抜けて色なき風となる
【はるもにあ】

●月の海漣立ちぬ芒原
【百鳥】

●吟行は苦手セイタカアワダチソウ

●ソネットの十三行目冬近し
【はるもにあ】

●雲迅し月に背鰭のある如く
【はるもにあ】

●車座を離れてもとの銀狐
【はるもにあ】

●稲屑火や九九は八十一に止む

●みせばやのかがみて路地を掃く女

●師とおなじ星に住みたし猿酒

●能天気くらいがよろしをみなへし

●すつぴんの明日はお化けとなる南瓜

●秋桜や天地人とはととのはず

●たまのをの閨にピアスを忘れけり

●尾花鮹壷にはポニョも二匹ほど
 
●曼珠沙華かひなき空を掴みをり

●月天心まつすぐ跳ねるマサイ族

●サフランや悲母観音の細き鬚

●さやかなる路上かなしき鳩の笛

●嗚呼シェーン・カンバック!的秋の雲
【俳句界】田中 陽選

●藤袴菓匠の棚の招き猫
 
●ペンギンに漢字は充てず二十日月

●秋桜をまるごとぜんぶ抱いてゐます

●島に生れ愚直に生きて葛の花
【百鳥】

●深まりしえにし桔梗の無口なる
【百鳥】

●童顔に似合はぬ帽子花梨の実
【百鳥】

●晩年の奈翁の島に稲雀
 【百鳥】

●やまとんちゆなんくるないさちんちろりん

●地のものの自在に曲がる芋の秋
【百鳥】

●とうきびの酒に芳雄の「愛の讃歌」

●藁塚や豚にたくさんある乳房

●はじかみや関節のあるビスクドール
【はるもにあ】

●刈り終へし早稲田の火照り盆の月

●刑場の今は檸檬を売る広場

●底紅や生涯の一片思ひ
【はるもにあ】

●水打てば血のかよひだす石の顔
【はるもにあ】

●早場米刈られし稲田盆の月

●秋の蝉細字のインク枯れやすき

●注意!ほどの猛犬でなし百日紅
【はるもにあ】

●せつなさや目で目にしぼるれもんれもん

●ぞめきにも雌雄ありけり阿波の國
【俳句界】田中 陽選

●鰍ゐて疏水の小径ひとまばら

●ましら酒あびて月下に鈴を聞く
【俳句界】舘岡沙緻・山崎十生選

●いくたびや母肩ごしの大文字

●半身浴満ちくる月の齢かな
【百鳥】

●いちめんの稲穂を渡りくる夜風
【百鳥】

●高野槙角刈りにして盆迎へ
【百鳥】

●ラ・フランス役者に多き痣のあと
【俳句界】加古宗也選

●花すすき手話で伝はるものすべて

●セザンヌの構図にめまひ新松子

●常夜燈守る人なく竹の春

●朝粥を啜るをんなや西鶴忌

●苔青しマリアの膝にこぼれ萩
【はるもにあ】

●稲刈りし畦に魔法の大薬缶
【はるもにあ】

●提灯と座敷わらしの地蔵盆
【俳句界】今井千鶴子選

●あやかしを月の真裏に孤篷庵

●ひつじ田やこの地に眠ることも良き
【百鳥】

●まなざしに戸惑ふ勿れ黒葡萄

●つづれさせこひにあやなし紫野

●行く秋や肺魚の深く潜(くぐ)りけむ

●あらばしり役者は問屋の次男坊
 
●タクト振る気象予報士ななかまど
【百鳥】

●十三夜道長取りの絵羽上がる

●宗匠は美しきをみなや衣被
【俳句界】中原道夫選

●稲屑火に三万の句煙りけり

●秋意充つシオンよ紫苑・詩音・私怨

●晩鐘に一糸纏わず後の月

●どですかでんへばりつく窓秋夕焼

●タクト振る気象予報士ななかまど
【百鳥】

●空高くあれば小さき秋遍路
【百鳥】

●このところ謎ばかりなり葛の花

●草の実やひとり遊びの好きなひと

●水の秋わが町の子に優勝旗

●虫の音のその庭ごとの土鈴かな

●水澄みて私史うすらぐや昭和の子

●水を呑み手を拭ひけり賢治の忌

●ペン先のほのかな撓み秋に入る
 
●大豊(おおとよ)の宮司のくれし月鈴子
【はるもにあ】

●ニノ・ロータ茄子の馬に聞かせけり
【はるもにあ】

●露草や詩の輪郭をざつと描く
【はるもにあ】

●案山子立つ一日分の熱を溜め
【はるもにあ】

●敗戦日田の草稗の丈高し
【はるもにあ】

●新人の座敷童や荻のこゑ
 
●薄闇に水蜜桃のそよぐ壇
【百鳥】

●流星やあまねく濡るる島の砂

●たましひへ来て泊まりをり秋の猫

●死ぬるのは生まれし故と秋蛍

●鶴来る中島みゆきが唄ひます

●表札に母の名残る秋燈
【はるもにあ】

●竜淵に潜み空には二番星
【百鳥】

●さようなら手をふるやうに秋桜

●虫の聲ピカソの女の耳で聞く
【はるもにあ】

●虫のあさ三半規管目覚めけり
【はるもにあ】

●遠距離を色なき風とおもひしや

●ムーンライトシフォンのやうな悪夢かな

●朝寒や比叡に向ひ走り出す
【はるもにあ】

●青臭きまま生きて来し螽斯

●風琴の足踏むごとに十三夜

●アルバムを閉ぢ長き夜のオルゴール
【百鳥】

●まんじゅしゃげちちははあにと手をつなぐ
【はるもにあ】

●こぼれ萩光悦垣に添いとげり
【百鳥】

●ロダンの美遠州の技こぼれ萩
【百鳥】

●仏壇に供へし父の煙草摘む

●源氏香五十五帖にこぼれ萩

●古書の市夢二いちまい秋の色
【百鳥】

●虫合わせ遊びをせむと個展の夜
【百鳥】

●呑むもよし夜ごとに月の量(かさ)ふえて

●寂しさのこんぺていしよん石榴食う

●月草やおとぎばなしの最終週

●おすそわけ氏神様から鈴の虫

●兄送る火の船消えて残さるる

●母送るあの火ヲ憶フ車椅子

●父送る妙法の火を念じつつ

●釈迦力の声満ち満ちる蝉木立

●みちゆきといふ道を行く秋の山

●おいらかに山粧ひて円通寺

●触れられてつまくれなゐの安堵せり

●故郷の庭に千草の散りゆかむ

●神の杜あ・うんのまにま螢草

●十月に宿すやまひの不可思議光

●てんゆかばさんぼんのしろまんじゅしゃげ
【はるもにあ】

●緋の一念土穿つ朝曼珠沙華

●国破れ月のうてなを離れけり

●言の葉のもだえて逝きし無月かな

●さびしさに由良の水酌む石叩

●古机の傷に秋思の論を読む

●木の葉髪しとどに濡れた憂国忌

●枯れ葉踏むセピアの音に佇めり

●遠のきつ記憶を食むやすがれ虫

●邯鄲を食らひて絵師の 無芸なリ

● 青き地球(ほし)さかしまに墜つ秋の空

● 傍ニ居マスそう告げたくて賢治の忌

● 水よりの使者朝霧のいのちかな

● ほおずきにことだま秘めて草通信

● 蟋蟀の寺杜(もり)の木も耳澄ます

● 三回忌亡母(あなた)と過ごす月の庭